18 サリアとの魔物狩り
(略)稚拙な表現等々、目をつぶっていただけると幸いです。
サリアとの食事の後、一緒に雑談しつつ森の拠点へやってきた。とはいっても、丸太が転がっており周りに木が生えていない広い空間である。だけども、1週間近く過ごした場所であるので謎のなつかしさを感じる。うっ。トイレの悪夢ががが。
太陽は水平線へと沈もうとしており、空は赤く燃えている。森の中に魔物が発生するには少し早いような気がするが、魔物の少ない内からサリアと一緒に戦うことに慣れることができるため、安全に魔物狩りを進めることができそうだ。
「ここも変わってないな」
「かおりちゃん、随分と懐かしそうな顔してるけど、ここで何かあったの?」
「サリアに出会ってから先週くらいまで、ここを拠点として魔物狩りしていたんだ。」
「そうなの?ここが拠点以上の意味があるような懐かしい顔してたけど?」
「ソ、ソンナコトナイデスヨ。」
「ん?あやしい...ジ~~。」
そんなに怪しげな視線を向けられても何も出ませんよ?サリアの視線から逃れるために、索敵してます風に視線を森に中に向けるて思考を巡らす。拠点の話は何かと原始的な生活を披露する話が多いのでちょっと恥ずかしいから、逃れるための話題を探る。んー?MSD関連で何かあったな?
「サリア、今朝ナイフ試してみたいって言ってたよね?魔物居ないけど今試してみる?」
「えっ?いいの?でも何で試そう?」
「そこら辺に転がっている丸太を切ればいいと思うよ。切れ味はわかると思う。」
「そうしてみる!」
にしてもサリアのテンションが獏上がりである。何がそうさせるのかよくわからないけど、楽しそうで何よりである。
脚に固定しているホルダーに手を伸ばし、ナイフを抜く。ホルダーの位置は超絶いい感じではあるが、ちょっとワンピースの裾が持ち上がりすぎるな?気にしたら負けかな?
抜いた黒いナイフをサリアに渡す。サリアは丁寧に受け取ると、興味津々に目を光らせながら眺めたり指で弾いみたりしている。
「表面はすごいシンプルだけど、かなり固そうな割には重さを感じない。手によく馴染むし、すごくいい武器ね。」
「それはなによりで」
「このMSDには何の魔法が書き込まれてるの?」
「魔力刀っていう切れ味を増すためのものくらい。武器としては魔力刀で十分に生かせるから今はそれでいいかなって。」
「なるほど。武器は武器らしく基本に忠実にってわけね。」
「そういうこと」
「魔力刀なら私も使えるし、一回丸太を切ってみようかな」
「どうぞどうぞ」
サリアは一番近くにあった丸太に狙いを定めるとナイフを上から下に振り下ろした。丸太が切れるかと思われたが、ナイフは丸太の表面に食い込んだくらいで止まった。そのため、サリアはというと。
「っ~~~~~~」
ナイフが止まった時の衝撃が手に来たようで悶えている。あれ?こんなに切れ味だったっけ?自分が屋敷周辺で使ってたら丸太も障害物がないかのように切れたのにな。
「サリア、大丈夫?」
「だ、大丈夫。多分。感触的には魔力刀が発動した気がしたんだけど、何でなのかな?」
「ああ、魔力刀か。なるほど?。」
「なるほどって、何かわかったの?」
「サリアって魔力刀発動してから魔力流し込みまくってる?」
「ん~?魔力の流れは発動するときだけ意識してるかな。それだと何かあるの?」
「多分それだと魔力がMSDに流れてないんだと思う。今度は発動後も魔力の流れを意識して丸太を切ってみて。ゆっくりで大丈夫だから。」
「そんなものなの?」
サリアは半信半疑でナイフに魔力を流し魔力刀を発動させる。ナイフ表面に魔力がいきわたり、かすかに光る状態となった。その状態で、ゆっくりと丸太に向かって振り下ろす。
「え、うそ?こんな切れるの??」
「そんな感じに切れ味抜群です。」
ゆっくりと振り下ろされたナイフは抵抗感を感じずに丸太を切った。サリアは、もちろん驚いているようである。
「え?私の知ってる魔力刀とは違う!まるで紙でも切ってるかのようだった。」
「そのナイフの素材は魔力とのなじみが良くて魔力が均一に流れるみたい。多分そのおかげで魔力刀が安定するんだと思う(?)」
「魔法の扱いだけでなくて武器の素材も切れ味に関係してきちゃうんだ。こんなの知っちゃったら欲しくなっちゃうな。」
「自分もこれを知ったら他の武器を扱えるか不安になるよ...。」
サリアはその後、丸太を切っては感動するを3回ほど繰り返した。ナイフを返してくれる時のサリアの顔は苦汁を飲んだようなものだった。自分もこのナイフの切れ味の虜なのでその気持ちはわかる。でも、それ自分の物だからね?そんな顔してもあげないからね?
サリアはナイフを自分に返すとすぐに背中に手を伸ばすとそこに装備していた短剣を抜いた。そして、先ほどと同じように魔力刀を発動し丸太の切断を行った。ただ、切断時の剣先の進み方と切断時の表情から察するに、先ほどとは大きく異なるのだろう。何回か丸太に向かって黙々と剣を振り下ろすのを見ていると、剣が光らなかったり、光ったりしているところから魔力刀の練習でもしているようだ。
「魔力刀の使い方でここまで切れ味変わるなんて。なんだか今までに剣を買い替えてきたことがバカみたい。」
「そんなに剣を買い替えてたの?」
「うん。魔力刀使ってても魔物との戦いのたびに刃こぼれしていくから、よく買い替えててたの。修理するよりも買った方が安かったりするし、そこそこ安い物でいいかなって思ってた。」
確かに、魔物はどれも刃が通りにくそうな強靭な体をしており、肉を断つにも骨などの固い部位によく当たる。その上、低級の魔物の攻撃でさえ木の幹に大きな傷跡を残すなど強力なものが多く、まともに攻撃を防御しようものなら刃こぼれは避けられないだろう。
「でも、カオリに魔力刀のコツを教えてもらってかなり切れ味上がったし、刃こぼれせずに戦えそう。しかも、いい物の切れ味知っちゃったし、高い短剣が欲しくなっちゃった。私も相棒みたいな短剣がほしいな~。」
「なら、魔物をぽこぽこして稼がないとね。そろそろ魔物出るにはいい時刻だから散策しない?。」
「いいね!やる気でてきた!どんとこい魔物!だね」
サリアのやる気も上がったし、自分が知覚できる魔物もチラホラ現れてきている。今日はそれなりの戦果が期待できそうだ。
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サリアと散策を始め、出会った魔物を蹴散らしていくサリアの戦いぶりを見ていたのだが、短剣を使う機会は防御や近接戦闘に持ち込まれた時のみで、ほとんどの戦闘は魔法補助特化のMSDを用いて投射系魔法で行っている。要するに、メイン職は魔法で時々物理なオールラウンダー的戦い方である。使っている魔法は風魔法や水魔法が多い。風と水の2つに属性があるのだと思う、知らんけど。
これならば、一人で魔物狩りをしに森の中にやってきていたのも納得である。ただ、魔力戦闘がメインのため魔力の消費が多いのは心配である。
「サリア、魔力は大丈夫?」
「うーん?まだ平気かなあと20体くらいは余裕で倒せる!そういうカオリちゃんはどう?」
「自分はまだまだ大丈夫。サリアがメインで魔物狩ってくれているおかげかな」
「あ、私がめちゃ魔物狩ってた。これじゃ、カオリちゃんが魔物狩れないね。ごめんね。」
「そうだよ~。自分が魔物狩ろうとしたら、サリアって魔法で仕留てしまうからね。チラッ」
「もー、ごめんってば。今度はカオリちゃんに任せるから~。」
「任されよ~。」
その時である、自分の知覚は背後から近づく魔物がいることを知らせた。この感覚はゴブリン系でスピードに特化しているものだろう。ゴブリンと侮ってはいけないのがこいつで、遠距離からMSDを使ったアイスニードル程度ならよけられる俊敏さがある。だが、MSDを介さないアイスニードルの飛翔スピードの前ではかなり遅い。しかし、今はサリアと一緒にいるためMSDを介さない魔法発動は避けなければならない。そのため接近戦に持ち込む必要がある。
接近戦に持ち込ませるため、わざと背後を取らせて近づかせることにする。
「サリア、自分の戦闘は接近戦がメインだから魔物が近づいてても問題ないからね」
「わかった、カオリちゃんに任せる。でも、危なくなったと思ったらすぐに倒すからね。
」
「そうしてくれるとうれしい」
サリアとの会話をしつつ魔物の気配をとらえ続けていたところ、一段とスピードが上がった。隙に食いついたか。ナイフの間合いに来るまで引き付けるか。とりあえず、屈伸運動でもして、準備運動をしつつさらに隙を見せるか。
屈伸をしてしゃがんだところで、草むらをかき分ける音がしたと思うと、ゴブリンは自分の背後から姿を現したようだ。だが、自分の間合いに来る前にサリアが反応して動いてしまった。
「カオリちゃん、危ない!」
気配から察するに、ゴブリンは空中で自分を倒さんとばかりに手に持つこん棒を振り上げているようである。それを見てサリアは張り詰めた表情となったが、どこか怯えを感じさせるものがある。それでもサリアは動き出しており、手にした短剣は攻撃に耐えるよう弓なりに振るわれようとしている。その動きは自分が動かないことを前提にしているようで、自分が立ち上がったりするとサリアの手にもつ短剣に斬られてしまう。これでは、動いてしまうと逆にサリアの邪魔をしてしまう。ならば、自分は行く末を見守るほかあるまい。
振り下ろされたこん棒はサリアの短剣により受け止られ、ゴブリンは渾身の攻撃を受け止められたのを不快に思い顔を歪ませる。ゴブリンは攻撃を受け止められた反動で宙を滞空している。
一方、サリアは無理な体制で攻撃を受け止めることになったのか、体制を崩しており直ちに攻撃態勢に移ることは難しい。攻撃するならば、サリアの邪魔にもならない今だろう。
しゃがんで身を低くした状態をそのままに、ぬるりと地面を這うように動きサリアがいる場所を避けつつゴブリンの下へと向かう。ホルダーから素早く黒いナイフを抜きつつ魔力刀を発動し自身の魔力をナイフに纏わせる。そして、ナイフで弧を描きつつ、その軌道を流れるようにゴブリンの首を断ち切る軌道に乗せる。空中で隙だらけのゴブリンは自分の攻撃を予想にしていなかったようで目を見開くが、断末魔を上げる前に振るわれたナイフによって切れ割かれた。そしてゴブリンは音もなく空中で魔石となり、魔石は地面へと落下した。
サリアがちょっと予想外の動き方をしてしまったけれど、難なく倒せたのでいい動きと思う。魔力刀の発動時間も適切で魔力刀を発動したナイフの切れ味も申し分なかったので、扱いも随分と上達したな。家の館周辺で魔物を倒していた時はナイフで攻撃するとき以外も発動していたからかなり魔力の消費が激しかったし、魔力の流し込む量も調節していなかったことから斬っている最中に切れ味が下がることが多かった。そのことを思い出すとかなりの進歩だ。
ナイフをホルダーに収めてサリアの方をみると尻餅をついた体制で安心した表情となっていた。自分は魔物の存在を気づいていたのにサリアに伝えることなく行動を起こそうとしていたので、罪悪感が少なからずある。申し訳ない気持ちもありつつ、サリアの下へ向かい手を差し伸べる。
「サリア、ありがとう。助かった。」
「ほんとにびっくりしたよ。カオリちゃんに怪我無くてよかった。」
「おかげさまでこの通り。ケガはない?」
「ケガはないかな。ありがとね。」
この後、サリアは何かから思考を逸らすかのようにテンションを上げて、魔物狩りに打ち込むのであった。
工房シュトーでの自分と再会した場面といい、自分が襲われたときのサリアの表情と言い、そのたびに何かの記憶がよぎっているように思える。自分はそれが何なのかはわからないけれど、トリガーとなる場面を思い出させるような、記憶から逃げているサリアに対して追い打ちをかける真似はしたくはない。そのため今日の魔物狩りの中で、ゴブリンに襲われたときの申し訳なさを伝える機会はなかった。
それはそれとして、サリアとともに魔物を狩った戦果は合計で10万ゴールド程度であった。自分だけで魔物をぽこぽこしていた時よりも随分と戦果がしょぼいけれど、誰かと一緒に戦うことが初めてであり、かなり新鮮で楽しい物であった。サリアは戦果の多さに驚いていたけれど、その驚きよりも一緒に戦えた嬉しさや楽しさを話していた。そうならばと、月1でも一緒に行かないかと誘ったところ、何なら週2でもいいよときたので、週2で行くことにした。
しかし、サリアとギルド前で解散した頃には22時を回っていた。明日も学園あるのにどうしようか。ここから家まで結構あるし、普通に帰ると家に着くころには日をまたぐ寸前だろう。学園に通い始めたので朝早く起きなければならず、個人的睡眠不足は避けることができないだろう。
能力を使った全力ダッシュで帰ってみたい感に駆られつつ、素直に帰るのであった。
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