表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/192

2-79 裏切り者の所属と時間稼ぎ

(略しすぎています)

 戦闘を避けて時間を稼ぐためには交渉しかない。そして、その交渉カードは魔導書の所在についてだ。自分が知っている情報以上に相手が知っているならば、この交渉は役に立たない。いかにその核心となる情報に触れずに話を進められるかが重要だな。というか、魔導書と魔法技術書って多分同じことだよね?自分が知っているのは後者の方だぞ...?まあ、その辺は気にしないでおくか。


 時間を引き延ばすキーとなるのは、ジェシカがどこまで知っているのかと言うところだ。そのためにはジェシカがどこに関係しているのか把握する必要がある。まずはそこから考えるとしよう。

 ジェシカはまず、連合国の勇者パーティーのサブパーティーだ。連合国の内情を知り得る立場にいる。帝国の情報収集員と内通しており、連合国のスパイの立場にいる。

 そして、現在の自分達を脅す状況から察するにジェシカは帝国と協力関係にある。今思えば、リリーガーデンと行動している最中に不自然なタイミングで特殊な魔法を発動させており、その後に自分達を追う部隊が動き始めた。そのことからも帝国機関と内通していると判断できるな。と言うことは帝国のスパイの立場にもあったわけだ。ジェシカが帝国と敵対関係にあると思ってたから全く考えもつかなかったな。

 そうなると、ジェシカは帝国と連合国の情報を把握していることになる。基本的に魔法技術書の所在については関係者以外に秘匿されるはずなので、ジェシカは知らないと見ていいだろう。他国の内情に精通していたとしても、ご当地ゆるキャラの中の人を知ってるみたいな事は知りようがないはずだ。知っていたら驚きだが。

 ジェシカが魔法技術書の所在を詳しく知らないと決めつけるならば、時間はたっぷり引き延ばすことができるだろう。これなら宿舎の増援到着までの時間を作ることができるはずだ。

 万が一、マニューヴェの集団と関係があるならば既に知っている情報になるので時間を引き延ばすことはできない。その辺を気に留めつつ話すとしよう。


 ひとしきりマスケット銃型MSDを見終わったジェシカは視線をこちらに戻して、3つ目の要求について話を振ってきた。


「それで、魔導書はどこにあるのか知っているのか?」

「魔導書とはどのようなものか。それによって話は変わる」

「いいだろう。話をしてやる」


 よし、時間稼ぎのお時間だ。とりあえず、その辺の話をさせて時間を稼ごう。


「魔導書は古代の魔法技術が詰まったものだ。魔法は魔法陣か詠唱魔法で記載され、MSDを使用せずとも魔法が発動できる形式となっている」

「自分が知っているものと相違ないな。それは普段目に触れる場所にない奴で間違いないな?」

「ああ、間違いない。魔力操作技術が未熟な者が発動すると総じて魔法の発動が失敗に終わり、周囲に損害を与えるばかりか自身にも被害が及ぶからな」

「出版された年代は?」

「再編されたものは少なくとも50年以上前だ。原本はかなり昔としか」


 これは魔導書が自分の知っている魔法技術書と同じものだな。それに、話す内容からはジェシカが魔法技術書について詳しく知らないことが伺える。情報収集の専門外だったのかもしれないな。これならば、学園の図書館が襲撃されて隠された魔法技術書が持ち出されたかもしれない件を喋ってもいいだろう。学園の噂では隠された本の内容について触れられる事はなかったから、情報は知らないはずだ。

 アステラ国としても、その事件で場所が既知になったことから魔法技術書の保管場所を移すはずだ。これなら、言っても問題はないな。


「それならばその在処を知っている」


 自分がそう発言したタイミングで後続部隊がこの場に到着した。人でも魔物でもない奴を6人とマニューヴェと自宅付近で襲撃してきた帝国機関の4人だ。これで、襲撃部隊がこの場に全て揃ったことになる。全く学生パーティーに本気出してくるんじゃないよ全く。

 ジェシカさんは後続部隊が到着していることに気づいていない様子で催促してきた。


「そうか、ではどこだ?」

「学園の図書館カウンター後ろの隠し扉の中だ」

「おお、そこにあるのか!随分と身近な場所にあったものだ!」


 この反応は知らないって感じで間違いないな。と言うことは図書館に襲撃があった事も知らないのだろう。これで、図書館襲撃がマニューヴェ集団の単独犯である線が濃厚となったわけで、帝国と連合国の可能性は排除された。つまり、ジェシカは知り得る立場にないため、時間を十分に稼ぐことができる。宿舎からの応援が来るまでは余裕で持つだろう。これは勝ったな。あれ、これフラグか?まあ、認知したからフラグ折れたってことで。


「他にはないのか?」

「ない。自分が知っているのはそのくらい」


 正確には図書館の中に魔法技術書が保管されている謎の隠し部屋があるので嘘だ。だが、これはアステラ国側が認知しているかどうかも怪しいので、話さない方が平和になりそうだ。たとえ情報を得て行ったところで入ることはできないだろう。だって、見つからないものねぇ...。

 そう思う中、ジェシカは何かを感じ取ったのかマスケット銃型MSDの銃口をこちらに向けて言ってきた。


「本当か?」


 ジェシカは銃口をこちらに向けて引き金に指をかけて威圧するが、こちらとしても話せない内容だ。話すつもりは一切ない。おどけながら両手を挙げて何もないことを伝える。


「そうだ。何も知らない」

「そうか」


 ジェシカがそう短く返したとき、帝国機関の4人組が奥から姿を見せた。ジェシカはそれに反応して振り返ると声をかけた。


「やっときたか。待ちくたびれたぞ」

「我々は散歩しにきたのではないからな。それで収穫はあったのか」

「ああ、魔導書の場所についてだ」

「ほう」


 自分はジェシカが背を向けて話している間に、地面に落ちたシルフィアと自分のMSDをそろりと回収していく。回収したMSDをシルフィアに渡したり装備をしていく。サリアたちも自分の姿を見て同じ行動をとったようだ。まあ、MSDを拾ったところで戦力的に歯向かうだけ無駄なのだが、抵抗ができる心理的安心感があるからね。MSDを拾っておいて損はない。


「第一魔法学園内にある図書館のカウンター裏にある」

「それは知っている。別勢力の襲撃で場所が特定された。交渉材料にはならない」


 ジェシカと帝国機関の者の間で何か交渉があるらしいが、今はそこじゃない。帝国機関が図書館襲撃の件を知り得ていることから、時間稼ぎが通用しないことになる。こーれはまずいよ...。


「なんだと?では、これではどうだ?長距離射程の魔法攻撃手段だ。そこにいる狂化人間どもを一発で屠ったものだぞ」


 静かにサリアたちと合流して、ジェシカと帝国機関の者との話を聞いていたのだが、人でも魔物でもない者は狂化人間と言うことが判明した。間違いなく狂化魔法を使っていそうな名称だ。全く、厄介な奴らだ。


「それは脅威だな。どんなものか、そこで動いているやつを撃って確かめてくれ」


 帝国機関のメンバーの1人がそう言うと、ジェシカが無表情でこちらを向き銃口を向けてきた。サリアたちは息を呑んで体を震わせながら銃口を見ている。うげ、ちゃっかりMSDを拾ってるのバレちゃったじゃん。このタイミングでそうなるか...。交渉内容を破棄したに等しい行動だから後が面倒だな...。


「悪く思うなよ」


 いや、どこからどう考えてもジェシカが悪いだろ!

 ジェシカは狙いを自分に向けると一瞬の躊躇いの後で引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ