2-42 魔物狩り演習の行動方針
(略しすぎています)
気持ちを切り替えてサリアたちとアステラ国勇者である、元クラスメイトの藤本、坂本と吉本がいる宿舎へと向かう。宿舎の出入り口では生徒たちが押し寄せており、かなり混雑していてなかなか通れそうにない。演習の安全対策の一環として今日の行き先を予め報告する必要があるからそのために押しかけているのだろう。そんなに早く報告したとしても魔物が発生するのはもっと後だよ?今は気楽にしてもいいのに。
そんなことを思いながら、混雑した出入り口を通り過ぎて宿舎の中に入った。宿舎の広いロビーには見知ったギルドメンバーたちが立ち話をしていたり、見慣れない豪華装備に身を包んだ人が話し合っていた。多分後者は宮廷魔導士かな?そんなことを考えながら視線を向けると、宮廷魔導士のうちの1人が自分の方向に振り返ってきたりした。視線は合っていないので誰の視線か分かっていない様子だが、この混雑した中で反応する感覚はすごいものだ。漏れ出る魔力も少なめだし、魔力制御もかなり高度なものだろう。さすがは宮廷魔導士だ。何もかもレベルが高いな。知らんけど。本当に。あ、でも何かが起きた時はとても当てにしていますよ?これは本当ですはい。今日は一般生徒しているのでよろしく頼みます!
そう言えば、ギルドの受付嬢であるミカさんが特殊魔動騎兵隊の小隊が来るって言ってたな。どういった人たちなのか、何が特殊で騎兵隊なのか全くわからないけど、宮廷魔導士に並ぶ多分すごい人たちなのだろう。こちらも当てにしてますよ。
この魔物狩り演習の警備隊に期待しつつ宿舎内の廊下を歩き、サリアたちがいる会議室へと向かう。途中、魔力や魔法が使われているのを感じたりした。その出所は廊下の壁に背中を預けて資料か何かを見ているお兄さんやお姉さんだ。何処にいても馴染むような戦闘用の装備に身を包んでいて、森の中にいても宿舎内を歩いていても宮廷魔導士のように浮くような存在ではない。多分だけど、勇者関連で情報収集しているどこぞの部隊なのだろう。あー嫌だ嫌だ。関わりたくないので、無視に限る。
そんなこんなでサリアたちがいる部屋の前までやってきたが、何やら扉の向こうの気配が変だ。アステラ国勇者とサリアたちが仲良く?話している声が聞こえてくるものの、どこかピリピリしている。だが、ピリピリとしたものは互いに向かっているものじゃない感じだ。えー、何ですかこの空気。この中に入っていくのが躊躇われるのだけど...入らなきゃいけないんだよね。
そう思いながら、ノックをした。すると、扉の向こうの緊張が増した。これ警戒されている感じだ。一応、何があっても避けれるようにしておこう。
「入るよー」
そう言いながら扉を開けると今にも飛びかかってきそうな勇者たちと、そんな彼女らを抑えているサリアたちが居た。あー。なるほど。自分が見知らぬ誰かと勘違いした感じだな。そんなことを思ったのも束の間、勇者たちの勢いがつきすぎていたのか抑えていたサリアたち諸共自分がいる方へと倒れた。気持ちはわからなくもないけど、何やってんだか。
とりあえず、一歩部屋の中に入ってドアの鍵を閉める。
「みんな警戒しすぎ。気になるのもしょうがないけど、ほどほどにね」
「「「「「「はーい」」」」」」
と言うか、会議室なんだし防音用の結界だってあるでしょ。例えば部屋の明かりをつけるスイッチの近くとか。視線を向けると、案の定防音用結界の起動スイッチがあった。なので、そのボタンを押して起動させた。
防音用の結界は室内全体を包み込み外界との音のやり取りを遮断した。念の為、起動している結界に含まれる微妙な魔力から発動している魔法に関する情報を見てバックドアが無いことを確認した。この部屋の様子を伺うような人は結界を張ることを想定済みだろうから、果たして意味のあるものか疑問だが...。気にしないでおこう。というか、聞かれて困るようなことを話すつもりはないよ?
「とりあえず防音用の結界を張ったから大丈夫だよ。みんな勇者が気になるんだろうね」
その言葉に少し疲れている様子のサリアたちが反応する。
「部屋の外から魔法が飛んでくるし」
「変な視線を飛ばしてくるし!」
「何が何やらって感じで...」
「「「疲れたー」」」
「魔物狩り前からこれじゃ大変だよ?」
「「「うへー」」」
サリアたちは会議室の中央に置かれているテーブルを取り囲む椅子に座ると、テーブルに突っ伏した。よほど疲れている様子だ。サリアたちは受動探知でこの会議室を監視する人たち?による魔法に気づいてしまったのだろう。そして、気づいてしまったからには対象を監視し続けるために、慣れない受動探知を使い続けることになった感じかな。そりゃ、かなり疲れるものだ。休ませておこう。問題は...。
「で、勇者さんたち。自分を確認する前に襲おうとしたよね?何か言うことは?」
「「「ごめんなさーい!」」」
「よろしい。演習地である森の中では草木が生い茂って相手を見失いやすい。そんな時闇雲に攻撃したら仲間にも攻撃しちゃうかもしれない。だからそこのところは注意深くね」
「「「はーい...」」」
勇者組の3人は自分に注意されて反省する。その勇者組は演習中の戦闘スタイルとして、視界に映ったら対象をコロコロする感じで行こうとしていたのかも。それゆえにパーティー行動では基本的な、攻撃対象の確認を疎かにしてきたのだろう。となると...学園では一体何を教えているんだ...勇者でない生徒の方の安全面も考えて?勇者が使う魔法の威力は高すぎるからコロコロは余裕よ?
おっと、そんなことを考えている場合じゃなかった。この場所にみんなを集めたのは演習中での行動方針を決めるためだ。このまま雑談も悪くはないけど、さっさと決め事を話し合っておこう。
「それじゃ、みんな座って。これから方針を決めるよ」
そう言って中央のテーブルに座るように促す。勇者パーティーはサリアたちに向かい合うように座り、机に突っ伏していたサリアたちは起き上がる。それぞれが話を聞く体勢となり、程なくして話し合いの準備が整った。
「それじゃ、もう互いに知っているかもしれないけど改めて自己紹介から。まずはリリーガーデンの自分から。自分はカオリと言います。得意魔法はアイスニードルと魔力刀でオールラウンドに戦闘補助をしています。よろしくお願いします。こんな感じで、サリアから」
そんな感じでサリアたちに振ると、ちょっと緊張した感じで自己紹介を始めた。めっちゃ仲良しなさっきのテンションはどこいったんだ...。もしかして気を張ってたテンションでいたからかな?
「私はサリアと言います。パーティーの中衛として中衛で短剣と風属性の放射系魔法を使い分ける戦い方をしています。よろしくお願いします」
「リナと言います!パーティーの前衛で太刀をやってます!土属性のエンチャントで戦ってます!よろしく!」
「私はシルフィアと言います...。後衛から攻撃魔法で前衛の補助をしています...。よろしくお願いします...!」
ちょっとだけ緊張した3人の自己紹介をアステラ国の勇者は緊張せずに聞いている。まあ、結構な人数から挨拶されているから慣れているのかも。単純に立場が上というのもあるかもしれないが。
「それじゃ、お次はアステラ国勇者どうぞ」
「私は藤本美穂です。風魔法の弓使いで前衛をサポートするスタイルです。よろしくお願いします」
「坂本絵梨花って言います!前衛で雷属性のエンチャントをした刀で戦うスタイルです!よろしくね!」
「私は吉本紗耶と言います~。光属性魔法による補助魔法で回復支援、攻撃魔法で前衛の支援をやっています~。よろしくお願いしますね~」
緊張の文字すらない勇者3人の自己紹介をサリアたちは少しリラックスしているが気を張っている様子で聞いている。目上の人の話を聞くというよりも、ギルドでの依頼内容を聞く感じに近い感じだ。勇者という肩書きを持つ相手と一緒にいるのがそうさせるのだろうか。
「お互いの自己紹介が済んだということで、このメンバーが集まっている理由をお話しします。学園側からの要望でこの演習におけるアステラ国勇者のガイド役として、リリーガーデンであるこのメンバーが任命されました。なので、この演習では共に行動を共にすることになります」
この辺の話はお互いにしているので、両サイドとも驚いたことはない様子だ。それじゃ内容に入ろう。
「そこで、お互いのパーティーが魔物を狩るペース、行動する演習区域などを決めたいと思います。まずは互いが魔物を狩るペースから。何か意見はありますか?」
そう問うと勇者パーティーの藤本が発言した。
「私たちは魔物討伐が上手くなりたいと考えてます。なので、できる限り魔物を狩っていきたいと感じています」
「なるほど。では、リリーガーデン側は何か意見はありますか?自分としてはみんなに任せます」
自分としては勇者にはめっちゃ狩ってもらう事が一番都合がいい。各国のお偉いさんがいる以上、リリーガーデンが目立つと碌なことが起きかねないからな。でも自分だけでそれを決めると、サリアたちは不満に思うだろう。だから、サリアたち自身で決めてもらうために質問を投げたわけだ。
そんな質問を受けてサリアたち3人でヒソヒソ話を始めた。だが、その話も1分経たずに終了し、サリアが決まったことを話し始めた。
「私たちは魔物に会敵した3回に1回の討伐ペースで良いと考えています。その代わり、索敵を任せてもらえたらと思います」
サリアたちは前回の魔物狩り演習で魔物を狩るための単純な戦闘力があることを確認したから、今度は索敵を頑張りたいという考えだろう。それならちょうどいい。問題は勇者側がこちらの要求を受け入れてくれるかだが...。
そう思いながら、アステラ国勇者の藤本に視線を向けると何も問題がないという表情で話し始めた。
「わかりました。リリーガーデンが良いのであれば、その条件でいきましょう」
勇者側がリリーガーデンの提案を問題なく受け入れてくれてよかった。ここが一番揉めると思っていたから正直ホッとしたよ。
「魔物を狩るペースが決まったので、次に演習区域のどこに行くかですね。何か意見はありますか?」
これは別にどこに行こうと問題無いのだが、できれば他の勇者が行かないところでおk!という話で纏まったらなら色々都合がいいよね。
そんなことを思っていると、アステラ国勇者の坂本が勢いよく意見をした。
「はい!何か区域の情報はありますか?それがあると参考になると思うので!」
「わかりました。前回行った魔物狩り演習では拠点から西方面の方が魔物が多く発生するようです」
「では、西方面がいいってことですか!?」
「そうとも限りません。魔物が多く発生する代わりに人もそちらに集中することになりますから逆に魔物との戦闘頻度は減ると思います。魔物との遭遇頻度は下がりますが、南西方向は人が少ないので狙い目ですね」
「でも人が少ないってそれなりの理由があるんじゃないですか~?」
アステラ国勇者の吉本がそう言ってきた。確かにその通りだ。昨日調査しにきた時には、演習区域外苑部に近づかないと魔物がいなかったからだ。それは何か問題が生じているからではなく、単純な区域の特性でそのような魔物発生状況になっているのを確認しているので安心だ。
「そうです。魔物が発生しやすい場所が演習区画外縁部になるのでそこまで移動する必要があります。単純に場所に行くのが大変なので行かないのでしょう」
「そうですか~。でも人がいない分動きやすいってことでですよね~?ならそこでよくないですか~?」
吉本はそう藤本と坂本に問いかける。2人は問題ない様子。
「攻撃に巻き込む危険性がないのはいいね」
「その分周りを気にする必要ないから楽だよね!」
それはそうだけど、攻撃前には気にする必要あるからね。というか必ず確認して!攻撃範囲の管理は重要よ!?自分たちをコロコロしないでね?
そんなことを思いつつ、サリアたちに話を振る。
「みんなは南西方向でいい?」
「「「いいよ」」」
「それじゃ、南西方向の演習区域外縁部に向かうとしたら出発は5時間後くらいが最適かな。みなさんは5時間後に宿舎のロビーに集合でいいですか?」
「「「「「いいよ」」」」」」
今回の魔物狩り演習で重要となる主要な決め事はすんなりと決まった。あとは怪我なく何も起きないまま全日程を終了するだけだ。あ、でもアステラ国勇者にはフレンドリーファイアしないように気をつけてもらわないとだ。そのためには、魔物狩り演習を始める前にちょっとした訓練をしておいた方がいいな。
「ならそれまで、一応解散とします。それまでは自由としますが、アステラ国勇者のみなさんは集合時刻の1時間前には集合してください。魔物狩りに関する特訓をしますので!」
「「「えー」」」
「不満そうにしないで...後ろから魔法撃たれた時には終わりそうなので頼みますよ」
比喩ではない。手加減されていない純粋な攻撃魔法を食らったら本当に命が終わりそうなのだ。特訓をしたとしてもすぐに身に付くものでもないから、ある程度警戒度を高めておく必要がありそうだ。今回も気楽なピクニック気分ではいられないだろうなぁ...。
 




