19 授業開始(基礎魔法の話)とどうしようもない話
(略)稚拙な表現等々、目をつぶっていただけると幸いです。
異世界の魔法学園で初めての授業を受けている、銀髪ロリエルフになった者です。現在は授業中で、担任であるエルバ先生が魔法の話しています。
魔法はこの世界とのかかわりが深く、車や街灯なども魔法で動いている。自身も魔法を使って戦闘を行っていくためにも是非とも聞いておいて損はない。
自身の魔力属性は無属性であるが、その魔力属性を持った人はほとんど存在しないと言われている。その少ない人たちの情報からすると、無属性保持者の魔法行使能力は基礎魔法以外はほとんど使用が困難だと言われているそうだ。そのため、下手に魔法を行使できてしまうと新たなサンプルとしてモルモットな日々を過ごすこと請け合いである。さらに、モルモットな日々を過ごすにあたって、魔法を介さない物質の生成などの異能とも呼べるべき自身の能力を知られてしまうかもしれない。そうなると、理解ができない能力を扱う異端な者として排斥されてしまうだろう。そうならないためにも、基礎魔法にどのような種類があるのか知っておく必要がある。気を引き締めねばという感じである。
「皆さん知っての通り、魔力には6大元素である、「風」「水」「火」「土」「雷」「光」といった属性があります。各々の属性の魔力のみで発動される魔法は属性魔法と呼ばれています。自身が持つ魔力の属性は基本的に6大元素うち1つがついていますが、その属性と行使する属性魔法が同じ属性だった場合は強力な魔法を放つことができます。一方で、異なる属性だった場合は、効果がかなり弱くなり最悪発動しないといったこともあります。」
マジなのか。これは悲しい事を聞いてしまった。無属性の自分からすると、属性魔法は基本的に使えないということになる。
「自身の魔力属性とは異なる魔力属性の魔法が使えないというわけではありません。今日はお話しませんが、魔法の補助を行うMSDによる魔力属性変換によりある程度は使えるようになります。」
MSDマジで便利だな。違う属性でも属性魔法を使うことができるとはかなり夢が広がるというところだ。実際、教室を見渡すと、「え?違う属性の魔法使えるの?」とか「属性が違う魔法を試してみてぇな」とか色々明るい呟きや表情がうかがえる。
「今話した属性魔法の例外として無属性魔法があります。基本的なところでは魔力刀でしょうか。無属性魔法は先ほどとは違って、魔力に属性がある場合でも発動することが容易です。」
そいつはありがたい。どのような魔力属性でも魔法が発動できるということは、無属性でも問題なく発動できる可能性があるため、魔力刀を使いこなしていても問題は無いかもしれない。ただ、問題はその応用範囲の低さだろう。無属性魔法は言わば、生の魔力+αという感じの扱いで、魔力に情報を乗せて魔力のすべてを変質させるような使い方ではない。そのため、効果範囲が限定されるうえに魔力消費も多いといった問題もあり、便利すぎるものではないようだ。
「それでは、最初に属性魔法のうち基礎魔法から教えていきましょう。魔法が発現するまでにおおよそ3つの工程があります。1つ目は魔力の凝集、2つ目は魔力の変質、3つ目は放射です。この3段階の工程が最もシンプルなものが基礎魔法となります。例えば単一の物体を生成して放射するなどがこれに当たります。生成する物体やその副次効果は魔力属性によって異なりますが、基礎魔法故にほぼ同一の魔法陣を使用して発動することが可能です。」
「基礎魔法の魔法陣は様々な情報が欠落していますが、そこをイメージで補完することで完全な魔法陣となります。補完するイメージとしては、どの位置にどのような硬さの物を生成して、どのような速度でどこに飛ばすかなどが挙げられます。イメージが具体的であればあるほど、魔法発動のための効率やその効果が挙げることができます。」
聞いていると眠くなりそうであるが、以上をまとめると、
①自身の魔力属性と合う属性魔法は高火力、そうでない場合はとても低火力。
②単一の物体を生成して射出する魔法は基礎魔法であり、その魔法は異なる属性でもほぼ同じ魔法陣で発動できる。
③具体的なイメージは魔法発動の効率や効果が上がる。
ということだ。無属性の魔力であると魔法発動がうまくいかないのは、魔力属性変換がうまくいかないためなのだろうな。0の記述は1に変更することができるけど、そもそも0という記述が無ければ変更しようがないため変更に失敗する的な?。だとすると、無属性の魔力保持者が属性魔法を使えていたのは無意識的かつ奇跡的に、魔法発動の際にある属性を付与する工程を組み込むことができていたのだろう。知らんけど。
すでに入学試験で水属性のアイスニードルを披露してしまっているので、奇跡的に魔力属性を付与できたのが水属性という設定になる。そのため、使用可能な魔法は水魔法系のみということになる。あとは無属性の魔力刀か。魔法の世界に来たにもかかわらず、使用する魔法がかなり限定されるって縛りプレイがきつ過ぎませんかね?マジ、無属性魔力。
唯一皆に怪しまれずに使用できる自身の能力は、構成する力だろう。壁作ったり装備を補修するときに発揮した、具体的なイメージをいい感じに補ってさらに詳細にしてくれるものである。この能力により、魔法の効率や効果が最大限まで上がっていると思うので効果が無さ過ぎて困る場面も少ないだろう。
また、通常は魔法陣が書き込まれているMSDを利用しなければ魔法の発動することができない。しかし、自分がMSDを使用せずに魔法を使うことができる。これは、この構成する力がイメージに沿った魔法陣を構成させるから発動できるのだと思う。しらんけど。
この後、先生は基礎魔法の魔法陣について詳細に語り始めたが、あまり興味がわかなかったので脳死で板書をすることにした。興味が薄れたついでに、サリアの方を見てみると先生の話を聞きながらノートに記録をしているようで、魔法陣の幾何学模様の一部はこの意味を与えるといいとか、魔法を使うコツなども書き込んでいるようである。
昨日一緒に行った魔物狩りの最中の出来事で、サリアが何かを感じたみたいで様子がおかしかったが、今日学校で会った時の表情やその仕草で気になる仕草などは無かった。とりあえず通常運転に戻ってくれたようで何よりである。
さて、授業を聞きますか。と、黒板を見ればサリアに気を向けている最中に黒板には魔法陣の上にびっしりと文字が書かれており、少々時間が経っていたようだ。黒板に書かれている分量にげっそりしたので、魔法陣省略して丸を書いたところに適当に記入しておいた。程なく、別の魔法に関する話が始まり、エルバ先生がすらすらと黒板に新しい魔法陣を描いたのでサリアの書き方を見習い、魔法陣をノートに書き写してみた。だが、かろうじて魔法陣に見える得体のしれない何かが出来上がった。これはさすがに恥ずかしいな。こっそり描く練習しておこう。
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授業が終わって昼休みとなり、サリアとともに昼食を教室で済ませた。
「カオリちゃんはこの後時間があるけど、どうするの?」
「ちょっと調べものしたくて図書館行こうと思ってる。サリアは?」
「うーん?。図書館について行って調べものの邪魔しちゃ悪いし、クラスメイトと話していようかな」
ということもあり、次の授業である、戦闘演習までは図書館で過ごすことにした。
この学園の図書館は別館としてあるほどに大きく蔵書量も多い。その割に利用する生徒の数は多くないのでどうしたものかというところではあるが、その分静かな環境になっている。全体的に床や壁は木の化粧板で覆われており図書館に適した落ち着きを与えるような気がする。また、天井はそれなりに高く、窓も多いため太陽からの光を取りやすく空間くなっており、読書のためにはいい感じの明るさとなっている。人気もあまりないし、居眠りしに来るのも悪くない。特に冬場なんかはいい感じに日差しの暖かさに包まれて良い眠りを得られそうだ。こっそり図書館のどこかにmy枕でも隠しておこうか?
そんなところに何をしに来たかというと、世界の国と亜人の扱いについて簡単に調べようと思ったのだ。この学園にはいろんな国から留学生が来ているし、その文化性の違いからくる問題もよく発生するだろう。そのうちの一つとして、亜人族の差別があるが、その問題が少し気になったためである。それに、昨日、サリアと種族差別関連の話をしたときに、思わせぶりな発言というか発言が忘れ去られた続きが気になってしょうがない。
「ん~。まとめ的な本は~。結構ある。さすが大きい図書館だけある。」
文化や歴史をまとめたような本が棚一面どころかもっとありそうな量がある。これをすべて読むのは結構時間がかかってげっそりしそうなので、適当に目についた一番新しそうな図書と一番古そうな図書、その中間の図書を手に取った。
なぜこんな選び方をしたかというと、民族文化などの話はまとめられた時代によって概要が異なることがあるからだ。本が貴重だった時代は本の制作にも時間とお金がかかることから、往々にしてお金を持っている歴史の勝者が都合のいい歴史を記すことがある。そのため、この世界について調べるには時代が異なる本を選ぶといい感じに都合がよかった話や悪かった話、良くも悪くもない話に分類できていい感じである。多分そう。
その3つの図書を亜人族に焦点を合わせてまとめると次のような感じだ。
・上の方の大陸:人族が主に暮らす大陸であり、連合国、帝国や共和国、協商国など大小さまざまな国がある。
その昔、上の方の大陸では、人型の強力な魔物が幅を利かせており、人々はその魔物を恐れていた。人型の魔物は亜人族に類似した容姿であったため、人々は亜人族を嫌うようになる。人型の魔物は古の勇者によって討伐されたものの、その伝説が後世に伝わってしまった結果、現在も亜人族を嫌い、下に見る習慣は残っている。
・中央の島(大陸?):自分がいる街がある島で、島全体で1つの国家を形成している。
その昔、亜人族と魔族は異なる存在であると考える人間と、虐げられた亜人族が上の方の大陸から逃れてこの島へとやってきた。昔の偉い人達が亜人族と人間族が共存できる国を作り、その過程で奴隷制度はもちろん廃止したようだ。その思想は今日まで続いており、亜人族と人族は有効な関係が続いている。
・下の方の大陸:亜人族が暮らしており、大きな国家を形成している。
元々は、人間族も許容するような国であった。しかし、虐げられて上の方の大陸からやってきた亜人族と元々そこで住んでいた亜人族が共に暮らすようになって以降は、人間族に対する姿勢はどこか敵対的である。人間族が亜人族に行った所業が広まった為だろう。近年では帝国が沿岸地域の侵略を行っているためにさらに心証が悪く、人間族=敵とみなす亜人族も少なくはない。
・右の方の大陸
魔族領であり、亜人族との関連は不明な点が多い。
ということだ。昔に起きた出来事が引き金となり現在の種族対立というか種族差別があるということは分かった。ただ、口伝での差別は時代とともに薄れて無くなっていくのが普通だと思われるが、そうでないということならば種族差別を利用した何かがあるということなのだろう。
出版元を見てみると、古い書物と、中くらいに古い書物はこの国の出版であるが、新しい書物は協商国の物であった。この国出版の物は一方的な視点ではなく、異なる国々の意見をまとめており、できるだけ中立な立場でまとめられた書物という印象を受けた。また、異なる時代に作成された本なのに書かれている内容はほとんど変化がなかった。このことは時代によって体制が大きく変化していない事を表しているのだろう。
一方で、協商国の物には、亜人の差別に関する項目は載っておらず、亜人に似た魔物による被害がメインで書かれており、一方的な視点の下、亜人の扱いについては奴隷制度が妥当だろうということを書いていた。
「(サリアが言っていた奴隷制度、ねぇ。)」
サリアによると亜人は奴隷として扱われる国が多いとのことだ。さらに、書物によると、この世界の奴隷制度は奴隷に対して何をしてもいいとされている。この制度ならば奴隷を労働力として使いつぶそうと何の罪も発生しない。安い対価で国力を増やせるのであるから国としては助かるものがあるのだろう。
また、奴隷制度を認めている国では亜人族が人間族をよく襲うと書かれていた。
使いつぶされて追い詰められた奴隷は何を行うか予測不可能なものがあり、主人を殺すことや何の罪もない人間族に対して危害を加えるなどの事件もあるようだ。そうなるとますます亜人に対する印象が悪くなり、人間族は亜人を下に見るようになるだろう。
この奴隷制度を間近で見て育った人たちである留学生は、当然その価値観、倫理観で亜人を見る。だからこそ、入学式では亜人と平等に扱われるとに対して感じるところがあったので、ぎすぎすした感じになるのだろうな。
だが、幼いころから植え付けられた価値観は相変化するものではない。そのため、学園内の人間族と分け隔てなく、仲良くやっていくことは中々厳しい物があるように感じられる。こういう問題は理屈の問題ではないので、いくら説得したところで何の改善も得られないだろう。理屈で説得できたならば、大昔にこの国に向かって大勢の亜人族が逃げてくることもなかったはずであり、説得できないことをこの世界の歴史が証明している。
この学園の中で不自由なくやっていくには、亜人を見下す奴らに対して有無を言わせぬ実力でねじ伏せる必要がある。そうなると、毎日人族にメンチ切りながら狂乱三昧を送らねばならなくなり、平穏な学園生活を望んでいる自分からすると、高い代償となる。何かいい方法はないだろうか。
考え始めたところで、予鈴が鳴り昼休みの終了が近づいていることを知らせてきた。
本を読んでいると時が経つのが速く感じられるが、もうそんな時間が経っていたのか。得られた情報は良い物ではなかったが、相手をするだけ無駄ということが分かったので有意義な情報であった。
「さてと、移動しますか。」
これまで通り、何かが起こらぬように務めるとしよう。
そして手にしていた本を閉じた。
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