40 準決勝とか
(略しすぎています)
どうも、全自分が絶賛して暇している銀髪ロリエルフになった者です。今日は、戦闘能力評価期間の最終日で、選抜トーナメントで勝ち残った4人の勝敗を残すのみとなっており、大詰めを迎えています。その4人のうちの1人である自分は、エルバ先生が用意してくれた部屋で待機しています。
そんな自分ですが、話し相手になりそうなエルバ先生は部屋に居ない上に、試合の状況を映すモニターは何もない対戦フィールドを映しているだけなので、暇しています。天井のシミでも数えようかな?
こんな暇を覚えているのも、まだ試合会場の準備ができていないからだ。なんでも、昨日までの対戦フィールドを覆う結界では予想される戦闘激しさに耐え切れずに崩壊してしまうから、それを改修しているらしい。というのをエルバ先生から聞いた。その改修作業に時間がかかっているとかなんとか。
今日の第一試合は自分が出場することになっており、エルバ先生から準備完了の報を聞き次第会場に向かう流れとなっている。なのだが、どれくらい待つ感じだろうか?。すぐには来ないだろうしなぁ...。回想でもするか。
「直近のことと言えば、身体強化魔法は便利だったなぁ」
今日、新しく買ったMSDに書き込まれた身体強化魔法を使いながら学園に登校してきたのだが、いつもの時間よりも30分早く学園に着くことができた。しかも、体力の消耗も強化のおかげでかなり少ない。これは個人的に革命レベルだ。
一方で、魔力消費量はそれなりにあるというデメリットがある。トータルでアイスニードル(弱め)を50発くらいといったところだろうか。だが、MSDに流す魔力を抑えて使用したので時間当たりの魔力消費量はそれほどでもないことが分かった。そのため、魔力消費よりも魔力回復が勝っている感じで魔力量的には余裕しかない。
「もう少し早くこの便利な魔法に気が付くことができたらなぁ」
自身の特異な身体能力を隠すために人が居そうな場所では歩くようにして気を遣っていた。その上、登校時間のために早起きしたりして睡眠時間が短くなったりしていたから色々と面倒でならなかった。身体能力強化の魔法があれば、これらの問題がほぼ解決する。と思う。多分。
「んなぁ~」
椅子に座って回想していると、部屋のドアが開いてエルバ先生が入室してきた。
「カオリさん、もうそろそろ試合が始まるようです。出入り口で準備をお願いします」
「わかりました。では、移動することにします」
「先生はこの部屋からですが応援しています。頑張ってください」
「ありがとうございます。ほどほどに頑張ってきます」
エルバ先生は手を振りつつ見送ってくれた。こちらも控えめに手を振りつつ部屋を後にした。それにしても、相手はどんな奴なんだろう?再びランダムに組み分けするとのことだったが、色々面倒な奴だけは避けたいところだ。
_____________________________
出入り口に到着したが、まだ入場するタイミングではないので待機する。ただ、やる事もないので脚につけたホルダーからナイフを取り出して眺めてみる。
「...」
特にこれといった傷があるわけでもなく状態は良い。軽く魔力を流し込み、魔力刀を発動させてみても違和感はない。特に問題はない感じだ。まあ、最近は魔物狩りにも行っていないし、壊れる要因も思いつかないので当然と言えば当然だ。
一通りチェックしたので脚につけたホルダーに仕舞う。
次は、アイスニードルを発動する方のMSDだな。
こちらも軽くアイスニードルを発動してみる。飛行速度0のその場で停止するようなイメージで発動した。これも違和感が無く魔法が発動している。氷柱への魔力的なつながりもいつも通りに感じることができる。
両方とも問題ないな。とはいえ、このチェックで何か問題が見つかるかどうかも分からないが。
暇つぶしを兼ねたチェックが終了したので、視線を上げて前を見据えた。それと同時に、アナウンスが流れる。
「それでは、入場です。まずは、風のように軽やかに戦う姿はまるで演舞、カオリ選手の登場です!」
なんだその説明は聞いていないぞ?。少なくとも昨日はなかったし。盛り上げる為かな?とりあえず、対戦フィールドに行くか。
出入り口からフィールド上に出た瞬間にものすごい数の視線を感じる。いや、見なくて大丈夫よ。というか見ないでくれたら嬉しいんだけど。なんか恥ずかしくなってくる。
慣れない視線に晒されて緊張しながら歩いていると対戦相手の説明も流れた。
「試合をひっくり返す達人、セルバー選手」
どういう事?大逆転で買ってきた感じの相手だろうか?少し警戒するか。ん?そういえば、セルバーってどこかで聞いたことがあるような無いような?
そう思って相手の外観を見ると、サリアが戦って負けた相手だった。
「あー。うん。早めに勝負をつけよう」
サリアが負けてしまったのも、相手の力量を図るために時間をかけすぎたためであり、さっさと決着をつけていれば問題なくサリアは勝つことができていた。だが、不運にも余計な時間をかけている間にMSDが壊れてしまった感じだ。自分のMSDがいつ壊れるのか分からないし、試合に時間をかけないようにしようというところだ。
色々決意したところで、再び謎の解説が会場に響き渡る。
「これまで、カオリ選手は軽やかなステップで相手の懐に潜り込んで戦いを勝ち進んできました!魔法はアイスニードルと、恐らく身体強化系の魔法でしょうか?それを巧みに使った戦闘はかなりのレベルにあります!」
なんか、勝手に身体強化魔法を使っていることになっている...。これは新しいMSDを買っておいて正解だったな。身体強化なしで戦っているのがバレたら碌なことにならないだろうし。
「一方、セルバー選手は試合後半に巻き返すような熱い試合で勝ち進んできました!魔法は火属性の魔法を多数用いているようです!今回も熱い展開を期待しましょう!」
ん?すごく熱いのは伝わってきたけど、少し引っかかるところを感じる。この表現は毎回逆転劇があるかのような感じだ。サリアのMSDが壊れていたことを考えると、相手はMSDを試合中に壊す天才か何かのように感じる。少し穿った見方の様な気はするが、少し警戒しておこう。
「両者ともに位置に揃いました。それでは、準備はよろしいでしょうか?」
ナイフを脚につけたホルダーから取り出して軽く構える。相手は服の内側に手を突っ込んでから腰にぶら下げた鞘から直剣を抜くと、中段でどっしりと構えた。
相手は動かない感じかな?相手は範囲魔法が使えるがこちらは使えないことから、リーチ的に相手側が優勢だ。なので、相手はそのリーチを崩してまでこちらに突っ込んで来ることもないだろう。
そんな相手にどう攻めるか。
アイスニードルで遠距離戦もいい。相手の魔法の射程外からの攻撃でリーチ的にはこちらが優勢となるだろう。だが、比較的避けることが容易なので、アイスニードルを乱発する羽目になるかもしれない。そうなるとこちらは時間当たりの魔力の使用量が多くなり、開眼的なリスクが高くなる。この事態は避けたいところだ。なので、アイスニードルは試合の展開が変わりそうな場面で使うとするか。
そうなると、基本は接近戦となるのだが、これは相手に分がある。面倒な予感がするし...。うーん。面倒だし、最初の一撃で決めるか?もし決めれなかったら後で考えよう。
審判は自分とセルバ―を見て、準備完了と判断して試合開始の合図を出した。
「試合開始!」
試合開始共にナイフに魔力刀を発動させ、ほどほどのスピードで相手に向かって駆ける。相手は2テンポ遅れて範囲魔法を放つ動作を始めたようだ。だが、見たところ相手の魔法の発動よりもこちらが相手の足元に迫る方が早いだろう。これは勝ったかな?あ、これフラグか?
瞬間と言える時間で相手との距離を10歩程度のところまで詰めた。このままだと、すぐに決着が着くが...。
そう思った瞬間である。
相手はもたつきながら魔法の発動動作に入っているのだが、自分の前方に魔力の雲みたいなものを感じた。相手に進むにつれてその魔力は自分に纏わりつくように感じられ、その魔力の質が自分の魔力に近しいものに変化し始めている。それに伴い、魔力刀の発動により、ナイフ表面に張った魔力が乱れるかのような感覚が伝わってきた。
なんだ?こんなことは初めての体験だが、自身の感覚がヤバそうと伝えてきている。これは感覚に従って、一目散に相手から離れるか。
相手との距離は8歩程度まで縮まっていたが、バックステップを踏んで素早く相手から距離をとる。魔力の雲は相手と距離をとるにつれて薄れてゆき、それと共に不安定だった魔力刀の状態も安定してきた。そいつはgoodなところだが、あの魔力の雲は何なんだ。
魔力の雲は特に具現化して氷柱や炎になるわけでもなく相手の周囲に漂っているだけであり特にこれといった変化は今のところ確認できない。また、相手はまだ魔法の発動準備中であるが、魔力の動き的に独立して動いているような感じだったので、相手の意志とは独立しているように感じる。
相手は自分が完全に元の位置まで戻ったタイミングで火属性の範囲魔法を発動し、相手の周囲の空間に炎を発現させた。これは明らかに魔法の発動が遅い。サリアなら相手が魔法を発動させる間に2回くらい発動することができるんじゃないか?
そんなこんなで、初手の相手の動きや魔法の発動タイミングを見ても相手の実力はそれほどでもない事を確信した。だが、あの相手の周囲に発生した魔力の雲はかなり厄介だ。ナイフに展開した魔力刀が乱れる。そうなると魔力刀による咄嗟の防御が効かなくなる。しかも、あの魔力の雲が相手の意志とは異なり自律的に動いている上に、その魔力が具現化して何らかの効果を発現させる可能性がある。そのため相手に近づくことはリスクが高い。
「おーっと、カオリ選手、試合が決まるかと思われましたが、また元の位置に戻ってしまいました!何があったんでしょうか!」
想定外の魔法妨害です!と言い返したいところだが、言っても聞こえないだろう。
会場内ではどよめきが聞こえるが、それは納得ができるものだ。なんせ、解説の通り、決まるかと思われた状況を捨て、状況を振り出しに戻したのだ。理解はできる。だが、少しうるさいよ?(横暴)。
「ふぅ」
短く息を吐き、逸れた思考を戻して相手を見据える。相手は何が何やらといった表情で呆けながら構えている。呆けたいのはこちらの方なんだけど?
兎にも角にもこちらが動かないと事態は好転しないので、相手と距離をとりつつアイスニードルを放って様子を見るか。
相手は動く様子が無いのでこちらも動かずにアイスニードルを放つ。ほどほどのスピードだが豆腐に当たると砕ける程度の絶妙な硬さの氷柱をお送りするよ~。
魔力によって生成された氷柱は相手に向かって飛翔する。飛翔する氷柱は相手の周りに浮かんでいる魔力の雲の中に入っても、何事もなく突き進んでいる。どうやら魔力が変質したものに対して魔力の雲は効果を発揮しないようだ。こいつはgoodだ。
相手の突然に飛んできた氷柱に対する反応がワンテンポ遅れた。氷柱が飛翔するスピードはそこまで早くないんだけどな?
相手はなんとか直剣で氷柱を弾いくことで直撃を免れた。しかし、弾いた反動で直剣は大きく体から離れ、相手は体勢を崩して大きな隙を生む結果となった。
「これは攻めるチャンス」
相手に確実に氷柱を当てられるよう、先ほどよりも飛翔速度が速いアイスニードルを相手に放つ。さらに、相手の下へ駆けることにする。
アイスニードルだと加減の調節を忘れて相手に大穴を穿ってしまうかもしれない。うっかり人殺しにはなりたくないし。試合に決着をつけるには相手に接近してホールドアップに限る。安全第一。
飛翔するアイスニードルは体勢を崩した相手の胴体に衝突し、砕けた。衝突した衝撃で相手は体をくの字にしながら後ろに吹き飛ぶ。
吹き飛ぶ相手に追い付くようにさらに速度を上げて地面を駆る。さらに、相手からの魔法の攻撃を弾くことができるようにナイフに魔力刀を発動させる。今のところは違和感が無く発動ができているな。魔力刀の状態も安定している。こいつはgoodだ。
相手の視線は自分を捉えておらず、地面を見ているようなので、まだ状況把握もできていないだろう。ということは直剣からの魔法攻撃の心配はないか。魔法攻撃があるとすれば、相手の周囲にある魔力の雲だろうか。
魔相手との距離が10歩程度のところまで近づき、再び自分の魔力に似た魔力の雲を感覚的に感じる。先ほどよりも自分の魔力に似ているだろうか?
その直後、再びナイフに発動した魔力刀が不安定となるような感覚に襲われた。感覚的に、このままでは魔力刀の維持ができないように思う。魔力刀が維持できなければ急に来るかもしれない魔法を退けることができずに直撃を食らう可能性が高い。
魔力刀を維持するためにナイフに魔力をさらに流し込み、ナイフ全体に魔力を巡らす。それに応じるかの如く、相手の周囲に漂う魔力は自分の魔力に似たものに変化してきている。それに伴い、魔力刀は安定するどころか大きく乱れてしまう。
これは何が何やらわからないが、魔力刀が無い状態ではかなり困る。とりあえずこの状態を維持するか。
相手との距離はもう5歩程度に迫った。相手は相変わらず地面を向いてノックバックの最中だ。だが、魔力の雲の濃度は大きく上昇した。
それを知覚した瞬間、魔力を伝って魔力刀が崩壊した衝撃が来た伝わってきた。さらにナイフ型MSDの核と魔力的なつながりも途切れている。
なんてこった。魔力刀が無い状態はやばい。発動ができるか?
いつものように魔力刀を発動しようとナイフに魔力を流し込むも、反応がなく、ただただ魔力が抜けて魔素となるだけだ。そこから察するに完全にMSDとしての機能が失われたか。
なんてこった二回目。ここでMSDが壊れるとは...。どう考えてもこの魔力の雲の影響だが、色々考えている余裕はないな!このまま突き進む!
相手との距離はあと3歩だが、相手は自分を捉えていない。攻撃が来ないと判断して、相手の背後まで回り込み、膝蹴りで相手がノックバックするのを静止させる。
「カハッ」
相手は壁に激突したかのように肺から空気を吐き出し、持っていた直剣を手放した。直剣は慣性に従って空中を飛んでいき、相手は意識までも手放したようで地面に顔面から倒れる形となった。
どうやら何とかなったが、まだ魔力の雲は漂っている。警戒をしておこう。
勝負を決めるため、地面に倒れた相手の首元に背中からナイフを添えてホールドアップの形をとる。これで文句なく勝ちでしょ?ですよね?早く終わらせてくれませんか?魔力の雲が何もわからな過ぎて怖いので!
ホールドアップしてから2,3秒遅れて会場に試合終了の合図が鳴った。それと共にホールドアップを解除して、相手から距離を取りフィールドの上に棒立ちしておく。
「し、試合終了~!勝者はカオリ選手!試合始まってから30秒もせずに決着となりました!途中でカオリ選手の動きが素早すぎて目に捉えることができませんでした!素晴らしい動きです!そんなカオリ選手に拍手を~~」
何という雑な解説...まあ、それでいいけれども。それよりも、何やら圧を感じる視線の中に熱い視線を感じるのが気になるな。視線の元を辿ると、ハァハァした変なお姉さんというか、ギルドの受付嬢のミカさんにたどり着いた。何でこの学園にいるの?というか久しぶりですね?1週間ぶりくらいですか?色々疑問だが、とりあえず控えめに手を振っておくか。
小さく手を振るとミカさんは鼻血で弧を描いて倒れた。南無三。
よくよく見てみるとその周囲には、昨日の試合でも圧を感じる視線を投げていた人が居た。もしかしてギルド関係の人だったりするのだろうか?。
「ふぅ」
一息ついて、ナイフ型MSDを見る。外傷は全くないものの、核が収まっている場所には無数の罅が入った核があった。核がこの状態では魔法が使えないはずだ。それにしてもどうなると核が崩壊するほどのダメージが入るんだ...?
そんな疑問を他所に、会場からは拍手が贈られた。
_____________________________