2-52 2日目の魔物狩り演習開始と状況の悪化
(略しすぎています)
会議室を後にした自分はサリアたちとアステラ国勇者組がいる場所に合流し、魔物狩りに向かった。向かう場所は昨日と同じく宿舎から見て南西方向の演習区画外縁部だ。そこへと向かっている道中には、演習区画の制限等や遅い時間帯もあってか、魔物と戦闘しているパーティーが多くいた。その数は昨日よりも体感2倍程度多く、戦闘時には他のパーティーの迷惑にならないよう心がけなければいけない程度に混雑していた。
そんな道中ですれ違う学生パーティーはアステラ国勇者組の姿を認識すると一瞬戸惑った表情をしたが、サリアたちや自分の姿を見ると安心した様子で戦闘を継続していた。演習区画の制限を念頭に魔物狩り演習をしている学生パーティーにとって、制限中の区域に勇者パーティーが現れることを恐れているようだ。だが、リリーガーデンを見ると通常運転に戻るのは謎だ。何を思っているんです?ちょっと思考が読めないよ?
そんな思考に囚われつつも、森の中の拠点に到着して今に至る。演習区画制限がなくなるまでに時間があるのでお茶会を開催しているが、あまり休まらない時を過ごしている。それは魔物に遭遇する数が昨日に比べると数倍多いからだ。拠点到着時に居た3パーティに警戒と魔物殲滅を任せていたが、時折キャパオーバーを見せることがある。その対応をしないといけないので、めちゃめちゃ心が休まらないのだ。
その上、魔素濃度は高く、これから魔物の数が増えてくるだろう。のんびり長期間魔物狩りをするという計画だったが、演習時間の短縮を考えないとサリアたちはともかく、勇者組の体力は持たない。というか、時間になって3パーティーが抜けた時には地獄が始まるんじゃない?魔物狩りハードモード始まりにつき、やばくない?
そんなことを思いながら紙コップに入れた紅茶を飲んでいると、シルフィアが声をかけてきた。
「カオリちゃん...何か気になることがあるんですか...?」
「ん?ちょっと魔物が多いからどう戦おうかなって考えてた」
「確かに昨日よりも多いですよね...。囲まれたら困りますので...1方向に進みながら戦うのはどうでしょうか...?」
「その戦い方はいいと思う。この状況で止まったら囲まれそうだし。でも万が一囲まれた時でも突破できるようにしておきたいよね」
「そうなると問題は体力ですか...」
「そう、考えてたのはまさにそこなの。シルフィアはどれだけ続けられそう?」
「えーっと...私なら3時間くらいでしょうか...今より多くなると2時間くらいかもしれません」
「シルフィアで3時間かぁ。なら勇者組は1時間ってところかな?」
「魔物狩りに慣れてませんし...魔法に気を使いながらだとそのくらいだと思います...」
「みんなの状況見ながらになるけど、そのつもりでいこうかな。シルフィアありがとう」
シルフィアもよく状況を見ているな。サリアに負けず劣らずの観察眼と状況把握能力だ。毎回思うけどリリーガーデンのメンバーって能力的に高い人多いな?ギルドメンバーであるサリアはともかく、リナとシルフィアはどこでその能力を身につけたんだ?少なくとも学園に入学する前からその素養があったことになるけど...また今度聞いてみるか。
紙コップに入った紅茶をまた一口啜って空を見上げる。綺麗に見えていた星空に雲が混じり始めている様子だ。流れる雲のスピードは早く、天気の崩れを予感させる。そんな光景にテンションを落としていると、遠くから戦闘音が響いてきた。
その方向を見ると、雲が照らされて明滅している。音が響いてくる感じからして、高火力魔法を放ちまくっている様子だ。それに、微弱ながらも伝搬してくる魔力は帝国勇者組が発したものだ。受動探知からは彼らの位置が自分たちと近くはないのがわかる。しかし、彼らが演習予定していた区域からは大きくこちら側にシフトしており、このままだと自分たちの居る場所に来そうな感じだ。今は関わりたくないし、こりゃよくない状況になりそうだな。
「この音は...どこかの勇者組でしょうか?」
「この派手さはそうかも。鉢合わせる前には魔物狩りを始めたいところだけど...ちょい早くて動けないんだよね」
時計のMSDを見ると時刻は23時をすぎた頃だ。演習区画の制限は午前0時までなので、制限を遵守するなら魔物狩りには早い。もどかしいな。いっそのこと、時間まで待っていたら魔物が襲ってきたので倒しまくりましたとか言おうかな?いやでも、監視がついているから受け身でないと制限を無視したと言われてしまう。制限が厄介すぎる!
そんなことを思っていると、拠点で魔物狩りをしていた3パーティーの代表者がこちらにやってきた。何の用だろう?
「カオリさん、私たちはもうそろそろ帰ろうかと思います。ですので、魔物狩りしてくださって大丈夫ですよ」
「少し早いですけど、いいんですか?」
「私たちはもう十分狩りましたから。おかげで、みんなクタクタです」
「そういうことですか。魔物が多いですし、帰りの道中もお気をつけください」
「お気遣いありがとうございます。カオリさんたちもお気を付けて」
代表者はそう言うと、自分たちに手を振りながらパーティーの元へと帰っていった。その様子を見る限り、少しこの場に留まるようだが5分もしないうちにこの場から撤収するだろう。そうなると、この拠点周辺にはアステラ国勇者組とリリーガーデンしかいない。素晴らしいタイミングだ。魔物狩りの時間がやってきた。それじゃ、動くとするか。
のんびりと雑談しているリリーガーデンとアステラ国勇者組に向けて伝える。
「はい、注目。ちょっと時間には早いけど、魔物狩りを始めます。ただ、時刻的にまだ制限がある時間帯なので、この場所で防戦のみになります」
そういうと、みんなは了解と言ってお茶会の撤収を始めた。そして、その作業を手伝いながら質問に答えていく。
「はい、質問です!」
「サリアどうぞ」
「この状況で防戦となると、厳しい状況になると思います。その場合、勇者との魔物融通はどうなりますか?」
「アステラ国勇者には申し訳ないですが、防戦に限り魔物融通はないものとします。ただ、各自状況を把握して戦力が薄い箇所のヘルプに回ってください」
「はい、質問があります!」
「藤本さんどうぞ」
「私たちが担当する方向はあるんでしょうか?それとも見つけた人が各自倒す感じでしょうか?」
「基本的には森側をリリーガーデン、広場側をアステラ国勇者組に対応してもらおうと考えています。なので、パーティー単位で対応してもらいます。もちろん状況を見て変更することはありますし、ヘルプもあるのでやばそうなら声を出してください」
それ以上質問が出なかったので、一度みんなの表情を見て行動方針に不満がないか様子を伺う。シルフィアを除いてみんなは納得したか、疑問を持っていない様子だった。一方でシルフィアは少し心配な何かがあるのか、浮かない表情だ。しかし、シルフィアはみんなに伝える必要性がないと判断しているのか、意見を発する様子がない。
そんなシルフィアに話を聞こうかと考えていると、シルフィアと目線が合った。すると、シルフィアは自分の側まで近づいてきて、袖をくいくいと引っ張ってきた。何か小声で言いたそうな感じだったので、顔を寄せて小声が聞き取れるようにする。
「囲まれちゃいますけど...いいんですか?」
「本当は嫌だけど演習区域の制限があるからね...。他国の監視もあるし、言い訳できる程度には守っておかないと後が大変になるから」
そんな理由だけに心配が拭えなかったのかシルフィアはまだ少し不安そうな表情をしている。不安がぬぐえない事は分かっているんだけど、どこかに移動しながら魔物狩りをしてしまっては制限に引っかかってしまう。森の中から完全撤退するなら制限外だが、時間潰しに動きまくるのはどう考えても制限に引っかかる。ここはシルフィアには納得してもらうしかない。気休めにしかならないけど、安心させることを言うとしよう。
「大丈夫。何かあれば自分がなんとかするから。任せて」
そう言うと、シルフィアは不安そうな表情から一転して、何かに驚いたように目を見開いた。その瞳は自分を見ておらず、どこか遠い何かを見ていていた。口が僅かに開き、どこか悲しいような寂しいような何とも言えない表情をしていた。だが、それも一瞬で元の表情に戻る。一抹の何かが含まれているような気もする表情に、少し心配になる。何かあったのかな?
「シルフィア?」
「え、あ、大丈夫です...おかげで安心しました...何かあったときは頼みますね」
「こう見えてもすごい人だからね。えっへん」
「...なんか急に不安が...」
「何でぇ!?」
ちょ、そこは安心する流れでは?解せぬ。
 




