23 模擬戦の申し出とリナとの模擬戦
(略)稚拙な表現等々、目をつぶっていただけると幸いです。
(今週分の更新はこの話のみになります。)
どうも、現在戦闘演習の授業中ですが、休憩中の銀髪ロリエルフになった者です。やっぱり動くと暑くて汗かいちゃうよね。
今日の午前にはMSDに関する授業があったけれど、授業の終わりにエルバ先生は戦闘演習の評価方法について話していた。その評価は2週間に行われ、評価方法は次の通りである。
1.クラス内で4ブロックを作りそれぞれでリーグ戦を行い、その時の戦闘内容での評価
2.各クラスのリーグ戦で最も勝利したものが進む学年トーナメントでの勝利数での評価
戦闘内容での評価というのが曖昧ではあるが、戦闘スタイルの完成度を見るのだろう。主観的な感じを受けるので少し心配ではあるが。
そんな話を受けてクラスメイト達はモチベーションがだいぶ上がっているようである。魔法学園に入学して最初の評価なので気合が入っているのだろう、クラスメイト同士の模擬戦も活発に行われているようである。
そんな活発さがあるにもかかわらず、残念ながら自分とサリアには声がかからなかった。その理由はほとんどのクラスメイト達が自分たちに向けている目に答えがある。
その目は雲の上の存在を見るようなものだ。十中八九昨日の模擬戦が原因なのだろう。サリアの戦闘はあまりに自然な流れで魔法の発動や短剣による攻撃が行われており、簡単に魔法攻撃や物理攻撃をしているように見える。クラスメイト達はその攻撃をまねてみたところ、その攻撃がどれだけの技術が必要で今の自分達には困難なものかを理解したのだろう。さらに、自分はサリアに勝っており、サリアと同じ扱いとなっている。
そのような視線を送るのもわからないでもない。クラスメイト達は入学して間もなく、魔法を学びに来ている人たちで、魔法がバリバリ使える人たちではない。戦闘経験も豊富ではなく、その戦闘能力はゴブリンに不意打ちで勝利を収めるレベルである。そのような人たちが、バリバリに魔物との戦闘をこなせるサリアと自分の戦闘を見てどう思うだろうか。それは、あまりのレベル差から来る「奴らは特別なんだ。自分達とは違う。」というものある。それゆえに、戦っても自分達には得られるものが無いと考えてしまい、模擬戦の申し出が無いのだと思われる。
クラスメイト達の戦闘演習時以外のサリアと自分の扱いは変化はないのがありがたいが、一番暇になる戦闘演習で相手がいなくなるのは寂しいものがある。サリアもいるのでボッチでないのはありがたいが、それでも寂しいものは寂しい。
そういう感じで、結局のところサリアとの模擬戦三昧となっている。そのおかげで暇はしていないが、短時間での魔力使用量が多くなってしまい、開眼しないようにこまめに休憩をとる羽目になっている。少しばかり、サリアには申し訳なさがあるが体質故にしょうがないのだ。
それはそれとして、模擬戦を行うと、汗をかくほど体が暑くなるのは本当なので、本当なので。大事なことなので?。
「ふぃー、サリアありがとう。おかげでとても涼めるよ」
「どういたしまして。こうしないと模擬戦するまでに時間かかるでしょ?」
「サリアさんよ。ちょっとストイックすぎませんか?」
「だって、カオリちゃんとの模擬戦、楽しいんだもん」
「自分もサリアとの模擬戦は楽しいって思ってるよ。でも、ぶっ続けで模擬戦は体力的にも魔力的にも厳しいから、もう少し休ませて~」
サリアの風魔法で風を浴びながら雑談をして涼んでいると、昨日の模擬戦を見て注目していた兎人族のリナと猫族のシルフィアが声をかけてきてくれた。
「サリアちゃんとカオリちゃん、模擬戦をお願いしてもいい?あ、でも休憩してからで問題ないよ」
「私からも...お願いします...」
「自分は全然大丈夫だけど、サリアはどう?」
「私もOKだよ。」
「いい返事でよかった~。ちょっと断られるかと思ってひやひやした」
「(コクコク)」
「え、どうして?」
サリアは疑問に思ったようで問い返すようだ。
「だって、サリアちゃんとカオリちゃんの戦闘を見てたら、すごい高みにいて殿上人のように思えてくるもん」
「それに...仲もいいから...入りづらくて」
「そんなにすごいかなぁ?」
「すごいよ!だって、魔法の発動スピードがとても速い!魔法を使うタイミングが絶妙!さらに、戦闘能力も高い!自分じゃ届かないって思っちゃう」
「「(コクコク)」」
「え、シルフィアちゃんだけでなく、カオリちゃんまで?」
「実際戦っていると、サリアの魔法の扱いはずば抜けて高いって感じるよ」
「なんか、カオリちゃんと戦っているとそういう気がしないんだけど」
「それは比べる相手が悪いよ、サリアちゃん。横で頷いてるけど、カオリちゃんも同じだからね」
「え」
サリアに戦闘能力の高さを自覚してもらいたくて頷いていたのが、まさか急に話を振られるとは思ってなかった。アイスニードルの扱いだけはそれなりに自身があるが、逆を言うとそれだけであるので、リナの言葉は自分にとって思ってもみなかった言葉である。
「カオリちゃんは...アイスニードルしか使ってないけど...その扱いはプロ級...です」
「シルフィアちゃんの言う通りで、アイスニードルをあれだけ自由自在に扱っている人初めて見たレベルですごかった!」
「(コクコク)」
サリアに頷かれた。これは意趣返しを食らってしまった。サリアの表情はしてやったりといった感じで猫パンチをしたくなるな。どのみちサリアとはまた模擬戦やるだろうし、その時にお返しをするとしよう。
「ありがとう。アイスニードルしか使えなくて、これ一筋で極めてきたから、そういってもらえると嬉しいよ。」
「ちょっと待って、あれだけアイスニードルが使えるのに、魔法がそれしか使えないってどういうこと!?」
「私も...気になります...」
「あ、それ私も気になってた。カオリちゃんって属性魔法だとアイスニードルしか使うとこ見たことなかったから」
まあ、そういうことにはなるだろうが、自分の魔力属性が無属性故にこうなっていることを隠しておいても後にばれる...はずである。学園入学時にこの情報を学園側に開示している以上、その情報は自分でコントロールすることはできない。ならば、自分から無属性である事を公言して、利用していった方が都合がいいと考えたのだ。公言しないままであると、謎の噂が発生して、尾ひれも足されたりして大変なことになると思う。
「実は自分の魔力は無属性で他の魔法の発動ができなくて。唯一使えるアイスニードルもなんで使えるのかわかってない感じ」
ということにしておく。このように公言するからにはモルモットにならないように今後の発言や行動には注意をしなくてはならないが...。
「そうだったんだ。だから魔物狩りの時もアイスニードルだけだったんだね」
「そうそう。おかげで、アイスニードルだけは自信があるかな。でもでも、他の魔法が使えないからって気を遣わなくて大丈夫だから」
体の暑さもだいぶ取れてきたし、魔力が使える余裕も出てきた。そろそろ模擬戦の再開と行きますか。
「自分の休憩は大丈夫かな。サリア、風魔法ありがとう。」
「どういたしまして。それじゃあ、休憩も終わったことだし、模擬戦の順番をどうするか決めないとね」
「それなら、初戦の相手は今の立ち位置で近い距離にある人と模擬戦するのはどうかな?サリアはシルフィアさんと。自分はリナさんという感じで」
「私は問題ないよ。シルフィアちゃんやリナちゃんはどう?」
「私もそれで大丈夫!」
「大丈夫...です...」
「それじゃ、決まったことだし、模擬戦しますか」
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さて、自分と相対するのは体に不釣り合いな大剣を持つ兎人族のリナである。戦い方はパワーごり押し系の脳筋スタイルと分かっているが、彼女は何を思って模擬戦を挑んできたのだろうか。まずはそこの目的を明確化することにしよう。
「リナさん。よろしくお願いします。」
「あ、それそれ。リナさんってやつ。気になってたんだ。カオリちゃん。「さん」付けはちょっと距離感じちゃうから呼び捨てもらって構わないよ。」
「わかった。そうするよ。リナ?リナちゃん?リナちゃんさんくん太郎?」
「あはっ、なにそれっ。普通にリナで大丈夫だよ。カオリちゃん」
「なら、リナ。よろしく」
なんか出鼻をくじかれてしまった上に、サリア以外は呼び捨てにしていなかったので何だか違和感を感じるところだ。何でサリアは呼び捨てかって?何でかなぁ?気づいたらなってたし、親密度的な?最初の出会いが特殊だったし、その所為的な?
「それで、リナは模擬戦でどんなことを高めたい感じ?」
「私の攻撃って相手にほとんど当たらないんだ。だから、まずは相手に当たるようにしたい!」
昨日のリナの模擬戦を見た限りだと、相手には攻撃をよく避けられていた。リナ自身もそれが相手ではなくリナ自身にあることが分かっているが、それが何なのか気づけていない感じか。そこがいい感じにアドバイスができるように、模擬戦の最中の動きを見るとするか。
「了解。そのことに何か気づいたら言うことにする。それじゃ、始めよっか」
「うん!それじゃ行くよ!」
そうして、模擬戦が始まった。リナの初動はこちらに突っ込んで来ると同時に上段からの大根切りだ。それならば、自分はリナの脇を通るように突っ込んで回避をするとする。
リナが自分に接近し大剣の間合いに入った瞬間に、右足を踏み込みつつ大剣を振り下ろしてきた。右足を踏み込んだということはリナから見て右側、すなわち自分から見て左側には攻撃するのは容易ではないだろう。そう考え、自分はリナとすれ違うように左側に回避する。その際に大剣の軌道を確認したところ、軌道が自分の方向に1mmたりともずれることはなく、上から下に振り下ろされるのみである。それでも、振り下ろされる剣先のスピードは大したものだ。風圧を感じるほどであり、岩でも真っ二つにできそうな勢いである。くわばらくわばら。
リナは回避されたのに気づいて、次の手を仕掛けてくるようだ。手にした大剣を地面と水平に保ち、振り下ろしたと同時に踏み出した右足を引いて、体をこちらに捩っており、時計周りに薙ぐような攻撃が来そうだ。自分はすぐさまリナの方面を向いて次の手立てを考える。
大剣の間合い的にギリギリ入るか入らないかの範囲に自分はいる。そのため取れる手段は、相手の懐に潜り込むか、ギリギリ相手の範囲の外に出るかだ。相手の懐に入ったら模擬戦が終了してしまいそうので、1度は範囲外に出るのが適切か。
そう思って、バックステップでもってリナの大剣の間合いから出る。程なくして避ける前にいた場所には大剣の横一線が走り、周りに風圧をまき散らす。これ、防御することは簡単だけど、防御したらしたで吹っ飛んでいきそう。
さらに、リナの攻撃は止むことなく横一線の流れで体を回転させてから、こちら側に一歩踏み込み、再度自分を大剣の間合い捉えて横一線の攻撃を加えようとする。その攻撃は先ほど見たので、同じように回避しようかと思っていたが、リナの持つ大剣が光っている。これはエンチャント攻撃か、近距離範囲攻撃か。近距離範囲攻撃だった場合は相手の正面すべてが攻撃範囲だ。攻撃を受けてもいいが、魔力刀を使わないナイフでは心元ない。なので、相手の背後に回るべく空中に飛び、相手の背後をとるように回避する。
直後、剣の軌道から、土属性の魔法だろうか数多の石のつぶてが生成され、リナの前方に放たれる。回避中でリナの真上から見ているが、どう考えても飛翔体の数が多すぎて避けるのは難しいと感じる。空中に逃げて正解だった。
そして、リナの方を向いて着地する。10点。素晴らしい着地です。リナは攻撃の反動で隙を見せており、背後をとっているので簡単にリナの死角へ潜り込むことに成功した。そして、脚のホルダーから抜いたナイフをリナの脇腹に突き付ける。
リナは、死角の攻撃に気づいていないので、声をかけることにする。
「勝負あり、だよ」
「!?!?」
リナから見ると目の前から消えてどこに行ったかと思えば、耳元で幼女の声が聞こえるとなれば驚くのも無理はない。自分でも驚く。
とどめに、脇腹を指で突いて終了とすることにする。えい。
「!?ひゃんっ??えっ?カオリちゃん?」
「どうも、カオリです」
「もう、びっくりした!。目の前から居なくなったと思ったら後ろから声がかかるんだもん。それに、攻撃という攻撃全て避けられるから考えてること筒抜けてる?って思った!」
「さすがに考えてることはわからないよ。ただ、リナの動きから攻撃の予測をしてたかな」
「攻撃の予測かぁ。他のクラスメイトに意見をもらった時は攻撃が避けやすいって言われるんだけど、カオリちゃんから見てどう思った?」
「攻撃は避けやすかったし、予測も立てやすかったかな。」
「やっぱりかぁ。わかったらでいいんだけど、その理由って分かる?」
「んー。型にはまているような感じかな?どこかで剣術習ったりしてた?」
「えっ、なんで剣術習ってたってわかるの!?」
「剣がすごい素直に振られてる気がしたし、何というかこう、動きがきれいというかなんというか。」
「やっぱりすごい人にはわかるんだなぁ。実は小さい頃に教えてもらってたんだ。中々上達しなかったから、動きがきれいって言ってもらえて嬉しいな。そこまで上達したんだって。でも、実戦はからっきしダメだからで困ってるんだよね。」
「確かに剣の腕はすごくあると感じたから、あとはそれをどう使うかだね。」
実際、模擬戦の時のリナの体の動かし方はとても滑らかなものがあって、初心者特有のぎこちなさは感じられなかった。それに、剣を振るスピードも中々の物で風圧も感じる程度である。剣の腕が高いにもかかわらず攻撃が当たらないのは、型にとらわれているだけではないだろう。
一般論的に、攻撃によって相手の体制を崩すところから始めなければ単純な剣技では相手を負かすことはできないだろう。だが、生徒間の模擬戦において、彼女の振るう大剣のスピードはすさまじく彼女の間合いに入りたいとは思わないため、魔法による中~長距離攻撃が行われる。結果、彼女は中距離戦に応じなければならず、中長距離戦闘苦手な物理攻撃可能なMSDで攻撃を行う。そのMSDが扱える魔法は射程が短いが周囲に効果がある魔法か、射程はそれなりにあるが剣が振るわれる直線上にしか効果がない魔法となる。そうすると、リナに近づかない相手は、リナからの攻撃を避けるときに剣の軌道の直線上から逸れことだけを意識していればいい。だから、避けやすいといったところだろうか。
また、近距離戦においてもリナの剣はかなり素直で、剣の軌道から相手が避けたときも軌道が相手の方に向くことはなかった。型にとらわれているのと、その素直さから攻撃が予測されやすいのだろうか。
「自分がリナにアドバイスするなら間合いに捉えるための前攻撃を入れるのと、攻撃を読ませないための攻撃手段の多様さが必要という感じかな。もっと魔法攻撃を取り入れたら楽になると思う」
「攻撃のパターンを多くしたらいいってよく言われてた。けど、間合いに捉えるための前攻撃があるといいって意見は初めて!でも、そんな攻撃はあんまり想像できないなぁ」
「例えば、勝負が決まる直前に放った魔法とかかな?あの攻撃は攻撃範囲が広いし、まともに受けると防御に専念しないといけないから、その隙に乗じて攻撃を加えるとかいいんじゃない」
「確かに言われてみればそんな気がしてきた?でも、それを軽々避けたカオリちゃんが言うと説得力が無いなぁ。」
「ま、まあ、例えばという話でひとつ。アドバイスしたところを気にして模擬戦してみたらいい感じになると思う。」
「そうしてみる!カオリちゃん、ありがとう!また、模擬戦お願いできるかな?」
リナは素晴らしい笑顔で握手を求めてきた。よほどアドバイスがお気に召したのだろう。そう思ってくれるとこちらも上機嫌になる。
自分はリナが差し出した手を掴みちょっと頬がゆるんだ表情で
「こちらこそ、お願い。」
と答えたところでサリアの方から声がかかる。
「カオリちゃんの方はもう終わった?」
「こっちは終わったよ」
サリアと会話している最中にリナが小声で
「なんかカオリちゃんって小動物みたいだし、なんか背伸びしてるみたいでかわいいなぁ。街で言ってた子ってこの子だよね。絶対。今確信した。」
と独り言を言っているのが聞こえしまった。街で言っている子 is 何?そんなに自分の存在が噂になってる感じなの?とはいえ、語感からして悪い感じの類ではないし、気にしても仕方ないかな。悪意のない噂には対処せず、放置するに限る。
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