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2-59 即席パーティーによる調査2

(略しすぎています)

 現場に向かう道中、遭遇する魔物の数が少なくなっているように感じられた。普通だと森の奥に向かうにつれ魔物の数は多くなるにも関わらず、むしろ減少していた。その減少は偶然見つけた獣道に入ってからだ。明らかにおかしい状況に警戒心が強くなっていく。その一方で、調査隊のメンバーは顔色ひとつ変えずに進んでおり、特に疑問を抱いた様子もない。自分が経験していないだけでよくある状況なのだろうか?自分の勘違いなのだろうか?そう思いたいところだね。


 魔力反応があった場所に着くと、現場には大量の血痕が残されていた。地面に生えている草は何かに押しつぶされており、どろっとした血が付着している。その周囲にも血が飛び散っている辺り、相当な傷だったに違いない。

 そんなどこからみても事件の現場である光景にジェシカさんが弱々しく呟く。


「どうやら現場はここのようだな...」

「みたいですね。皆さん、周囲を探索してみましょう」


 調査隊にざっくりとした指示を出し、自分も現場の調査に入る。現場の光景を目の当たりにしたジェシカさんの反応が少し気になるけど、今は調査に集中だ。多分ジェシカさんと殺された帝国の情報収集員には関係があったと思うが、追求してもいいことはないだろう。ただ嫌な感覚が残るだけ。


 気持ちを切り替えて周囲の観察に入るが、よく調べるほど違和感が大きくなる。

 地面に生えた草が大きく踏みしめられているのは血痕があるこの場所だけだ。それ以外の場所では人が通ってきたと思われる下草を踏みしめた跡のみで戦闘の痕跡はない。つまり、帝国の情報収集員はこの場所で抵抗することなく致命傷となる傷を負ったことになる。

 戦闘がこの場で生じていないことから、魔物の線はない。それに、各国の情報収集員は単独で森の中を自由に行動できる程度には戦闘探索能力が高いため、殺された帝国の情報収集員も同様に能力があると言っていいだろう。そういう人が、魔物によって殺されるのはあり得ない。

 となると、人による殺害か?だけど、現場に残留する魔力は殺された人であろう1つの魔力しかなかった。現場の周囲に拡大すると2、3名程度増えるのだが、現場から少し距離があるのでこの人たちが殺害したとは考えにくい。第一、魔法を放ったら魔力が当たった箇所に魔力の痕跡が残るから魔法による殺害もない。

 そうなると、死亡した理由が謎に満ちてくる。魔物ではなく、人でもない何かによって致命傷となる外傷を受け、大量出血しながら死亡したというのだ。しかも、藻掻いていた跡があることから、即死ではない。自死にしては藻掻いている時点で考えられないしなぁ...。何これ謎でしかないぞ。


 あとこの場に残されている手がかりといえば、魔物とは異なる強力な魔力反応だ。反応から察して魔石っぽいし、多分死亡した帝国の情報収集員が持っていたものだと思うんだけど...。ってなんで1個だけ?


 そう考えていると、宮廷魔導士のブライアンさんがその魔石を見つけたようで、声を上げた。


「カオリさん、魔石を見つけました」

「なんだと?師匠、見てもいいですか!」

「え、いいですよ。ですよねブライアンさん」

「あ、ああ...」


 真剣なジェシカさんの凄い食いつきに驚きつつ魔石の観察に入る。魔石を持ってきたブライアンさんも同様に驚いた様子でいた。


 魔石は拳よりも2まわりくらい小さな紫色の魔石で、表面が少し濁っている。ぱっと見では低級の魔物からドロップする魔石と相違ない。だが魔力反応に違和感がある。魔石が保有する魔力量は多いのか、肌で感じ取れる魔力反応は中級の魔物からドロップする魔石に近いのだ。不思議な魔石で気になるし、魔石を詳しく観察するか。


「ブライアンさん、持ってみてもいいですか?」

「ああ」


 ブライアンさんから魔石を受け取ろうとして指が魔石に触れた瞬間、魔石から魔力が流れ込んできた。


「うわっ!」


 思いもしない現象に驚き思わず魔石を落としそうになる。手のひらの上でお手玉状態になりながらも、咄嗟に魔石からの魔力供給を遮断して魔石を握り込む。ふぃー。危ない危ない。魔石を弾き飛ばして失くすところだった。


「師匠、大丈夫ですか!?」

「おいおい、魔石に驚くなんて何年ギルドでやってるんだ」


 ブライアンさんが茶化してるところ悪いけど、自分は半年も経ってないです!


「こう見えても見た目通りですよ」

「エルフってのは見た目に反すると聞いているが?」

「ご想像にお任せします」


 ブライアンさんとの茶番はさておき、問題は魔石だ。魔石を握り込んだ手を開き、魔石から返ってくる魔力について調べていく。

 魔石に僅かに魔力を流すと、異なる魔力が帰ってくる。普通、魔石は自分と異なる魔力の基底を有しているので、魔力が流れ込んでくることはない。これは魔石に限らず魔力を有する有機物、無機物に限らず生じる理だ。だが、この魔石からは魔力が帰ってきた。理に反する明らかにおかしい現象だ。

 魔力遮断を部分的に解いて、魔石から帰ってくる魔力を詳しく分析する。なんか、闇の魔力が若干含まれているような気がする...。それに、不完全ではあるが魔力の基底が変換されて自分に近しいものになってるし、基底が読み取れないほど情報に欠落がある。何これ気持ち悪っ。とりあえず、ジェシカさんに魔石を渡しておくか...。


「はい、ジェシカさん」

「師匠、ありがとうございます」


 って、闇の魔力!????ちょい待とうか!自分の魔力に属性がないにも関わらず、魔石から返る魔力に属性を感じた。ということは、この魔石自体がMSDということじゃん!


「...」


 それに、闇の魔力を使う集団に覚えがある。それはマニューヴェ率いる集団だ。この集団は魔物の大量発生を引き起こしたり、学園の図書館を襲撃するなどの行為を行っている。闇の魔力がこの魔石から感じるということは、帝国の情報収集員殺害にその集団が少なからず関与をしている証拠となる。そんな集団が扱う魔石型MSDを見つけたとなれば、その正体がバレる前に全力で取り返しに来るはずだ。少なくとも自分ならそうする。あーーーもうカオリちゃんの頭髪無くなっちゃうよおおおおお!どうせどこかで見てるじゃないの、マニューヴェとやら!かかってきなさい!全力で魔石置いて逃げるので!


 その考えに至った瞬間、森の奥から薄い闇の魔力が放たれたのを感じた。この感覚、マニューヴェやゲセスターが魔物をコントロールした時に使用されたものと同じものだ。となると、魔物を自分たちに向かわせて現場の証拠を消しにきたか。ついでに魔石型MSDも回収できてハッピー的な感じだろう。そうなると相当数の魔物が押し寄せるはず。自分だけならともかく、調査隊のメンバーでは太刀打ちすることはできないだろう。


「やばい...」

「師匠、どうかしましたか?」

「その魔石を置いて離脱するよ!」

「一体それはどういう...」

「みんな、離脱準備!」

「「「「「「りょ、了解」」」」」」


 受動探知による魔物動きから察するに、コントロールされた魔物の数は300を超える。範囲を広げるともっといるだろう。見逃してくれると嬉しいが...現場に近づくことが許されない程度には攻撃を仕掛けてくるだろう。正面切って戦うのは愚の骨頂なので、全力で逃げたいところだ。

 そんな異常な魔物たちの動きをようやく感じ取った調査隊のメンバーは危機感を覚え始めたようで、表情が戸惑いから真剣なものに変化した。言葉を交わさずとも危機的状況であることを理解してくれて助かるよ。


「全員無事で張り切って帰るよ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

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