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2-64 シルフィアの事1

(略しすぎています)

 シルフィアと宿舎内を彷徨って最上階にある談話室っぽいところに辿り着いた。鍵がかかっていない分厚いドアを開けると、適度に装飾された広すぎず狭すぎずな部屋だった。年季の入ったテーブルと対になったソファーのセットが置かれており、清掃が入っているのか埃が積もっていたり、部屋の空気がカビ臭いと言ったこともない。そんな部屋にある窓からは演習区域が見え、適度に開放感もあった。


「これ...私たちが使っていいんですかね...?」

「他にも同じ部屋あるけど使ってる様子ないし良いんじゃない?とりあえず入ってみよ」


 部屋の中に入ると、部屋の中はとても静かで反響が感じられなかった。魔法発動の痕跡はないので、物理的な方法で遮音がされているらしい。魔法が浸透している世界で防音室があるなんてなんか新鮮な気分だ。


「とても静かですね...廊下の喧騒が...嘘みたいです」

「そうだね。静かだし、ここで話そうか」


 自分は部屋の鍵を閉めると、手に持っていた紅茶のボトルをテーブルの上に置いてソファーに座る。とてもふかふかで、肌触りもいい感じだ。あ~快適すぎてここで寝てもいいかも。

 そう感激していると、シルフィアが自分の隣にやってきた。テーブル挟んで向かいのソファーに来るのかなって思っていたから、ドキドキだよ?何事?しかも心なしか、距離近いよ?


「とてもふかふかで...気持ちいいですね...!」

「これなら眠気も来そうかも」


 そんなシルフィアは興味津々と言った感じに部屋を見渡しており、純粋に特殊な空間を楽しんでいるようだ。シルフィアの行動には意図したものはなく自然であることが読み取れる。なんか少しドキドキしている自分がバカらしく思えてくるぞ。


 気分を切り替えるために、紅茶でも飲むとしよう。だいぶ温くなってて美味しさ的に微妙になってそうだけど、どうなんだろ?

 疑問に思いながら缶のボトルの蓋を開けて一口だけ飲んだ。味や香りは洗練されていないものの、紅茶とわかる程度には感じられる。サリアたちとカフェで紅茶を飲みまくっている身からすると、渋い部類に入るが飲めなくはない。可もなく不可もない如何にもボトル飲料といった感じだ。逆に肩肘張らずにリラックスできていいわ~。


「「ふぃー」」


 一息吐いた時の声がシルフィアのものと重なった。シルフィアの方を見ると、シルフィアも同じくこちらを見ていた。そんなシルフィアは紅茶のボトルを手に持っていて、一口飲んだようだ。動作がシンクロしていたらしい。

 そんなことが、少しおかしくて自分とシルフィアはクスリと笑う。


「シルフィアって初めの頃と比べるとかなり人懐っこくなったよね」

「そうですか...?」

「そうそう。出会ってすぐはちょっと距離がありそうな感じだったけど、今は全然そんなことない。むしろめっちゃ心開いてくれてるって感じしてるよ」

「言われてみればそうかも...?でも、カオリちゃんやサリアちゃん、リナちゃんだけですよ」

「でも、そうやってしてくれてるの嬉しいなって」

「なんか急ですね...恥ずかしいです...」

「今日帰った時に出迎えてくれて嬉しかったから。走ってきてダイビングハグだよ?」

「確かに普段しないですけど...あれはカオリちゃんが悪いんです...むぅ」


 シルフィアは頬を膨らませちょっとおこモードであることを伝えてくる。申し訳ないけど、可愛い。


「ちょっと森に行ってくるって言ったのはいいですけど...ガッツリ事件の調査に巻き込まれたり...魔物の大群に巻き込まれたりしてましたし...心配させる方が悪いんです...!」

「それはごもっともで...」

「もしもの時は辛いですから...」


 シルフィアが窓の外をに視線を向け、遠い目をして言った言葉には一般論だけじゃ片付けられない重みが詰まっているように聞こえた。過去に何かがあったのかも。


「もしかして眠れないのって自分のせいだったりする?」

「...いえ、これは自分のせいですよ...昔のこと思い出しちゃって、今日の出来事と重ねちゃいましたから...」

「思い出させちゃってごめんね」

「いえ...カオリちゃんが謝ることではないんです...ですが、寝れないから少し話を聞いてくれますか...?」


 そう言うシルフィアはこちらを向いて自分の瞳を見た。シルフィアの視線や表情からは緊張や不安が伝わってきた。おそらく言い出すことは、昔の事に関わることなのだろう。それはきっと、シルフィアの心の中の楔で重要な出来事。

 過去の自分は、責任を持つことができないからと深入りせずに向き合ってこなかった。それは中途半端に関わるくらいなら関わらないほうがお互いに幸せだから。そう思っていた。

 でも、今の自分は違う。サリアたちは自分の中でとても大切な存在となった。家族と言うには違うけど、失いたくなくて笑顔にさせたい存在。そんなそんなサリアたちが頼ってくれるのならば、話してくれるのならば、自分なりに向き合って答えを出したいと思えてきたのだ。正解じゃなくても少しでも助けになれればいい。そう思っている。

 だからサリアの問いに対して迷いなく答えた。


「聞くよ」

「ありがとう...」


 シルフィアが優しく呟いた。いつもの敬語じゃなく、とても近い人への親しみを込めた言葉に感じた。

 そして、シルフィアは遠い過去を思い出すように窓の外に視線を向けて話し出した。

___________

 私は1人っ子で亜人たちが住む大陸の北東沿岸部にある小さな村に両親と3人で住んでいました。周囲は森に囲まれていますが村には湖があり、近くには海があったりと自然に溢れた場所で生活していました。決して裕福な暮らしではないですが、幸せが詰まっていました。私の家族は魔法が得意な家系で、MSDで発動した魔法を使って、治療や狩りをしたりして村に貢献する生活を送っていました。

 私はそんな両親に憧れて両親の仕事を見よう見まねで手伝っていたため、魔法関連のスキルが上達していきました。そのためかでしょうか、村の中では両親に次ぐほどの魔法の使い手だったようです。私が魔法の練習を始めてからすぐにフォトンスピアを安定して発動できるようになるほどで、村中から将来有望な子だと思われていたみたいです。

 そうしたことから、私は早く1人前になりたいと思っていました。ですから、両親の扱う派手な魔法に憧れて、制御が不十分なフォトンスピアを完璧にするのではなく、フォトンレイが安定して発動できるようになることを次の目標にしていました。村の中では流石に練習できない威力なので、近くの森の中で的に向かって放つ練習を日課にしていました。


「魔力の形を変えて...えいっ!」


 私の目の前に集まった魔力は光の光線に変質して、的へ向かって飛んでいきました。しかし、魔力の制御が甘いからか光線が弱くなり、的から逸れた位置に着弾しました。さらに、威力はフォトンスピアよりも弱く魔法としてはダメダメで、私は肩を落としました。


「うまくいかないなぁ。魔力は結構込めてるんだけど...」

「でも前よりずっと飛ぶようになったじゃん!進歩だよ進歩!すごいよ」

「ミミちゃん、ありがとう」


 ミミちゃんは私と同じ猫族で私の2つ上の女の子です。私はミミちゃんのことをお姉ちゃんみたいな存在として見ていて、いつも一緒によく森に出かけて魔法の練習をしたり遊んだりしていました。


「ミミちゃんの調子はどう?」

「全然!アイスニードルの形になっても前に飛ばない!なんかコツとかある?」

「うーん...イメージが難しいけど、集めた魔力が一直線に飛んでいく感じかな?」

「何それ難しそう~やっぱり直感がわかりやすくていいかな~」

「聞いておいてそれなの?もー」

「うそうそ、やってみるね」


 ミミちゃんは一呼吸おいて集中すると、両腕を前に伸ばして魔力を一箇所に集め始めました。そして、集まった魔力が氷に変質すると、目の前1m程度飛翔しながら光の粒となって消えていきました。


「できた...」

「ミミちゃんやったね!」

「シルフィアちゃんできたよおおおおおお!」


 感極まったミミは私に抱きつき、あまりの勢いで私は押し倒されました。


「もー、すーぐそうやって抱きついてくるんだから。ミミちゃんがお姉ちゃんなのか妹なのかわからないよ」

「いいもーん。今日も可愛い可愛いシルフィアに甘えたいんだもーん」

「もーすりすりしないでーくすぐったいよー」

「良いではないか、良いではないか~」


 そういってミミちゃんは私の胸元で顔を埋めはじめました。私はそれに困りながらも嫌な気持ちは起きませんでしたから、ミミちゃんが離れるまでミミちゃんの頭をなでていました。

 暫くすると、ミミちゃんは堪能したと言わんばかりに満足げな表情で私を自由にして体を起こしました。


「あ、シルフィアちゃん、魔法のことなんだけどね」

「魔法の話?」

「そう。私たちってMSDなしで魔法使えてるでしょ?それってとてもすごいけど、外では使っちゃダメだよ」

「その話はお母さんからも聞いたことがあるよ。魔族と間違えられちゃうから使わないでって言ってた」

「やっぱり知ってたんだ。あー心配して損した」

「でも教えてくれて感謝してる。そういうの何回でも聞いて損ないからね。それに、心配もしてくれるなんてミミちゃん優し~」

「でしょ。私って優しい子だからね~もっと褒めてもいいよ?」

「もう品切れだよ~」

「えー、ケチ」


 いつも通りの軽口を言っていると、村の方角から地響きのような音が聞こえてきました。それに私とミミちゃんは驚いて会話が止まりました。


「え、何?」

「シルフィアちゃん、あっち!黒い煙出てるよ!」

「ほんと!しかもいっぱいある。何が起こってるの?」


 村の方角から立ち上る煙は地響きの回数だけ多くなり、時折聞き取れない甲高い声や金属と金属が衝突する音が聞こえてきました。当時の私は何かよくない事が起こっているのは分かっていましたが、それが何なのか検討がついていませんでした。

 ですが、ミミちゃんは何かを察していて、静かに言葉をつぶやきました。


「...なんかヤバイ気がする。シルフィアちゃんいい?絶対声出しちゃだめ。何が起きてるか見にいくよ」

「え?声だしちゃだめ?なんで?」

「...ちょっとしたかくれんぼのためだから。ほら、手を繋ご?」

「うん...」


 私はミミちゃんが深刻な表情をしているのを見て漠然とした不安を感じ、すんなりとミミの手を握りました。握ったその手は少し湿っていて、少し震えているのを感じました。


「それじゃ行こっか」


 そう言う言葉からはミミちゃんがとても落ち着いているように感じられて、私を落ち着かせようとしているのを感じていました。そのおかげか少しだけ不安が和らいだのを覚えています...。

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