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2-32 帝国勇者の帝国内での立ち位置

(略しすぎています)

 エルバ先生との会話を終えた自分は食堂で別れて図書館へと向かうことにした。先生と少し話し込んだがクラスが始まるまで時間はたっぷりある。そのため、学園内を歩く人の姿はまだまばらだ。

 だが、図書館への道のりを歩いていると見知ったメンバーと出会った。それはアステラ国の勇者たちこと元クラスメイトの藤本、坂本、吉本だ。こんな時間からどうしたのだろうか?そう疑問に思って視線を送っていると、3人は自分の視線に気づいて話しかけてきた。


「あっ、カオリ師匠だ!」

「「囲め!」」


 3人は指差しながらそう言って自分に駆け寄ってきた。朝から元気だな。というか、何そのツチノコを見つけた感じで反応してるの?そんなにレアキャラじゃないよね...?思い返せば数えるくらいしか会っていないような気がするが...。とりあえず挨拶をするとしよう。


「みなさんおはようございます」

「「「おはようございます師匠!」」」

「今日は早いですけど、特訓ですか?」


 そう問うと、藤本、坂本、吉本の順に言葉を返してきた。


「そうです。これからに朝練するんですよ」

「他のみんなも頑張ってるし、もっと強くなりたいと思って!」

「ですです~」

「それは熱心ですね。今でも他の勇者よりもすごく強いって聞いていますよ。ボコボコにしたとか?」

「そ、そんなことないですよ?」

「思ったよりも反撃が少なかったというか?」

「少し力加減を間違えただけです~ウフフ」


 朝から元気な3人は誤魔化すようにそう返してきた。言動から察して多分他の勇者が思ったよりも強くないというのが本音のようだな。他の勇者も学園のカリキュラムをこなしているうちに強くなってきているのだろうが、3人の成長がとても早すぎるのだろう。元々、連携がすごく取れていて隙があまりないから、後は魔法の精度だけに集中すればいいって感じだったもんな。1番修得に時間がかかる連携戦闘をすっ飛ばしているとなれば、戦力の上がりっぷりも無理はないか。というか、吉本さんの言葉怖いな?


「それだけみんなが成長してるって証拠だと思いますよ」

「「「師匠~」」」

「でも師匠に追いつくには全然足らないんです。帝国勇者と師匠の試合を見たらまだまだだと思っちゃったんです」

「圧倒的不利な状況下でも、単一放射系魔法の基礎魔法で結界を破ったり、目にも止まらぬ速さで移動したりされたらまだまだ!」

「その上、実質的に基礎魔法1つだけで勇者たちを破りましたからね~特に魔法の精度が桁違いにいいですからね~私たちとの違いを感じちゃいます~」

「...そうなの?」

「そうですよ。カオリ師匠のアイスニードルは芸術レベルなんです」

「発動が早いし綺麗!」

「それに同じ箇所に当て続ける精度は神技です~」


 まあ、確かに見ている側からするとそうなるか...。火力が弱い上に少ない手札で戦っていたから余計に凄いと思ってしまうのだろう。でも、あの試合で勝てたのは帝国勇者たちの慢心からくるところが大きいんだよな。実際、魔法精度が高いものを放ってきたりしたらかなり厳しかったし。

 そう言えば、この3人には魔力操作の訓練を指示していたよな。その訓練の調子はどうなっているんだろう?


「ところで、魔力操作の訓練の調子はどうなのよ?」

「「「げっ」」」

「ま、前よりかは成長しています。よ?」

「威力も抑えめに出来始めてるよ!ちょっとだけ」

「魔法の発動は早くなりましたよ~。気持ちですが」

「ま、前よりも成長しているようで安心しました。コツはできるだけ少ない魔力を流し続けることですので、これからの訓練で試してみてくださいね」


 反応から察して、魔法の手加減をするのはまだ難しそうだ。模擬戦をする日はまだまだ遠いだろう。でも、何かしら変化は出てきているからそれなりにいい訓練にはなっているはずだ。このまま訓練を続けて問題ないな。

 勇者向けの魔物狩り演習が来週に控えているが、これは魔力操作技術というよりも連携が肝になってくるところだ。連携については、十分すぎるところがあるので特段何もしなくても問題はないはずだ。強いていうなら対魔物の戦い方が異なるが、そこは有り余る火力を生かして戦いながら覚えていくことだろう。となれば演習に向けた訓練は用意しなくていいな。こりゃ手が掛からなくて助かる。


「そう言えば師匠はこんな朝からどうしたんですか?」

「自分はちょっと調べ物しようと思って図書館に向かってるところです」

「ちなみに何を調べてるの?」


 坂本の問いにどう答えるか少し考える。

 神様の言ってた事についてなんて言えるはずもないな。言ったところでいい返答は返ってこないだろう。来週にある勇者のための魔物狩り演習で起こりそうな問題について、ちょっと調べてみると言うのもなんか変か。となると...帝国関連について調べているとでも言うか。


「帝国について少し調べているところです。どんな国か少し興味が湧いたので」

「帝国ですか~。すみませんが私はカオリ師匠以上にわからないので、力になれそうにないですね~」

「わかるー。それに、帝国から来た田川たちの態度悪くて話しかけるどころじゃないし、マジ最悪って感じ」

「私も3人に同じくです。そんな状況ですので力になれそうにありません。すみません」


 そう言った3人の表情は少し憂鬱そうな感じだ。帝国勇者の態度が悪く、腫れ物を扱う羽目になって気が疲れると言ったところだろうか。詳しい話は聞かないとわからないけど、大体どんな感じになっているのかその反応で予想がつく。「は?マジつまんねぇし?俺ら勝手にやるし?」って感じでやっていそうだ。


「全然謝らなくて大丈夫ですよ。むしろ朝から気を使わせてしまってすみません。お心遣い感謝します。それでは、自分は図書館へ向かうことにします。朝練頑張ってくださいね。応援しています」

「「「師匠!ありがとうございます!」」」


 手を挙げて別れを告げて、図書館の方へ向かって歩き始める。着くまでには少し時間があるし、少し情報の整理をして調べる内容の目星をつけることにしよう。

 まずは帝国勇者周辺がかなりきな臭いことになってきた。自分やサリアたちに対して帝国の機関から謎の警告?っぽい襲撃を受けたりした。その上、帝国勇者たちはやさぐれている。今後、何かない方がおかしいレベルの事態だ。

 それに、来週には勇者向けの魔物狩り演習が企画されている。そこにリリーガーデンとしてサリアたちと自分が参加することになっている。帝国の機関に目をつけられているリリーガーデンに何も起こらないなんてことはないだろう。

 となれば、調べることは帝国の動きについてだ。帝国の機関が襲撃してきた目的とすれば勇者の地位や名誉に関することだと目星をつけている。今後起こりそうな問題は内政的なものに絡んできているだろう。となればその辺りを調べることにしよう。あーやだやだ。面倒なことを回避したいと思うけど、国のドロドロした問題を吹っかけてこないでほしいね。


「ふぃー」


 面倒くさい事が起こる予感がして思わずため息が出ちゃうね。

__________

 場所は移動して図書館の1階だ。ここには転生前の図書館でもよくある新聞コーナーがあり、最新の状況を知ることができる。だが、その内容を読み解くには最低限の知識が必要だ。なので、「図解!よくわかる帝国史!」的なものを読むことにする。時間がないし、そのくらいでちょうどいいのだ。


 本棚にある適当な本を手に取ってペラペラとめくって情報を得ていく。すると、帝国の内政が見えてきた。


 特筆すべきは重税による貧富の差が生んだ社会だ。帝国は貴族社会であり、庶民と貴族は明確に区別されている。庶民から貴族へランクアップすることなど明確な功績がないと困難だ。そうなると、重税の中で庶民が貴族になることを望んで貴族のために身を粉にして働くことはない。生きることで大変という感じだろうか。そうなると貧富の差は増すが、生産性は増加しない。

 そう言う場合において、生産性を増加させる手段として奴隷の導入がある。単に人口を増やして労働人口を増やして庶民より下の階層を追加することによって、庶民による貴族への反発を抑え込む。まあ、よくある感じのものだ。

 奴隷の身分になっている人種は猫人族や兎人族といった亜人が当てはまる。これは、帝国が奴隷制を導入した頃に魔族による虐殺が盛んであり、亜人が魔族の外見に近いと言う理由かららしい。魔族を見たことがないが、中々無理のある理由の気がする。エルフという亜人である身からすると傍迷惑なものでしかないな。

 そのような社会で1番苦しんでいるのが第一次産業に従事する奴隷たちだ。低賃金で長時間働かされており、思考力と体力の低下から労働力が上がらない状況のようだ。鉱物資源には恵まれているので輸出できる程度には生産できている。しかし、農作物に関しては違っている。帝国がもともと肥沃な土地ではないことも加わり、帝国で必要な作物の収穫量が確保できていないといった状況のようだ。

 

「MSDを使った農機具があるのに、その状況なのはどうなのよ...」


 農機具があれば作業効率は上がるので、農地を広くしても同じ人員で管理することができる。農地を広くできれば肥沃な土地でなくとも収穫量をあげることができるはず。でも、この本によるとそうではなく、そもそも労働者人口が不足しているという内容だ。なにか少し引っ掛かりを感じるところだ。


 さて、帝国がどんな環境かわかったところで、最新の情報を得るために新聞コーナーに行くか。適当な帝国向け新聞を3つくらい読んでみるとしよう。


「どれどれ...。一面はどれも新技術と農地確保...」


 新技術というのはMSDに関するもののようだ。大規模殲滅魔法向けの汎用MSD開発に成功とか書かれている。物騒な文言から察するに戦争用のものだろう。

 そして、農地確保というのはどうやら占領地のようだ。帝国の南にある海を渡った先にある大陸の一部の土地を占領し、農地に変えているようだ。確かその大陸には亜人族の小国が多くあるので、それらと戦争をしている事になるのだろう。戦争を農地確保という表現からして内政的には戦争していないことになっているようだな。中々にややこしい内政状況なのは間違いない。


 まとめると、帝国は生産力確保のために人と農地を欲しがっている。亜人族の国々を占拠することで、人と土地を確保して問題を解消しようとしているようだ。


 その中で、勇者の立ち位置を適当に考えてみる。

 勇者はその圧倒的な戦力から、敵国の領地を奪うことのできる人材として期待されているのだろう。帝国の庶民と奴隷からすると新たな領地を確保して自分達を楽にしてくれる人たち、貴族からすると反乱分子を抑え込む駒と行ったところだろうか?帝国の状況からすると勇者はかなり重要な位置になっているようだ。


「なるほど...それは勇者のために水面下で色々動いているはずだ...」


 現在、学園内での帝国勇者の評判は悪いものとなっている。その上、4対1での状況で帝国勇者が負けたという話が広がっている。

 帝国勇者は帝国の政治から見ると、対外的に良い印象で大火力の象徴でなければならない。帝国の関係機関としては、帝国勇者は実は強いんだーとか、めっちゃいい人とかそんな話で株を持ち上げたいところだろう。そのため、帝国勇者を持ち上げることができる場所を探しているはずだ。


 そうなると、魔物狩り演習では帝国の勇者の地位を上げる機会としてはかなりいい。例えば、他の勇者よりも討伐数を多く稼ぐことでその力を誇示するとかそんなこともできるだろう。

 怖いのが、意図した方向に事が運ばない場合だ。帝国の機関がどう動くのか読めないが、最悪の場合、魔物をわざと大量発生させて帝国勇者が狩るという、マッチポンプのようなこともしてくるかもしれない。帝国の機関は各国の勇者や留学生を危険に晒して外交問題になるようなことを回避するために大きくは動かないはず。だけど、警戒はしておいた方がいいな。


「ということは距離を置くのが1番いいね。前回の演習と同じく装備も整えておこう」


 そう考えがまとまった時、予鈴が聞こえてきた。図書館に来た時には朝のクラスが始まるまで時間があったのにもうこんな時間か。遅刻しないように早く行かないとだ。と言うか、図書館からクラスまで距離あるけど間に合うか?うん、普通に歩くと間に合わない。けど、身体強化からのダッシュでGOなら間に合うな!身体強化魔法マジ便利!

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