2-67 緊急会議に呼ばれた話
(略しすぎています)
「ふぁぁ。よく寝た~」
どうも、ベッドの上からむくりと起き上がり、手を上に伸ばして背中を伸ばしている銀髪ロリエルフになった者です。今日は魔物狩り演習の最終日なので特にすることもありません。昼過ぎくらいに学園のバスが来るので、それに乗ってみんなで帰る予定です。のんびりできていいね。
ところで今何時よ?部屋を見渡すと遮光カーテンの隙間から光が差し込んで暗い部屋を仄かに照らしている。差し込む光は強く、バッチリ太陽が昇っているようだ。時計を見ると11時くらいを指しており自分が爆睡していたのがわかる。でも、バスの出発まで余裕があるからちょい安心。ふぃー、寝過ごして置いて行かれたかと思ったよ。
他のみんなはどうだろ?起きてるかな?
隣のベッドで眠るシルフィアはまだベッドの中で気持ちよさそうに表情を緩めて爆睡中だ。
「むにゃ...カオリちゃん...逃げちゃダメです...食べちゃいますよぉ」
シルフィアの夢の中にいる自分はどうして逃げているんだろうか...。シルフィアさん?何を食べるんですかね?ちょっと背筋が冷たく感じるんだけれども?
昨夜はシルフィアとの話が盛り上がってほぼ明け方まで魔法のことで話し合っていた。魔法を発動する時のイメージだったり、魔法を放つにもホーミングさせるさせないの話だったりと色々話していた。MSD無しでの魔法発動を間近で見てシルフィアの魔力操作や魔法への理解の深さに驚いたので、目が覚めてなかなか眠気がやって来なかったりした。シルフィアもそんな話ができることにテンションが上がったと言ってた。そんな感じで眠気が来ずに寝るのが明け方になったのだ。
その最中のシルフィアには暗い表情はなく、不安な気持ちは無くなったようだ。今寝ているシルフィアからもそんな気持ちは感じ取れない。色々気にしてたシルフィアは辛そうだったから、いつもの調子に戻って嬉しいぞい。やっぱ笑顔になってるのが一番よ。
「美味しいぃ...むにゃ...」
あ、シルフィアの夢の中で何かが食べられてる。自分じゃないことを祈ろう...。
「サリアとリナは...?」
そう呟いて部屋を見渡す。2人のベッドは畳まれた布団が置かれており、もう既に起きている様子だ。部屋の中の気配的には自分とシルフィアしかいないので、どこかに行っている様子。
「ん?あのメモ用紙なんだ?」
部屋にあるテーブルの上にメモ用紙が置かれていた。そこに近寄り、手にとって内容を読んでみた。
「えー、グッスリ寝ているので起きるまで体動かしてきます。12時には戻るから一緒にお昼行こうね」
筆跡はサリアのもの。寝起きの字じゃないから、サリアとリナは割と早起きしちゃった感じのようだ。そりゃ暇を持て余して体を動かしたくなる気持ちもわかる。1時間は帰って来ないようだし、自分はこれからどうしよ?
「とりあえず身支度しよ」
パジャマのまま洗面台に向かい、歯磨きをしたりスキンケアしたりして身支度を整える。今日は思いの外、髪が纏まっていたから時間がかからなかったので時間はそれほど潰れなかった。残念。
そして、寝巻きから戦闘服に着替えてみる。当然、そこまで時間はかからない。まだまだ時間がある。
スヤスヤ寝ているシルフィアを起こす気にもなれないし、適当に周囲を歩き回ろうかな。あ、適当なジュースとか一緒にあると嬉しいかも。となると、自動販売機の前に寄ってからだ。よし!暇つぶしの算段ついたし、書き置き残して出発!
サリアとリナの書き置きの中に散歩している旨を書き加えて、シルフィアが起きないようにゆっくりと部屋を出た。
廊下に出ると、自分と同じようにかなり暇をしている生徒がちらほらいた。立ち話をする生徒がいたり、手持ち無沙汰に歩いている生徒もいたりと時間を持て余している様子。やることないし、そうなるよね~わかるわかる。
廊下の窓から天気を伺うと、どんよりとした雲が覆っていた。廊下の空気も湿気ってるし、自分が寝てる間に雨が降ったのかな?そう思いながら窓から見た地面には所々に大きな水溜りができていて、かなりの降水量があったようだ。この感じだとサリアとリナは外で体を動かしてるから泥だらけになってそうだ。最終日だし気にしてないのかな?
そんなことを思いながら、のんびり廊下を歩いて宿舎内の一画にひっそりとある自動販売機へと向かう。昨晩は売り切れまくっていてジュースが残っていなかったけど、一夜明けてもう昼だ。補充されていてほしいな。
そう思いながら自動販売機前にたどり着いて、意気揚々と自動販売機の商品ディスプレイを見た。
「うそじゃん...」
昨晩と変わらない売り切れの表示が並んでいた。ショックだ...。
肩を落としていると、モリスさんがやってきた。何かを考えている様子で小難しい顔をしている。よくないことでも起こってそうな雰囲気だな...。近づかぬが吉って感じ?そろりと退散しよう。
顔を背けて移動しようとした時、モリスさんから声をかけてきた。スニーキング撤退作戦失敗である。もうちょい本気を出して逃れるべきだったか。まあ、話だけでも聞くとしよう。どうせ暇だし。
「ちょうどよかった!カオリちゃん、ちと来てくれねぇか?」
「一体どうしたんですか?自動販売機の用事はいいんです?」
「それは気分転換みてぇなもんだから問題ねぇ。それよりも、会議室で話し合いをしてる件でカオリちゃんの意見が聞きたくてよ。少し時間を取るようですまねぇが来てくれないか?」
何の話かよくわからないけど、モリスさんの話す表情からは良くない話をしている事が伝わってくる。これから帰るってのに一体何の会議をしてるんだろう?とりあえず、顔だけでも出してみるとしよう。
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モリスさんに連れられて会議室にやってきた。そこにはお偉いさんたちが集まって話し合いをしていた。構図としては、アステラ国側の学園側とギルドメンバーと宮廷魔導士vs各国のお偉いさんや各国の軍または自衛組織の方々という感じだ。
途中からの参加なので何が起こってるかさっぱり分からない。なので、モリスさんに小声で話しながら情報を聞く。
「これ、何の会議ですか?」
「今日帰るか、もう1日追加で演習やるかの会議だ」
え、えええええ!?今日帰れないかもしれないの!?帰る気満々でいたんだけど!
「今朝の大雨で宿舎に続く道が崩落して今後の予定をどうするか話し合ってたんだ。アステラ国が本気出しゃ、今日中にも帰れる程度なんだが各国のお偉いさん方がもう1泊するぞって言い出したんだ」
「それは不思議ですね、何か理由でもあるんですか?」
「恐らく勇者組の経験値を積みてぇのと、他国の勇者がどれほどの戦闘能力を有するのか見てぇんだろう。だから今晩も演習するとか言い出しやがった」
「昨日の件もあったのにですか...」
「そうだ。だから、プラチナランクの立場から何か言って欲しくてよ」
「それは重大な役ですね...」
そう小声で話している最中にも会議というか、平行線の言い合いは続いている。
「昨日何があったかご存知でしょ?魔物大群ですよ?しかも統率が取れていました。そこにもう1泊するのは危険です!」
「わかっている。だが、それは自然的なものと結論づけた。そういった稀な事象が今日も起こるとは限らないじゃないか」
「今回はどうにかなりましたが、周囲の魔素濃度は依然として高いままですので我々が危惧する事象が起きやすい状況にあります」
「それをどうにかするのが、ギルドの皆さんや宮廷魔導士の方々なのでは?我々としては貴重な経験を積ませてあげたいんです」
「それは重々承知しています。ですが、魔物ではない不自然な死を遂げた方もいます」
などなど、バチバチにやり合ってる。これ、自分が意見をしたところで各国のお偉いさんが折れる事なさそうな気がする。話を聞くにお偉いさんの妥協するところが見つからないしなぁ...。
「皆さん、今し方プラチナランクの方をお呼びいたしました。その方のご意見をお伺いしましょう」
え、このタイミングで振られるんですか?モリスさん困るんですけどおおお?でも意見だけは決まってる。このキナくさい演習地から帰りたい!
「え、皆さん初めまして。プラチナランクのカオリと申します」
各国のお偉いさんは官僚らしき人たちと耳打ちしながら自分に視線を向けている。表面上は真剣な表情をしているが、彼らから伝わる雰囲気的には舐められていることが伝わってくる。
「すみませんが、どのような経緯でプラチナランクになられたので?」
「私もそれを聞いておこう」
うんうんと他国の方々が頷く。言葉からも舐められているのが伝わってくるな。全く、暇があるからと変なことに首突っ込むんじゃなかった。そう思っていると、モリスさんが口を出した。
「横から失礼しますが、俺がお答えします。カオリちゃんは複数のオーガを単身討伐、魔物大量発生時には単身でその事態を収め、大災害をもたらすエンシェントタートルを一撃で仕留める功績をたてております」
各国のお偉いさんはモリスさんから伝えられる言葉が信じられない様子だ。そんな中、ある1人のお偉いさんが嘲りながら発言した。
「そのような経緯があったとしても、実力はどうだろうか?彼女からは魔力を感じられない。少しもだ。あまりに信じがたい」
その言葉に同調して各国の方々が失笑する。でも確かにそれはそう。だって魔力抑えまくってるし。規模感が違いすぎて信じられるものでもないだろう。みんな疑問に思うのも無理はない。うんうん。わかるわかる。
そう思っていると、自分と関係していた学園関係者やアステラ国の人、ギルドの人たちがピキピキしているのが肌で伝わってきた。自分の事なのになんで怒るんだろう?あ、あれか。プラチナランクはアステラ国として認めているからか。それを信じずに嘲るというのは国としての信頼を置いておらず、ある意味侮辱的な行為に等しいって奴っぽい?
こういう時どうしたらいいんだろうか。何もせずに進めるのが普通だが、それだとこの場が収まりそうにない。乱闘騒ぎになって外交問題になられても面倒だし...。こうなると、一つ驚かせてみるのもありだと思う。各国のお偉いさんに目をつけられることになってしまうが、ここまで来ている時点でそれは既に無理な話だ。第一、昨日の調査隊に組み込まれている時点でもうね...。
なら、魔力でも解放してみよう。魔力が出てたら認めてくれそうだし、そうしたら分かってくれるはず?今は消費をしないよう放出を0に抑え込んでいるので、普通に解放すれば途轍もない魔力を感じるはずだ。びっくりしすぎて気絶しないよね?
まあ、1秒くらいは解放しても大丈夫だろう。各国のお偉いさんも結構修羅場を潜ってきてそうだし、圧は慣れてるはずだ。そうと決まれば、解放してみよー。そうしよう。あ、でも大量の魔力が体にぶつかると結構体調悪くなるんだっけ?手加減マシマシにしておかなきゃだ。後で何か言われても困るし。
体内に流れる魔力の制御を少しだけ緩める。すると、瞬く間に集まりすぎた魔力が拡散し始め、体外に溢れ始める。溢れ出す魔力に指向性をつけて各国のお偉いさんの方へと魔力が向かうようにする。
それにしても思いの外、流れ出す魔力が多いな。その量はアイスニードル15発分を超そうだし、このままだと開眼してしまいそうだ。それはまずいから、もうやめておこう。多分これ1秒も経ってないけど、十分感じただろうか?
そうして解放された純粋な魔力は空間を伝播して各国のお偉いさん方へ襲いかかる。その魔力の波がかなり強かったのか、周囲の人が保有する魔力を大きく揺さぶったのを肌で感じ取った。これは効果ありだろう。後は台詞をなんかいい感じに言っておいたらgreatかな?でもいいの思いつかないから、適当でいいや。
「何か?」
すると、各国のお偉いさんや各国の軍または自衛組織の方々は急に気分が悪くなったのか口元を手で押さえ始めた。効果が抜群すぎたようだ。なんかすまん。
「い、いえ。お気になさらず。話を続けてください」
各国のお偉いさん方が急に口元を手で押さえ始めたことに、アステラ国側の人々は頭上に疑問符が生まれている模様。それでよろし。この場が静かになったことだし、話をするとしよう。
「そうですか。それでは、まずはお亡くなりになった方から。傷口の形状から他殺の傾向が強いです。それにお亡くなりになられた方は戦闘にも慣れているはずです。そんな方が亡くなったのですから、もしも戦闘が未熟な勇者さんたちが出会ったならばなす術はないでしょう」
他殺の可能性が捨てきれない以上、常に危険性があることを理解してもらわないとね。
「そして、魔物について。一般的には魔物の発生や行動には連続性があります。しかし、今回に関しては全てにおいて急で非連続性が確認されています。なんらかの手が加わっているか、激しい変化がある不安定な環境にいると思われます」
急に魔物の動きが統率されたり、されなくなったり、数が急に増えたり減ったり。闇魔法を介した魔物のコントロールを裏付ける非連続性がある。普通の人ならば、それでおかしな事象が起きていることを分かってくれそうなものだが。
「いずれにせよ、この場が危険であることに変わりありません。私たちは、生徒やみなさんの安全を守る義務を負っています。その立場からすると、今晩の魔物狩り演習を行うことに賛成できません。どうしても1日過ごすのならば、宿舎内のみで過ごすことが条件です。これが自分の意見です」
自分の意見は出し切った。今の状況は半ば脅しに近いような気がしないでもない。だが、冷静に考えればここに残ることで得られる事と、残ることの危険性が釣り合っていないことはわかるはずだ。勇者はこれからも成長するので、ここで見定める必要はない。それに、魔物狩りの機会はこれからも多くある。焦る必要などどこにも無いのだ。
これからこの会議の結末がどうなるのか。ちょっと気になるが...。
時計を見ると、11時55分を指している。もうすぐ、サリアとリナが帰って来る頃合い。この場から撤退してサリアたちとお昼ご飯にするとしよう。途中で会議に参加して話して途中で帰る無法者ムーブをかましているが、会議に呼ばれていない人だから許してほしいところだ。まあ、今は各国のお偉いさん方の心象がよろしくないだろうし、出て行った方が会議もスムーズに進むだろう。この辺は気にしない気にしない。
「自分の意見を聞いて思われているか分かりませんが、冷静な判断を下されることを祈っております。では自分はこれで」
 




