2-51 限定的な制限と立ち聞きの話
(略しすぎています)
大暴れの銀髪をようやく整え終えた頃、アステラ国勇者組と話をつけていたサリアが戻ってきた。サリアによると勇者組は勇者組に融通する魔物の割合を下げることに同意するとのことだった。勇者組はこの件について、魔物狩りが大変すぎたから同じことを言おうとしていたらしい。難なく話がまとまって良かった。
演習開始までまだまだ時間があったので、アステラ国勇者組とリリーガーデンで適当に遊んだり、魔物や戦闘時のパーティー行動の座学をしたりして過ごした。そうするといい時間になったので、自分1人で演習予定地を知らせに会議室へ行くことにした。
照明に照らされた廊下を歩きながら外に目を向けると、空には綺麗な星空が浮かんでいる。森の方をみるとあちらこちらで閃光が見えているので既に魔物狩りをしているパーティーが多いようだ。そのためか、廊下を歩く人は自分以外におらず、とても静かだ。自分たちと同じく時間差で魔物狩りに行くのかなと思ったがそうでもない様子。シンプルに謎だ。
そう思っていると誰も居ない会議室に到着し、入ってすぐのテーブルに広げられている演習区域の地図の前に立った。
「めちゃピン多いな...」
地図の上に刺されているピンの数が多く既に多くのパーティーが演習中のようだ。勇者組は西側の演習区画外縁部に集中している一方で、学生パーティーはそれ以外の箇所に集中していて、明らかに勇者組を避けているようだ。
「誰も怪我をしたくないしそうなるよね」
地図から目を話して、ピンを取ろうとテーブルの上に置かれたピンの入った箱の方を見る。すると、注意と書かれた紙が置かれていた。気になるし読んでみるか。
「えーっとなになに?勇者優先で怪我したくなければ行き先を避ける?」
置かれている紙を詳しく読んでいくと、学園側は怪我の防止のために各国の勇者組は西側外縁部に限定されているとの事。限定されている範囲はかなり広く、緩衝地帯も設けているようで偶然の事故を防ぐようになっているようだ。これはなかなかいい策をしているな。一般の学生パーティーが行動できる範囲が少ない気がするが、いい塩梅にまとまっている。
ただ、この制限が適応されるのは午前0時までで、それを過ぎると勇者組は自由に演習区画を移動できるようになる。それに加えて、演習予定地までの移動時間はこの制限に当たらず、道中で遭遇した魔物狩りは許されているとのこと。なので、これから南西外縁部に移動を開始するアステラ国勇者とリリーガーデンは実質的に制限を受けないことになる。演習場所が制限されていたらまた話し合いをしないと行けなかったから、ありがたい限りだ。問題ないことが分かったし、さっさとピンを刺してしまおう。
逆に、学生パーティーが安全な魔物狩り演習できるのは午前0時までとなる。それ以降だと勇者パーティーはどこに動いてもOKとなるので、フレンドリーファーアーし放題だ。それを嫌っているから既に多くのパーティーが森に出ているのだろう。勇者組の高火力魔法を直撃して死んでしまっては元も子もないから、正しい判断だと思うよ。うん。体感したからわかる。廊下がとても静かだったことにも納得だ。
「森の中の拠点にピンを刺してっと」
今の所、ピンの周囲には学生パーティーのピンが刺されておらず、これなら魔物の奪い合いは発生しないだろう。多分その場所に行くまでが長いし、魔物の数も知れているから避けているのだろう。ラッキーだ。
無事にピン刺しできたので会議室から出ようとドアの前まで移動し、ドアノブに手を伸ばした時、部屋の外で誰かが話をしているのが聞こえてきた。
「...うまくいくと思うか?確かにパーティバランスは良くなるが、性格の相性的に難があるぞ」
「試験的な国家間の勇者トレードは良いと思うが、共和国の奴らを送り込まれた協商国はうまく回らんだろう」
「何にせよその結果は今晩にわかるな」
「間違いねぇ」
話しているのは成人の男性2人で少なくとも学生のような声ではない。受動探知から察して、会議室を出た廊下で話しているようだ。
それにしても、国家間の勇者トレードか...。戦力バランスの均衡を保つ目的かな?勇者側としては仲がいいクラスメイト同士で組める機会になっていいが、国家間の事情が優先されたら相性を考えない場合があるから最悪だ。同郷の身としてはできれば前者であってほしいところ。気になるし、もうちょい聞いていこう。
「結局、帝国とトレードに応じる国っていたのか?」
「いや、共和国でさえ応じてないな。多分話はあったんだろうが、他国の勇者本人から猛烈な拒否を受けたんだろう」
「まあ、確かにあの調子だとそうなるな。言っちゃ悪いが自国に置いているだけでもリスクだからな」
「そんなジャジャ馬帝国勇者を帝国機関が従わせてるんだ。どんなマジック使ったのか気になるところだ」
帝国勇者は国家間トレードに参加できていないか...。話からは帝国が理由というよりかは帝国勇者に問題があるようだ。となると、自分が思っていた以上に元クラスメイト間での孤立が深まっていることになる。孤立をさらに深めて傍若無人な行動をとらなければいいのだが、そうはなってくれるなよ?絶対面倒なことになるから!
「話は変わるが、アステラ国勇者のお付きが勇者よりもすごいらしいじゃねぇか」
「みたいだな。報告によると倒した数は勇者に劣るが、その手際は部隊並みらしいな」
「それはマジか?確か学年はまだ1年だっただろ?どこぞの手のものか?」
「いや、ないだろう。隙がありすぎるし、我々への対応も素人だ。加えて、そうならならもっと考えた活動するだろう」
「確かに言われてみればそうか」
「おいおい大丈夫か?あまりに暇だからってガセネタ掴んでくるなよ?」
「こっちは実働部隊と違って部屋の中で書類と結婚生活だ。そのくらいいいだろ」
おいおいおい。なんかリリーガーデンが噂になってるじゃん。それも個人的に悪い方向に!間違いなく過大評価なので、過小評価に直してください!
「そんな結婚生活を送っている中で、気になるやつは居ないのか?」
「アステラ国勇者のお付きの1人で、カオリっていう学生だな。魔法の火力と魔物の討伐数は知れているが」
「おいそんなの普通の学生じゃねぇか」
「まあ聞けって、攻撃受けた時の反応速度、魔法の精度、探知能力、パーティー指揮力そのどれもがずば抜けている」
「それは学生の範疇でか?」
「いや、我々の認識を超えてだ。記録では、勇者のフレンドリーファイアに気付いて攻撃を弾く、1人で広範囲の魔物に対処する、パーティーが危険に陥らないようパフォーマンスを管理し戦闘面のフォローも行っている」
「それは何かの間違いじゃないのか?」
「マジふぁ」
「ファ?」
「マジだ」
「噛んだか?」
「気のせいだ」
おいおいおい。ちゃっかり自分もしっかり監視されてるじゃん。パーティーのフォローしてることも見られているし、対応をマズったフレンドリーファイアの件もばれている。言い逃れはできなくて終わりです!もう安寧はありません!
「何にしても、そんな化け物みたいな奴が書類で上がってきている。気になるならそいつに付いてみたらどうだ?」
「確かに面白そうだ。今どこにいるか探すか?」
「当てはあるのか?」
「そんなの地図を見りゃわかる」
そう言うと、2人が会議室にドア近づいてきた。やばい!この会議室で隠れるところなんてないぞ?ロッカーは30cmの正方形で入れそうにない。終わりです!今度こそ詰みました!こうなったらヤケだ!真正面から行くまで堂々と部屋から出ていくぞ!
ドアを開けようとドアノブに手を伸ばした時、ドアが自動的に開いた。すると、迷彩服的な衣装に身を包んだ男性と、スーツを着た男性と目があった。あっ、スゥーーー。
「あ...」
「あってお前」
「どうも...カオリです...」
「カオリさん...話聞いちゃった?」
「話ってなんですか?」
「そ、そうだよな」
「マジふぁ?」
「噛みました?」
「カオリさん...話聞いちゃった?」
「な、何も聞いてないですよ?」
非常に気まずい思いをしつつ、お互いに自己紹介をしておいた。もちろん学生としてだ。2人はアステラ国政府の関係者であると自己紹介をしてきた。明らかに名言を避けていたが、姿を見れば間違いなく情報収集部隊であることは明白だったので具体的には聞かなかった。相手は情報収集のプロなので、多分所属も出鱈目言ってるだろうし聞いたところでどうにもならないしな。
そんな2人から他国の勇者の情報を教えてもらおうとしたが、他国の情報は気軽に言えないからと教えてくれなかった。代わりに、今の魔物の状況を教えてくれた。昨日よりも魔物の数は多めだそうだ。や、やったぁ...。とても気まずい。




