2-40 新装備の受け取り
(略しすぎています)
どうも、商品が入った買い物カゴを持っている銀髪ロリエルフになった者です。現在、工房シュトーで明日の魔物狩り演習用の装備を整えているところです。前回大活躍だった回復ポーションと結界を展開させる緊急用MSDの追加購入をしにきました。手に持ったカゴの中には既にそれらの品が入っていて、あとはレジに持っていくだけです。
ギルドから家に帰る前に装備を整えておこうということで、工房シュトーに寄っている。リリーガーデンが参加することを知らされてからというもの、自身の周りで様々な問題が起きたり、サリアたちやアステラ国勇者の特訓をしたりと忙しい日々を送っていた。その結果、演習の準備するタイミングが今になってしまったという感じだ。もうちょい余裕のある日々を送りたいな。
そんな事を思いながら、レジに向かって歩いている。だけど、何か忘れて居るような気がして歩くスピードが遅くなる。工房シュトーでの用事...何かあったっけな?白いナイフ型MSDやリング型MSDの装備は最近修理したし、大丈夫な気がする。今着ている白い軍服ワンピースチックな戦闘服の修繕はしなくても大丈夫だ。そこまでダメージ受けてないし。となるとなんだろう?
そんなことを考えているうちに、レジの前までやってきてしまった。気になるけど、覚えていないあたりそこまで気にならない用事だろう。また来る時までに思い出すとするか。多分その時は必殺技打てるようになってるだろうし、一石二鳥だな?知らんけど。
ちょうどシュトーさんがカウンターに出てきたし、買い物かごをカウンターに置いて会計をするとしよう。
「こちらお願いします」
「回復用ポーションが10と緊急用MSDが1、カートリッジは4つか。毎度!支払いはいつものか?」
「いつもので」
そう言って、耳につけているイヤリング型MSDに決済の思念を乗せた魔力を通す。そのMSDから魔力が再放射され、レジにある端末がそれに反応して決済を済ます。ギルドカードを出さずとも決済できて便利なものだ。
「確かに。しっかし、そのイヤリング型のギルド証ってのは便利なもんだな」
「わざわざギルド証を出さなくてもいいので楽ですね。ギルド証の提示も同じ感じでできますよ」
そう言って、再度MSDに魔力を流して、シュトーさんの前に魔力のホログラムでできたギルド証を生成する。そのギルド証をシュトーさんが見て感想を呟く。
「ほぉ...こりゃ便利なもんだ。それに、いつ見聞きしてもカオリちゃんがプラチナランクとはびっくりだな」
「それは自分もびっくりなんですよ。いつの間にか最高ランクのプラチナランクになっているなんて驚きしかないです」
「3、4ヶ月前にきた時は駆け出し冒険者だったもんな。あの時選んだ装備ときたら目利きが良過ぎて...あ」
そう言うと、シュトーさんは何かを思い出したのか「少し待っててくれ」と言ってレジ奥の工房へと向かっていった。疑問に思いながら少し待っていると、シュトーさんは奥から細長い銃身の魔法銃とポーチを持って来た。
「こいつがようやく出来上がったんだ。いい感じに仕上がってるぜ」
「あ、あー依頼していた魔法銃ですね!待ってました!」
シュトーさんごめんなさい。自分も目の前に持ってくるまで忘れてました。心の中でそう唱えつつ、シュトーさんがレジカウンターの上に置いた魔法銃を詳しく観察する。
全体的に白を基調にデザインされており、細長い銃身にスリムなストックとマスケット銃を彷彿とさせる外観だ。自動装填するタイプのようで、ボルトアクションライフルのような大きなレバーは無い。弾倉はあるものの、あまり主張しすぎていない程度には出っ張りがなくデザイン上の違和感がない感じに収められている。か、かっこいいぞこれ。
「ほぉ...」
思わずそう呟くと、シュトーさんは自慢げに「いいだろ?」と言いながら言葉を続ける。
「かなりお気に召したようでよかった。時間があるなら、いっちょ試し撃ちしていくか?」
「いいんですか!?」
「もちろんだ。試作の段階で試射して調整はしているが、実際にカオリちゃんが使った感覚が全てだからな。その意見を元に問題があれば微調整する感じよ。おっとその前に、ちょっくら店閉めてくるわ」
ウキウキなシュトーさんは工房の店仕舞いをした後、自分を試射できる場所に案内した。その場所は工房の地下にあって、1vs1の模擬戦ができる程度には広い場所だった。空間は分厚い耐魔力壁で覆われており、ちょっとやそこらの魔法ならば傷の一つもつかなさそうだ。ここならば攻撃性の高い魔法を使ったとしても問題なさそうだ。
「シュトーさんはここで試射を?」
「ああ。あそこにある板に撃って魔法銃の魔力伝達経路や素材、構造などなどさまざまな調整をしたってもんよ。カオリちゃんの魔力量に似合う性能にしようと思ったら思いの外調整に時間がかかってしまったわ」
シュトーさんが指差した板の方を見ると、無数の穴が空いた黒い板がテーブルの上に立てられて保持されていた。その周囲には試射した後の残骸と思われる黒い板が10枚以上転がっていた。そこから察して、魔法銃はかなり丁寧に調整してくれた感じだな。さすがシュトーさんだ。
「ちなみに、あそこに転がっている黒い板って素材は何ですか?」
「あれか?あれは5mmくらいの合金だ。カオリちゃんがいっつも使っているMSDに使われてるやつと同じものだ」
「え、その素材ってそれなりに高価な物なんじゃ...」
「そ、そうなんだが、改良していくうちに威力が高まるもんだからつい面白くなっちゃってよ。いっぱい素材を使っちまったぜ」
「つまりそれって...」
「すまねぇ、カオリちゃん!素材費請求させてくれ!このままだと大赤字だ!」
「ですよね!そうなりますよね!払いますので大丈夫です。でも、どこまで請求を受け入れるかはこの魔法銃の性能を見てからでいいですか」
「もちろんよ。是非とも検証してくれ。絶対納得できる品には出来上がってるからよ!」
シュトーさんはニッコニコでそう言うと、魔法銃とポーチの中からライフル弾を手渡してきた。薬莢の内部には既に魔力エーテルが込められており、すぐに撃てる状況になっているようだ。薬莢の部分がかなり大きく、魔力エーテルの量から察してかなりの威力が見込めそうだ。
自分はそれを受け取って弾倉に弾を込めると、リロードして鉄板に向かって構えてみた。体格に対して銃が少し大きいと感じるがおおむねしっくりくる構えを取ることができる。これなら無理な体勢を取らなくとも狙うことができそうだ。
「あ、ちょっと待ってな。後ろの結界用MSDをつけるからよ」
シュトーさんが壁にあるボタンを押すと、狙う黒い板の背後に結界が張られた。結界はかなり厚く、結構な耐久力はありそうな感じだ。そう分析していると、シュトーさんが言葉をかけてきた。
「その魔法銃は自分の魔力を本体に流し込むことで、スコープが出せる。さらに、薬室に魔力を流し込むとさらに威力もアップできる品物になっているぜ。弾丸へのエンチャントは今の所アイスニードル、魔力刀ができる。弾丸に魔力を纏うイメージで付与できるはずだ。やってみな」
言われた通りに構えたままほんの僅かに魔力を流し込む。すると、魔法銃の上面に照準が写し出され、拡大された視界が確保された。マスケット銃みたいな形だし、遠くを狙う場合はどうすればいいかと疑問に思ったが、こんな機能があったとは。良さみが深いな。
そして、薬室に魔力を少し流し込むと薬室周辺に魔力が集まった。流石に魔力エーテルが詰まった薬莢内部には到達しなかったが、そこに届かせることも可能そうだ。これなら火力を調節することも容易だな。
最後に弾丸へのエンチャントをやってみた。発動する魔法はアイスニードルだ。シュトーさんに言われた通り、弾丸自体に氷の膜が張るイメージを共に魔力を入力する。
これで準備完了だ。撃ってみよう。
「それではシュトーさん撃ちますね」
「どうぞ」
そう言うと、鉄板に狙いをつけたまま引き金を引く。すると、轟音と共にハンマーで殴られたかのような衝撃がストックから伝わってきた。瞬間的に身体強化を使って体勢を崩さずにその場を乗り切ると、今度は長い魔法銃の銃口から弾丸と共に勢いよく炎が噴出した。回転する弾丸には徐々に氷の膜が張られていく。アイスニードルin弾丸といった感じだ。魔法銃と弾丸の間に魔力のパスが繋がっていないあたり、弾丸内部の核と魔力エーテルで魔法が発動できているようだ。以前注文した通りの仕様になってるな。
そう感心したのも束の間、弾丸は目にも止まらぬスピードで黒い板まで到達する。弾丸は黒い板に到達すると、いとも容易く貫通して背後の結界まで到達する。弾丸は形状を変化させないまま、結界を破ろうと前に進み続けた。だが、結界の方が強固なものだったみたいで、結界の中で弾丸表面の氷は溶けて静止した。
その際の衝撃は凄まじく結界の前に置いていた黒い板だけでなく、机をも吹き飛ばした。床に転がっていた黒い板はその衝撃でさらに散乱し、結界の周囲は台風が通った後のようになった。
「こ、これは予想外の貫通力ですね...」
それはシュトーさんも予想外だったようで、唖然としていた。
「俺の魔力を全力で注いでもこうはならなかってのに、一体どうなってんだ...?魔力負荷の安全係数はその100倍くらいにはしているが、威力から察して5倍は行ってるぞ」
魔力負荷の安全係数が100倍と言う凄い言葉も聞こえてきたけど、威力からその逆を計算できるってどれだけ黒い板に向かって試射をしたんだ?ちょっと金額怖いよ?
「俺が作っておいて何だが、今のは特殊魔法騎兵隊のメイン装備に匹敵するレベルだ。新装備として売り出そうかと思ったがこの扱いは考えねぇとな」
確かにそりゃそうだ。こんな手軽に高火力を出されちゃ治安が終わりそうだ。
「この装備はカオリちゃん以外に使えないよう細工をさせてもらうが、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。そうしてください」
「あと、撃ってみた時に違和感は感じたりしたか?あったら修正するが」
「違和感はなかったので、今のままで大丈夫です」
本来の目的である遠距離用の攻撃手段としては十二分な性能を有していることは間違いない。魔法補助型のMSDじゃ届かない場所にも高火力をお届けできて戦い方の幅は格段に広がるだろう。だが、高火力故に使い所を見極める必要のある武器ができてしまった。強力なMSD故に頻繁に使っていると目をつけられて、MSDを奪いに来たり、強引にでも情報を聞き出そうとする族が出て来るだろう。狙い通りの出来になったが、一周回って使いにくい物となってしまった。でも、MSDのアイスニードルで届かない場所を攻撃する場面に出会ったことはほぼ無い。メインでは使わずに、ロマン武器として扱えば問題ないだろう。
「あ、それでこの魔法銃と弾丸のセットっていくらくらいになるんですか?」
「...500万ゴールドだ...」
「500ゴールド?」
「500万ゴールドだ!ごひゃくまんゴールド!すまんが、これでもトントンなんだ!」
「なんとなく分かってましたが、試作にどんだけ素材使ってるんですかーーーー!!!」
「本当にすまねぇえええ!」
威力だけでなく、代金もロマン武器みたくなってきた。
「ちなみに追加発注分の特注弾丸は1発5万ゴールドだ」
「シュトーさん、いい商売してません?」
「なんとびっくり素材原価の2割増しくらいだ」
「それは人件費飛んでません?赤字では?」
「聞かないでくれ...サービス価格だ」
とりあえず魔法銃をシュトーさんに返して、更なる整備と自分しか扱えないようにする機能を追加してもらうことにした。シュトーさん曰く、魔法銃のMSDをリング型MSDに集約させて、魔法銃の魔力伝達経路は自分の魔力しか伝達しないようにするとのこと。そこまでしてくれると安心だ。
これなら明日の演習に持っていっても問題なさそうだ。撃つ機会が無いとは思うが、せっかく作ったんだ。持っていってもいいだろう。シュトーさんと自分以外にこの魔法銃の威力を知らないし、普通の魔法銃は実戦ではほとんど意味をなさないとの認識が一般的だ。他の人が見ても意味のある装備だとは思わないだろうな。完璧な偽装だ。




