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33 シルフィアの模擬戦の観戦

(略しすぎています)

 初戦を終えて模擬戦が行われた結界の中から出たが、やはり盛り上がりに欠ける戦いだったのか観客であるクラスメイト達は妙に静かである。気になって周囲の様子をそれとなく確認したところ、自分に向かう視線は少ないが自分の相手をしていた子に視線が向かっているようだ。

 向けている表情は何とも言えないような緊張感が伝わるような感じである。自分の相手だった子に対する心配という類のものではなく、自分は大丈夫なのだろうかという心配のように思える。

 今回の戦闘を端的に表現すると、相手は先手を取ったことで物事が優勢的に運ぶかと思われたが、地面に空いた穴に躓いて自滅したという感じである。ちょっと悪意のある省き方かな?でも、自分はそういう感じに捉えている。

 模擬戦の順番を待つクラスメイト達は自分の順番が回ってくる前にその結末を見てしまったので、自分のミスして自滅しないか心配になってきたのだろう。それに試合前の緊張が重なった結果、言葉数も少なくなったのだと思う。

 なにはともあれ、この場所で次に行われる模擬戦がいい試合になるように祈っておこう。


「次の組の方は準備をお願いします」


 Dブロックのアナウンスが流れた。どうやら早めに模擬戦の決着がついた場合はすぐに次の試合が行われるようだ。試合内容に追ってはすぐに自分の順番が回ってきそうではあるので注意したいところではあるが、次の自分の順番までは8組くらいの模擬戦が挟まれるので単純計算的に8分くらいは余裕があるように思う。微妙な時間ではあるが、シルフィアの様子を見に行くとしよう。


 Dブロックの会場の隣にあるシルフィアが模擬戦を行うBブロックの会場には歩いてすぐについた。ちょうどいいタイミングだったようで、結界の中にはシルフィアと相手の子が入っており試合開始直前といったところだ。


 シルフィアの様子は初めての戦術をぶっつけ本番で試す不安と緊張からか、肩に力が入りまくって縮こまっている。このままでは模擬戦で満足に動けなさそうな感じがする。結界の外からちょっかいをかけて緊張をほぐす作戦もいいかもしれないが、逆に自分の存在を知ったことで緊張を呼ぶかもしれない。うーん。やめておくか。


 シルフィアはナイフを持った手とは逆の手を胸に当て、瞳を閉じて深呼吸を行った。静かに瞼を開けたときには緊張が幾分かほぐれたのか肩の力が抜けたようだ。それだけでなく、若干シルフィアが纏う雰囲気が迷いを含んだものから迷いを含まないものへと変化したように感じた。

 シルフィア自身で気持ちの切り替えができているし、なんか自分の出る幕がないな。自分がおせっかいを焼かなくとも問題なく模擬戦が進行しそうだ。下手に自分が出ないでおいて正解だったな。


 一方で、シルフィアの模擬戦の相手は直刀型MSD使いの女生徒だ。直剣を片手に持ち軽く体を動かしており、雰囲気からは余裕を感じられる。その上自信があるのか何なのか分からないが、少し表情が明るいものがある。何か策でもあるのだろうか。


「それでは、第二試合を開始します。両者ともに準備は大丈夫ですね?」


 シルフィアは静かに頷いて問題が無い事を審判に知らせた。相手も同様に返す。

 審判はそれを見届けて試合開始を知らせる音を鳴らした。


 初動は相手からだった。先手必勝とばかりにシルフィアとの距離を詰めつつ、肩より上の位置で直剣を地面と水平に保ち、柄頭を相手に見せている。袈裟懸けでもするのだろうか。それにしては胴が空きすぎており、かなりの隙があるように見えるのだが。

 その初動を受けてシルフィアは一瞬だけ敵からの距離を取るような動きをしたが、それをやめて相手へと向かう動きに変えた。戦術的にはどちらも正解なのだろうが、シルフィアはわざわざ動く方向を変えたところを見るに、相手からの攻撃に感じるところがあったのだろう。シルフィアはナイフを構えつつ、相手の方へと駆ける。

 

 シルフィアと相手の距離はだんだんと近づいていき、両者の距離が5歩程度になると事態が動いた。これまた初動は相手で、構えていた直剣が光り出し、剣を振り下ろそうと腕に力が入っているように見える。MSDが光り出すのは魔法を放つ前兆であるが、どんな魔法を放つのだろうか。シルフィアは相手が魔法を放とうとしていることに気が付いているのかいないのか、走るペースはそのままに直進している。

 しかし、走っているとはいえ、直剣の間合いや直剣を振るうスピードを考えると、いささか振り始めのタイミングが早いようにも思える。相手が見せる謎の自信の事を考えると、どうも剣を振り始めるタイミングが相手のミスによるものとは思えない。このタイミングのずれは魔法を放つためにわざとずらしているのだろうか。


 シルフィアと相手との距離があと3歩程度に近づくと、相手が振るう直剣の光はピークとなり地面へと振り下ろされるスピードが増した。それを受けてシルフィアは足に力を入れて地面を踏みしめ、相手の動きから最も直剣を振るいにくい相手の足元へと飛び込んだ。

 その直後、シルフィアが飛び込む前の位置には相手の魔法によって地面から生成された無数の礫が飛来していた。シルフィアが相手に向かって飛び込まなかったら直撃していただろう。それなりに攻撃範囲は広いので直撃を避けようと左右に動いてもそれなりにダメージを受けそうだ。それを相手のタイミングから外れるような動きで回避して見せたシルフィアの戦闘センスはそれなりに高いように思える。どこでそのセンスを身に着けたのか気になるが、後回しにしておこう。


 相手はシルフィアに攻撃が当たるとばかりに確信していたようだが、回避されてしまったために、自信のある表情が一気に崩れた。その上に想像していなかった事態が生じたためか、状況を把握しきれておらず混乱しているようだ。

 シルフィアはローリング着地を行い、足を踏ん張って慣性を殺しつつ、相手の方に体を向けて次の行動へと移せるように体勢を整えている。体勢を整えている最中もシルフィアの視線は相手を捉えており、相手が混乱しているのを把握したようだ。そして、混乱している相手に低い姿勢のまま接近し、ナイフを突きつけた。これは勝負あったな。


 審判は勝負ありと判定して試合の終了を知らせる音を鳴らした。

 自分が先ほど行った模擬戦と同様に、初撃で相手との勝負が決まった。自分の初戦の時とは違い、かなり受けは良かったようで、中々に華麗な勝利をして見せたシルフィアに観戦していたクラスメイトたちから拍手が送られる。やっぱり勝ち方って重要なんだなぁ...。


 シルフィアが結界の中から出てきた。シルフィアは自信をつけたようで試合前の不安げな感じとは大きく異なっている。シルフィアの尻尾は揺れておりそれなりに上機嫌のようだ。と、観察していたらこちらの視線に気が付いたようで、さらにいっそう表情を明るくして駆け寄ってきた。


「カオリちゃん、私勝てました!」

「おめでとう、いい試合だったよ。初めての戦術とは思えないくらい良い動きをしてたよ」

「ありがとうございます。これもカオリちゃんのおかげなんですよ」

「え?そうなの?」


 ちょっと予想にしていなかった言葉が飛び出してきたが、どういうことだろうか。


「カオリちゃんが私の練習に付き合ってくれていた時、私が魔法を放つタイミングが分かったかのように動いていたのが不思議になって考えてたんです。そしたら、MSDが光ってから魔法が放たれるまでのタイミングから逆算しているんだなって気づいたんです」

「ああ、だから相手の魔法のタイミングが分かったのね。でも、魔法によって発動時間って違ってくるけど、初撃でよく気づくことができたね?」

「それは、MSDの放つ光の強さで気づくことができました。私が魔法を放つときも魔法が放たれる瞬間が一番光っていたんです。それで今回の相手もそうなのかなって」

「なるほどなぁ。なんか、今回の試合も楽勝だったから、この調子でいけば他の試合も大丈夫そうだね」

「相手が魔法メインの場合はちょっとわかりませんけど、なんか大丈夫そうな気がします」


 シルフィアが初めての戦術を試すときの緊張感を感じ取っていたので模擬戦での勝ち点を得ることができるのかなと思っていたが、難なく勝ち点を得ることができた。しかも、魔法も使わずにナイフと己の身体能力のみで勝ちをつかみ取った。魔法も使えるようになったシルフィアの姿が末恐ろしくなることは想像に難くない。


 試合が終わった今、試合内容を思い返すと、直剣が振るわれるタイミングが早い理由としては同じ攻撃の構えから魔法を伴わない直剣での攻撃放つことを想定しているためだと思う。魔法を放つ攻撃と、単なる剣での攻撃が同じ構えから出てくるために、攻撃を受けるものとしては魔法が来るのか来ないのかを判別することが難しくなる。それを利用して、相手を疑心暗鬼にさせて自分の戦況を有利に進めようとするものだったのだろう。

 クラスメイトたちはほぼ素人であるために観察眼はそれほど養われておらず、魔法の発動タイミングを計ることができないだろう。そのような場合はこの戦闘スタイルは効果的だと思う。だが、今回は相手がシルフィアであり観察眼が磨かれていたので、その効果を発揮しなかったというところか。シルフィア、なんて恐ろしい子。


 シルフィアと少し話した後、時計を見るとそろそろ自分の試合の順番が回ってきそうなため、Dブロック会場に戻ることにした。


「それじゃ、試合に行ってくるよ。また後でね」

「はい、また後で」


 そう手を振りながらシルフィアは微笑む。

 シルフィアに手を振り返しながら、思い返してみると、模擬戦をお願いしますと話しかけてきてくれた時から明るい表情が増えたように思う。内面的な問題を抱えていたであろうシルフィアにささやかな手助けをすることができていたのだろう。そう思うとシルフィアの力になれたことが少しだけ嬉しく感じた。

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