2-34 MSDによる魔力情報のオーバーライドなど
お待たせしました(略しすぎています)
昼休み前の最終授業を迎えて、授業をぼーっとしながら講義をしている先生の話を聞いている。今のところ、魔力の基礎的な理解について話しているところだが、あまり興味が湧かないので適当に休み時間の出来事を振り返ることにする。
授業の休み時間になるとサリアたちことリリーガーデンは、リリーガーデンを崇めるために集まって来る人たちに対して事前に話し合って決めた事を伝えた。内容は簡潔に、戦闘力アップのための講習会を開くから気が向いたら来てねというものだ。先週の金曜に起きた事件に関することは伏せていて、あくまでも講習会の案内に止めている。その辺を話すと一気に面倒ごとが噴出するのでやらない。やらない!
話を聞いてくれた人たちの反応は良く、戦闘スタイルが戦闘系ではない人を含めてほとんどの人が来てくれそうな感じだ。来てくれない人はどうしても都合がつかない人たちで、興味がないから行かないという人は居なかった。まあ、休み時間にまでやってくる人たちはリリーガーデンを熱心に崇めている人たちだし、断る理由がないというのがあるのだろう。もちろん予定が合わずに行けないと言った人はいたのだが、その中で「初のリアルイベントに行けないなんて...」と号泣しながら謝ってきた人が多かったのには驚いた。もしかして、リリーガーデンってアイドルグループだったりするのか?と疑問に思うほどだ。
来てくれる人も来てくれない人もこの情報を自分たちを崇めている人に拡散するように伝えておいた。伝言ゲームになりそうで怖いが、自分たちのところに来ていない自分たちを崇めている人たちにも話を広げるためだ。リナの話によると今日中には話が全体に行き渡るとの予想なので、特段こちらから話をして回る事はしなくても良いだろう。その辺は楽でいいね。
ただ、懸念される問題としては自分たちを快く思わない人たちにも講習会の話が伝わってしまいかねないことだ。そんな人たちは問題を起こしそうで是非とも講習会の参加をご遠慮願いたいところ。でも、話がかなり拡散されていると、そういった人たちの耳にも必ず耳に情報が入ってしまうだろう。一応、対策として話を伝える人は自分たちを崇めてくれている人と限定をしているが、それだけでは難しいものがある。なので、講習会の会場ではそういう人がいる前提で事を進めようと考えている。サリアたちと一緒に昼休みか午後の戦闘演習あたりで段取りを決めよう。
回想はこんなところか。さて、授業はどんな感じになっているかな?
「あー、であるからして、魔力の操作ができるわけでありますな。ここまでで何か質問はあるかの」
先生がそう問いを投げると、サリアが手を挙げて質問を返した。
「自身の魔力に魔力操作に関連した情報が載ることで、魔力が動かせることは分かりました。では、魔力操作に関連した情報が何らかの方法で書き換えると、魔力が自身の意図しない動きになってしまうことですか?」
おお、なかなかにいい質問をしているな。ちょっと気になるし聞いておくか。
そんなサリアの問いに先生は驚いた表情をして返答を返す。
「鋭い質問じゃがそうじゃ。その最たる例がMSDじゃの。MSDは知っての通り、魔法発動の補助を行っておる。上手く魔法を発動するには精密な魔力操作が必要じゃから、誤った魔力操作に関する情報を書き換えておるわけじゃ。そういう意味では意図しない動きになっていると言えるかの」
魔法発動中の魔力操作を適当にすると、MSDが猛烈に介入して補正してくる感覚がある。特に、魔力を凝集させる段階で感じていた。先生の話から察するに、MSDが魔力操作の情報を書き換える処理を感じているのだろう。
となれば、魔力操作の書き換え処理が多ければ魔法の発動時間や魔法の質が劣化することにつながる。自分がやっている魔力操作に関連した訓練法は、魔法技術の向上にちゃんと役に立っているようだ。自分の感覚と仮説をもとに訓練を指示していたがちゃんと理にかなっているようだ。ちょっと安心したぞ。
「あー、そうじゃ。原理的には無理じゃが、もし魔力の基底情報を書き換えることができれば他者の魔力を動かすことも可能となりますな。そうなると、相手の体や思考を魔力を使ってコントロールすることも可能でありますな。いやー、反発する性質があって安心するわい」
何という怖いことを言う先生だ。でも、言っていることは正しいと思う。異なる基底の魔力同士は反発する性質があって、お互いに干渉することができない。だが、その性質がないとすると他者の魔力情報を書き換え放題というところだ。そうなると、書き換えられた魔力が体内を巡って色々な事を引き起こす。神経に作用して息の根を止める、相手の体を乗っ取って自害させるなどなど色々できるだろう。本当に怖い話だ。
そんな感じに思考していると、授業の終わりの時間を示すチャイムが鳴った。それに反応した先生は授業の終了を告げて教室から廊下へ出て行った。授業が終わったことだし少し考えてからサリアたちと昼ごはんにするとしよう。
もし、魔力に干渉して情報を書き換えることができれば、相手をコントロールすることが可能となる。
「ん?コントロールってどこかで...」
思い浮かんだのは魔物に指示を出す魔法だ。魔物は魔力生命体であり、魔力にはちゃんと基底が存在している。だから魔物は魔力による干渉は受けないはずだ。しかし魔物たちはその魔法によってコントロールされていた。それは、魔法によって本来不可能である魔力情報への干渉ができることを意味する。
「これって、色々やばいのでは...?」
ちょっとどころじゃなくその魔法はやばい。確か、その魔法は闇魔法だ。闇属性の魔力や魔法自体に魔力情報への干渉を可能にする力があるとすれば、間違いなく世間から消されなければならない魔力属性や魔法属性だろう。そして、そんな魔法を扱うマニューヴェが率いる集団はかなり危険な集団であるとも言える。都市全体に闇魔法をかけてコントロールしてこないだけまだ理性的であるとは言えるけどね...。
「どうしたのカオリちゃん?」
「顔真っ青だよ」
「気分悪いなら保健室行きますか...?」
「みんな大丈夫だよ。ありがとう。お風呂場の水道が流しっぱかもしれないことが気になってるくらい」
「「「なーんだ、心配して損したかも」」」
「確かにその程度かと思うだろうけど、もっと心配してくれてもよくない???お財布事情とか!」
何にしても、闇魔法や闇属性の魔力に特有の能力がある。このことから、神様の言っていたように魔素とは違うように思う。魔素は魔法の発動失敗する時に出るのだが、残滓や燃えかすのようなものだ。そこから再度魔法を発動することは...やっていないけど多分できないはずだ。できないよね?
気になるし、午後の戦闘演習でやってみよう。




