2-92 戻る日常
(略しすぎています)
洞窟の中から出た自分は草を踏み締めた痕跡を残さないように、自身の能力で体を浮かせて少し離れた場所に体を下ろした。これで、自分は洞窟の中には入らなくて通りがかっただけの人になったはずだ。洞窟が魔法で秘匿され続けている以上、誰かに知ってほしくないはず。なので、これでいいのだ。
開眼もしてないし、誰かに見つかっても大丈夫。宿舎まで歩くかぁ。
周りの音は風で木々が揺れる音がする程度でとても静かだ。どこかで戦闘音が聞こえてきたり、魔物が何かを狙っているような音もない。今夜あった出来事が嘘かのように思えてくる。
「これでいいのよこれで」
そう呟いた声も誰かに拾われることもなく深い森の中に消えていく。騒々しい出来事ばかりが起きてばかりでゲンナリしていたが、孤独でいるのは寂しいな。
ちょっと気持ちがブルーになりそうだし、深呼吸をして気分を切り替えるとしよう。そして、魔動騎兵を吹っ飛ばした言い訳を考えるぞ。まずは現状の確認からだ。
「すぅーーーはぁーーー。よし」
1体目のエンシェント・タートルはマスケット銃型MSDで仕留めた。その際、純粋なエネルギーによる爆発で半径200mくらいを吹き飛ばし、その余波で5体の魔動騎兵(味方)を物理的にダウンさせている。多分、搭乗員がショックで動けなくなったのだろう。
これはまあ、あれだな。エンシェント・タートルが宿舎に向かって攻撃を放つ直前で緊急的な対処が必要だった事に加え、通信手段もなかったから仕方ない。と言えばいいか。クソデカビームを放つまでにどうして討伐できなかったのか聞かれた時には、どこぞの賊に捕まっていたと他責をするとしよう。だって事実だし。
2体目のエンシェント・タートルでは、自身の力を使って攻撃を行ってエンシェント・タートルの魔力暴走を引き起こした。その結果、反発した魔力が爆発的に周囲に放出された。その結果、空を覆っていた雲が霧散して綺麗な星空が見えるほどだった。衝撃自体はそこまで大きくなかったので、広がった魔力がそうさせたのかもしれない。
この事態はかなり奇怪に映るかもしれない。1体目討伐に使った魔力量はかなり多かったが、2体目討伐に使った魔力量は1体目ほど多くはない。にも関わらずこれだけ大きな環境の変化を引き起こしている。
それに、魔物から放出された魔力の波は魔動騎兵やその搭乗員にも影響を与えていると思う。太陽フレアの影響で出る電磁波が電子部品で構成される精密機器に影響を及ぼすように、魔力の波が魔力で動く機械に影響を及ぼしているはずだ。搭乗員も魔動騎兵の耐魔法装甲の中にいるとは言え、その巨大な魔力の波を間近で受けているので失神していてもおかしくない。
これはどうしようか...。自分の魔力消費を抑えるために新しい魔法で試しに討伐してしまったからな...。既存の魔法で討伐しましたって言うのは無理があるか。うーん...。
「傷口にダメもとで魔石ぶん投げたら魔力暴走引き起こしちゃった...これだ!」
これなら何も問題あるまい...。全ては何が起きるか分からない魔力と魔法のせいだよね!エンシェント・タートルとの距離がめちゃ離れているから魔石をどう投げたらエンシェント・タートルに届くのかと聞かれそう。だけど事実、魔石は魔法でぶん投げているし投げた魔石や自分の魔力情報が現場に痕跡として残っているはずだ。あの魔力の爆発でかき消されていなければ...多分。
「まあ、こんなものか」
細かいところはあるだろうが、自分との情報共有ができなかったことがこの事態を生じさせたとも言える。多分、緊急性もあったのでお咎めなしになるだろう。小言は何か言われるかもしれないが、それは緊急時に対処可能な戦力をアステラ国が用意できていたらなぁ...と小言を返して何も言えなくするとしよう。
のんびり気にせず静かな森の中を歩いて、ふと空を見上げると大分空が明るくなっていた。空の色は薄い青色になってきており、もうすぐ日の出の時間のようだ。1日が長いのよ。アドレナリンが切れてきたのか、眠くて頭が回らなくなってきたしそろそろぐっすり寝たい。
あと、見上げた空の星の配置で気づいたけど、真っ直ぐ宿舎へ向かっていたつもりが、エンシェント・タートルが居た方向に向かっていたらしい。これじゃいつまでたっても宿舎に着けないな。集中して宿舎に向かうとしよう。でないと、途中で倒れて寝る!気合いを入れるぞ!
「えいえいおー」
弱々しく拳を空に向けて上げ、完全に疲れた声を出す。客観的に見ても限界の人だな...。でも空元気が出て眠気はちょっとだけマシになった。あと一踏ん張りだ自分。
そう思っていると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえてきた。この声はサリアとリナ、そしてシルフィアだ。
「あ、カオリちゃん居た!」
「フラフラじゃん!」
「今行きますね...!」
「やっほーみんな」
遠くにサリアたちを視認したので陽気に返してみたけど、だめだこれ。サリアたちの姿が見えて安心したからか、気が抜けて動けないくらいの眠気がやってきた。夜通しで魔物ぽこぽこした時よりも疲れているが、多分気を張り詰めていた時間がかなり長かったからなのだろう。誰かを守ったり、襲撃対応のために集中してたもんな...。
その元凶である帝国機関は既に工作をやめているようで周囲には変な反応はない。なのでもう気を抜いても大丈夫。ならば、サリアたちに甘えて自分は寝落ちさせてもらうとしよう。
「後は頼んだよー...」
そう言って意識を手放す。その瞬間、駆け寄ってきたサリアたちが自分の体を支えてくれたのを感じた。それがとても暖かくて孤独じゃないと感じた。
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うっすらと意識が浮上した時、体が周期的に揺さぶられているのを感じた。自分は誰かの肩の上に頭を預けているようだ。歩くたびに鼻腔をくすぐるこの感じは...シルフィアだな。歩く周期からも自分の感覚と合っているので間違いではない。体の匂いで分かったと言ったら変態扱いされそうだから言わないでおこう。
「カオリちゃんぐっすり」
「こんなに喋ってるのに起きないって相当疲れてたんだね」
「私たちに出会ったら急に寝落ちですものね...」
「どうしたのかって思ったけど、急に寝息立て始めた時にはちょっと笑ちゃったかも」
「なんていうか、カオリちゃんらしいね!」
「そうですね...微笑ましいです...」
え、自分がそんな寝落ちするイメージってあったっけ?
「授業中船漕いでる事もあるし」
「昼ご飯の後だってあったね!」
「そして...いろんな時に寝落ちを目撃されて眠り姫なんて言われ始めちゃいましたね...」
「それ、カオリちゃんのイメージ通りすぎてすっかり定着しちゃってるの知ってるのかな?」
「多分知らないんじゃない?ほらフラワーズだけの言葉みたいだし」
え、そんなに寝てたかな?というか、それ聞いちゃったんだけど...。まあいいか、困るものじゃないし。
「それにしても、カオリちゃんの寝顔いつ見てもかわいいね」
「わかるー、日頃はシャキッとクールな感じあるのに今は無防備で庇護欲が掻き立てられるよ」
「寝息もかわいいですよ...」
「「なんだって!今すぐ変わって!!」」
「いやです...!これは私の特権です...!」
なんか恥ずかしすぎるのだけど?今すぐ起きたいんだけど、めちゃ強い眠気とシルフィアの背中の温かさで全く起きれません!ダメです!
「ほら、ずっと背負ってるし疲れてるんじゃない?」
「そうだよ、交代するよ?」
「大丈夫です...私が宿舎まで背負います...!」
「「そんな~」」
「たくさん助けられちゃいましたからね...そのお返しがしたいんです」
シルフィアは自分と一緒に拉致された結果、戦闘に巻き込まれたり帝国機関から狂化人間化のためのアンプル打たれたりした。シルフィアは痛い思いもしてるし、守れなくてごめんというところだ。恩返しなんてとんでもない。頑張って起きてちょっと言い返そうかな?
そんな自分の気配を察してかそうでないのかわからないが、シルフィアは自分にしか聞こえない声で呟いた。
「カオリちゃんは優しいから...巻き込んじゃったなんてきっと思ってる...でもそれは私の弱さが招いたことでもあるの...。だからカオリちゃんに何と言われてもお返しする...!」
それは自分に言い聞かせる決意表明みたいなものだったのかもしれない。でも、ちゃんと自分に向けられた言葉だと感じた。多分、シルフィアに今から何を言ったとしても考えを曲げることはないだろう。ぐぬぬ。巻き込んじゃった自分が悪いというのに...。ちゅ、巻き込んじゃってごめんって言って可愛さの暴力で考えを捻じ曲げてやろうかな?
「だから、諦めて私の背中で眠ってね...」
これ、結構意志固いやつだ...素直に諦めよう。今は抵抗することをやめてシルフィアの背中で有難く寝させてもらうとしよう。実際とてもありがたいからね。
その気持ちが溢れたのか「ありがとう、そうするね」と言葉が口から出たような気がするが多分気のせいだ。賑やかで孤独じゃない日常に戻ったし、今はとても心地いい暖かさを噛み締めながら眠るとしよう。




