2-30 白い空間での出来事
(略しすぎています)
眩い光を感じて目を覚ますと白い世界の中で横になっていた。
「ここは...」
ゆっくりと上半身を起こして周囲を観察するが周囲には何もなく、ただ白い靄で包まれている空間が続いている。手を伸ばしても空を切るだけで何もない。そんな世界だが特に驚くことはない。なぜならば一度だけ来た事があるからだ。
「神様と会った場所か」
そう呟いても誰に届くわけは...ないな。前に来た時は神様っぽい人影が見えたような気がするが、今日は見当たらない。なので多分この空間には誰もいないのだろう。ならこれは単なる夢か?
そう思ってほっぺたを抓ってみるとちゃんと痛みを感じる。ということは、ここは神様と出会った空間かそれに近しい何かということになる。誰が、この場所に連れ込んだのか知っていたら教えて欲しいところだね。
「よっこいしょ」
立ち上がって自分を確認してみると、元居た世界の体ではなくて転生した後の銀髪ロリエルフの体をしていた。しかもちゃんと寝る時に身につけていたネグリジェを着ている。こういう空間ならちゃんとした服装でないと心許ないんだけど...連れてきた人の趣味でこうなったとでも思っておこう。
そんな感じに体を確かめていると、足元に折り畳まれた白い紙が落ちていることに気づいた。
「神違いなんだけど...」
しゃがんで白い紙を拾い上げる。同化して気づきにくいったらありゃしない。この紙を置いた人はどうかしてるぜ...とシャレはそこそこにしてこの紙に書かれている内容を確認するとしよう。ここに呼ばれた理由がここに書かれているはずだろうし。えっと...なになに?
あなたを転生させた神です。時折様子を伺っていますが、元気にやっているようで安心しました。その体との付き合いもだいぶ慣れたようですね。ちゃんと凝って体を作った甲斐がありました。
「おかげさまでやっていけてますよ。この体で!時折、精神が悲鳴を上げてるんですけどね!」
転生したあなたのおかげで世界のバランスは保たれています。これもあなたの行動が導いた結果でもあります。誇ってくれていいですよ。
「そりゃどうも」
そんなあなたに知識に関するご褒美があります。それは闇属性の魔力と魔素の関係です。魔物は闇属性の魔法によって生成することができます。そのため、闇属性の魔力と魔素を等しいものと捉えているかもしれません。しかしその魔法は、一度魔力を魔素に変換していますので実際は、闇属性の魔力と魔素は違うものとなります。知ってたらごめんなさいね。
「薄々感じてはいたけど、答え合わせができて助かるな。けど、褒美というからには何かのスキルでももらえるのかと思っていたんだけど、そうじゃないんだな」
あ、何かの能力をもらえると思ったでしょ。これでもぎりぎりを攻めている方なんです。世界に干渉するレベルのことをしたりしたら、たちまち世界は大混乱で世界が終わってしまいます。なので、この程度にとどめていたりするんです。それに、姿を表すとその分世界への干渉量が増えて困るので、わざわざ手紙にしてるんです!最果ての神殿に来たら色々違うんですけど、なかなか来ないのでこうした対応をしているんです!プンプン!
「なんか思ったよりも...この神様お茶目だな」
最後にこの空間から出る方法を教えますね。それは横になって目を瞑り、起床に関するワードを呟くと元の世界に戻ります。厨二病的な感じのワードでも戻れるように設定しましたので、何でも呟いちゃってください。あ、それと、この空間に居続けてもらっても大丈夫ですが、現実世界では面白いことになっていますよ。多分早く起きたほうがいいかもしれません。それでは、また。
「神様が面白いとか言うと途端に寒気が来るんだけど...。とりあえず情報の整理と考察をしたいし、多分ならここに居ても大丈夫と信じよう」
まずは魔素と闇属性の魔力の関係についてだ。確かに、闇属性の魔法は魔物との関連が深く、魔物を操ったり生成した時に使われていた。だから、闇属性の魔力はどちらかというと魔素に近いものという認識でいた。端的にいうなら闇属性の魔力の亜種が魔素であるという感じだ。だが、この手紙の内容によると別物との事だ。カテゴリ的には近いものだが、本質的にはかなり違うということだろう。
次にこの情報を教えてきた点だ。今は闇属性の魔力と魔素の関係性を知らなくとも困ることはない。だが、神様は褒美といって情報を伝えてきた。神様は世界のことをよく知っているはずだ。なので、神様は今後その情報が必要となる状況に陥る可能性があると踏んだということだ。だって神だし。そのくらいの意図はあるだろう。
最果ての神殿がどうのこうの言っていたが、そこに行ってねとは一言も聞いてない。ただ、困ったことがあったら来てねと言ってた気がする。なので行かなくても神様的にも何も問題はないはず。とは言え、女性の神様っぽいし、乙女心からくるやつだったら行かないのは問題なのだろう。その場合、神様と自分はほぼ初対面なはずなのに距離感のバグが発生していませんか?そんなのわかるわけないじゃん?両手あげて降参状態ですよ?
手紙に書いていることをまとめると、闇属性の魔力と魔素の関係、最果ての神殿に来いの2点だ。その2点の情報を伝えるために、世界への干渉が制限されている中でこの場が設けられた。そのことを加味すると、今後の世界にとってその2点はかなり重要な情報となることに間違いはない。手紙からはそういった重要さは伝わってこないが、読み解くと世界を助けてほしいという神様の意図が伝わって来なくもない。それに、人生を謳歌してほしいとか言って自由に生きてねー感を出しておきながら情報を伝えてきているあたり、世界の状況的にあまりよくないのかもしれないな。
今はこれらの情報が何の役に立つのかわからないが、その時が来ることを見越して周辺情報の収集を始めてみてもいいか。備えあれば憂いなしの精神でやっていこう。
「いい感じにまとまったし起きるか」
白い雲みたいな地面に寝転がり目を瞑る。そして起床に関連した単語を呟くんだったな。誰もいない空間だし、単語を呟けば自動的に返される仕組みなら単語を選ぶ必要もないか。
「起床」
ーーもー、遊び心がないですね。格好つけながらawakeとか言ってくださいよーー
その声が聞こえた瞬間に目を瞑ってもなお眩しい世界が暗くなり、事態が変化していくのを感じる。だが、それよりも神様が空間を監視していたことにツッコミを入れたくなった。
「神様おるんかーーーーーー」
そして、その声に反応が返ってこないまま、世界が暗くなり意識が途切れた。
____________
意識が戻るとそこは何時も見慣れた天井だった。自分のベッドの上に寝ている体勢でいるようだ。
「い?」
だが、体がとても重くて起き上がることも寝返りすることもできない。何事かと思い、頭だけを動かして自分に何が起きているのかを確認する。
体の左側にはシルフィアが抱きついた体勢でおり、体の右側にはリナが抱きついている。さらに、自分の体の上にはサリアが抱きついていた。3人とも素晴らしくいい寝顔をしていて、すやすやと寝息を立てている。3人の柔らかい体の感触と体温が薄い肌着を通して伝わってきて困る上に、微かに香る3人それぞれの甘い匂いが鼻腔にダイレクトアタックを仕掛けてきて猛烈に今の状況を認識させてくる。
「!???」
何これ!?天国か何かですか?っていやいや、現実だろうけどどうしてこうなった?
首だけを動かして周囲を見渡してみると、部屋は明るく太陽は程々に登っている。角度からして10時くらいだろうか。サリアとリナの寝床を確認すると毛布を捲った跡があった。一度起きているようだ。そこから察するに、流れはこうだ。シルフィアと自分が一緒のベッドで寝る。それを一度起きたサリアとリナが見かける。そして、自分のところで2度寝を行う。
いやほんとどうしてこうなった!この状況は男子高校生的な嬉しさで鼻の下を伸ばす的な感じじゃない!そんなことを感じるよりも恥ずかしさの方が勝つよ!とりあえず、一刻も早く抜け出さねば!
適当にゴソゴソ動いてみるが、3人にがっちりとホールドされているため、ほとんど動かすことができにない。それに、動かすたびにピクリと反応してホールドする腕を微かに強める。こんなんじゃ抜け出すことができない!
「逃げちゃダメです...」
「恥ずかしがらないで...」
「もっとぎゅっと...」
「3人とも起きてませんか????」
「「「...」」」
無反応だし起きてなくてこの状況!どうしろっていうんですか!!教えろください神様ああああああ!!なんか笑ってないですか???そんな気がするんですけど!っていうか神様の言っていた面白いことってこういうことだったのか!あの神様、この状況になったのを確認して手紙書いていたな?あの神様には一度なんとか言ってやった方がいいかもしれないな!




