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2-45 演習中の来訪者と学園からの知らせ

(略しすぎています)

 軽く警戒しながら待っていたが、茂みの奥に見えたのはフラワーズのメンバーであるエミーさんとそのパーティーだった。見知った人だったので警戒を解いて、周囲を警戒しているサリアたちに引き続き周囲の魔物を狩ってほしいことを伝えた。加えて、森の中の拠点に戻って休憩する予定だとも伝えた。サリアたちは快諾すると、ウキウキで周囲の警戒に戻っていった。あまり魔物を狩れていないし、ちょっと暴れたりなかったのかな?

 そんな事を思いつつ、茂みを掻き分けやってくるエミーさんの方を見ると、エミーさんがパーティーメンバーに自分を指差しながら話している最中だった。手を軽く振って反応を返すと、それを見たエミーさんのパーティー全員が自分の方へと駆け寄ってきた。そして、エミーさんは自分に声をかけてきた。


「カオリさん、お疲れ様ですわ。アステラ国の勇者の皆様はいらっしゃいますの?」


 そう言ったエミーさんの口角は少し上がっていて、少し嬉しそうな表情が伝わってくる。他のメンバーも同様だ。怯えが感じられないことから、アステラ国の勇者組が誤射したのを咎めるという話では無い様子。エミーさんの他のメンバーも気づいていない感じだ。本来なら勇者組の監督者として謝罪をするべきだろうが、表向きの役割としては勇者組と共に行動をする普通のパーティーになっている。サリアたちにも同じように言っている以上、自分から謝罪することは色々不都合だ。少し心苦しさを感じるが、しゃあなしだ。すまぬ。


「エミーさん、お疲れ様です。勇者のみんなならいますよ。藤本さん、坂本さん、吉本さんちょっと来てくれますか?皆さんに用があるみたいです」


 少しテンションが下がって交わす言葉が少なくなり、地面に座っていた勇者組は自分の声に反応して自分の方を見た。勇者組の視線が自分の周りに人がいることを確認すると、勇者たちは互いに視線を交わして少し頷いた。そして、立ち上がると自分の方に向かってきた。その表情は少し覚悟が決まっている様子だった。


「皆さん、こちらはエミーさんです。そして、こちらがアステラ国勇者の藤本さん、坂本さん、吉本さんです」


 お互いに初対面のはずなので、軽くお互いの紹介をしておく。その紹介が終わるとエミーさんは勇者組に向かって一歩踏み出し、挨拶をした。


「初めまして。私はエミー・フォン・ツィリーですの。アステラ国勇者の皆さんとお会いできて光栄ですわ」


 エミーさんはそう言って勇者組に手を差し出した。勇者組は思っていた反応と違っていたのか、一瞬だけ反応が遅れた後、その手を取って握手をして挨拶を返した。3人全員の挨拶が終わった後、エミーさんは話を始めた。


「学園から勇者の方に緊急のお願いが出されましたので、私たちはそれを伝えに来ましたの。頂いた書面では前置きが長いので、結論から話しますわね」


 エミーさんは、メモを懐から取り出してその内容を読み上げ始めた。勇者組はその言葉を真剣に聞き始めた。


「学園として勇者の皆様には攻撃時に生徒を巻き込まないよう、魔法の適切な運用をお願いします。とのことですわ。それに至った理由を話しますわね」


 エミーさんの話を要約すると以下の内容だ。

 魔物狩り演習では同じフィールド上に多くの生徒や各国の勇者がいる。勇者が扱う魔法は強力であることから、攻撃範囲が広く近接した生徒に攻撃が及ぶケースを多く確認している。さらに日没後1時間で3件ほど生徒が重症となるケースが確認された。今後も同様のことが継続して生じるのであれば、演習の中断を考えざるを得ない。よって、勇者には攻撃対象や周囲確認を必ず行った後に魔法攻撃をするようにお願いする。


 読み上げられた文章からはマイルドな表現となっているが、その内容からは学園側は勇者によるフレンドリーファイア問題を重く見ているのが伝わってくる。そりゃそうだろう。アステラ国立第一魔法学園は他国からの留学生が多く在籍している上に、各国の勇者が集まってきているのだ。その中で傷害が起きてしまえば外交問題にも発展する可能性もあるだろう。

 さらにこの魔物狩り演習を広い点で捉えると、「複数パーティーによる領域内の魔物殲滅」と言い換えることもできる。自分勝手に魔法を放って仲間を負傷させる行動は、その趣旨に大きく逸脱していると言えるだろう。今後各国の勇者たちは一丸となって各国の軍と行動することになるだろうから、フレンドリーファイア問題を解消できなければ各国の軍が被害を被ることは間違いない。何にせよ目に余る自分勝手な行動に学園側は激おこという感じだ。

 だから、魔物狩り演習の真っ只中にも関わらず、人を寄越してまでお願いを伝えてきたのだろう。学園側の気持ちはとてもよくわかるぞ...。


 その話を聞いた藤本がエミーさんに言葉を返す。その表情はとても真剣なものだった。


「エミーさん、お話ありがとうございます。私たち一同気をつけて行動します。そして、エミーさんをはじめ皆さんに謝らなければならない事があります」

「藤本さんが私にですの?」

「ええ、そうです。私が未熟だったせいで魔法の制御ができず、エミーさんに誤射してしまいました。カオリ師匠のおかげで大事には至りませんでしたが、謝罪します」


 そういうと藤本はエミーさんとそのパーティーに向かって頭を下げた。すると、坂本と吉本も同様に頭を下げた。エミーさんとそのパーティーは少し反応に戸惑った様子であったが、その謝罪を受け入れた。


「勇者の皆様、頭を上げてくださいまし。私たちは被害を受けていませんし、重く捉えなくてもよろしくてよ。それに、初めてには失敗がつきものですわ。次から気をつけてくださいまし」

「ありがとうございます。気をつけます」


 勇者組による誤射は気づかれていなかった。なので、わざわざ自分たちの評判を下げるような事を言わない選択ができた。しかし、勇者組はその件について謝罪しなければならないという判断を下し、自ら実行した。それは中々できることではない。

 それに、この謝罪で勇者組の倫理観がしっかりしている事がはっきりした。力を持つと自己中心的な思考になり、自分がミスをしたのは相手が悪いという思考になる事がある。例に適しているか微妙だが自分の周りでは、貴族という立場から横暴を働いたゲセスターが挙げられるだろう。奴は相手の立場になって考えるなど、まっっっったくと言っていいほどなかった。だが、アステラ国の勇者組はそうではないようだ。今は力に溺れず、まともな倫理観で行動している。それは勇者の姿勢として素晴らしいものだ。greatですよ。


 勇者組の行動に感心したので首を縦に振る無限赤べこ状態になっていると、謝罪をきっかけに勇者組とエミーさんのパーティーが会話を始めた。これまたいい流れだ。そう思っていると、エミーさんが少し離れた自分に近寄って話しかけてきた。


「カオリさんまたしても、守っていただきありがとうございますわ」

「そんな、エミーさんが言うようなことじゃないですよ。勇者を案内するパーティーとして当然のことをしたまでです」

「それでもですわ。守っていただいた事実は変わりませんの。それにこんなところで負傷しているようでは折角の魔物狩り演習が無駄になってしまいますわ。そういった意味合いでも感謝してますのよ」


 そこまで感謝しなくてもいいんだけどな。ちょっと照れるぞ。

 頬を指で軽く掻いて緊張を紛らわしていると、気になったことを思い出した。それはエミーさんたち一行が自分たちに向かって真っ直ぐに向かってきたことだ。せっかくだし、ちょっと聞いてみるか。


「そういえば、エミーさんたちはよくこの場所が分かりましたね。森の奥深くで迷いやすいでしょうに」

「事前にリリーガーデンの行き先を見てきましたもの。それに、勇者さんの使う魔法が豪快ですので聞こえてくる轟音を頼りに向かっていましたの。迷うはずもありませんわ」

「あー...納得です」


 とは言ったものの、ここは演習区画の外縁部だ。それに申請した行動予定の位置からは少しずれている。勇者の放つ豪快な魔法の音を頼りにやってきたと言っているが、勇者が行動するのは散発的で少なくとも5分の間隔がある。その間、リリーガーデンと勇者組は魔物を求めて森の中を移動している。そんな中、エミーさんは真っ直ぐこちらにやってきた。それは不思議なことでは無いだろうか?

 見たところ単なるお嬢様なのだが、森の中でも方向を見失わない能力、自分たちの居場所を見つけた能力があるのは引っかかるところだ。ここが異世界だからだろうか?貴族が危機を脱する能力を身につけるのが常識であり、それらのスキルを叩き込まれるのが普通なのだろうか。うーん。わからん。だが、直感的には普通じゃ無いんだよな。

 少し引っかかるが、この演習に参加している生徒だけあって能力が秀でているのだろう。そう思ってこの思考を一旦放棄することにした。


 勇者たちの方を見ると、エミーさんのパーティーメンバーと話をしている。その様子からは少し元気が出ているようにも感じられる。それに話が弾んでいる様子でまだまだ続きそうだ。

 ここで休憩を続けるのはサリアたちに負担がかかるし、一旦森の中の拠点に戻るとするか。あそこなら開けていて索敵もしやすいし、休憩もしやすいはずだ。


「エミーさんのパーティーが来てくださりましたが、これから本格的な休憩にしようと考えています。話が弾んでいるようですし、エミーさんのパーティーも一緒に休憩しませんか?」

「それはちょうどいいですわ。ここまで来るのにかなり疲れましたので何処かで休憩しようと思っておりましたの」

「なら決まりだね」


 エミーさんも休憩したいようでよかった。話がスムーズに進んで助かる。それじゃ話もまとまったことだし、呼びかけるとするか。


「はい、注目!これから、森の中の拠点に向けて移動します。そこで本格的に休憩をします」


 この場に居るメンバーからの了解を聞いたので、この場のメンバーにはすぐに動けるように準備をしてもらう。この場に居ないサリアたちは行動の決定に関わらなかったからついて少し不満に思うだろうな。暴れたり足りなそうな感じだったし。と思っていると、サリアたちが茂みをかき分けながら帰ってきた。


「魔物も多く出てき始めたし」

「体も温まってきましたし...」

「ノリに乗ってきたところなんだけどなー」

「「「チラッ」」」


 めっちゃ不満そう。あと、チラッはオノマトペであってわざわざ言うような言葉じゃ無いのよ?不満感めっちゃ伝わっちゃうよ?ってそれでいいのか。


「勝手に決めたのはごめん。だけど、休憩したい人も多いからどうせなら警戒しやすい場所に戻ろうって思ってる。マルチパーティー行動の宿命だから許して」


 申し訳ない気持ちを伝えるために、手を合わせて頼み込むと、サリアたちは不満そうな表情を一転させて破顔した。


「うそうそ、分かってるよ。私たちも結構な魔物を狩ったから休憩しようと思ってたところなの」

「集中力が落ちてきたっていうのもあるけど」

「ポケットがいっぱいになっちゃいまして...」

「え、待って周囲の警戒を頼んだ間にどれだけ狩ったの?」

「えーっと20体くらい?」

「15体くらいじゃない?」

「正確には...23体です...」

「めっちゃ狩ってるじゃん(白目)」


 おいおいおい、そんなに狩られちゃ勇者組と同じくらい狩ってることになるじゃん!うおおおおおおやばい!これ、そこら辺に潜んでいる各国の諜報員の目についちゃったよね!オワタ式どうにでもなれ祭り開催です!

 いや待て、ここから勇者組を猛特訓して無限に狩らせれば何とかなるはずだ!人払いが必要だろうが、何とかするとしよう!頼んだぞ勇者組!

 そう思いながら視線向けた先には呑気にお菓子を啄む3人の姿があった。だめだこりゃ...。他の案を考えるとしよう。

文章中の「まっっっったく」は誤字ではなく仕様です。一応、念のため。

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