2-54 パーティーメンバーの反応と計画的な誤射による被害
(略しすぎています)
マスケット銃型MSDに素早く布を巻きつけて元通りにした後、サリアたちに結界を解除してもらって合流した。
この場が丸く収まったと思ったのは自分だけだったようで、サリアたちやアステラ国勇者組は何が起こったのかと矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。まあそうなりますよね!知ってました!
とりあえず最初はサリアとシルフィア、藤本の順に疑問を投げかけてもらうことにした。
「さっきの爆発音は何なの?」
「サリア、それは魔法を相殺した時の爆発音だよ。高火力だったからその余波が凄くていつもよりも大きな音が出たって感じ」
「それでこの結界は...その魔法から私たちを守るためですか...?」
「そうなるね。自分は魔法を放って魔法を相殺する都合で外にいた感じ」
「そんな危険じゃないですか!事前に言って貰えばなんとかなったかもしれないのに」
「相手の行動があまりに急だし、気づいてすぐに動けたのが自分しかいないからね...」
「「「そうですね...」」」
「「「...そうだね」」」
アステラ国勇者組はすぐにそうだと返してきたが、サリア、リナとシルフィアは答えるまでに溜めがあった。そしてその表情は少し悔しそうだ。もしかすると、魔法発動前の魔力で気がついていたのかな?となると、気づいてから行動にまで移せなかったことに悔しさを感じているのだろうな。
そして、何かを思い出したリナはシンプルな疑問を首を傾げながら聞いてきた。
「でも、その魔法って誰が放ったやつ?後ろだと...」
「リナの思っている通りだよ」
「「それってどういう」」
そう坂本と吉本が聞いてきた。他のみんなは察しがついていたようで、表情がより真剣なものになって押し黙る。
「2人とも静かに聞いてね。帝国勇者、田川と瀬賀の2人だよ」
「「ええええ!」」
「静かに聞いてって言ったじゃん...。無理ないけど」
「「ごめんなさい...」」
「でも、2人が攻撃する理由ないじゃん!」
「そうですよ~。いくら素行が悪くて馬が合わない横暴な方でもそこまではしないと思うんですよ~」
吉本よ...。めっちゃ貶しているけどそれでいいのか...?いいのだろうけど、結構な言いようだよ?でも、そんな吉本が帝国勇者組ではないかもと意見してくるのは意外だったな。吉本はおっとり系腹黒なので、バッサリ切ってくると思ったぞ。
「周囲の人が引き上げて宿舎に戻った以上、攻撃の方向とタイミングが揃うのは彼らしかいないよ。そして、何故魔法を自分たちに放ったのかは、自分も聞いてみたいところ」
思い返してみても、魔法を放っていた時の帝国勇者組の表情からは、明らかに故意であることが汲み取れた。その表情の中には躊躇いが存在しておらず、楽しんでいるようにも見えた。それはどう考えても一般的な思考を逸脱した行為だし、この行為に深い意味などないだろう。考えるだけムカついてくるだけだ。
「まあ、何はともあれ誰も怪我なくてヨシってことで...」
そう言葉を発した時、受動探知に誰かが近づいてきていることを察知した。この魔力反応は連合国勇者組のバックアップパーティーのジェシカさんと会議室前で話していた情報収集員のおじさんだ。その2人はかなりの駆け足で森の中を進んできているあたり、緊急の要件なのだろう。でも何のことだろう?
急に自分が言葉を止めたことで、サリアたちは周囲を警戒し始めた。
「誰かが近づいてきてる」
「数は?」
「2かな」
「いつでも行けるよう...準備してますね....」
サリアたちを放置しているとこのままだと攻撃し始めそうだし、止めておこう。
「ストップ、ストーップ!あれ仲間だから!」
「「「仲間?」」」
「そう仲間。だから警戒体勢解いて」
サリアたちは本当にそうなのか?と思いながら警戒を解いてくれた。そうすると、視界にジェシカさんと情報収集員のおじさんが現れた。ジェシカさんは周囲を確認して自分たちがいることを確認した後、おじさんと共にこちらへ近づいてきた。両者ともに結構焦っている様子に茶化す気配でないことを察する。
一方で、アステラ国勇者組とサリアたちはジェシカさんの姿を見るとテンションが上がっていた。ジェシカさんって結構人気がある人なんだなー。知らなかった。
「師匠、ご無沙汰してます!お怪我はないですか?」
「「「「「「師匠!?」」」」」」
「ジェシカさん、昨日ぶりですね。自分は元気にしていますよ。もちろんここのみんなも」
「ああ、怪我がなかったようで何よりです!師匠!ほっとしました」
「「「「「「ジェシカさん?」」」」」」
何やらアステラ国勇者組とサリアたちが盛り上がっていて色々話しているな。えっと、なになに?ジェシカさんってあの?そうですよ。赤髪のお姉さんで、スタイル抜群。しかも直剣ってなればあのジェシカさん!たゆんたゆんです!って最後の誰が言ったんだ?それにしても人気過ぎない?サリアたちにその事で少し話を聴きたいな?
そんな勇者組とサリアたちの話は置いておいて、自分はやってきた2人の近くに接近して会話を続ける。
「それで、お二人して森の中を走ってくるなんて何かあったんですか?」
「それはだな、帝国勇者組による同士討ちの情報を共有しようと向かっていたんだが、急に大きな音がしから何かがあったと走ってきたんだ」
「俺も同じだ。ジェシカさんとは先ほど合流してここにきたってことだ」
「そう言うことでしたか。情報ありがとうございます。その帝国勇者組なら先ほどここから離脱していきましたね」
何が起こったかは言わないでおこう。絶対ややこしいことになるし。
「先ほど?というと轟音よりも後か?」
「そうですね。後です」
「離れた位置から見ていたが、あの魔力反応とその音からしてかなり高威力な魔法だったはずだ。本当に大丈夫だったのか?」
情報収集員おじさん、それ聞いてきちゃいますか。正直には答えたくないし、嘘を言わない程度に答えるとするか。
「大丈夫でしたよ。魔法に含まれた魔力が弾けた程度ですので被害もないです。こう言ってはなんですが、今回は勇者の魔法技術の荒さに助かりました」
「魔力の大きさに魔法が崩壊したのか...それだと確かにあのような轟音が出てもおかしくない。運が良かったな」
「ええ、とても」
いい感じに勘違いしてくれているようで何よりだ。
「そう言えばジェシカさん、帝国勇者組による同士討ちの情報を共有しようという話でしたが、それはどういう話ですか?」
「ああ、順を追って説明しよう」
そう言ってジェシカさん自身が見てきたことを話し始めた。
ジェシカさんは連合国勇者組のバックアップパーティーとして魔物狩り演習に参加していたのだが、連合国勇者が何者かによる魔法攻撃で負傷して一時中断となった。周囲を確認してみると帝国勇者組が場所を移動しているのを確認したが、それ以外には魔物しか確認できなかった。
ジェシカさんは連合国勇者組を引き連れて十分な治療のために宿舎へ戻ると、出ていた他国の勇者組が何者かの魔法攻撃の余波で負傷していた。使用された魔法や状況から察して帝国勇者組としか考えることができないが、現時点では決定的な証拠が見つからない。だが、負傷したパーティーは口を揃えて帝国勇者組というワードが出てきた。なので、ジェシカさんはとりあえず帝国勇者組による仕業であると見ているらしい。
負傷していない勇者パーティーはアステラ国勇者組のみなので、怪我をしないように警戒を促そうと情報を伝えに向かっていると大きな音が聞こえてきたとのこと。
このことを何か知っていそうな情報収集員に話を振ると、大体あっているとの事だった。この件について情報収集員や高官、学園側が動いているかと質問してみたが、動けないという回答が返ってきた。恐らく、国家間の問題において十分かつ決定的な証拠が無い中で処分を下すことの身勝手さと、その判断を下した後の影響を鑑みると動けないのだろう。これが一度通ってしまうと、難癖で国家間の処分を下すとかできるようになるからな。被害を被った国としては、めっちゃ不満が溜まっているだろうが黙らざるを得ないだろう。帝国としては処分が下ったら適当な問題をふっかけて思惑通りにことを進めようとするのだろう。全く、帝国はいい性格をしている。
それで、帝国と帝国勇者組はこの問題を起こして何が嬉しいかという話だ。今回の魔物狩り演習でもパーティー負傷は減点対象なので、悟られないように魔法攻撃を放ち、相手を負傷させることで戦績ポイントを下げているのだろう。そうすることで、相対的に帝国勇者組の戦力が高いことが示される。何とまあセコイ手段だこと。
だが、それだと学園内や帝国国外からの帝国勇者組の評価はかなり下がってしまう。一応実戦ではそれなりの評価がされるだろうが、性格に難ありとあっては勇者としての運用に困ることも出てくるが...本当にそれでいいのか?世界と協調路線をいくなら全力で反対方向にいっているような気がするのだが...。
「それで、師匠はこれからどうされるつもりですか?」
「パーティーの方針ですか?そうですね...とりあえずみんなと話して決めようと思います。ですが、そう長く魔物を狩ることはないと思います」
「やはり、魔物の多さですか?」
「そうですね」
そう言って、ジェシカさんと情報収集員おじさんから視線を切って周囲を見渡すと、アステラ国勇者組とサリアたちが魔物狩りをして周囲の安全を確保している姿が見えた。そんな彼女らがバッサバッサと魔物を倒していくスピードにジェシカさんは唖然とし、情報収集員のおじさんは肩をすくめてその反応に無理もないと言う表情をしていた。
「この調子なので、多分すぐ疲れて戻ることになると思います。お二人もご一緒に戻られますか?」
「いえ、私はすぐ宿舎に戻ろうと思う」
「邪魔をしては悪いし、一応緊急の情報共有の名目で接触している。ここで失礼するよ」
「では、お二人とも気をつけて」
「師匠もお気をつけて!」
「お気遣い感謝する」
そう言って2人は森の中をかけて宿舎方向に向かっていった。
これで、周囲にはどのパーティーも居なくなった。受動探知で追跡している帝国勇者も西方面に向かっていてこの周囲にはいない。せいぜい危険なことは魔物くらいだ。ふぃー。これでこの場所がやっと安泰の地になった。こんな時間はそうそうない。もうちょっと魔物をぽこぽこして、この時間を噛み締めるとしよう。
「カオリちゃんへルプ!」
「はいよ!」
そう言って自分はアイスニードルで魔物を仕留めては落ちている魔石を回収する職人になるのであった。




