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2-28 寝れないから紅茶を飲む話

(略しすぎています)

 その後、賑やかなパジャマパーティーが開かれて寝具に関して色々話したりした。適当な話題として寝具のことについて話してみたらかなり気になっていたみたいで、会話は深夜まで続いた。

 サリアたちの詳しく話を聞いていくと学園の入学金やMSDや防具などに資金を回したいという思考だったようで、寝具についてはあまり重要視していなかったようだ。そのため、サリアたちは自分の試作寝具の快適さに衝撃が走ったとのこと。

 余ってるし試作寝具を持ち帰ってもいいというと、サリアたちから持ち帰ると即答してきた。さらに、試作寝具を持ち帰るのが大変ならこの家に住んで使ってもいいよと冗談を言うと、即答で住みたいと言ってきたりした。こんな魔物が大量にいる森の中で不便極まりない場所でも寝具のためなら住みたいらしい...。でもそれだけが理由じゃないと目が語っていたような気がしたが気のせいだろう。だよね?


 そんなこんながあり、会話が一区切りしたタイミングで寝ようと言うことになった。自分はサリアたちがそれぞれに用意した寝具に入り、寝る体制に入ったのを確認した後、部屋の明かりを落とした。すると3分経たずに寝息が聞こえてきた。眠るというよりも気絶に近いがよくよく考えると、今日は日々の授業に加えて色々対策を考えて疲れたり、襲撃を受けたりしてかなり疲れたはずだ。その上で快適な寝具に横になったらそうなるのも無理はない。普段の自分でもサリアたちと一緒の様になるだろう。

 だけども、今の自分はなかなか眠れない状況が続いていた。


「これは...寝れない...」


 自分のベッドから自分のものではない香りを感じるからだ。寝ようとしていた時に甘い複雑な香りが鼻腔をくすぐり、サリアたちがベッドの上で寝具を確かめていた事を思い起こしてしまう。そうすると芋蔓式にお風呂場での姿が...。くそう...悶々として眠れない...!

 経験上、色々考えてしまう時はベッドから出て一息つくに限る。気が紛れたら多分眠れるはず!


 ベッドからむくりと起き上がり、部屋の様子を観察する。部屋の中は窓から差し込む弱い光で照らされて薄暗いながらも状況を見ることができる。サリアとリナは気持ちよさそうな寝息を立ててスヤスヤと寝ている。シルフィアの様子は向きの関係で見えないが、動いていないし寝ていそうだ。魔物狩り演習の時もこうやって同じ部屋でみんな一緒に寝たな...。楽しい夜を過ごしたけど、今日みたいに悶々として眠れなかったっけ。あの時は髪のケアもほどほどな強制お風呂タイムだったので、見ないようにする予防線も張ることができなくて超絶困った...っといけない。そんなことを思い出すと、さらに眠れなくなるぞ!とりあえず部屋から出て何かを飲むとしよう!そうすれば眠れるはず!


 ベッドから降りて足音を立てないように移動しながら部屋を出ていき、キッチンへと向かう。目が覚めるのでライトを付けず、窓から差し込む弱い光を頼りに移動する。今日は天気が良くて月明かりもかなり明るいから廊下もはっきりと見えるな。それに、窓越しに見た空はとても澄んでいて星々の輝きが良く見える最高の夜空だ。こんな時は夜空を見上げながら何か飲んだらスッキリするはずだ。

 キッチンにある冷蔵庫の前まできたので、何かあるだろうという期待をしつつ冷蔵庫のドアを開けた。すると、冷蔵庫の中を照らす照明が目に突き刺さった。


「まぶしっ!」


 目が!目がああああ!と3分だけ待つおじさんの気分を味わいつつ、目を細めて眩しさを我慢しながら冷蔵庫の中身を見ていく。すると、冷蔵庫の中身は食材だけで飲料は何もなかった。お風呂上がりや寝る前に色々ジュースやら牛乳やらを飲んだせいだろうな...。むぅ、これじゃただ目潰しされただけじゃん。思わず肩をすくめて両手を上にあげてしまうね。


「ふぅ...」


 こういうときはいつもの紅茶でも飲むか。カフェインで眠りが浅くなるだろうけど、今は気分転換が重要だ。睡眠の質よりもまずは眠れることが重要だからね。煩悩退散!煩悩退散!妖艶お色気困った時は!(中略)すぐに飲みましょ、うまい紅茶!


「レッツゴー」


 拳を上げながら言葉を発したとき、予想しない声が背後から聞こえてきた。


「どこか行くんですか...?」

「!?ってシルフィアか...もう脅かさないでよ」


 驚いて体がビクッとした後、恐る恐る振り返るとシルフィアがキッチンの入り口から顔だけ覗かせていた。冷蔵庫の閃光を浴びた後なので暗いところに目が慣れておらず、周囲は暗く見えてシルフィアの表情ははっきりと見えない。もうそれホラー映画の登場シーンなのよ。

 目を凝らしてシルフィアを見ると、疑問を浮かべた表情をしていた。でもそれだけじゃなくて浮かない表情がうっすらとあった。さらに、シルフィアの猫耳はいつもよりも元気がない感じがする。寝る前の様子と今の様子は違っているし、考え事をして寝れていないのかも。だからずっと起きていて自分が部屋から出たからついてきたという感じか。


「脅かすつもりはないんですけどね...部屋から出ていったので気になって...。それで、こんな時間からどこか行くんですか...?」

「ちょっと眠れないから景色のいいところで紅茶でも飲もうと思ってね。シルフィアも一緒にどう?」

「そうですね...せっかくなのでいただきます」

「そう来なくっちゃ。それじゃ、カップとお茶受けの用意をお願い。カップとお茶受けはその棚の中に入ってるからね。トレーはそこの使って」


 シルフィアは了解の意を返すと、薄暗い部屋の中でテキパキと用意を始めた。かなり夜目が効くのか、紅茶のカップを棚からすぐに探し出している。さすが猫族というところだろうか?

 そんなことを雑に考えながら、ケトルにお湯を入れてMSD製のコンロの上に置く。コンロのボタンを押してMSDに内蔵された魔法を使って加熱していく。カートリッジ式の調理器具だから魔力供給から火力調整まで自動的にやってくれるので変に神経を使わなくてもボタンひとつで使えて便利だ。これぞ科学の力!というか魔法か。この世界の高度な魔法技術に感謝だ。

 ポットに茶漉しをセットして適量の茶葉を入れて準備していると、丁度お湯が沸いた。沸かしたお湯をポットの中に入れてっと。よし、これで少し待って茶こしを取り出したらおいしい紅茶の出来上がりだ。後は茶葉を入れる器と手拭いを用意したら準備完了だ。

 シルフィアの準備ができているか振り返って様子をみると、ティーカップとお茶受けの用意が完了していた。暇していたみたいでこちらに視線を向けていた。少し尻尾が揺れていたけど何かいいことあったかな?それか、景色のいいところが気になるのかな?どちらにしてもご機嫌みたいだ。


「準備できたし、移動しよっか。後はトレーの上に全部置いてっと...ついてきて」

____________

 場所は自宅の2階に変わって全面ガラス張りのサンテラスへとやってきた。この家というか館を買ってきた時には既にあったんだけど、整備して使い始めたのはここ最近だ。なので家具は最低限のテーブルと椅子くらいで、装飾の類はなくてシンプルな部屋だ。けれど、装飾などの視覚的効果は必要ないと思っている。それは、この部屋から見える圧倒的な景色で十分だからだ。

 目の前には一面に巨大な湖を見ることができ、湖面の波に反射した月明かりがキラキラして最高にいい眺めだ。さらに視線を上に向けると満天の星空が広がっている。そんな中でゆっくり飲む紅茶というのはかなり乙なものがある。一言で言うと最高だ。

 シルフィアはそんな景色に目が奪われたのか、部屋に入った瞬間に立ち止まって呟いた。


「わぁ...綺麗です...」

「でしょ。自分もすごく気に入って...あっ、茶葉取り出さなきゃ」


 シルフィアと一緒に感動している場合じゃなかった、紅茶の茶葉を取り出す時間だ。ポットに茶葉が入ったまま放置して渋くなるのはいただけないからね!それにこの最高の景色と共に美味しいものを飲みたい!

 そんな思いから窓際にあるテーブルの前まで素早く移動して、テーブル上にトレーを置く。ポット蓋を開けて手拭いを使ってポットから茶漉しを取り出すと、茶漉しごと茶葉を入れる器の上にそっと置いた。ポットから香り立つ香りはいつも通りいい感じだ。部屋が暗くてよくわからないけれど、色味もいいように感じる。慌てた甲斐あって美味しい紅茶になっていそうだ。

 一安心したのでシルフィアの様子を伺う。するとシルフィアはまだ景色に目を奪われていた。余程この部屋から見える景色が気に入ったようだ。


「ささ、こっちきて一緒に飲も」


 シルフィアは自分がかけた声で我に返ると、テテテーと駆け寄ってテーブルの椅子に座った。自分は用意したティーカップに紅茶を注いで、シルフィアの前においた。そして、自分の分をティーカップに注ぎながらシルフィアに声をかける。


「はい、どうぞ」

「いただきます...あっ美味しい...香りが立っていて...渋みが無くてすごく美味しいです。どこの茶葉ですか?」

「茶葉は学園近くの喫茶店に売ってたものだよ」

「それって私も買ったものですよね?」

「そうそう。お店で飲んで美味しいからって買ったやつ」

「私が淹れて飲んだのと全然違います...!同じ茶葉なのが信じられないくらい...!」

「それは美味しく淹れるコツがあるのよ。それはねー」


 などなど適当な会話をしていく。すると次第にシルフィアの表情の影に潜んでいた浮かないものが消えていった。耳も萎れていないし、尻尾もフリフリしていてご機嫌の様だ。考え事が思考から消え去るくらいには、楽しんでくれているのだろう。それに今のところ、自分の煩悩も退散してくれている。この調子なら自分もシルフィアもすんなり眠ることができるだろうな。そう思いながらのんびりと会話して景色を堪能しつつ、紅茶をまた一口啜った。

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