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2-41 魔物狩り演習の開始ときな臭い情報

(略しすぎています)

 どうも、銀髪ロリエルフになった者です。今は真昼で、街を覆う壁の外にある森の中に来ています。その森の中にある宿舎周辺区域で行われる学園主催の2泊3日の魔物狩り演習に参加するためです。ですが天気は曇りで、日程後半にかけて天気が崩れるみたいです。半分ピクニック気分でいたのでちょっとショックだったりします。


 そんな少し落ち込んだ気分のままサリア、リナとシルフィアと共に宿舎前の広場で開会式が始まるのを待っている。サリアたちは練習した受動探知を実践で試したいのか、テンションが上がっている様子だ。そんなテンションだと最終日まで持たないんじゃない?大丈夫か?などと思っていると、学園の講師が前に来て話を始めた。


「静粛に!これから学生主体とした魔物狩り演習の開会式を始めます。まずは、開催の挨拶から」


 そう言うと学園の講師に代わり、学園のお偉いさんが前へと出てきた。そして、ありがたい長い話が始まったので聞き流しつつ周囲を観察する。


 自分たち1年生は最後尾の集団に居て、その前に2年生、3年生と参加するパーティーの集団が続く。そして、最前前には各国の勇者が並んでいる。各国の勇者たちもとい、元クラスメイトたちはリラックスした様子で話を聞いており、緊張など皆無な様子だ。だが、3年生集団は少し緊張した様子だ。

 と言うのも、生徒と勇者と向き合うように並んでいる先生方に混じって、各国のお偉いさん?みたいな人が複数名いるからだ。戦闘が起きると真っ先に突っ込んで片をつけてしまいそうな屈強そうな人たちで、胸の辺りにはバッジが多く並んでいる。多分各国の軍または自衛組織の人たちなのだろう。

 3年生となれば学園を卒業して就職するか進学するかを判断するタイミングだ。留学生の就職組としてはこの演習で戦闘能力を示し、良い印象を植え付けてスムーズな就職をするチャンスとなる。そりゃ、3年生の集団が緊張するのも無理は無い。


 だが、今回の魔物狩り演習のメインは勇者たちの実践訓練と戦闘能力の評価だ。各国の勇者が一堂に会する機会は貴重であり、国の視点からすると他国の勇者の戦闘能力を評価するいい機会だ。ここにいる魔物が低級すぎて正しく評価できるのかは疑問だが、戦闘の向き不向きなどの検討は付くだろう。その情報を得て何を目論むのかまでは検討がついていないが、どうせ碌なものではないだろうな。巻き込まれるととても困ることになるので、目を付けられない行動が1番いいだろう。


「えー、では次に演習中の評価項目の説明ですがー」


 前で担当者が話している評価項目に関する説明を要約すると、討伐した魔物のランクとその討伐数の積を取ったものの合計が基本の得点となる。そこから重大な負傷回数や無計画な行動などで減点されて残った得点が最終得点となり、パーティーとしての戦闘能力が数値で評価される。この辺は前に行った魔物狩り演習と同一のルールで分かりやすくていい。ルールに関しては何も気にしなくても大丈夫だろう。


 しかし、何も気にせず魔物を狩まくったら良いかというとそうでもない。今回の目的は勇者の戦闘能力評価であり、自分がリーダーのリリーガーデンはアステラ国勇者パーティーと共に行動する事が決定されている。この演習の趣旨や各国のお偉いさんの視線がある以上、リリーガーデンよりもアステラ国勇者に魔物を狩ってもらわないといけない状況だ。

 さらに、自分たちリリーガーデンは各国勇者パーティーよりも多くの魔物を狩ってはならない。これは、各国のお偉いさんの目に留まらないようにするためだ。下手に狩っていると勇者よりも強いパーティーってなんぞ?やばくね?要注意人物だとメモられてしまいかねない。

 そのため、如何にアステラ国勇者の戦績を積ませながら、リリーガーデンとして無難な戦績を残しつつ、お偉いさんに目を付けられないように行動する必要がある。その字面だけで考えるのも面倒だ!頭が痛くなってくる!今すぐ辞退してピクニックしたいですね!はい!


「以上をもちまして開会式を終了とします。以降は自由行動とします。ですが、皆さんの安全のため配布した紙に記入している事項は守ってください。では、解散してください」


 色々頭を悩ませている間に開会式が終わったようだ。周囲はざわめき立ち、宿舎へ帰ったり、下見に向かったりと各々行動を始めた。さて、リリーガーデンとしてはどうするかな。

 真昼間は森の中でも魔物がほとんど居ない。例外はあるだろうが、経験則でそう感じている。なので今から森の中に入っていってもやることがない。なので、自分としてはリリーガーデンとアステラ国勇者で集まって、今後の方針を話し合いたいところだ。どのみち、魔物を狩るペースなどについて協議が必要だし、やる事がないうちにこの辺の話を済ませておいたらいいだろう。他のメンバーがOKならそれでいきたいところだ。さて、みんなに聞くとするか。


「みんな、暗くなるまで何するか案ある?」

「下見は前に来た時に済んでるし...」

「模擬戦!って言っても今から体力使うのは違うよね...」

「魔物に関する情報も十分ですから...」

「「「特に無いかも」」」


 おうおう、今日も今日とて仲良しだな。


「なら、演習ではアステラ国勇者と一緒に動くし、今からみんなで集まって今後の方針を決めるために話し合いしない?」

「「「さんせーい」」」

「わかった。それならアステラ国勇者にも声かけてくるよ。15分くらい後に合流するから、みんな宿舎の空き会議室借りてそこで待ってて。空いてなかったら宿舎1階ロビーで」

「「「了解!」」」


 サリアたちは宿舎の空き会議室を借りるため、すぐに移動を始めた。自分もアステラ国勇者を呼びに行くとしよう。アステラ国勇者が既に今から動く予定を立てているかもしれないが、共に動く関係上妥協してもらおう。とは言え、アステラ国勇者たちを探さないとな。どこだ?

 適当に歩きながら各国の勇者たちが居た方向を見ると、勇者たちに聞きたい生徒で壁ができていた。その壁は厚く簡単に入れそうなものじゃないけど、手当たり次第に壁に突っ込んで確認するしかなさそうだ。いやでも待てよ?そうしなくても受動探知でなんとかなるか。アステラ国勇者の魔力情報は記憶しているし見つけられるだろう。ナイス自分!それでいこう!


 さて、受動探知だ。瞳を閉じて無数に漂う魔力を肌で感じる。その反応を脳内でマッピングしていく。数が多すぎて何が何やらわからないので、特に魔力が強いものに注意を向ける。すると、人だかりの中心にいる人たちがそれに該当した。勇者のみんなは魔力操作が雑だから魔力が駄々洩れでわかりやすくて助かるところだ。さて、この中で魔力情報に合う人たちは...。見つけた。ってもう宿舎の中じゃん。しかも、サリアたちと一緒にいるぞ。もう合流してるの早くない?受動探知を早めに使っておいてよかった。苦労して壁の中に突っ込んで探し回るところだった。


「ふぃー。それじゃ、向かいますかー」

「ほら、やっぱカオリの嬢ちゃんじゃねぇか」

「ま、まさか師匠がこちらにいらっしゃるなんて!」


 聞き覚えのある声のした方を振り返ってみると、ギルドメンバーのモリスさんと...あれは誰だ?確か、魔力刀のレクチャーをした人...あ、連合国勇者の護衛パーティーの1人であるジェシカさんだ。とりあえず、手を挙げて挨拶するとしよう。


「モリスさん、ジェシカさんどうも。いらしてたんですね」

「おうよ。今日はギルドから宿舎周辺の護衛任務で来ている。カオリちゃんは任務じゃないのか?」

「はい。今日は一般生徒ですよ」


 勇者の護衛みたいなのはするけど、その辺は触れない方がいいだろう。とはいえ、ジェシカさんが師匠と言ってる人なんてどこにいるんだ?弟子なんてとった覚えないし...。聞いてみるか。


「ところでジェシカさん、師匠というのはどちらに?」

「何をおっしゃる!師匠とは貴方様ですよ!カオリ様!」

「why?どゆこと?」

「魔力刀を教えていただいたあの日から、師匠にまつわる伝説の数々を耳にしてきた。そして私は思ったのだ。すごいお方なのだと!そんな方への尊敬の念を込めて師匠とお呼びしている!」

「わ、わーお。そうですか」


 すごい熱量だな。ベクトルは違うけど、ギルドの受付嬢のミカさんに近いものを感じるぞ。気があるんじゃないかな?

 ジェシカさんの熱量に圧倒されていると、ジェシカさんの話が長くなることを察してかモリスさんが話を始めた。ありがてぇ。


「しっかし、カオリちゃんを見つけられてよかった」

「と言いますと?」

「この演習の任務を受けてから関連した情報を集めておいたんだが、きな臭さが増してきてな。その根拠となる情報を共有して警戒しておこうってわけだ」

「...それはまじですか。気になりますね」


 嫌だーもー。だって何かおるの確定じゃないですか!でも聞かない選択肢は無しだ。回避策があるかもしれないからね!


「それが、アステラ国の西側に複数の密航船の残骸が見つかってな。爆破処理されて誰が乗っていたか証拠は掴めねぇが、規模からして40名程度はいたと推測されるって話だ」

「なるほど。それっていつの話ですか?」

「事がわかったのはつい3日前だ。この演習を狙うにはいいタイミングとしか考えられねぇ」


 確かに。アステラ国の西側からこの演習地まではそれなりに距離があるが、少なくとも4日走り続けさえすればこの地には辿り着く可能性は十分ある。移動手段を確保していたならば2日、かなり頑張れば1日と言ったところだ。タイミングとしては十分にありうる。


「師匠、さらに情報があるのだ。師匠は以前に話た事は覚えているだろうか?」

「話というと、攫われた獣人が別の街で暴れ出し、全身から血を吹き出して死ぬっていう奴ですか?確か噂話という話でしたね」

「そう、その話だ!実は、その話について帝国を行き来する友人から聞いたんだが、実は2週間前を境に帝国ではその噂がされなくなったんだ」

「2週間前というと、話をしてくれてから1週間後くらいからですか」

「そうなる。それまでは噂話が立つと、屋台が無くなった痕跡があったり、家が急に売地になるといった事が確認されていた。だが、その2週間前を境に噂話がなくなり、そう言った痕跡も無くなった」


 なるほど。ジェシカさんは密航船が帝国からのものと見ていて、そこに極悪犯が乗っていたと考えているわけだな。と言うことは


「...つまり、ジェシカさんは帝国内で問題を起こした犯人が帝国での用事を済ませ、船で脱出した可能性がある。その船がアステラ国西側で確認された密航船だと?」

「そうだ。そして帝国からアステラ国までは1週間ほどだ。考えすぎかもしれないがな」


 だが、その話が本当だとすると1週間ほど何も事件が起きていない時間がある。定期的に帝国内で事件を起こしてきた極悪犯がアステラ国でも同様の事をしないと言うのは筋が通らないんじゃないか?もしかして自分が話を聞いてないだけか?何か事件が起きていないか聞いてみるとしよう。


「では、密航船が確認された地域でそのような話は?」

「ない。そこが腑に落ちないところだ」

「...なるほど。この件についてはなんとも言えないですが気に留めておいたほうがよさそうですね」

「よろしく頼む」


 ジェシカさんは真剣にそう言った。モリスさんとジェシカさんの話を結びつけるにはまだまだ情報が足りないが、妄言と言った類ではない様に感じる。噂の域を出ないけど、そのリスクを考えないのは違うレベルだ。

 モリスさんはこの話について、補足したいところがあるのか発言をした。


「とまあ、情報を集めてみたが帝国関連がどうにもキナクセェ。その噂話が出て来たのも、ここ1ヶ月くらいだ。全てを繋げるには強引だが、繋がりを否定するのは難しいってもんだ」

「わかりました。その件、気をつけておきます」


 と言ったものの、ある程度は気をつけるというレベルだ。なんにせよ、密航船に乗った人たちがこのアステラ国内にやってきたのは確実だ。そして、密航船に乗った人がこの場所に集まることも可能。きな臭さがプンプンだ。

 それに、モリスさんの話とは違うが、自分に何かとちょっかいを掛けてくる帝国もこの演習で何かを起こすと見ている。モリスさんとジェシカさんの話も帝国だし、何かと縁があるな。でも、そんな厄介事を持ち込んでくる縁は御免被りたい。問題を起こすのなら、是非とも自分の関係のないところでやってもらいたいのだけど、そう言ってられないんだろうな。

 だが今のところ、回避策が思いつかない。一番いいのは勇者に近づかない事だが、アステラ国勇者の護衛みたいなことをする羽目になっているため、それは不可能だ。せめてできるのは帝国勇者に絡まない事だろう。向こうから絡んできたときにはどうすることもできないが...。

 どうにかなってくれと思って空を見上げた。でも、一面灰色の雲で覆われた空しか見えず、解決策が浮かぶわけでもなく、気分転換にもならなかった。


「カオリの嬢ちゃん大丈夫か?」

「師匠、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。ちょっとのんびりした時間が欲しいなと思っただけです」


 心配してくれるモリスさんとジェシカさんにそう言って肩をすくめてみせた。実際、のんびりした時間って最近少ないと思うの。もっとのんびりしたいよね!いつになったらのんびりピクニックできるの?いつでもお待ちしておりますよ!

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