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35 クラス内のランダム戦と戦闘能力評価結果

(略)

 今日は木曜日で、戦闘能力評価期間のクラス内リーグの後半戦となる。この期間は前半戦での勝ち点を元に、勝ち点が高い順に4ブロックに分けられる。各ブロック内でランダムに模擬戦が行われる流れとなっている。

 自分、サリア、リナとシルフィアは戦闘能力評価初日の調子のまま模擬戦での勝ち点を得て、勝ち点が多い人が集まるAブロックに振り分けられた。自分たち相手であるクラスメイトたちは、独自の戦術を1つ程度身に着けてはいるが、基本的に素人に毛が生えた程度なので、ランダム戦でも勝ち点を得ることは容易だろう。

 そう思ってはいたのだが、今日Aブロックの組み合わせ表を見てみると、サリアvsリナ、カオリvsシルフィアとなって身内同士での模擬戦を行うことになっていた。全員で勝ち点を重ねていけたらいいな~なんて話していたので少し残念ではある。ランダム戦だからこうなることはわかってはいたけれど、いざ、仲間内で戦うことになると何だかなぁ~というところだ。


 今はシルフィアとともにサリアとリナの模擬戦の様子を観戦しているところだ。


「2人とも緊張していないですね」

「確かにね~」


 2人とも模擬戦のフィールド内を駆ける姿勢は低く、相手の出方次第でいつでも攻撃を仕掛けられるような体勢となっている。緊張があればすぐに上半身の軸がブレるが、そういったところも感じられないので、程よく緊張がほぐれているのだろう。


 程なくして2人とも相手に向かうような動きとなる。

 リナは大剣を下段に構えている。さらに大剣は淡く光っており魔法の準備をしているようだ。一方のサリアも同様に短剣を中段で構えつつ魔法の発動の準備をしている。そろそろ試合が動く感じだ。

 2人の距離が7歩程度に近づくと先にリナが動いた。リナは剣を下から上へと振り上げ、魔法で石の礫を生成してサリアの正面に放った。サリアはこれを受けて短剣を横一線して風魔法を左方向に放った。サリアは魔法を左に放った反動を利用したようで、正面からやってくる石の礫を右に避けて回避した。

 リナは避けられるのを読んでいたのか、サリアが回避するや否かで魔法の発動準備を行い、振り上げた大剣が再び光を放ち始める。さらに、回避した直後のサリアに向かって加速して上段からの攻撃を加えようとする。

 サリアは回避する最中もリナを見ており、迫ってくるのが分かっていたようだ。すぐさまバックステップを踏みつつ、横一線で体から離れた短剣を体の近くまで戻す際に、リナに向かって風魔法で作った小さな風の刃を放った。


「おー。いい一手」

「カオリちゃん?どういうこと...?」

「とりあえず、リナの反応を見てからで」


 リナはサリアからの魔法を受けて急遽、上段からの大剣を振り下ろして準備していた魔法を放った。放った魔法は無数の石礫が広範囲に飛翔するものだ。サリアの放った魔法はリナの放つ魔法にかき消されたようで、リナにはダメージが及んでいない。

 一方のサリアはリナが放つ魔法の効果範囲ギリギリの立ち位置に居たので、わずかに攻撃を受けたが、直撃は免れたようだ。

 リナはこの魔法を放った後にサリアから距離をとったことで、模擬戦の仕切り直しとなった。


「サリアの一手はリナが後に放った魔法を防ぐためのものだよ」

「どういうことですか...?確かにリナちゃんの魔法を放つタイミングが少し早かったような?」

「そうそこがみそ。リナのあの範囲攻撃のタイミングばっちりだと、サリアは回避ができなくて直撃を食らっちゃうのはわかるよね?」

「確かにあの間合いだと...避けることができないですね」

「そこで、サリアはリナ魔法の妨害をしようとしたんだと思う。リナの大剣には魔法の発動前で魔力が集まっているけど、この時に外的要因で魔力が乱されると、魔法が発動しないことがあるらしい。というのをサリアとリナから聞いたことがある」


 アイスニードルを放つ際に魔力が1か所に集まってから魔力が変質して氷柱が生成される。しかし、この魔力が散らされた場合、うまく氷柱が生成できなくなるためアイスニードルの発動が失敗することが容易に想像できる。


「そうなるとリナちゃんは魔法の発動を妨害されてしまって少し隙ができそうですね...。そうなるからリナちゃんは早めに魔法を放ったんですね」

「多分流れ的にはそうだと思う。」

「リナちゃんすごいですね...私なら色々考えちゃってそのまま突っ込んでしまいそうです」


 確かに、間合い的にもすぐさま判断を迫られる状況だった。この状況でその判断ができたのは普段から模擬戦をやっていて相手からの攻撃を読みやすいというのはあるかもしれない。だが、それだけではなく、リナが普段の模擬戦を通じて、瞬発的な判断力を養った結果であると思う。筋肉が考えているわけではないはず...。


 また、判断力以外のリナの成長がこの一連の攻撃に含まれていた。

 もともと、リナは攻撃が当たらないという問題を抱えていた。それは攻撃の単調さを原因とした攻撃の読みやすさからきている。だが、成長したリナは今回、本命の広範囲魔法が相手に当たる確率を上げるために、相手をこちらの戦術に乗せるような軽い魔法を相手に放った。全てが本面の攻撃だった以前のリナからすると大きな成長のように思える。短期間でよく成長したな。


 感慨深く思考を巡らしていたら試合終了を知らせるブザーが鳴った。

___________________________


 さて、次は自分とシルフィアの模擬戦だ。模擬戦開始直前なので目の前にはシルフィアがいる。いつも相手をしているので特にこれといった緊張はない。見る限りはシルフィアも緊張はしていなさそうだ。


「それでは模擬戦を開始します、準備はいいですね」


 脚に付けたホルダーからナイフを取り出して審判に向かって軽く合図を行った後、腰を低くして構えの体勢をとる。シルフィアはナイフを構えてはいるものの、上体が起きている。しかも、ナイフを持つ逆の手が体の後ろに隠れている。何か策でもあるのだろうか。注意しておこう。


 シルフィアと視線が交わる。シルフィアの視線は真っすぐ自分を捉えており、体のわずかなブレでさえも捉えられていそうに感じる。こちらもシルフィアの動きには警戒するべく特に隠された手に注意を置きつつシルフィアの全体を捉える。


 見つめあうこと数秒、開始の合図が鳴った。


 その瞬間、シルフィアの隠された手が動き出した。

 隠せるもので、この評価期間において今までシルフィアが温存していたであろうものは何か。新たなナイフ...とかではないと思う。手のひらサイズの手りゅう弾?いやこの世界で手りゅう弾とか見たことないよ?

 シルフィアの視線には迷いや緊張といった類は見られない。とすれば、彼女が普段から扱っているものか...あ、放射魔法特化の手のひらサイズのMSDか!言葉が長い!


 もし本当であれば、かなりの速さの光線?が来てしまうので、考えている暇はあまりない。体の重心移動を行い、最初の地点から左に動き出す。


 考えがまとまって動き出す頃にはシルフィアが隠した手があらわになり、手に持っているものが普段からシルフィアが使っているものと確認が取れた。

 シルフィアはMSDをこちらに向ける。MSDが放つ光は強くなり、そろそろ魔法が放たれる時だと伝える。

 

 集中してシルフィアの視線やMSDの向きを注視し、自分に飛んでくる魔法の軌道を予測する。視線は自分を捉えているがシルフィアのMSDは移動している延長線上を指している。となれば、シルフィアは自分の進行方向に放ってくるか。


 光が強くなり、シルフィアの手元から光線が放たれる。あの感じだとフォトンスピアだろうか。その軌道は予測した通り、自分の進行方向と交わる位置に来そうだ。


 魔法が放たれたのを確認したのと同時に、左足で地面を踏ん張って左に向かう動きを止めた。

 さてどうするか一瞬考える。このままシルフィアとの距離をとると無限にフォトンスピアが自分に打ち込まれそうだな。シルフィアに接近するほうが戦況は良くなるか。

止まる力をため込んだ左足をばねにして、フォトンスピアが来る方へ方向転換する。


 日ごろからシルフィアの魔法の練習に付き合っていたが、シルフィアの放つ魔法はそれなりに強力だ。クラスメイトたちの放つ魔法に比べるとその飛翔速度は3倍くらい速いしその火力も同様に高い。別に赤くはないのだけれど。

 自分と初めて模擬戦したときには攻撃性の魔法が使えなかったが、今では自分に向かって放つことができるようになったもんな。根本的な問題解決こそされていないが、その問題が魔法の行使に影響を与えるのも時間の問題のように思えてきた。


 回想しつつシルフィアの放ったフォトンスピアとすれ違う。肌を焼かれるような感覚が今は模擬戦中だぞ集中しろと伝えてくる。集中、集中と。


 シルフィアとの模擬戦は、気の抜けないものだったが、接近戦に持ち込むことで難なく勝ちを納めることができた。なんというか、シルフィアのポテンシャルを感じる試合であった。マジ強くね?

____________________________


 金曜日となり、クラス内の模擬戦がすべて終了した後、戦闘能力の評価通知書が入った封筒がエルバ先生よりクラス全員に渡された。


 この通知書の内容は、魔法の適切な使用、使用する魔法の規模又は複雑性、攻撃力、回避または防御力、総合的な戦闘内容の各項目を5段階評価し、各項目について模擬戦ごとの評価を平均したものが書かれている。各項目ですべて5と書かれていたら最高評価となるが、自分の評点はどの程度だろうか。結局のところすべての模擬戦で勝ったので、それなりの評価であることが期待できるな。


 封筒の中身を取り出して、通知書を確認する。


「んー?。ん?」


 項目の点数は端数を切り捨てると次のようになっていた。魔法の適切な使用2、使用する魔法の規模又は複雑性1、攻撃力1、回避または防御力2、総合的な戦闘内容2。

 魔法の使用についてはあまり魔法を使っていないこともあり、そんなものだろうと思うが、総合的な戦闘内容が2なのは随分と辛口な評価な様な気がする。評価においてはおおよそ3が平均的なもの、言い換えると普通であるとすることが多い。しかし、自分の戦闘内容はそれを下回る値となっている。

 最初の1日目は相手の自滅という形で終わってしまったが、それ以降は素直に戦闘していたように思う。うん。少なくとも相手の自滅はなかった。その上、戦闘中も余裕があったので自分の動きが焦って乱れるということもなかった。これらの点に加えて模擬戦で全勝しているので相手よりも戦闘が劣るということもないはずである。


「うーん。魔法をメインで使わなかったのが気に食わなかったんだろうか...」


 評点を見ながら首をかしげていると、評点を手にしたサリアやリナ、シルフィアが自分のところに集まってきた。サリアは手にした通知書をひらひらさせながら自分に問いかけてきた。


「カオリちゃんの評点ってどんな感じ?良ければ見せてもらえる?」

「いいよー。サリアを見てもいい?」

「もちろんいいよ」


 手にした通知書をサリアに手渡し、代わりにサリアの通知書を受け取った。早速その評点を見てみる。

 評点の端数を切り捨てると、魔法の適切な使用4、使用する魔法の規模又は複雑性3、攻撃力4、回避または防御力4、総合的な戦闘内容4であった。全体的に自分の評点の2倍程度に放っている感じだ。いや~さすがサリアだなあ。いい評価をもらっている。納得できる評点だ。


「サリアいい評価貰ったね。おめでとう」


 と言いつつ、視線を通知書からサリアへと向けると、サリアは変な表情をしている。


「え、あ、カオリちゃんありがとう。通知書を見て気になったけど、カオリちゃんの評点ってなんか変じゃない?」

「そう思った?自分もそう感じてはいるんだけど、魔法もあまり使わなかったからそんなもんなのかなって」

「それだと、シルフィアちゃんが受けた評価と違う感じになるの」

「え?そうなの?」


 リナと会話していたシルフィアが、自分の名前が出たことに気が付いてこちらの会話に参加してきた。それにつられてリナも会話に加わった。


「私がどうかしましたか...?」

「シルフィアちゃんがどうしたの?」

「カオリちゃん、評点のこと話してもいい?」

「いいよー」

「カオリちゃんの評価がすごく低いの。シルフィアちゃんの評点よりも低くて。これ見て」


 サリアが自分の通知書を見せる。


「え?カオリちゃんがこの評価って変だよね?」

「私の評価より...全体的に悪いです...変ですね」


 サリアと同じような反応をする。反応を見る限りは少なくとも自分の戦闘内容が特段悪かったわけではないと感じられる。サリアやリナ、シルフィアは組み分け後のAブロックで一緒になっており、自分の戦闘を見ているので、彼女たちの想像した戦闘内容と違うという訳ではない。そのため、彼女たちが変だと思うことに信ぴょう性が増す。

 

「リナとシルフィアの評点も気になるから通知書見せてもらってもいい?」


 自分がそう言うと快諾して見せてくれた。その評価を端数の評点を切り捨てると以下のようになる。


リナ

 魔法の適切な使用3、使用する魔法の規模又は複雑性3、攻撃力4、回避または防御力3、総合的な戦闘内容4。

シルフィア

 魔法の適切な使用2、使用する魔法の規模又は複雑性2、攻撃力2、回避または防御力4、総合的な戦闘内容4。


 リナの場合はおよそ妥当な評価点になっている。リナは相手を誘うためにわざと相手から外したような魔法を放ったりしているからか、魔法に関する項目の評点は3にとどまってはいる。しかし、総合的な戦闘内容は4であり良い結果を得ている。

 シルフィアの場合もおおよそ打倒だ。シルフィアの場合、魔法の使用は自分との戦闘だけであったので魔法に関する評価点は2にとどまっている。それでも総合的な戦闘内奥は4となっており、相手に近づいてホールドアップ作戦が戦闘内容的には良かったとの評価になっている。


 まずは魔法に関する評点についてだ。自分の場合は魔法の使用はアイスニードルのみで、その使用頻度は1回の模擬戦に2、3回ある程度だ。そのすべてにおいて相手に直接的な攻撃ではなく、相手の動きを封じるような牽制的な使用が主であった。そのため、同様の使用方法を行ったリナと同様の評価になるのが適当だ。

 次に総合的な戦闘内容についてだ。自分の場合はシルフィアと同じ戦術の相手に近づいてホールドアップ作戦をとっている。普通に考えると、同様の作戦をとっているシルフィアと同じ、4の評価となるのが適当だ。

 この2点を合わせると自分の評点が変であると確信を持った。


 ではなぜその評点が変になったのか。

 そもそも、この評点の付け方は主観たっぷりでお送りされているらしく公平性に欠けたものとなっている。そのため、このような差が出ている可能性はある。だが、クラス内リーグ戦からランダム戦に変わったタイミングで模擬戦の審査員も入れ替わっている。そのため、審査員の感性の違いによる評点の付け違いというのは考えにくい。

 模擬戦時の評価結果が取り違えられている可能性が考えられるが、すべての模擬戦で結果を取り違えたというのは考えにくい。そのため線はないだろう。

 となると、ある可能性が浮かび上がってくる。


 それは評価を恣意的に下げている事だ。  

 では誰が。


 思い当たる節があるとすれば1つしかない。それは、模擬戦開始前の金曜日の件に関係した人物だ。

 戦闘能力評価のために演習場を確かに予約して利用していたが、不躾な男子生徒どもに乗っ取られる件が起きた。この不躾な男子生徒どものリーダーが今回の評点が変という件の元凶と睨んでいる。そのリーダーが自分のいやがらせのために学園内の職員を利用して、自分の評点を下げさせたというのが事の真相だと予想する。

 もしそうであれば、執着心の鬼となって祀られそうな勢いである。厄介なものに目をつけられたものだ。


 可能性の高そうな憶測ではあるが、この憶測をサリアたちに話すことはしなかった。もしこの憶測が当たっていた場合、サリアたちまで被害が及ぶことは容易に想像できる。それに、被害が及びそうになった場合、一人一人では対処できないと判断したためだ。

 もし、自分が話せばサリアたちはこの問題にかかわってくれるだろう。だが、そんなサリアたちに被害が及んでサリアたちの笑顔が消え去るのは見たくはない。

 だからこの件に関してはこう決着をつけた。

 

「まあ、そういうこともあると思う。入学入ってすぐの結果だし、この評点は後から巻き返せる。だからあまり気にしていないよ。みんなもあまり気にしなくて大丈夫」 


 そして静かに憶測が杞憂であることを祈った。

______________________________

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