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37 エルバ先生を問題に巻きこんだりした話

(略)稚拙な表現等々、目をつぶっていただけると幸いです。

 まずは前衛的なアートとなった部屋にはいられないので、エルバ先生にお願いして新しい部屋と鍵を用意してもらった。ものの10分程度で用意できましたと言ってきたので、エルバ先生マジで行動が早すぎて感心した。

 今は部屋でエルバ先生と今後の方針について話している最中だ。


「エルバ先生、この件の対処についてですが、何もしない方がいいと思います」

「それはどうしてですか?この件について先生はしかるべき対応をとることができますが...」


エルバ先生は首をかしげる。当然の疑問だと思う。


「この件についてですが、自分の予測が正しければ、恐らく学園の教師陣も絡んでいます。しかも、その関連している教師の1人は学園内での権力が非常に大きいと思われます。なので、先生同士の会議で問題定義したところでその人に握りつぶされる可能性が高いです」

「その話が本当だとすると、私はあまり動けなさそうですね。でも、カオリさんの助けになれないなんて、私の気が収まりません!」


 エルバ先生、先生してるなぁ。それに、この件の犯人に対して闘志を燃やしまくっている。自分が何もしなくとも先生が勝手に動きそうな気さえしてきた。

 でも、この件は下手するとエルバ先生も影響を受けて握りつぶされる可能性が高い。勝手な対応を取られるくらいならば、堅実な方法をとってもらう方がこちらとしても助かる。なのでエルバ先生がとるべき方針を決めることにする。だが、取れる行動が多くエルバ先生もどうすればいいのか見当がついていない。


 この場合、この件のゴールを決めることが行動方針を立てる手助けとなるはずだ。この件のゴールはとりあえず、戦闘能力評価期間中において少なくとも自分に被害が及ばない事とする。


 今のところの被害は、闘技場内の部屋が部屋が荒らされることだけだ。自分に対して直接的な被害もないし、この部屋さえ守れればいい。

 となれば、エルバ先生にとってほしい行動は自分の部屋の監視というところだろうか。そうなるとエルバ先生は普段の業務を放置してこの件に時間を割かなければならない。エルバ先生はそこまで暇ではないだろうしなぁ...。


「そうですねぇ...少なくともこの部屋に被害が及ばないようにしていただきたいので、自分がトーナメントに出場する間で構わないのでこの部屋でいてくれませんか?」


 その言葉を聞くと少しむすっとしていた表情が明るく変わった。よほど先生として自分の力になれるのが嬉しく思うのだろう。


「それくらいなら大丈夫ですよ!今のところ仕事もないですし、問題ありません!あ、今の嘘ですアリマスヨ」

「ま、まぁ、先生も忙しそうですし仕事もありますよネ」

「あはは...」


 そう言うエルバ先生は視線を横にずらして頬を指でポリポリと掻いている。その反応を見るに、予想した通りこのトーナメント期間は先生方の業務も少なめのようだ。なんか、休息の時間に業務を増やしたみたいで申し訳ないな。だが、生徒特権を生かして巻き込むことにする。悪く思わないでね?思っていなさそうだけど。


「エルバ先生、とりあえずはそのようにお願いしますね。恐らくそれで自分に被害を与えられなくなるので自分も安心です。あ、あと」

「あと?」

「この件について話すのならば、信頼できる先生にだけ話していただければと思います。」

「カオリさん、わかりました。カオリさんも望んでいないですし、秘密順守で行こうと思います。それでは、私は演習場内を見回っていますので、何かあれば遠慮なく声をかけてくださいね」


 そう言ってエルバ先生は新たに借りた部屋から出ていき、部屋に静けさが訪れる。


 エルバ先生がこの部屋を見張ってくれるらしいので、自分に借り与えた部屋に対する被害は無くなるだろう。だが、この部屋を前衛的なアートにする以外の方法で、自分に嫌がらせ行為をしてこなければいいのだが...。


「なんとかなるかなぁ。なってほしいなぁ。」


 つぶやいてしまったけど、これってフラグの範疇に入りますか?

______________________________

 部屋でのんびりとしていると聞きなれた名前が呼ばれたのでモニターに視線を向けた。そこには、短剣を手に持ったサリアの姿が映っている。


「どんな戦い方するのか気になるな」


 部屋備え付けのモニターを注視することにする。


 サリアはその場で軽くステップを踏んでウォームアップをしているようだ。何というか、全然緊張していないな。自分が戦ったようなレベルが相手だと余裕で勝ちを納めそうな気がする。というか、よほどのことが無い限り勝てる。普段から模擬戦の相手務めているしその実力も知っているからこそ言える。勝てる。


 サリアの相手は直剣使いの男だ。短剣使いのサリアからすると物理的な間合いは不利だが、魔法の射程を考えると物理的な間合いの差は考えなくてもいい。むしろ、注目するならば魔法の射程の方だろう。

 

 両者ともに離れた位置につくと、程なくして試合開始の合図が鳴った。


 試合開始直後はサリアと相手が互いに近接魔法を使用する展開となっていた。近接魔法が派手にぶつかり合っているような状況だが、実力的にはサリアが圧倒的に上なので相手は遊ばれるような形となっていた。サリアは相手の実力でも図っているんだろうか。


 だが、中盤になると状況が一変する。サリアが魔法を一切使わなくなったのだ。その結果、サリアは短剣による物理攻撃のみとなった。だが、相手は物理攻撃に加えて魔法攻撃ができるため、間合い的にサリアは不利な形となっていた。

 サリアが攻めに相手に近づくと、相手は直剣からの範囲攻撃でサリアを寄せ付けないようにする。また、サリアが相手と距離を置くと相手は直剣からの直線状に放たれる魔法攻撃を行う。このような戦いになっており、完全にサリアの劣勢となっている。

 サリアは少し悩むような表情をしており、どう攻めるのか考えているようにも見える。


「うーん。劣勢でさえ、サリアが魔法を使わないのは何か理由があるのか?初戦だし魔力切れという訳でもないし、謎だ」


 サリアの扱う短剣を注意深く見ても外傷などは見当たらない。剣が壊れかけなので負荷がかかるような魔法攻撃ができないという訳でもない。

 それに、サリアの短剣は光ってすらいない。単純に魔力を短剣に回していないと見える。魔法が妨害されているという訳でもなく、魔法を使用するそぶりも見られない。


「魔法が使えない理由ねぇ...何かあるかな?すぐ思いつくのはMSDが壊れたパターンか?」


 サリアの短剣はそれほど高い物でもないと言っていたし、初期の耐久値が低いと思われる。それに普段から魔物狩りにも使用しているので低い耐久値がさらに減っていると想像がつく。そのため、近接魔法のぶつかり合いによって魔法が破壊された衝撃がMSDに蓄積ダメージを及ぼしたのかもしれない。もしそうだとすれば、晴れ舞台にMSDが壊れるなんてなんて不運なんだろうか。日ごろの行いもいいのになぁ。


 試合を最後まで眺めていたが、最終的にサリアは中盤から魔法を一切使わずに、試合終了を迎えた。試合は相手の判定勝ちという形となり、サリアの実力を知っている身からすると何とも消化不良感が残る模擬戦となった。


「サリアは残念だったなぁ。今日の放課後あたりにMSDが壊れたかどうか聞いておくか」 

______________________________

 時は進み、自分の第2回戦の模擬戦が終了したところだ。


 この模擬戦の相手にも難なく勝ってしまった。勝ち方は例によってナイフでのホールドアップだ。

 特に魔法という魔法も使っていないので例によって見ている観客たちは物足りなさを感じているようだ。だが、観戦している先生方だろうか?模擬戦のフィールド上からでも少し圧を感じるような人物たちにはそれなりに好評だったようだ。いやなんか視線が気になるんだけどこの人たちは何者?お偉いさまっぽい感じも見受けられるけどなぁ。


 それはさておき、新たに借りた部屋はどうなっている事やら。まあ、エルバ先生が居るだろうから問題はないだろうが。

 部屋の前に来てドアを開ける前にノックをする。


「エルバ先生、入りますよ~」

「どうぞ~」


 ドアを開くとなん変哲もないただの部屋がそこにはあった。前衛的なアートが施されているという訳でもない。いたって普通の部屋だ。

 その部屋の中には、自分の方に首をを向けたエルバ先生が椅子に座っていた。


「カオリさん、また余裕で勝ったじゃないですか。おめでとうございます」

「エルバ先生、ありがとうございます。また、勝てました」

「この調子ならば優勝も見えてきますね。もうベスト4に残っていますし、カオリさんの動きなら全然狙えます。がんばりましょう」


 マジか、もうベスト4に残っているのか。自分への嫌がらせの件が気になりすぎて全然気づかなかったな。

 穏やかに勝利を祝うエルバ先生ではあるが、先生の雰囲気はそれとは異なっており、少々荒々しさが感じられる。何かあったのを感じさせるには十分な変化だ。だが、この部屋は何も荒らされてはいない。何があったのだろうか聞いてみるか。


「それなに頑張ってみます。それで、エルバ先生。いつもと雰囲気が違いましたけど、自分がいない間に何かありましたか?」

「やはり気づいちゃいますか」

「ええ、エルバ先生の雰囲気がいつもと違ったので」


 そう言うとエルバ先生は一瞬だけ視線を切って、非常に小さく「生徒に隠し通せないなんて私もまだまだ未熟者ですね」という言葉を発した。自分を心配させないよう、エルバ先生なりに気遣ってくれていたのだろう。優しい先生だ。なんか泣けてきたぞ。

 だが、その言葉を拾うことは野暮なので、聞かなかったことにする。

 エルバ先生は一呼吸置いてから視線は自分に向け、表情を少し硬い表情にした。


「簡潔に言うとドアを開けてこの部屋に入ろうとしていた生徒が居ました。その生徒は部屋に私がいる事を確認するとどこかに行きました」

「やはり、来てしまいましたか。生徒の顔は見れましたか?」

「それが、私はモニターでカオリさんの試合を見ていたので、生徒に気づいて振り返る頃には生徒の顔が壁に隠れて見えませんでした。ですが、ズボンの制服を履いていたので男子生徒だということはわかりました。」

「それはしょうがないです。その時はドアに鍵をかけていましたか?」

「何かと心配なのでドアに鍵をかけていましたが...そういえば鍵を開けて入ってきましたね」

「鍵を開けて入ってきたんですか?鍵はエルバ先生が持っているはずなので、普通は開けられないと思いますけど...」

「ええ。鍵は確かに持っています。この通り」


 エルバ先生はポケットの中から鍵を取り出して、持っていることを示した。部屋の内側で鍵を持っていた人が居るにもかかわらず、ドアを開けることができた。普通に鍵を開けて。


「となると、他にこのドアを開けられる鍵の存在...マスターキーですか」


 演習場には鍵付きの部屋が多く存在する。そのため、部屋の数だけ鍵があるのはおかしくない。だが、戸締りの確認をすることになると、すべての鍵を持ち歩かなければならなくなる。そうなると非常に非効率的だ。そこで解決するのが、どこの部屋の鍵も開け閉め可能なマスターキーだ。


「マスターキーですか?確かにあると思います。ですが、学生が借りられるものではないですよ?」

「マスターキーは普通に考えると演習場の管理人が管理しているはず。管理人ですか...

もしかすると、その管理人がかかわっているかもしれません」

「本当ですか?」

「状況証拠的には。それが以前に...」


 戦闘能力評価期間が始まる直前の金曜に起こった事件について、「乱入してきた生徒がいた点」、「通常居るはずの演習場の管理人がその時は居なかった点」のみ伝えた。

 話していくとエルバ先生の顔がみるみる険しくなっていったので、嫌がらせの件が単なる生徒間の問題ではないと確信したようである。


「そんなことがあったんですね...。先生に言ってくれれば...いえ、その判断は正しいかもしれませんね。無暗に先生方に関わると、逆に状況が悪化する可能性が高いですね」

「そうなんです。だから言い出すことが難しかったんです。ですが今回、エルバ先生は前衛的なアートと化した部屋を見た反応から、相手側でないことが分かりましたのでお話ししました」

「それで色々と話してくれたんですね。カオリさんに頼ってもらえるなら、先生として嬉しい限りです。何かしてあげたいですけど、私も動きづらい状況なんですね...。」

「その通りでして。今後はどうしていくのやら考え中です」

「確かにこれだけ関係者が広いと取るべき行動も中々思いつきませんね」

「なので、巻き込まれついでにエルバ先生の知恵を拝借できればと」

「任せておいて、自由な発想だけは取り柄があるの」


 何だか奇想天外な発想が出てきそうなので頼りになるな?なるのか?でもまあ、一緒に考えてくれる人が居るだけで心強い。ありがたい存在だ。


 モニターにトーナメントの残りの模擬戦が映し出される中、エルバ先生と今後に取れる方針を一緒に考えるのであった。

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