46 決着
(略しすぎています)
ゴブリンはことごとく回避先に地面を砕いてできた塊を投げてくる。そのおかげで、ゴブリンと自分の距離はかなり縮まってきている。このペースで距離を縮められると3分以内に格闘戦にもつれ込むことになる。
筋骨隆々なゴブリンと素手で戦うのとか無理ゲーにも程ってものがある。せめてクソ雑魚な剣でもいいから欲しいところだ。
「っ~」
さらに、フィールド上はゲセスターの雑な魔法によってボコボコになっているので回避先を見ながら回避しないと、躓いて盛大に転倒しそうになる。そのゲセスターはフィールド上ですやすやタイムだ。おのれゲセスター、ゴブリンだけでなくフィールドに障害物を残した上、気絶までしやがって。もう一度、腹パンを入れてやろうか?
ゴブリンは自分に接近しようと猛突進をかけてきた。適当に回避しようと思ったが、少々場所が悪い。
背後は結界があるので下がると詰む。左右は開いているが、ゴブリンが持っている塊を投げて来るだろう。そして待つとゴブリンがやってくる。これはもう左右に避けるしかないな。念のために、身体強化魔法のうち物理防御を上げておくか。
特製のMSDに魔力を送って物理防御を上げた。その瞬間、体内に新たな力が広がっていくのを感じる。とはいえ、特にこれと言って状態が継続しているという感覚が無いのが怖いところだな。ぶっちゃけ、物理防御を使うのはこれが初めてなので効果がどの程度かもわからない。この魔法の制作者さん、期待してます。よろしくお願いしまぁあ(略)
某夏の戦争とかいう映画に出てきそうな言葉を脳内で発しつつ、右足を踏み込んで、瞬時に右側に回避する。すると、ゴブリンはそれにすぐさま反応して、右手に持った塊をこちらに投げようとしている。その体勢から狙いは回避先といったところだな。
防御力が勝ることを信じて、構わずに回避を続ける。すると、予想していた位置にゴブリンが投げた塊が飛んでくる。その速度はかなり速くゲセスターの放つ魔法の飛翔速度とは比べ物にならない。これからの回避は...厳しそうか。耐えるしかないな。
飛んでくるものに対し、腕をクロスするようにして顔だけは守る。物理防御を魔法で上げているので大丈夫...と思いながら受けるとしよう。信じる者は救われるはず?
程なくして腕にかなりの衝撃が加わる。その衝撃により少しノックバックする。さらに、塊は腕にぶつかった衝撃で粉々に砕け、腕の隙間から体へ猛アタックしてくる。
痛い...ということはないな。衝撃が伝わっては来たが、痛みはない。とても不思議な感じだ。これが物理防御の効果なのか?何はともあれ、腕も指も自由に動く。とてもgoodだ。マジで何でもできる魔法さん、便利すぎる。この魔法の制作者さんありがとうございまぁああ(略)
ゴブリンが投げて来る塊を耐えることができると分かったらこちらの番だ。とは言っても、攻撃系魔法が使えないので回避しまくるだけだが。
さらに右に回避しつつゴブリンから距離を稼ぐ。ゴブリンはそれを阻止しようと地面を砕いた塊を投げてるが、受け止めてさらに距離を稼ぐ。ゴブリンはそれを許すまいと突進する。
これを7回繰り返した時、ふと体が軽くなっていることに気づいた。回避するときの力加減は同じようにしているが、先ほどよりも素早く回避することができる。シンプルに何でなんだ?ゴブリンの投擲攻撃を回避?しながら考える。
力加減を誤る感じは確か、初めて身体強化魔法を使った時にあったな。その時は、魔法の効果と感覚のずれが原因だった。とすれば、今回も感覚のずれなのだろう。
だが、感覚がずれるなんてこと、考えられるか?物理防御を除いた、身体強化魔法を使うためにMSDに突っ込んでいる魔力量を変えていない。なので魔法の効果量は変わっていないはずだが、感覚ベースで魔法の効果量が増加している。
もしかして、ゲセスターの魔法発動妨害によって魔法の効果が十分に発揮されていなかったパターンか?在りうるな。自分の周囲にある、自分に似た魔力が体内の魔力を乱した結果、身体強化魔法の効果が減少した可能性は十分に考えられる。
そう考えると、魔法妨害の元凶である、自分に似た魔力が周囲に無い事になるが...。
ゴブリンの動きを追いつつ、周囲の魔力を感覚で探る。すると、フィールドに充満していた自分に似た魔力は感じなくなっていた。ということは、魔法を妨害するものはない。それなら、アイスニードルが使えるな。ようやくこちらの番という事か。
「反撃です」
ゴブリンの胴体を見据え、狙いを定める。そして、リングタイプのMSDに魔力を流し、飛翔する氷柱は鋼鉄の壁をも貫けるほど硬く、目に留まらない速さでフィールドを飛翔するイメージをする。
それに応えるように、リングに付けられた結晶から魔力が放出されて空中に集まる。集まった魔力は氷柱へと変質し、音もなく目にもとまらぬ速さでゴブリンへと向かう。
ゴブリンは、咄嗟の反撃に虚を突かれたのか反応できないまま氷柱に貫かれた。さらに、貫かれたときの衝撃が体内をめぐり、内側から食い破るように外側へと向かった結果、ゴブリンは声を上げることもなく四散した。
「え、えぇぇぇぇ...」
あまりの攻撃力の高さに驚いてしまったのと、反撃が一撃で終わってしまった虚しさから謎の声を出してしまった。そして声はゴブリンが居なくなって静かになったフィールドに響き渡るように消えていった。
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少し虚無になっていたが正気を取り戻し、倒したゴブリンがドロップした魔石を拾いに行く。
「ん?」
地面に落ちている魔石を拾い上げると、ゴブリン系にしては大きいサイズ感だ。だが、普通の魔石ほどの透明度が無く、むしろ濁っていると表現した方がいい程度だった。気になるけどなんか不気味だし、ちゃんとギルドに渡すとするか。魔石の鑑定実績もあるし、魔石が濁っている理由もわかるかもしれないな。
そう心に決めた時、フィールド上に張っていた結界が解除され、ミカさんの声が聞こえてきた。
「カオリちゃーん、大丈夫ですか~」
聞こえてきた方向を向くと実況席の方向から手を振っているミカさんが見えた。その表情から察するに心なしかほっとしているようだ。こちらが無事なのを手を控えめに振りつつ伝える。
「なんとか大丈夫です」
「派手に攻撃を受けていたので~心配でしたが~大丈夫そうでよかったです~」
特に意図したわけではないが、声も控えめに発してしまったので声が聞こえていないかもと思ったが、ちゃんと聞こえていたようだ。というか、ミカさんよく聞き取れたな。
「これからそちらに向かうので、そのまま待機でお願いします~」
「了解です~」
言葉とサムズアップの両方から了解の意を伝えた。
とりあえず、この件も一件落着だな。今回の元凶もあそこで寝そべっていて行動に出そうにないので放置でいいか。だが、今回の件では少し不思議なことがあった。
・闇属性と推察される魔力。
・魔物が居ないはずの場所に魔物が生まれ、倒してドロップした魔石が濁っている点
・魔法発動妨害魔法という国家機密レベルの魔法を学生が運用していた点
ミカさんが到着するまでの間、これらを少し考えるとするか。少しも考えがまとまらないとはもうが、暇はつぶれるだろう。