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2-76 悪くなる状況

(略しすぎています)

 その後も休憩を続けて15分程度同じ場所に止まっていたが、魔物に遭遇することもなく平穏な時間が過ぎた。ジェシカさんの変な行動が気になって周囲を警戒しまくっていたけど、全然何も起こらないので気疲れしか残らなかった。ジェシカさんめ、全く思わせぶりな行動をとってくれるじゃないか。今度の休憩では警戒任せてやろうかな。

 と言うわけで、リリーガーデンとジェシカさんは演習区域の西側最縁部に向かうことにした。道中で出会う魔物はどれも普通で、変わったところはなくて安心だった。サリアたちもそれを感じていたのか表情には余裕が見られ、程よく気を緩めながら進行することができているようだ。みんな程よく気を抜けてえらい!

 一方のジェシカさんは気を抜くことはなくて表情もどこか固いものが感じられた。魔物を警戒しつつ、何かを考え続けている様子を見せていた。何をそんなに考えているんだろうと疑問に思い聞いたところ、


「ああ、この依頼がダミーだとしてどのタイミングで仕掛けてくるか考えてたんだ」


と言っていた。確かにそこは自分も気になって考えているところではある。でも、それを考え続けていると宿舎に戻るまで集中力が続かなくてつらくなる。なので、ジェシカさんに「ほどほどにね」と伝えておいた。

 その言葉を受け取ったジェシカさんは一瞬だけ目が泳いだ後、「そうしよう」と短い言葉で返してきた。反応が少し気になるところだけど、何処か話しかけるのが躊躇われる雰囲気が出ていたので追って言葉を返すことはしなかった。


 そんなこんなで、何事もなく目的地付近までやってきた。何だかんだ、各国のお偉いさん方からの依頼である帝国勇者捜索をしなければならない。気乗りはしないけどやらなければいけないので、周囲を受動探知でざっくりと探してみた。

 しかし、周囲に勇者らしい集団の反応はなかった。やっぱりダミーじゃないか!こんなところには居られませんわ!おっと、お嬢様風関西弁が出てしまった...。

 自分が受動探知の結果に頭を抱えている最中にサリアたちは周囲を見渡して捜索を続けていたようだが、サリアたちの収穫もなかったようだ。


「全然見つからないねー」

「戦闘の跡すらないよ!」

「周りも静かですし...」

「「「この辺にいないんじゃ?」」」


 帝国勇者の事なので付近にいるならば何らかの戦闘の痕跡があってもおかしくない。でも、そうじゃないあたりここに居なかった事は確実だ。帝国勇者と関わるのが正直面倒臭いから、この結果は自分たちにとって良い結果だ。でも、ダミー依頼であることがほぼ確実となった。それはそれで、悪い結果でこれから帝国機関による襲撃が予想される。これは面倒だ。


「カオリちゃん、これからどうするの?」


 サリアに振られて少し考えてみる。

 ダミー依頼であることがわかったので、すぐさま帰るのが得策だろう。ここに居てもいい事はない。だが、フラワーズやモリスさんに見送られた以上、すぐ帰っては格好がつかないってものだ。めっちゃすごい真剣な表情で見送りしてくれたもんな...。

 だが、それはどうでもいい事か。自分やサリアたちの印象が悪くなりそうな気もするが、今はサリアたちの安全が最優先される。安全第一に行こう。

 というか、個人的には雨が降りそうな天気なので地道に捜索せずに宿舎に帰りたい。というか降る。雨に濡れて肌に服が張り付くの嫌だし、髪が濡れた状態のまま動くと髪が痛むからできれば雨が降る前に帰りたい!というか帰る!クールビューティーカオリちゃんの威厳を保つのよ!

 となれば答えは決まりだ。宿舎へトンボ帰りしよう!


「これから帰ろ...」


 自分が発言している最中に受動探知が違和感を訴えてきた。

この感じ、受動探知の範囲外だけど魔力反応であることは確実。帝国勇者たちのものではないことは確かで、感じ取れる魔力の基底が異なる。だけど、違和感を覚えたのはそこではない。魔力の基底が人でも魔物でもないのだ。何これ?

 疑問点はさておき、とうとう帝国の差金がやって来たのかもしれない。情報集めたいし、ちょっと集中して能動探知やっておくか。


「サリアごめん、ちょっと待ってね」


 そう一言断ってから、能動探知を始める。

 目を瞑って視界のノイズを消し、より集中できる環境を整える。そして、薄い魔力を受動探知で捉えた違和感がある方向に飛ばし、帰ってきた魔力を全身で受ける。その反応を脳内で可視化すると、冷や汗が流れてきた。


「これは...」

「どうしたの?」

「今すぐ帰るよ!」

「帰るってどういうこと?」

「説明は帰りながらするから、今は急いで!みんなお願い!」

「「「わ、わかったよ」」」

「...」


 可視化されたものには、30体程度の人でも魔物でもない大きな魔力反応と5人の人の反応があった。それらは全て自分たちの居る方向へと向かっていた。

 そのうちの1人はマニューヴェのもので、そのほかの集団が闇魔法を扱う危険な集団と関わりが深い集団であることがわかった。さらにその集団の中には、自宅を襲撃してきたメンバーと同様の魔力基底反応があった。それらから推察すると、帝国の差し金である敵対勢力が戦力的にオーバーすぎる集団で自分たちに近づいていることになる。ってマジか!

 反応から導き出される結論に冷や汗が全身から吹き出るのを感じる。自分1人ならともかく、サリアたち3人に加えジェシカさんもいる。これはまずい。撤退一択です!


 サリアたちは自分の慌て具合で状況を察してくれたようで、自分に視線を送って準備万端を知らせてくれた。ジェシカさんからは表情が読めないが、いつでも動ける感じだな。

 その前に、モリスさんからもらった黄色の信号弾を上げておこう。これで、宿舎側で救助隊が編成されるはずだ。戦力的には焼け石に水な感じだろうけど、敵対集団からすると予想しない登場人物だ。事態に何らかの変化を生んでくれるだろう。と言うか頼みます!この通り!

 信号弾を取り出して空に打ち上げた後、みんなに宿舎へ帰ることを伝える。


「みんな、帰るよ!」

「「「ラジャ!」」」


 そうして宿舎に向けて駆け足で進み始める。だが、森の中という障害物が多く、昨日の雨で足元がよろしくない状況では期待した進行速度が出ていない。その上、35人の敵対集団は自分たちよりも速いスピードで接近しているため、戦闘になることは免れないことは確実となった。

 みんなに状況を説明して、覚悟してもらわないといけない奴だ。


「みんな、状況を説明するから聞いてね!自分が魔物を片付けるからその間は集中してね!」

「「「ラジャ」」」

「まず、西側演習区域の外から強力な魔力を持つ敵が30体程度追ってきてる。推測される戦力的にはエリートゴブリン以上オーガ以下。自分たちでは勝ち目薄いから撤退してる感じ!」


 その言葉を聞いたサリアたちの魔力がわずかに乱れ、動揺してるのが伝わってきた。でもその乱れを表に出すことはなく、冷静に聞いてくれている。頼もしい限りだ。

 そして、自分が伝えた事と自分がとった行動の意味についてサリアが質問してくる。


「それじゃ、あの信号弾を上げたのってこの事を知らせること?」

「サリアの言う通りで、ヤバイこと起こるから救助してほしいって意味。モリスさんと事前に打ち合わせ済だよ」


 サリアの声からは緊張が伝わってくるものの、震えはなくかなり冷静だ。

 次にリナが質問してきた。


「赤じゃないのは何でなの?」

「赤だと勇者たちの信号と混じると思ってね。ダミー依頼だし、何処かで偽装用の赤信号弾が上がってるかもしれないからね。意味は通じてるはずだよ」

「確かに!それなら区別つくね!」


 リナの声からは緊張と何か起こることのワクワク感が織り混ざっている様子。一番戦闘狂してて怖いよ自分は!

 そして、シルフィアが質問してきた。


「宿舎までに...相手は追いつきますか...」

「確実に追いつく。多分、区域の最縁部と宿舎の中間あたりで戦闘になる。残り30分くらいかな」


 そう伝えると、サリアたちの呼吸が一度だけ止まる。まさか本当に戦闘になるなんて思ってなくて、少し浮かれたものがあったのだろう。それだけに、サリアたちから伝わってくる魔力は臨戦体制に近いものとなった。緊張感が増してくれたようでよし。みんな無事で乗り越えるぞ!


「私たちだけで...乗り越えられますか...?」


 シルフィア待て、その質問だけはしてはいけない。「今」の自分では、サリアたちの戦いをサポートしつつエリートゴブリンを超える30の相手と戦闘することはできない。守るための戦力リソースが明らかに不足している。それに、魔物でも人でもない集団は統率が取れている集団だけに見積もられる戦力は高く、リリーガーデンとジェシカさんでは数分で戦えなくなるはずだ。いくらサリアたちが強いと言っても、数の差がありすぎる。このままでは無理だ。

 でもそれをそのまま伝えたところで、いい結果は生まない。なので、できるだけ前向きな言葉に言い換えてシルフィアに伝える。


「かなり厳しい。だから、宿舎からの応援が必須かな。応援の到着まで全員無事に持ち堪えたら勝ちって感じ」

「それフラグにならないですか...?」

「ならない。自分が折ってみせる」


 以前に自分はそう決めた。例え「今」の自分じゃない姿を見られたとしても、みんなが無事ならそれでいい。守れるならばそれが自分の役目であるとそう決めたのだ。その姿でサリアたちとの縁が切れたとしても、それでもいい。そう思っている。 

 だが、それは本当に最終手段だ。その手を取らなくてもいいような手段を考えないとな。

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