2-73 侵入者とギルドとフラワーズの協力
(略しすぎています)
考えがまとまった時、受動探知に人の反応があった。
倉庫に通ずる2つの出入り口があるが、屋外からの出入り口から人が侵入してくる反応がある。その数は5人で、人に気づかれないように魔力放出を抑えて音を立てずに行動している。その行動から学園の生徒や宿舎の警備をしているギルドや宮廷魔導士ではない事は明らかだ。そうなれば、ここに用事がある人達は情報収集員の遺体を隠したい人。つまりは帝国に所属する暗部の者だろう。自分は帝国に目をつけられているのは確定のようだ。悲しいかな、平穏な生活さよならバイバイ。
それでも焦るなよ自分。ここで下手なことを口走れば被害はモリスさんにも及ぶ。発言に注意しておかないとだ。それに、ここで暴れたところで事態はより酷い状況になる。素直に乗り切るぞ。
「カオリちゃんよ、一体何が繋がったってんだ」
モリスさんが促してくるが、当然帝国が自分たちを襲うなんて言えるはずもない。適当に話を逸らすか。
「ここにあった遺体が消えた理由ですよ」
その間にも受動探知には侵入者が自分たちを取り囲むように移動する反応がある。そして、自分の発言を受けて侵入者から感じる魔力反応が僅かに揺らぐ。これもう黒だろ。
「というと?」
「学生の目につかないところに移動させたんです。今は学園の学生たちは外出しないように言われていますから、暇で宿舎内を探検をする生徒も居るでしょう」
帝国の暗部の者たちに回収されたというのを言わずに、それっぽい作り話をする。モリスさんの反応はどうだ?
「確かに。誰かが見つけちまったら野次馬根性で見に来る奴がいたり根も葉もない噂が広がったりするだろうな」
モリスさんは腕を組み、考える仕草をするがおおよそ納得している模様だ。反応は上々だ!この流れで乗り切るぞ!
「そうです。宿舎待機で暇を持て余す生徒たちのことですから話が広がるのは一瞬で、学園として手をつけられない状況になるでしょう。多分ですが、そうなる前に移動させたんだと思います」
「なるほどなぁ。確かに筋は通るな。遺体を安置していた痕跡が残ってやがったし、素人運搬なら頷けるってもんだ。しかし、何処に動かしたってんだ」
「多分、宿舎内の鍵の掛かる部屋でしょうね。いくつかあるのを確認しましたからその辺に安置されてると思います」
「なら、そこに行って遺体の状況を直接見た方がいいんじゃねぇか?」
モリスさんが提案してくれているが、当然行かない。行ったところで自分の案が真実ではないことがわかるだけだし。それに今はダミー依頼に行く必要があってサリアたちも待たせている。行く暇もないのだ。
「いえ、もう大体解決したので大丈夫です」
「そうか。解決したならいいんだ」
モリスさんはそう言うと宿舎側の出入り口の方に向かう。自分もそれに追従し倉庫から出ようとする。
侵入者たちは自分たちを追うことはせずにその場で待機を続けている。宿舎に用があるのだろう。多分、遺体があった痕跡である血痕を消しに来たのだろう。血痕を調べれば魔力情報から色々わかるところがあるだろうし、調べられたら困る事でもあるのだろう。知らんけど。
そういえば自分は血痕に残った魔力を詳しく調べてないな...まあいいか。時間が経っているし碌な情報を得ることはできないだろうって感じの精神で行こう。ヨシ!
何はともあれ、何事もなく倉庫から出ることができた。この場は乗り切ったと考えていいだろう。我ながら上出来だ!greatですよ!
倉庫の入り口をしっかり閉めて宿舎の廊下を歩き始める。さようなら侵入者たち。また会わない事を心の底から祈っているよ。
心の中でお祈りしているとモリスさんが話を振ってきた。
「ああ、そうだ。カオリちゃんにこれ渡しておこうと思ってよ」
そう言ってモリスさんが差し出したのは、ギルドでよく使っている黄色の信号弾だ。これは、黄色の信号弾は離れたパーティー同士の合図代わりに使われる多用途なものだな。
何で渡されたのか謎だが貰っておいて損はないのでとりあえず受け取ってお礼を言う。
「モリスさん、ありがとうございます。でもどうしてこんなものを?」
「カオリちゃんがこれからキナくせぇ依頼で宿舎を離れるって聞いてよ。もしもの時の合図と思ってな」
「お気遣いありがとうございます。でも、どうしてそれを?その依頼を話す場にはいませんでしたよね?」
そう言うと、モリスさんはバツが悪そうに言った。
「実はカオリちゃんが来る前にギルドと宮廷魔導士の関係者は部屋から退出させられてよ。何が起こったのか、あの場に居た奴に贈り物をして話させたんだ」
「あの場にモリスさんの姿がなかったのはそう言う事でしたか」
「俺っちが居たら全力で反対してたんだが、力及ばずだ。すまねぇ」
「モリスさんが悪いわけではないですし、謝らないでください。その気持ちだけで十分です」
「ギルドメンバーをまとめている身としてはメンバーの安全を守るのも責務だからな。せめてもの思いで信号弾という訳だ」
モリスさんめっちゃ男前で好感が持てるぞ。買収された何処ぞの学園関係者とは大違いだな。
「そいつを打ち上げてくれれば可能な限りのメンバーを編成して助けに向かう。もしもの時があったら使ってくれ」
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
その気遣いがありがたい。正直モリスさんには申し訳ないが、増援が帝国の暗部組織に対抗できるとは思っていない。魔物を相手にする事が多いギルドメンバーでは対人戦闘に長けているであろう暗部組織の戦い方と相性が悪いからだ。でも、自分たちを見捨てない存在が居てくれる事が一番ありがたい。戦いに集中できるからね。
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サリアたちが待つ部屋に帰ると、サリアたちから何処に行っていたのか聞かれた。慌てて自分が飛び出して行ったのでめっちゃ気になったらしい。
サリアたちには帝国の暗部組織がやってきたなんて言えるはずもなく、モリスさんと会っていた事を伝えた。そして、モリスさんがもし有事があれば力になってくれる事をサリアたちに伝えると、自分と同じく心強いって返事が返ってきた。サリアたちが頼もしくて仕方ないところだ。
サリアたちとそんな会話をしつつ出発準備を済ませて宿舎のロビーへとやってきた。すると、誰もいないと思っていたロビーには20人程度の女子生徒が集まっていた。集まってる理由何か知らない?とサリアたちに視線を送ったが、全力で首をブンブン振っていたから何も知らないみたい。
「みんな暇すぎてイベントやるのかな?」
「こんな時間から?もう夜だよ?」
「夜となると...肝試しとかですか?」
「「「「ありそー」」」」
だが、集まった女子生徒たちを観察してみると、立ち話をしているのだが浮かれた表情をしている者は居ない。楽しいイベントなら明るい表情をするだろうに、そうじゃないのは不思議なところだ。
そんな感じに観察しながらロビーから宿舎の外に出ようとしたところ、集まっている女子生徒たちが視線を向けてきた。揃いも揃ってほぼタイムラグなしに向けてきたから怖いのなんの。これ、肝試し始まってます?
「みんな!リリーガーデンが来たわよ!」
「この時が来たわね!」
「力になる時よ!」
それぞれ思い思いの言葉を口にしながらこちらへやって来る女子生徒たち。というか、彼女たち何処かで見たことが...。あ、フラワーズだ!となると、エミーさんも居るはず...。
そう思って先陣切ってやってきている女子生徒を見ると、当然のように居た。間違いない。集まっている女子生徒たちはフラワーズだ。サリアたちの方に視線を向けると、赤の他人をみる視線を女子生徒たちに向けてはおらず見知った人たちのようだ。間違いじゃなくて安心したぞ。
というか、フラワーズがこんなにも魔物狩り演習に参加してることに驚きだよ。確か、この演習ってクラスの代表パーティーしか参加してないよね?フラワーズに優秀な人多すぎ問題。
謎に感動していると、フラワーズたちは自分たちの正面に整列した。わぁー、すごい綺麗に並ぶじゃん。ってそう言うことじゃ無いんだよ!どうしてフラワーズがここに居るんだ?
疑問に思っているとエミーさんが声をかけてきた。
「リリーガーデンの皆さんの力になりたくて、フラワーズここに集まりました!」
力になりたくて?ってことは、自分たちのダミー依頼に参加するつもりでいるのか?
疑問に思い、フラワーズの持ち物を注視すると確かに戦闘用のMSDを持っていたり回復アイテムが入っているであろうバッグを持っていたりしていた。確かに戦う気満々な様子だ。ギルドだけじゃなくて学園内にも力になってくれる人がこんなにいるなんて心強いところだ。
普通の依頼程度なら喜んで参戦してもらうところだが、今回はかなりの危険が伴うダミー依頼だ。サリアたちを守るだけで精一杯だと思っているのに、彼女たちを守るには自分やサリアたちの力が不足している。何かが起こった時には全員共倒れになるので、参加を認めるわけにはいかない。これはサリアたちがフラワーズを参加させようと言ってきても断固拒否だ。
とりあえず、リリーガーデンの意見を擦り合わせるために話し合いをするか。サリアたちに手招きをしてコソコソ話をするように伝えるとしよう。
混乱しているサリアたちに手招きをして集合するように合図し、集まってコソコソ話を始めた。サリアが最初に疑問を投げかけた。
「カオリちゃん、これって一緒についてくってことだよね」
「そうだと思うよ」
「やっぱりそうかぁ。ちなみにみんなはどう思ってる?」
「「「反対かな」」」
「この依頼で何が起こるかわからないし」
「即席パーティーで...連携が取れなくて逆に危険ですし...」
「もしもの時に守れる力が私たちに無いよね」
サリアたちも連れて行くのは反対だと思っているのか。その理由も単独パーティーではなく複数パーティーで動く事を念頭に考えられているようだ。みんなフラワーズを連れて行くことの問題を共有できているようだし、結論も同じなので話が早くて助かる。
次に、リナが疑問を投げかけた。
「でも、せっかく集まってくれたのにダメって言うとちょっと悲しいよね」
「確かに...」
「それなら、私たちに何かあった時にギルドの人たちの力になってくれるように言うのはどう?」
「サリアちゃん、それってどう言うこと?」
「私たちに何かあったとき、ギルドのみんなが助けにきてくれるでしょ?そうすると宿舎の守りが手薄になるよね」
「「「確かに」」」
「そこで、フラワーズのみんながギルドに手を貸して守りをより強固にするの。危険もあまり無いと思うし、いい案だと思うの」
「「「それいいね」」」
確かに、サリアの案はめっちゃいいな。これ、採用です。
「それじゃ、まとめるとフラワーズを連れて行くのには反対。その代わり、何か緊急事態が起こったら進んでギルドの人を助けてあげてって感じでいい?」
「「「いいよー」」」
「それじゃ、こっそり話解散!」
サリアたちとのコソコソ話をやめて、フラワーズに向かい合う。そして、今決まったことを伝える。
「まずはリリーガーデンのために集まってくれてありがとう。みんなの気持ちは嬉しい。でも、この依頼は一筋縄では行かないから危険が伴う。だから、みんなを連れて行くことはできない。ごめんなさい」
そう伝えると、フラワーズたちの表情に悔しさがにじむ。心が痛いがこればかりは致し方ない。
「それでもリリーガーデンの力になりたいと言うならギルドのみんなを助けてあげてほしい」
言葉を続けるとフラワーズたちに疑問符が生まれる。フラワーズはギルドがリリーガーデンに何かあった際には助けてくれる事を知らないから当然だろう。
「自分たちに何かがあれば、ギルドが助けに来てくれるが宿舎防衛の観点で大きな救助隊を編成することができない。だが、ここにいるみんながギルドに力を貸してくれるのなら、宿舎防衛の戦力が確保できるからギルドは救助隊を大きくすることができる。だから結果的にリリーガーデンが助かることにつながる」
フラワーズたちに少し悔しさが残っているものの、出来ることがあることが分かって前向きな気持ちが表情に表れてきた。ふぅ。ちょっと一安心。
「どうか何かがあった時にはギルドのみんなに力を貸してほしい」
「「「「「了解!」」」」」
おおおお、決意のこもった迫力のある了解だ。姿勢もビシッとして眼光も鋭い。聞いてるこっちが圧倒されるぞ。サリアたちもその熱量に感化されてか気が引き締まっている様子。双方にとっていい感じだ。
これで、フラワーズの件も解決っと。それじゃあ、同行するジェシカさんを探して出発だなー。でも、何でフラワーズたちはリリーガーデンが依頼を受けて出発することを知ってたんだろう?シンプルに謎だが...。
そう思っていると、シルフィアが戦闘服の袖を引っ張ってきた。シルフィアの方に顔を向けると、コソコソ話で伝えてきた。
「カオリちゃんが思ってる疑問は...多分...あそこにいるモリスさんが知ってると思います...」
シルフィアが目線で促した先にはモリスさんがいた。モリスさんは自分の視線に気付くと、とてもいい笑顔でサムズアップをした。なるほど、モリスさんがフラワーズに話を振ったみたいだな。なんか納得だ。
そして、ジェシカさんも隣でなんかいい場面を見たって感じの表情をしている。なんかこの感じだとジェシカさんもフラワーズに話を振るのに協力してそうだな。
とりあえず2人には感謝の気持ちを込めて小さくサムズアップをしておこう。
「それにしても、シルフィアはよく考えてること分かったね」
「ふふっ...秘密です」
「何それ気になるんだけど...」
シルフィアの勘が鋭すぎて怖いです。下手な怪談よりも背筋が冷えました。はい。




