2-87 魔物へ放つ一撃2
(略しすぎています)お待たせしました。
もう一体のエンシェント・タートルを討伐するのは簡単。何らかの質量体を高速でぶつけるだけだ。物理は大体を解決する。さっきマスケット銃型MSDで放った一撃と同じことをすればいい。
だが、問題になるのは討伐後だ。紅く光った瞳の開眼状態を見られると魔族か何かと勘違いされてしまう。そうなるとサリアたちとの学園生活どころか、街の中で生活できなくなってしまう。文化的な生活から、原始的な生活に逆戻りすることになる。流れないトイレ生活は嫌だからねぇ...。それに、サリアたちが開眼状態の自分を受け入れてくれるかどうか...多分厳しいんだろうな。
自分の取れる策は人目に付かないようにエンシェント・タートルを討伐し、開眼が治るまでどこかに隠れていることだ。今の自分なら4時間程度一目につかない場所で休んでいたら開眼は治るが、その時間が伸びないようになるべく魔力を使わずに討伐するのがベスト。
「そうなると、シルフィアに撃ち込まれた狂化魔法を流用しようかな?」
あの魔法は、魔法でできた術式を体内に刻み込み自身の魔力を別の基底の魔力に変える魔法でもある。魔力生命体である魔物に対して打ち込めば、魔物自身が保有する魔力が変換された魔力と反発して多大なるダメージを与えることができるはずだ。
いいじゃん!いけ...ないな。魔物は別の魔物の魔石を食べることがある。人間だって食べるな...。別の基底の魔力を自身のものに変換する魔法が常時作動していそで意味がない。だめじゃん。それに討伐するどころか、魔力供給して元気にさせてしまうことになるじゃん。気づけてよかった。
だが、魔物は魔法によって変質した魔力による影響を受ける。それは攻撃魔法であるアイスニードルだったり、闇魔法による闇属性魔力でのコントロールを受けたりすることがその証拠だ。ならば、魔力を狂化魔法によって基底を変化させた上で、魔力の塊を作るような魔法を発動させてやるだけでこの問題は解決だ。
あとはシルフィアに撃ち込まれた狂化魔法同様に、魔力自身で魔法陣を構成させるか、または魔石か何かに魔法陣を刻み込んだものをエンシェント・タートルの体内に埋め込んだら勝ちだ。直接流し込むのは分厚い皮膚を考えると無理そうだから、魔石に刻み込んで口から飲み込んでもらうのが一番楽できる。いいね、この案ならうまく行きそうだ。
「そうと決まれば討伐へ行きますか」
森の中を風のように走ってエンシェント・タートルの元へ向かう。
道中見つけた魔物を倒して魔石を回収し、物理的に魔法陣を掘っていく。緻密な作業が必要なのだが、エネルギー変換を使って魔石を原点として微粒子を当てて表面を削る。魔法陣を刻み込むが、自身の再構成さんがいい感じに魔法陣の図面を書き起こしてくれるのでそれをなぞるだけだ。魔石を高速で発射させるより気を使わなくていいから正直楽だ。あれは少しでも魔力と物理加速の制御を誤ると自分もろとも吹き飛んでしまうからな。
「よし、できたぞ」
手のひらに収まる程度の小さな魔石にびっしりと魔法陣が描き込んだものを見る。表面はざらざらして、魔石の加工前よりも曇っていてぱっと見は綺麗な石ころといった感じだ。
加工した魔石は自分からわずかに漏れ出る魔力に反応して魔力の塊を生成している。期待通りに機能していて問題ない感じだな。greatですよ!
「さて、周囲の様子を見て視線がないことを確認っと」
魔力を薄く広げ、能動探知を行って広範囲の状況を把握する。
その反応を見る限りは周囲に生命体はおらず、魔物すらいないとても理想的な状況だ。
それに、エンシェント・タートル攻撃のタイミングは最高だ。体内で魔力が増大し極光発射準備の準備をしているようだ。もう時期口を開けて攻撃モーションに移るだろうから、ちょうどいいタイミングだ。
エンシェント・タートルの周りには戦っていたであろう特殊魔動騎兵の機体が5体転がってる反応がある。動いていないことから、行動不能になっているのだろう。パイロットらしき反応は機体の中にあり、魔力反応はイライラを示している感じめっちゃ元気そうだ。多分なんで動かないんだ!って感じで闇雲に操作しているのかもしれない。
「だ、誰だろうね。こんな酷いことしたの...」
見てみぬふりをしつつ宿舎方向の状況を確認する。
モリスさんやシルフィアの反応は宿舎までの道中にあり、駆け足で向かっているようだ。安定感を感じさせる進み方で、さすが慣れているメンバーで構成されているだけある感じだ。問題なく辿り着けそうだな。
宿舎では1機の特殊魔動騎兵と多くのギルドメンバーが魔物と戦っている。こちらではサリアやシルフィアを中心にフラワーズの面々が魔物と応戦しているようだ。詳しい状況までは不明だが、綺麗な戦線ができているあたり劣勢というわけでもなさそうだ。予備の戦力も十分あるし問題はないだろう。
さらに宿舎からエンシェント・タートル戦闘の増援として、2体の特殊魔動騎兵が向かっている。移動速度はそれほど早くなく、自分よりもかなり遅い。多分、魔力エーテルを宿舎防衛の結界維持に回すために供給してきたのだろう。飛行してくるのはさすがに魔力エーテルの消耗が激しすぎるので走ってきている感じだな。まさか、誰ともわからない人との長期戦を予想して魔力エーテルの消費を抑えてるってことはないだろう。それって誰を警戒してるんだろうねー。トテモ・コワイネー。
「は、はは...。まあ、自分のやるべきことをするとしますか」
そう呟くと、エンシェント・タートルに動きがあった。
エンシェント・タートルは口を開けて魔力を集中させ始めたのだ。ここから口元まではおよそ1分くらいだが、魔力集中させる速度が尋常ではなく極光の発射が早く行われそうな雰囲気がある。多分、1分以内の発射になるだろう。
魔力が集まりすぎては、手に握る魔石の魔力と極光の魔力と反発してうまく口元に投げ込めなくなる。そうなると口の中にこの魔石を放り込むタイミングは今しかないか。
「やるぞ」
エンシェント・タートルが見える位置に立ち止まって、開けている口を視認する。口の中には光る魔力の塊が見えており、見てるだけでジリジリさせる魔力の波動を感じる。怖い?いや、全く怖くない。倒せる相手だから。
エンシェント・タートルの口の中まで入るような速度と投射角度を計算する。口元にある魔力で構成される光の球が厄介だが、多少オーバー気味にしておくと問題はないだろう。万能の再構成さんがなんとか計算してくれる。してくれました。
そうしてスキルで求めた計算値を使って魔石に与える運動エネルギーを決定させて、準備は完了だ。あとは実行するだけ。
エネルギー変換を使って魔石を宙に浮かせて、すぐさま発射する。
発射した魔石は空気や雨を切り裂きながら猛スピードでエンシェント・タートルの口の中へと向かう。ソニックブームが周囲に轟音を撒き散らす。
そして、口元に到達すると予想通り、口元に集まった魔力に反応して軌道が大きく曲がった。ちょうどよく曲がった先にはエンシェント・タートルの喉でそこを貫きながら体内へと進行する。
エンシェント・タートルは突然の出来事に反応して、口元に集めた魔力を霧散させて耳元を塞ぎたくなるほどの咆哮を上げた。そして、甲羅の中へと頭や四肢を引っ込めて動かなくなった。
そうして訪れた静寂が、時が止まったかのように錯覚させた。
その直後、エンシェントタートルの体内の魔力が膨大に膨れ上がった。今まで感じたことのない魔力に少し怯むが、今にも溢れ出そうとする魔力は自分がエンシェント・タートルに勝った証でもある。そう考えると少し誇らしいか。
そうして見ていると、膨らんだ魔力が抑えきれなくなりエンシェント・タートルは破裂した。その時の衝撃は凄まじく、自分が放った一撃かそれ以上に相当するほどだった。周囲の木々を薙ぎ倒し、膨大な魔力が波となって周囲に拡散していく。転がっていた特殊魔動騎兵たちはその余波を喰らって宙を舞って宿舎の方に飛んでいった。さらにその衝撃で厚い雨雲を霧散させ、綺麗な夜空を覗かせた。
「わ、わー、キレイダナー」
被害の大きさを考えると誰にも顔向けできないな...。ごめん、下手するとエンシェント・タートルよりも災害起こしちゃったかもしれないわ...。許してくださいまし。
とりあえず、体外に出る魔力を遮断したり、体温すらもコントロールして自分の気配を完全に消そう。そして身を隠せる場所に向かうとしよう。




