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2-80 裏切り者たちと見逃す条件

(略しすぎています)

 自分は一歩だけ前に踏み出してナイフ型MSDを手にとって何が起こっても対処可能なようにした。

 だが、炸裂音はなくカチッと音が鳴ったのみで、魔法も弾丸も発射されることはなかった。


 どうやらマスケット銃型MSDに搭載されたシュトーさん作の使用者制限機構が機能したようだ。魔力基底を照合して判定するタイプだから間違いないと思ったけど、緊張はするものだな。

 サリアたちの様子を魔力と音で伺うと、感じる魔力が安定したものになっており息も整っていた。どうやら落ち着くことができているみたいだ。これなら今後、何が起こってもすぐに対応できるはずだ。頼もしい仲間だね。


 この場はなんとかなったから、後はこの場からどう安全に逃げるかだな...。周囲は狂化人間が取り囲んでおり、ジェシカも帝国機関もリリーガーデンの敵対状態だ。戦力差的にも差があって強引に突破する事もできない。宿舎からの増援がきたとしても、強行突破することはできないだろう。できることは、帝国機関との交渉で逃すくらいくらいか...。


 これから敵対勢力がどう動くか推移を伺いつつ考えていると、ジェシカは少し息を吐いた。そして、帝国機関のメンバーがいる方向へと振り返った。


「不発か?まあいい。威力は知ってるだろう」

「いいだろう。合格だ。では、それをこちらに渡せ」

「ふん、余計な真似をさせやがって」


 そう言うと、ジェシカは話していた帝国機関の1人に近づき、マスケット銃型MSDを帝国機関の手に渡した。その瞬間、この場にいる4人の帝国機関の雰囲気が一気に嘲るものへと変わった。そして、ジェシカに最も接近していた帝国機関の1人がニヤリと顔を歪ませると、左手を小さく動かした。すると、ジェシカが呻き声を上げた。


「うっ、貴様」


 何が起こったのかジェシカを注視すると、ジェシカの服の脇腹に赤黒いシミが広がっていた。帝国機関の者に刺されたのか!何故だ!?そして、ジェシカと帝国機関は仲間の関係じゃない!?待て、それだとこれまで考えてきた前提が崩れる。一気に何が起こっているか分からなくなった!?


 目の前の光景に思考が混乱する中、ジェシカと帝国機関で話し始めた。刺されたジェシカの声には読み取れる感情はほとんどなく淡々としていた。


「既に用済みだ。ここで朽ちることだ」

「どうして、だ。交渉成立ではないのか?」

「成立したとは一言も言ってないぞ?お前が都合よく解釈しただけだ」

「クソが。初めからこのつもりだったのだろう」

「ああそうだ。喜べ、2重スパイなど受け入れることは出来ないとの通達だ」

「はは、バレていたか。どこにも受け入れられる場所などなかったわけだ」

「あの女と一緒に暮らすことだな」

「はは、そりゃいい」


 そう言うと、ジェシカは脇腹を押さえつつも諦めたように脱力して地面に横たわった。帝国機関側はそれをさも当然だと言う表情で眺めていた。


 すると、曇天だった空から急に雨が降り始め、この場にいる全員に等しく降り注いだ。

 ジェシカは瞼を閉じてどこか納得した表情をすると、雨音にかき消されるくらいに小さく呟いた。


「ああ、ラナ。今行く」


 その言葉を拾えたものは自分以外にいないのか反応した者は誰1人としていなかった。自分がその言葉の意味を解釈する暇もなく、事態は進行する。宿舎からの増援がこの場所に到着したのだ。

 到着した増援は10名程度のギルドメンバーで構成され、モリスさんが中心となってまとめていた。現場に到着した姿を見ると、彼らは不気味に立っているだけの狂化人間を不審に思いつつ、武器となるMSDを構えて警戒していた。そして、増援部隊はリリーガーデンが対峙している相手の姿や、地面に血を出して横たわるジェシカの姿を見るとリリーガーデンを守るように配置についた。

 そして、モリスさんが自分に声をかけてきた。


「おいおい。この状況一体どうなってやがる」

「目の前の人たちと敵対中で、その人たちにジェシカがやられました。自分たちは無事です。ちなみに周囲に控えているのは彼らの仲間です」

「使えねぇ感じの突っ立ってる奴らがか?」

「ええ。魔法技術は卓越していてエリートゴブリン以上オーガ以下です。戦闘は避けた方がいいです」

「おいマジか。カオリちゃんが言うなら間違いねぇだろうが、この状況どうするよ」

「それを考えていますが...」


 言葉を区切ったところで、帝国機関の1人が自分たちに向かって声をかけてきた。

 

「これでは多勢に無勢だな。全員殺すのも趣味が悪い。貴様らを見逃す条件を出すとしよう」


 帝国機関側は宿舎からの増援が駆け付けてもなお余裕の姿勢を崩していない。帝国機関側の戦力が優位であることを理解しているのだろう。ヘラヘラして嫌なやつだ。

 そんなイラつく態度をとる帝国機関側に、増援部隊のギルドメンバー側は手を出そうとMSDを構え直した。


「こんな奴らやっちまおうぜ」

「臆することはねぇ、畳み掛けるぞ」


 手を出そうとするメンバーにモリスさんが一喝する。


「馬鹿野郎!手を出すんじゃねぇ!このまま全員死ぬぞ!」


 モリスさんの判断に帝国機関の1人が声を出す。


「いい判断だ。わざわざ死ぬことはない。処理も面倒だからな」

「全く、気にイラねぇ奴らだ。それで、条件は?」

「カオリとシルフィアを置いて去ることだ」


 帝国機関が自分はともかく何故シルフィアに用があるんだ?いや、今は考えても無駄か。


「そんなの受け入れられねぇ。全員の解放だ」

「それは無理だ。拒否権がないことをわかっていると思ったが、気のせいか」


 帝国機関が言っていることは至極真っ当なことだ。帝国機関が得をするカードを持ってない以上、本来自分たちは交渉できる立場にないのだ。全員殺害じゃない分、譲歩されていると思った方がいいだろう。なので、この交換条件はありがたい。飲むとしよう。


「わかった。その条件を飲もう」


 その言葉にサリアたちが反応する。


「「「カオリちゃん!?」」」

「飲むしか道ないからね」

「でもそれじゃ、カオリちゃんとシルフィアちゃんは...」

「そうだよ!みんなでなんとかしようよ!」

「だめ。戦力的に押し切られて全滅だよ。シルフィアには悪いけど付き合ってね」


 申し訳なさを含めた視線をシルフィアに送ると、シルフィアは小さく頷いて不安を感じさせない視線を返してきた。信頼してます。そう言ってる気がした。

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