47 ゲセスターが引き起こした問題について
(略しすぎています)
さて、まずはあの魔物がどうやって生まれて来たのか考えるか。
これまでに出会ってきた魔物は全て魔素濃度が高い場所に発生していた。
魔素濃度が高い代表的な場所と言えば人気のない森の中だ。そこは夜になると魔物が発生して3分も歩けば魔物と出会うレベルでいる。逆に、人口の集中する都市部は魔素濃度が低い。都市部で出会ったのはこの件が初めてというレベルだ。そんな感じで、魔物の発生と魔素濃度は密接な関係にある。
そのため、今回闘技場のフィールド上にエリートゴブリン?が発生したのも魔素濃度が十分に高かったからだと考えられる。
だが、なぜそこまで魔素濃度が高かったのだろうか。
そもそも、魔素は魔法の行使するときに発生するロス的な存在だ。なので、MSDを介して魔法を使った場合は魔素が発生する。実体験なので間違いはない。
普通に考えると、発生した魔素は魔素の濃度が低い方へ拡散していく。なので、魔法を使った戦闘が行われているフィールド上には魔素が多いが、観客席の方向へ拡散していくはずだ。しかし、今回はフィールド上の魔素濃度が特段高かったと、魔物が生まれた事実が示している。
というと、魔素の拡散を防ぎ、フィールド上にとどめ続ける何かがあるということだ。そんな何かは...。あれか?フィールド上に張られた結界か?あの観客席にまで戦いの余波が及ばないようにするやつ。
確かに、あの結界は物理だけでなく魔法も貫通することはない。なので、魔力が変質してできたものを通さないと捉えると、魔力が変質してできた魔素も通さないと捉えることができる。その辺は結界の設定に寄るんだろうけど。
なんにせよ、あの結界が魔素の拡散を防いでフィールド内に魔素が蓄積するような環境を整えたのは結界が原因だろう。
後はあの広大な空間の魔素濃度が一定以上になる程の魔法行使が必要なわけだが。そんなに魔法使ったっけ?何なら自分は魔力はほとんど使っていないに等しい。ゲセスターからの魔法攻撃回数やその規模から推察するに、奴の攻撃によるフィールド上の魔素濃度の上昇は軽微なもので魔物発生レベルには遠く及ばないだろう。とすると...あと何か魔法関連のものは...。あれか?魔法発動妨害魔法の奴。
あの妨害魔法は相手に似た魔力を発生させて、相手の魔力の流れを乱すことで効果を発揮する魔法だ。なので効果を発揮するには、相手の魔力に干渉するほどの魔力密度が必要になる。
ゲセスターの時は試合開始して間もなく、妨害魔法による魔力がフィールド中に漂っていた。その際に消費した魔力量はただ事ではないと思うのだが、ゲセスターがキレた辺りでさらに増加した。放った魔力を回収することはできないはずなので、大量の魔力を消費して大量の魔素が発生したことになる。
これで現象としては全てに説明がついた。まとめると、大量の魔素を発生させたゲセスターとその魔素を封じ込めた結界により、フィールド内の魔素濃度が急上昇し、魔物の発生に至ったということだ。
この状況は意図的に作られたとしか思えない。あまりに環境が整いすぎている。その上、ゲセスターが切れたあたりの言葉で、確か...「これで後がお楽しみでウハウハだな?」だったけ?あんまり記憶に自信が無いが、それに近しい言葉を発していたように思う。もしかしなくとも、ゲセスターは狙って魔物を発生させたな?そうだとすると、言動だけでなくその行動も厄介な奴で困るなぁ...。
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次はフィールド上に発生したエリートゴブリン君がドロップした外見上不思議な魔石についてだ。
まずは外見的初見からと思うので、拾った魔石を取り出して詳しく見る。
外見の形状やその大きさはよく見てきた魔石と同じだ。しかし、その透明度が大きく異なり、一般的な魔石と比較して大きく曇っている。
この曇りが気になってい点だ。大量の魔物をぽこして魔石を収集してきたが、ここまで魔石が濁ったことはなかった。
その濁りについては、物理的なものではないと考えている。経験上、大量の魔物をぽこしてきたが、結晶の中には物理的な何かが混じりこむことは全くなかった。その経験則的に、光学的に濁りを生み出す微粒子が結晶に入っているということではないはずだ。なので、物理的なものが濁りを生んでいる可能性は排除できる。
普通の魔石は純粋な魔力の塊だ。これは自分が以前に確かめたので間違いはない。ならば、その魔石に含まれている濁りも魔力に関係しているのでは?
逆説的に話を進めると、魔石は純粋な魔力であることから、魔石に変化する魔物が持っている魔力は純粋なものと考えられる。だとすると、魔物に純粋ではない魔力が含まれると、純粋ではない魔石が生まれるはずだ。
生まれて間もない魔物が純粋ではない魔力を保持しているとは考えにくい。それは魔素には属性がないため、単一の魔力しか生まれないはずであるという考えからきている。
となれば、濁った魔石をドロップしたゴブリンは後天的に異質な魔力を保持することになったと考えられる。
思い当たる節と言えば...。あの闇魔法っぽい魔力かな?ゲセスターを腹パンして吹っ飛ばした後、ゲセスターから感じた禍々しい魔力だ。その魔力はゴブリンに吸収されていった...。
そうか、あの魔石の濁りはゲセスターが発した禍々しい魔力だったのか。納得だな。
フィールド上でゴブリンが生まれて魔石になるまでの過程は分かった。だが、わからないことが2つある。
1つ目は禍々しい魔力の正体だ。
その魔力は学園のカリキュラムの戦闘演習でも感じたことが無い上に、この世界に生まれてこの方感じたこともなかった。ある程度、魔力の属性はわかるのだが、その禍々しさを感じさせる魔力は風、火、水、土、雷、光、無のどの属性でもないと感じた。なので、メタ的かつ消去法的に絞っていくと、闇属性の魔力だと考えている。だが、確証を得ていない。
2つ目はゲセスターはどうしてゴブリンを操作した魔法を知っていたのか。
そんな魔法は学園で習ったことも見たこともない。使い方によってはかなり危険な魔法だ。例えば魔物を大量発生させることができ、それらをこの魔法で操作しようものなら都市など簡単に滅んでしまう。こんな感じで扱ってはいけないと考えられる魔法の部類に入る。
そもそも、魔物を操る魔法があるなんてことは授業で教えられていないし、その魔法を駆動する魔力は闇属性と思われるが、そんな属性があることも授業になかった。さらに、ギルドでの説明でも闇属性という話はなかった。そのことから察するに、公的な魔法に関する機関である、この学院やギルドでさえ闇属性が存在しない事になっている又はその存在を知らないのだろう。
歴史から一度消されたか?それとも強烈な情報規制がなされているのか?
情報規制をするなら世界規模にならないと意味がない事だろうし、そんな規制を実行することは難しいだろうから、前者の説が濃厚か。
そんな闇属性魔法をどうしてゲセスターは知っていたのだろうか。こればかりは謎に包まれたままだ。
厨二病的な考えだと、悪の秘密結社が裏で手を引いていて~という話になるのだろうな。もしそうだとすると、ゲセスターに接触した理由が不明すぎるな。ゲセスターはかなり口が軽そうだし、色々内部情報を喋ってしまうだろう。そんな奴に秘密結社の秘密である闇属性魔法などを教えることはリスクでしかない。なので、この線はないか。
「カオリちゃ~ん」
「ひゃい!」
いきなり耳元でミカさんの声が聞こえたので驚いた。反射的に体がビクついた上に、変な声出てしまった。
少しずつ声のした方向を振り向くと、サムズアップをして鼻血を出しつつ安らかな表情で昇天しかっているミカさんがいた。いつものミカさんだな。というか、いつ自分に近づいたんだ?もしかして、ミカさんもかなりのスニークスキルをお持ちで?
とりあえず、驚かせたことに対する抗議の意をジト目で示しておこう。
「(ジー...)」
今まさに、ミカさんの体から出ていこうとする何かが見えるな...。
そう思いながら天に召されるミカさんを見送っていると、10人くらいがこちらへやってくる音が聞こえた。何事だ?
ある程度近づくと集団のリーダーらしき男が声を発してきた。身に着けている装備からギルドメンバーの応援隊という感じか。
「ミカさん!応援にやってきました...ぜ?これは...どういう状況ですかい?」
当然困惑するよなぁ...。




