2-96 模擬戦と尽きない悩みの種
(略しすぎています)
なんでもお願いできるという餌に釣られた自分とジェームス国王と宮廷魔導士のペーターさんの3人は王城内にある訓練施設にやってきた。対魔力壁で覆われた室内空間だがサッカーコート並みに広い。流石に特殊魔動騎兵が戦闘するには小さな空間だが、生身の人間が戦闘を行うには十分広すぎる空間だ。実際、この中でちょっとした分隊クラスの集団戦闘が行われている。宮廷魔導士たちが派手すぎる魔法を乱発しているが、その程度ではびくともしていない。学園の演習場とは桁違いに強度がすごい。部屋の側面上部には窓が並んでいて換気もバッチリ対応しているようだ。すごいなこの場所。
そんな空間を興味深く見渡しているとペーターさんが話してきた。
「隊員たちの戦闘が気になりますか?」
「ええ、かなり派手な魔法使っているようですが、怪我とか大丈夫なのかなと」
「その辺は大丈夫です。特殊なスーツでダメージが軽減されていて、魔力刀を発動した体験でさえ斬れません。吹っ飛びはしますけどね」
致命傷は負わないけどちゃんとダメージは受けるのね。それは普通に痛そうだ...。普段の模擬戦ではダメージ受けることないように寸止めしまくってるのだけど、これからやる模擬戦でもそうしてくれるようにお願いしようかな。
そう思っていると、ジェームスさんが感心するように声を出した。
「今日もよくやってますねー」
「国王、ありがとうございます。それを聞くと隊員たちも喜ぶでしょう。今日は海辺での撤退戦を想定した集団戦術訓練を行っています。最近何かと物騒なので様々な状況に対応できるようにバリエーションを増やした訓練をしています」
自分は何かと物騒な事件に巻き込まれまくっているし、めっちゃその必要性がわかるぞ。宮廷魔導士も物騒な状況を想定した訓練をしているようでちょっと安心する。この人たちが動く場面はそうそう来ないだろうが...。というか来るな。自分はのんびりとした楽しい生活を送りたいだけなんです!
そう心でつぶやいていたところ、訓練施設の側面上部にある窓の1部から何か違和感を感じた。視線を集中させると、微妙に窓が開いているようだ。まあ、どの窓も同じく空いているので換気のために開けているのだろうが、何かが引っ掛かる。まあ、考えても無駄か。ここに魔物なんて居ないし気のせいだ。
ペーターさんは見上げている自分が不自然に思ったのか話しかけてきた。
「カオリさん、上を見上げて何か気になることでも?」
「いえ、これと言っては。ちょっと窓が空いているなーくらいです」
「確かに空いてますね。誰かが換気用に開けたのでしょう」
ペーターさんの言葉からはいつも通りであることがわかるのだが、違和感が気持ち悪すぎてな...。対魔力壁に囲まれてるのと、受動探知の感度を下げているのもあって違和感の正体を突き止めることができていない。気にしすぎかな?受動探知の感度を上げるとそれはそれで、見なくてもいいものに気づいてしまいそうで嫌だな。
自分とジェームスさん、ペーターさんの一行は訓練を横目に、訓練施設のコントロールルームに向かった。そこでペーターさんは室内放送を行い、訓練中であった隊員たちをコントロール前に集めて声をかけた。
「今日は予告していた通り、プラチナランクのカオリさんが肩を貸してくれることになった。魔物戦闘のプロフェッショナルだ。戦い方を学ぶように」
なんかめっちゃハードル上がってませんか?魔物戦闘のプロとか言われてますけど、全部独学でポコポコ殴ったり氷柱投げてるだけですよ?と言うか、自分が話を受ける前提で話進んできたことに驚きだよ?
そんな視線を込めてペーターさんの方を向くと、とてもにっこりな表情でこちらを見てきた。「なんでも」ってカード切ったんですから、ちゃんと戦闘してくださいね?なんて圧を感じなくもない...。面倒だしサクッと終わらせて最大の利益を得る...なんてことを言うつもりはないが、ちょっと餌に釣られた過去の自分を恨みたいところだ。この場にいる人たち全員と戦えなんて言わないでね。?
「それでは、早速ですがカオリさんお願いします」
「わかりました。お力になれるよう善戦します」
ペーターさんに促されて訓練施設の中央へと向かい、模擬戦を始めることにした。力量だけ測ってサクッと決着をつけるとしよう。そのほうが手間がなくていいはずだ。それに、魔力使いすぎたら開眼しちゃうから使う魔力量もセーブしなきゃだ。魔力刀を発動せずに身体強化だけの物理パワースタイルで乗り切るのもありだな。
対戦相手の装備を観察すると、手にはナイフ型MSDと魔法補助特化型MSDを持っている。多分、俊敏性を生かした接近戦メインの戦い方をしてくるはずだ。初動は相手の手のうちが分からない以上無闇に突っ込むのはよろしくないので様子した方が良さそうだ。相手もそれは同じだろうが、リスクは負わないに限る。
それに、相手から感じられる魔力からは一定でとても静かな圧を感じている。そこから察するに、魔力制御が上手くて魔法の扱いがかなり長けていることになる。魔法を使われて相手のペースになると厄介になること間違いなし。こりゃ集中して望まないと普通に負けそうだ。
とりあえず、両脚のホルダーから白と黒のナイフ型MSDを取り出して、構えて深呼吸して。よし!
この模擬戦の審判であるペーターさんは自分と対戦相手を一瞥すると、準備完了と判断したのか試合開始の合図を出した。
「それでは、始め」
そう言った瞬間、対戦相手は懐から素早くスモークを取り出して焚いた。初動突っ込んでくるかもと思っていたが、相手も同じ考えでこちらの動きを見たいのだろう。わかるぞい。
周囲は白い煙に覆われて、自分と相手は互いに視認できない状況となった。しかし、対戦相手は自分の居場所がわかっているのか自分の周囲を警戒するように回っている。自分も肌で感じる魔力感覚で相手を追っているので、相手も同じことをしているのかもしれないな。こいつできるぞ!なかなかにレベルの高い戦いになりそうだ。さすがは宮廷魔導士だけある。
自分は相手に対応できるように、リング型MSDに魔力を通して強化魔法を発動する。MSDを通った魔力が体の隅々まで行き渡り、感覚が研ぎ澄まされて体が軽くなる。これなら安心して対応できるな。
一方の相手は自分の背後に移動した。自分の死角から攻撃をしてくるのだろうが、定石すぎて読めちゃうな。だが、相手は自分が微動だにしないので攻め方を考えているようだ。意外と慎重派なのね。
そうした探り合いをしていると、訓練施設内に動きがあった。
「!?」
自分が違和感があると思っていた窓から突如、天井から人が降りてきた反応があったのだ。その人物は素早く降りてくると、スモークが炊かれている視界不良の中、真っ直ぐ自分のいる場所へと迫ってきた。その人物からは隠しているが微かに自分への殺意が見え隠れしている。狙いは国王じゃなくて自分かぁ...とんだ人気者になったものだなぁ...え?自分ですか!?何で!?。とりあえず殺さない程度に受けて立つ!
自分は対戦相手を放置して、その襲撃者に向かって走り出す。対戦相手は襲撃者に気づいているようだが動かずに事態を静観している。襲撃者の位置が掴めていないのだろう。一部の宮廷魔導士たちは襲撃者の存在に気づいているようで、真っ先にジェームスさんの周りに集まって護衛を始めた。さすが宮廷魔導士、訓練されているだけあるな。ただ、こちらも味方への誤攻撃を警戒して静観している。自分の助けをしてくれることはないので、自分でなんとかするとしよう。
襲撃者は自分が接近していることに気づいているが、気にせずに自分へと突っ込んでくる。襲撃者と自分の距離は10mといったところだ。この距離だとどの魔法も攻撃範囲内なので、何が起こってもいいようにナイフ型MSDに魔力刀を発動しておく。
一方の襲撃者は自分に接近しつつ魔力を手元に集めた。何かの魔法を発動するのだろうか。しかし、感じる魔力は純粋な魔力のみで魔法発動に必要な情報が載っていない。一体何をするんだ?
そう思った瞬間、襲撃者は無色透明のガス状の何かを自分に向かって放ってきた。なんのガスか分からないし、息は止めておこう。
「ッ!」
だが、そのガスは催涙ガスだったらしく目がしょぼしょぼしてきた。目潰しかよ!動きが暗殺系の動きだったから毒ガスとか撒かれたのかと思ったぞ!目がああああ目がああああ!涙が止まらないね!!!
自分は襲撃者に立ち向かうのをやめて一度立ち止まり、もろに催涙ガスを食らった人を演出する。襲撃者はその瞬間を狙っていたのか、自分の背後に回るように迂回した。姑息な手をしてくるものだな!でもちゃんと追えている。問題はない。
襲撃者はナイフ型MSDに魔力刀を発動させると背後から自分に接近してきた。そして、襲撃者は自分との距離が2mになると、明確な殺意を放ちながら自分の喉元に向けてナイフを出してくる。だが、慌てる必要はない。
自分は左足を軸に時計回りに回転し、右足の踵で相手のナイフを目掛けて蹴りをかまそうとモーションを始める。襲撃者はその動きに一瞬だけ驚くが、自分の攻撃が届かない右足側へと移動して体の重心を下げて溜めを作った。首元に向かっていたナイフは相手の手元に戻り再度攻撃体制に入っている。多分この後自分の脇腹にナイフを刺しにくるか?。でも、大丈夫だ。
自分は身体強化した力を使って、軸足の左足で踏ん張りながら体を時計回りに回転させながら、右足の踵で回し蹴りをする。相当な速さで振り抜いた右足は当然空を切る。襲撃者は隙ができたと思ったのか、低い姿勢から伸びるようにナイフを自分に突き立ててきた。だが、それは読めていたぞ。
右足を振り抜いた慣性を生かして体を時計回りに回転させる。そして、自分の脇腹へと伸びてくるナイフを右手で持ったナイフで強引に弾いて軌道を逸らした。まずはこれで安全だ。それじゃ、こちらの攻撃といこう。
右足で回し蹴りした時の体の回転を利用して、身体強化した左足で回転蹴りを相手に放った。自分の左足は正確に相手の脇腹を捉え、相手の骨格を歪ませた感触を感じつつ振り抜く。襲撃者は蹴りをもろに食らって訓練施設の壁に吹っ飛んでいく。感触からこれ肋骨いったかな。そこまで身体強化していないから死んではないと思うが...。
そして、程なくして襲撃者が壁に激突した音が聞こえてきたが、受け身を取ったのかそこまで派手な音は聞こえてこなかった。あれから壁にぶつかるまでの短い間で受け身をとるとかどんな訓練を受けてきたんだ?
そう疑問を感じていると、宮廷魔導士たちの方針が風魔法を発動した。やっと方針が決まったらしい。
「ウィンド!」
隊員が発した風で視界を妨げていたスモークを排除し始めると、全体像があらわになり始めた。襲撃者は撤退のタイミングと判断したのか風魔法を発動して、訓練施設の窓へと体をぶっ飛ばした。自分はそれを目で追いつつ、襲撃者が何処かへ撤退していくのを見送った。
「一体何なの?」
そう小さく呟くとペーターさんが緊迫した声で自分に声をかけてきた。
「カオリさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫です。問題ありません」
「ひとまず安心しました。これから隊員たちと国王をこの場から安全なところへ移動させます。カオリさんは後で。先ほど話していた場所で落ち合いましょう」
そういうとペーターさんと宮廷魔導士たちは訓練施設からいち早く撤退した。
自分は受動探知の感度を大きくして周囲に不審な魔力反応がないことを確認した。この場はもう安全なようだ。
「ふぅ...」
一息ついて臨戦体制を解いてナイフを脚のホルダーに仕舞い、周囲を見渡して状況を確認する。自分との戦闘があった付近にはナイフ型MSDが転がっている。近くに寄って外観を確認すると、とてもシンプルな作りをしていてかなり硬そうな雰囲気を受ける。軍用もしくは実用面に極振りしたもののような印象を受ける。
激突した壁付近の床には襲撃者が吐いたと思われる少量の血が付着していたが、壁には付着していなかった。完璧な受け身を取っていたようだ。
そこから襲撃者の特徴を読み解いていく。まずは、気配を気取らせない行動ができることだ。おそらく自分がこの訓練施設に入った時から窓の外に潜んでいたのだろう。日中で身を隠せないのに、誰にも気付かれずにそこにいた。普通はそう言うことはできない。
次に対人戦闘に長けていること。行動の迷いのなさや身のこなしなど、普通の動きではなかった。特に、ちょっとしたフェイクの1回目の蹴りを放った時に迷いなく次の行動にうつしたこと、自分の蹴りを受けた後に完璧な受け身を取ったこと完全に普通の動きではなかった。
そして最後に装備。かなり質素かつ実用的なMSD。こういったものは冒険者やギルドメンバーは好まない傾向にある。ある意味MSDがステータスの一つとして認識されている節があるからだ。その証拠に、勇者たちのMSDとか見てみるとめっちゃ煌びやかなのよ...。だが、質素な類なので、冒険者やギルドメンバーといった所属ではないことがわかる。
以上から、特殊な対人戦闘の訓練を受けて、冒険者やギルドメンバーでないとすると、裏ギルドのような非合法暗部組織または、政府お抱えの暗部組織ということになる。そういった人たちのお世話になることを自分がしたことはないのだが...。もしかして、帝国の恨み的なところから狙われたのだろうか。全く迷惑な話だ。
確定的なことは言えないが、今後、この場に残っている魔力の痕跡やMSDを詳細に分析すると襲撃者の所属がわかってくるだろう。国王がワンチャン狙われたのだから、アステラ国は早めに動くだろう。情報を知る日はそう遠くなさそうだ。
なんにせよ、思ったことが一つある。
「自分の扱い、雑じゃない?」
しょうがないとわかっていても、一緒にこの場から離脱するとかあるじゃん?
その後、応接室的な部屋に帰ってしばらく待機していると、ペーターさんと国王さんが入ってきた。どうやら所属が分かったようで、帝国の所属だったと知らされた。やっぱりか...。
これからの事態を想像すると涙が出てくるが、なんとしても平和な学園生活を送りたい。そう思いながらドタバタ対応に追われる王城を後にした。
とりあえず超絶中途半端な気がしますが第2章の完結になります。
ここまで読み進めてくださった方々に感謝を。
次話は新規で読んでくれている方向けの(という名の自分向けですが)第2章のあらすじとなります。




