2-66 シルフィアの事3
(略しすぎています)
「その事があってからは魔法を使う度にその時の光景がフラッシュバックしてしまって...魔法を自由に使えなくなったんです...」
「そうだったんだ。辛いね...」
シルフィアの過去に起きた出来事を聞く限り、シルフィアは親友であるミミを助けるために放った魔法でミミに致命傷を負わせてしまったと考えているのだろう。ミミの魔力欠乏の程度がわからないが、普通の魔力欠乏程度ならまだなんとか助かる見込みがあっただろう。だが、そこに外傷による大量出血も伴えば助かる見込みはかなり低くなる。なので、シルフィアがミミに致命傷を与えたかもしれないのはおかしい事ではない。故にシルフィアは自分のせいでミミが死んだのだと強く思っているのだろう。
それだけに無理に人に向けて魔法を放つようなら血の気が引いて倒れるのも納得がいった。強い自責の念もあって自身の魔法でまた人を傷つけやしないかと恐れ続けていたのだろう。自分は、シルフィアが今回の魔物狩り演習でも誤射をしないか常に気を張っていてすごいなーと漠然と思っていた。その気にしすぎるほどの配慮がシルフィアの過去と関連があることを薄々勘付いていたのだが、そのことも今回話ではっきりした。今までの行動も納得だ。
「今も魔法使う時に思い出すの?」
「学園の入学当初は思い出してましたが...最近は思い出すことも少なくなりました...多分...自信が付いたんだと思います...」
「確かに。初めて手合わせした時はまともに魔法放てなかったのに、今じゃ避けにくくて高火力な魔法はなってくるからびっくりだよ」
「カオリちゃんには一度も当たった事がないから...当たらないって信頼してますよ...!」
回避能力が人間辞めてるって思われてそうな気がしなくもないが...気にしたら負け?
「でも、カオリちゃんが危険な状況に遭ったって聞いたら...その時の光景を思い出しちゃいました...もしかするとまた大切な人を失うんじゃないかって不安で...」
「でも帰って来て、今もピンピンしてる。ほら」
そう言って腕をブンブンして見せる。だが、シルフィアが意図した発言とは自分のリアクションが外れていたようで、シルフィアは微笑を浮かべると首をゆっくり振った。
「カオリちゃんありがとう...でも、そうじゃないんです...私の力が及ばずに私の大切を...守ることができないんじゃないかって不安なんです...」
その不安はわからないでもない。サリアたちを守りたいって気持ちから、サリアたちが危険な目に遭わないように気を配ったりしている。でも、どうしても戦闘に巻き込まれることが頻発している。その度に自分では守りきれない場面があるんじゃないかって不安に感じている。自分もその不安から解放されたいよ...。
でも、少なくともシルフィアはその事件当時よりも成長している。今のシルフィアならば当時の事件の結末を変えることができる程度の魔法の技術は十分にある。それに、視野を広く持って戦況を把握する力もある。だから、シルフィアはそこまで不安に思わなくてもいいんじゃないか?
「今のシルフィアなら大丈夫。だって咄嗟に発動したフォトンレイの精度だってピカイチだよ?難しい魔法なのにすごいよ。それに、パーティーの戦況を把握してくれる目も持ってる。怖いことはないよ」
「カオリちゃんがそう言ってくれて...嬉しいです...」
シルフィアはそう言うと視線を遠くの方へ向けて少し嬉しそうにした。そして、静かに目を閉じて、手を合わせた。多分過去のシルフィア自身か、ミミへ報告しているのだろう...。成長したぞって言ってるのかも。話しかけるのも野暮なので少しだけ考えを巡らすとしよう。
話を聞く都合上、軽く流していたが、シルフィアがMSD無しでも魔法を発動できていた話だ。幼い頃から両親の真似事をしていたとはいえ、その才能は純粋にすごいこと。普通に驚いた。それに、まさかこんな近くにMSD無しで魔法を使える人がいるなんてって驚いた。
過去の時点で何の魔法を発動したのか不明だが、それでもMSD無しで魔法を発動できていたのだから当時からそれなりの魔力制御能力があったことに違いない。それならば、現時点での魔力制御能力の高さも納得だ。今の魔力制御技術ならば、フォトンニードルとか基礎単一放射系魔法ならMSD無しで使えるんじゃない?と思わなくもない。
それに、それを話してくれたって事も重要だな。普通の感覚だとMSD無しで魔法を使えるのは魔族だけと言う事になっている。それは広く普及して、魔法を取り扱っている学園でさえもその考えが主流だ。なので、MSD無しで魔法を使った日には魔族であると排斥の対象になりかねない。それか、実験動物の仲間入りになるか...。どちらも行き着く先は暗いものだ。その上で、シルフィアが両親から人前で使うなって言われて隠して来たことを話してくれたのは、それだけ自分を信頼してくれている証でもある。自分もシルフィアのことを信頼してるよって応えないとだ...。いっそのこと実はMSD無しで使えますよーって暴露するか?ワンチャンありだな。自分がMSD無しで魔法を発動できるって情報は自分の手から流れてしまって秘匿性が大きく失われてしまうが、ここは他の目に止まらない場所だ。どうにかなるだろう。
「カオリちゃん...どうかしましたか?」
「いや...驚かないで聞いて欲しいんだけれど...」
「何を今更驚くと言うんですか...?普通の攻撃じゃ傷一つもつかない大きな亀を...一撃で倒したんですよ...?」
「まあ、見てて」
僅かな魔力に氷柱を作るイメージを乗せ、手の上にその魔力を集める。魔力を変質させて、手のひらの上に小さな六角柱の結晶のような澄んだ氷を生み出してみせた。
それを見たシルフィアは声も出さずに目を丸くして自分の顔と小さな氷柱を交互に見た。
「ね?驚いたでしょ?」
「え、うそ...!」
想像以上に驚いてらっしゃるシルフィアさん。さて、どう出るかな?
「カオリちゃんMSD無しで魔法使えたの...!?」
「隠してたんだけどね。シルフィアも使えるって言ってたしシルフィアならいいかなって」
「そうかもしれないですけど...すごく大事な隠し事じゃないですか...!」
「それだけシルフィアのことを信頼してるってこと。同じMSD無しで魔法使える仲間同士、仲良くしよ?」
「もちろんです...!私からもお願いします...!」
そう言うとシルフィアはとても嬉しそうに自分の手を握ってブンブンしてきた。そして、話したい事がたくさんあると言うとテンション高めで話を始めた。そんなシルフィアには暗い表情は見えず、笑顔が戻っていた。少しは自分がシルフィアの助けになれたのが分かって、少し嬉しい気持ちが湧いてくる。
あ、でも寝るのは当分後になりそうかな?バイッバイ、自分とシルフィアの睡眠時間...。当初の眠くなる雑談をする目論見がはずれてしまったけど、シルフィアの方が大事だし問題は無い。シルフィアと一緒にこの時間を楽しむとしよう。
(後で修正するかもです)




