2-36 乱入者の目的と態度の違和感
(略しすぎています)
フラワーズたちの間を塗って演習区画の出入り口まで行くと、肩ほどの金髪に軽いウェーブがかかった人が立っていた。立っている姿からはお嬢様みたいな雰囲気が感じられる。どこかで見たような気がしなくもないが、思い出せないな。多分、登校途中にすれ違ったとかそのレベルかな?
そんなお嬢様は自分の姿を見つけるや否や声を張り上げて怒鳴るように声をかけてきた。
「あなたが、ここを仕切っている人ですわね!エミー・フォン・ツィリーですの!ここは私が予約していた場所です!今すぐ退去してくださる!?」
「これはどうも、この場所を仕切っているカオリです。それは何かの手違いでは?」
「そんなことはありませんわ!先ほど確認してから来ましたもの。あなたの方が間違っていらしてよ!」
話し方から察するに、考えを改めることはない感じだ。なので、このまま平行線を辿るだろう。ここに止まっていては、サリアたちの進行の邪魔になるし一度この演習場から出るとしよう。そして、演習場を管理している事務室にでも駆け込んで白黒はっきりさせるとしよう。
「では、これから話し合いましょう。さあ、こちらに」
「ええ、行きましょう」
エミーというどこかで見たお嬢様を連れて出入り口から廊下へと移動する。その際、そのやり取りを見ていたフラワーズの会話が気になった。
「え、まさかエミーさんか?」
「そんなこと起こす人ではないと思っていたのにどうして...」
どうやら、エミーさんはフラワーズと面識がある様子だ。なので、ここで講習会をする情報がエミーさんに流れたのだと思う。でも、フラワーズたちの口ぶりから察するに、問題を起こすような人ではないようだ。何が起こっているか当の本人から聞くとしよう。
演習区画の出入り口を閉めて通路を歩きながらエミーさんと2人きりで話を始める。
「とりあえず、これから演習場を管理する事務室へ向かいます。そこで白黒なるはずです」
「いえ、そうしたところで私が正しいのは変わりませんわ!だから今すぐ明け渡してくださいまし!」
「今すぐと申されましても、事実関係を誤認していらっしゃるので第三者からの説明を...」
「そうやって丸め込もうとしても無駄ですわよ!」
会話を始めたのはいいものの、とりつく島もない感じでどうしろと言うのか困惑ものだな。それに、事務室へ向かいたくない様子が伝わってくる。事務室へ向かって事実を明らかにされては困る事情があるのだろう。多分、エミーさんが主張する根拠がないとかそんなところの気もする。だとするとエミーさんの行動は自分への妨害を目的としているような感じだ。この考えが正しいかどうか聞いて確かめるとしよう。
「なら自分が明け渡したとして、あなたはどうするんです?」
「え...?それはあれですわ!そ、そう魔法の訓練ですわ!」
明らかな動揺が窺えた。目的があって演習区画をしようするわけではない様子。ならば、自分への嫌がらせが目的か。そうなると、どう決着をつけようかな...。
そう思い始めた時、エミーさんの表情の違和感に気づく。エミーさんの声は本気で怒っているような感じで、ぱっと見の表情もそれに近いものを感じられる。しかし、表情をまじまじ見ると怒り100%という感じでもない。その上、目が怒っていない感じだ。むしろ、申し訳ないような感じというかなんというか...。声と表情が示す感情は同じものではない?
それに、何か嫌な感覚が微かに感じられるな。その何かを感じたいとこだが...。とりあえず、エミーさんの顔を見つめてみるか。じー...。
「な、なんですの?」
「...」
「も、もう!何か言ってくださいまし!」
あ、エミーさんなんか照れてる?何これ?
そう思った瞬間、エミーさんにまとわりつく嫌な感覚が強くなった。程度は違うがこの感覚、以前に感じたことがあるぞ。それはゲセスターが魔物を生み出した時やマニューヴェが魔物を操作していた時だ。となるとこれは、闇属性の魔力だ!
「あまり見ているとしばきますわよ!早く離れてくださいまし!」
だが、闇属性の魔力関係とあっては色々困るぞ。闇属性の魔法を扱うマニューヴェ率いる集団と関連があると言うことだ!そんな危険な連中がまた何かを起こそうとしているとなればやばい!まずは緊急性があるかどうかの確認だ。
エミーさんを凝視するのをやめて闇属性の魔力の出所を追跡する。だが、漂う魔力の濃度が薄くて追跡することができない。
受動感知じゃこれが限界か。なら、より感度と精度の高い能動探知をするしかないな。魔力の薄さからして、演習場付近にいるはずだ。多分。
自分の体からわずかに魔力を出し、跳ね返ってくる魔力を体全体で感じ取る。そして、帰ってきた反応を脳内でマッピングをして、それらしき人物を探す。
この周りの演習区画内の反応は...対魔力壁が魔力を跳ね返して見づらいが...幸い誰もいないか。それに、演習中の区画からはそれらしきものは感じないな。だが...演習場の建物外にある草木に誰かいる...。ここは校舎からは見えない場所かつ、学園の外から侵入しやすい場所だ。それに、隠れた人物から闇属性の魔力が薄く出ているのが感じられる。この人物で間違いないだろう。
それに、この魔力情報は自分の家を襲撃してきた人物のものと一致している。となると帝国の差金か!それに闇魔法を扱うマニューヴェとの関連があるとか、厄介なことをしてくれる!だが、人数は1人だ。1人では大規模な何かを起こすことは無理だろうし、緊急性はないな。目の前のエミーさんを対応するとしよう。
「何を考え込んでますの!こちらを向きなさい!」
考えがまとまった時、エミーさんが自分の頬を叩くためか腕を振り上げた。
まずい!私闘は避けないと色々面倒だ!私闘を避けろと言っておきながら、自分から私闘をするわけにはいかない!それに、何にするにもこの場所は目につきすぎる。一度、空いている演習区画に飛び込むか。
エミーさんが振り下ろした手を強引に掴み、空いている演習区画へと強引に移動する。
「今度はなんですの!痛っ!」
エミーさん、今はすまない。とりあえず演習区画に連れ込みます。決してやましい事案ではないことはご承知願いたい。
エミーさんが離れないように手を握ったまま演習区画に入り、出入り口のドアを閉めた。すると、エミーさんの態度は豹変した。エミーさんが声や表情に浮かべていた怒りが消え去り、恐れや悲しみといったものに変わっていったのだ。
「カオリさん、私...私はなんてことを...」
「...」
エミーさんは青ざめながら地面に膝をついて、自分の目を見てどう責任を取るべきか問いかけてきた。エミーさんの声色と表情の間には感情の不一致が見られない。そんな、態度の変わり具合に面食らいながら、今の状況を考える。
冷静に観察していると、エミーさんへ流れ込んでいた闇属性の魔力がなくなっていることに気づいた。多分、演習区画の耐魔力壁が弱い魔力を阻んだため、魔力が途切れたのだろう。
一連の状況を逆順に整理すると、エミーさんに繋がっていた闇属性の魔力が途切れると反省を示した。正気に戻った感じか?今は感情と声色が一致している。
だが、その前は自分へ嫌がらせをする態度をとっていた。その時は闇属性の魔力が繋がっていた。その時は感情と声色が一致していなかった。その2つの違いは、闇属性の魔力だ。それに、エミーさんは照れモードから再びお怒りモードになっており、自然的な流れではなく、明らかに外からの影響を受けている。そうなると魔法関連であるのは眼に見えている。
そこで、授業で先生が言っていた講義の内容が頭をよぎる。魔力に反発する性質がなければ、相手の体や思考を魔力を使ってコントロールすることも可能だと言っていた。その話を聞いて、闇属性の魔力や魔法自体に魔力情報への干渉を可能にする力があると言う考えに至った。
それと今の状況を照らし合わせると、闇属性の魔力やその魔法によってエミーさんが操られていたと言うことになる。精度は高くないがマインドコントロールができるとなると闇属性の魔力の恐ろしさをひしひしと感じる。やばいね。
そして、それを行ったのは帝国の機関による仕業だ。帝国の機関が何を目的として妨害工作を仕組んできたのかは不明だが、今回の工作が失敗したことで機関による工作はより強力なものとなると予想できる。直近で気にすべきタイミングは、主に勇者向けの魔物狩り演習だろう。対応できるようにしておいて損はないな。
そうなると、目の前のエミーさんは帝国の機関と自分の間に生じた問題に巻き込まれた被害者となる。今回の件については自分から何も言うことはできないし、謝らなければいけない立場だ。妨害した件について何かを言ったとしても良い結果を生まないだろう。
「ぐっ、えぐっ、ごめんなざいいいい」
「自分は大丈夫だから落ち着いて、ね?」
「うぐっ、はい...ぐっ...」
エミーさんは自分の行動を責めすぎてギャン泣き状態だ。普通に可哀想だな。とりあえずエミーさんを落ち着かせるとしよう。食堂の特別個室なら話す内容を聞かれる心配もないし、安心して話ができるはずだ。
それに、自分としても糖分補給をしないと頭が回りそうにない。サリアたちは何が起こっているかわからないまま講習会を進めているので、そんな中お茶会をするのは申し訳ない。だが、状況が状況だけに話せば許してくれるだろう。というか、許して!落ち着いて状況を整理しないと頭がパンクしそうなの!




