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2-60 差し向けられた魔物の大群からの撤退

(略しすぎています)

「前方チームは前を切り開くことだけを考えて!後方チームは側面と背後の魔物に対処!」


 調査隊は襲いくる魔物の波から逃れるべく、森の奥から宿舎へと全力で向かって走っている。かれこれ10分程度走っているが宿舎まであと30分程度はかかるだろう。依然として森の中の魔物は多いままなので遭遇する魔物は多い。そして、さらに多くの魔物たちが森の奥から調査隊を攻め立てている。調査隊は即席寄せ集めパーティーなので、悪くはない連携ができる程度であり安定感に欠けている状況だ。

 普通のパーティーは大量の魔物に追い立てられた時に備えた訓練などしないので、そりゃ安定感もないと思うところだ。しかしなぜかリリーガーデンは今のパーティーよりも進みが早く、安定感があるのだ。リリーガーデンの個人の戦闘技量は調査隊のメンバーほど高くはないのにな...。多分連携なのかな?それとも、過酷な環境に慣れすぎたから?ここ最近事件に巻き込まれている頻度を考えるとその両方のような気がしなくもないけど...。


 そう考えていたところ、前方チームの1人が進行方向の左斜め前で攻撃機会を窺っていたチビゴブリンを見逃していることを確認する。あー、やっぱ焦ると周り見えなくなるからこうなるよね。攻撃されたら進行速度が結構落ちるし、フォローしておこう。

 

「はいそこ油断しない!」


 リング型MSDに魔力を流してアイスニードルを発動する。空中に生成された氷柱をチビゴブリンに向けて目にも止まらぬ速さで射出させ、瞬く間にチビゴブリンを貫かせる。回復不能な傷を負ったチビゴブリンは魔石に姿を変え地面の上に転がった。普段なら回収するところだが、今は宿舎へ帰るのが最優先。調査隊はその魔石を無視してさらに前へと進む。


「カオリちゃん、すんません!」

「頼みますよ!」


 調査隊の他のメンバーも同様に目の前のことに対処できているようでできていない。自分を除いた7人の調査隊のうち5人がギルドメンバー、1人が連合国勇者パーティーのサブパーティーと戦闘経験に長けたものが集まっている。しかし、危機的状況の経験が浅いためか、焦りによって本来のパフォーマンスを発揮できていない。実戦の戦闘経験が浅い宮廷魔導士のブライアンさんに至っては固定砲台になってもらっている状況だ。

 自分がパーティーのミスをフォローすることで、調査隊はかなりのスピードで宿舎へと前進できている。だが、集中力が落ちてミスが多くなってくるとフォロー不可能なほど戦闘能力がガタ落ちして前に進めなくなる。どうにかして今の状況を改善しないといけないのだが...。今の所いい案が浮かんでこない。いざとなれば信号弾もやむなしだな。


「師匠!この状況やばいですよ!信号弾を出しますか?」


 ジェシカさんが戦いながら提案をしてくる。確かにこの状況はやばい。それは認識しているが、宿舎にいるメンバーには信号弾を上げる意味合いを共有している。その意味合いは動けないから助けに来てくれだ。なので、今打ち上げると我々が移動しているにも関わらす、信号弾を打ち上げた場所に助けに来てしまう。そうなると助けてもらえる確率が一気に低下する。


「いや、それだと逆に助けに来てもらえない可能性が高いです。私たちが動いちゃってますので。対策を考えますので現状維持でお願いします」

「わかりました」


 一番いいのは特殊魔導騎兵隊のレーダーでやばい状況を認識して勝手に助けに来てくれることだ。だが、一番期待できないことでもある。ただでさえ魔物の大群が宿舎に押し寄せている中、戦力を割いて自分たちを助けに来るとかリスクの塊でもあるからね。悲しいねぇ...。自分たちはただひたすらに走り続けるしかないのよ...。

 しかし、普通は10分も走ったんだし、魔物を差し向けている奴は諦めてくれてもいい頃合いなんだけど...。奴は魔石型MSDの回収を目的に魔物を差し向けてきているはずだが、あの魔石型MSDをあの場所において来ているはずだ。自分は何か読み違えているか...?いや、そもそも前提は合ってるのか?


「ジェシカさん、魔石って捨てましたか?」

「いえ、師匠から捨てるよう言われましたが、貴重な情報になるので持ってきています」

「それだあああああ!」


 ばかあああああああ!そりゃ、いつまで経っても追いかけられるよねええええ!と脳内で叫び散らかす。表情には出ていないはず。自信ないけど。ジェシカさんになんとかして魔石型MSDを手放してもらわないとだ。このまま魔物を引き連れて宿舎に到着したら、宿舎にいるみんなまでも危険に晒しかねない。説得を試みるか。


「ジェシカさん、魔物は魔石の強力な魔力に引き寄せられる習性があります。なので、その魔石を放棄してしてください」

「しかし、それでは今回の収穫がないじゃないですか!」

「そうです。ですが、その収穫と宿舎にいる人たちが危険に晒されることを天秤にかけてください!すみませんが、持ち帰ることは賛成できかねます!」

「師匠...それはあまりにずるい選択ですよ」


 ジェシカさんは悔しそうにそう言うと、持っていた魔石型MSDを地面に落とした。その魔石から感じる魔力は現場で確認したものと同じものだ。素直に聞き分けてくれて助かった。これで魔物を差し向けた奴は追いかけて来る理由を失うはず。この状況が改善するはずだ。というか改善して!


 半ば祈るように5分間進み続けた時、薄い闇の魔力を感じると共に魔物が追って来るのをやめた。受動探知を行って魔物の動き方を詳細に把握したところ、魔物の統率の取れた動きは無くなっており、いつも通りのランダムな動き方となっていた。どうやら、危機が過ぎ去ったようだ。


「なんとかなった...。みなさん、通常の索敵モードに移行して各自小休憩してください」


 その合図とともに、調査隊のメンバーの半数がその場にへたり込んだ。


「はぁ...はぁ...一体さっきのはなんだったんすか...」

「やたらあの魔石に反応してたな...。だが、あれで正解だ。今はもう戦えそうにない」

「違いねぇ」


 ぼやいている様子から想像以上に疲労が溜まっている様子。ジェシカさんが魔石を手放さなかった場合、どこかのタイミングで信号弾を打つ羽目になったことだろう。その場合はパーティー全滅するか、かろうじて生き残るかの状況で厳しかったこと間違いなしだ。素直に手放してくれたことに感謝しなければならないだろう。

 そのジェシカさんは今まで通ってきた道の方を向いて、悔しそうな表情で視線を向けている。その視線の持つ意味まで詳細に読み取ることができないが、恐らく死亡した帝国の情報収集員に関する情報が殆ど得られなかったことと、唯一の手がかりである魔石をロストしたことだろう。今回の調査にとても張り切っていたし、ジェシカさんは今回の調査で死因や誰が殺したのかまで詳細に知りたかったのだろう。ジェシカさんから見ると調査隊の目的はほぼ未達成と言える調査結果だが、あの状況で怪我することなく帰って来れたことで十分だと思う。


 何はともあれ、魔物の大群による追撃がなくなったのでここからはイージーモードだ。さあ、宿舎に帰って調査結果を報告するとしよう。今頃宿舎では突如現れた統率の取れた魔物の大群で大騒ぎしたり、その大群が霧散して困惑したりして混乱している状況だろう。ゆっくり帰っても咎める人は誰もいないだろう。それに、自分も流石に気疲れしたから休憩したいかも。紅茶の一杯でも飲みたいところだね。

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