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2-22 帝国勇者との模擬戦2

(略しすぎています)

 この結界破りの作戦は相手を驚かせることが重要だ。そのためには結界を破る前に結界内への衝撃波を加えること、結界を破った直後に混乱中の相手を倒すことが必要になる。タイミングが重要になってくるのだ。

 その中で、衝撃波を発生させるタイミングは相手の攻撃に依存する。そのためには相手の攻撃サイクルを把握する必要があるな。


 土煙の立ち込める中、相手からの魔法を回避しつつ相手の魔法の発射タイミングを伺う。すると、田川が2の頻度でボルトニードルを放つのに対して、瀬賀が1の頻度でウォーターランスを放っているようだ。相殺する機会が多いのはボルトニードル、タイミングをとりやすいのはウォーターランスだな。

 このどちらかを相殺して衝撃波をだすのだが、頻度はあまり重要じゃなくて衝撃波の強さが重要だ。威力が高ければその分生じる衝撃波が大きくなり、隙を作りやすくなるだろう。なので相殺する魔法としては、一発の威力が高い瀬賀が放つウォーターランスがいいな。いい働きをしてくれそうだ。


 お次は結界を破るための攻撃だ。瀬賀の攻撃タイミングと結界を破るタイミングを僅かにずらしたい。結界を伝う魔力の波の周期はもうわかっているから、後は瀬賀の攻撃タイミングに合わせて結界への攻撃を始めるだけだな。

 とはいえ、針の穴を通すような作戦に少し緊張しているのか魔力が少し乱れているのを感じる。一呼吸してから始めるとしよう。


「すぅ...はぁ...」


 多少落ち着いたような気がする。魔力の乱れも多少はマシだ。この状態なら作戦の実行に不安は無い。それじゃ、始めるか。


 相手からやって来る魔法の雨の中、瀬賀からのウォーターランスにタイミングを合わせる。作戦開始まで3、2、1。


「いま」


 アイスニードルを発動し、高速な氷柱を相手の結界へ向かって発射させる。周囲の空気を置き去りにして高速に移動した氷柱は思い通りに結界へと衝突し、結界の表面に魔力の波を生じさせる。


「ちょっと置いて、ここ」


 さらにアイスニードルを発射させ先ほど放ったものと同じ場所に着弾させる。結界に生じた魔力の波は最高点になっており、アイスニードルがその波を押し出して魔力の波をより強いものにしていく。予想通りの現象だ。これなら結界破りが成功するぞ。

 結界内側の様子は土煙で伺えないが、相手の攻撃タイミングに変化はない。相手から感じる魔力にも変化がないし、この攻撃では結界を破れないと思っているのだろう。これは思い通りに事が運びそうだ。勝ったなガハハ。


「それっ、そしてほいな!」


 謎の掛け声とともにアイスニードルを結界に向けて連続して2つ発射する。1つは結界破壊用、もう一つは結界内に衝撃波を与えるためのものだ。ちゃんと当たってくれよな!

 結界に生じた魔力の波から察して、アイスニードルが2発衝突すれば結界を破壊できるだろう。これから1発は衝突するから、最後の1発は相手へ接近した時に放てばいいか。それじゃ、突っ込んで相手を吹っ飛ばすために身体強化魔法をかけるとしますか。


 身体強化魔法を発動するためリング型MSDに魔力を流して、帰ってきた魔力を体内に循環させる。体は次第に羽のように軽くなり、感覚がさらに鋭くなる。あまり強化しすぎるのも困ることになりそうだし、流す魔力は抑えめにっと。よし、突っ込みますか!


 地面を蹴り出して矢のように相手の結界に向かって移動する。試合開始直後の時よりかなり素早く相手への接近ができている。さすがは身体強化魔法だ。同じ感覚でも前へ進む力が大きく違う。この感じだと、相手への接近が結界破壊に間に合う。いい感じ!それに土煙の中とは違って空気が美味しいね!ジャリジャリしないし!


 発射した2つのアイスニードルのうち1つが着弾し、結界に生じた魔力の波をさらに強くする。程なくしてもう1つのアイスニードルが結界に届こうかとした時、瀬賀が発射したウォーターランスと衝突した。自分と相手の攻撃は粉々となり、衝突して生まれた衝撃波が爆音と共に周囲に広がっていく。その衝撃波は結界内にも届いたようで、衝撃波に伴って結界内で土煙りが発生した。その土煙は結界内で止まり相手の視界を遮っている。ざまあ、結界なんてしてるから土煙が立ち込めるんだぞ。


「これで最後かな」


 自分と結界との距離が残り5歩まで近づいた時、衝突時に爆ぜるアイスニードルを結界の魔力の薄い場所目掛けて発射する。真っ直ぐに飛翔したアイスニードルは狙った場所に突き刺さると衝撃波とともに砕け散った。それは結界にも伝播して、結界を光の粒へと変えた。

 よし、成功だ。結界を破壊したアイスニードルの衝撃波で結界内に充満していた土煙も晴れたし、畳み掛けるぞー。


 晴れた視界の中相手の様子を再確認すると、相手は目に砂利が入ったのか目を瞑り、ただ土煙に咽せていた。それに、混乱しているためか自分を捉えられていない。この調子じゃ多分結界が破壊されたことも気づいていないんだろうな。チャンスだし、失礼しますよぉっ!


 まずは、西村に接近する時の運動エネルギーを込めて回し蹴りをお見舞いする。装備がいいのかゴムを蹴るかのような感覚に少し気持ち悪さを感じるが、強化した足で蹴り抜く。その力は凄まじく、西村だけでなく背後にいた瀬賀と一緒に演習場の壁へと飛んでいく。これはどこぞのキャプテンよりも強烈なキック力がありそうだ。というかこの世界にサッカーとかあるのか?

 飛んでいく2人を見るのも程々に、回し蹴りで崩れた体勢を早急に整え、井上に腹パンをお見舞いする。こちらも装備がいいのかゴムを殴るような感じで少し気持ち悪いが、体重を込めて拳を振り抜く。その力も凄まじく、井上はくの字になりながら演習場の壁へと飛んでいく。これは一重の極みアーーってところだな。二段階になってないから多分そう。

 かなり手加減してこれだから身体強化魔法半端ないな...。フルパワーだったら地形変わる威力が出そうな気もしなくもない...。下手な魔法よりも強力だぞ。


 吹っ飛んでいく3人を見るのもほどほどに体を田川へ向け、次の攻撃に移ろうとした。その時、田川は自分へ銃口を向けていた。あっ、コンニチハ。どうも、カオリです。

 田川は、視界に自分が捉えられていないのか視線が定まっていない。だが、銃口へ集まる魔力は着実に増加している。多分適当に攻撃を放つのだろう。多分当たらないだろうけど、相手が何を隠し持っているかわからない以上、どんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。致命傷となる攻撃を弾けるように魔力刀を発動するか。


 魔力刀を発動しようとナイフ型MSDに魔力を流し始めた。その時、田川のポケットから大量の魔力が放出し始めたのを感じ取った。その魔力は田川と同一の魔力で、加速度的に魔力放出量が増加しようとしている。何かの魔法の発動前兆か?それとも単なる魔力放出?何にしてもこれは確実にやばい!とりあえず、自分を守らないと!安全第一だ。


 すぐさま体内を流れる魔力の相対位置を固定し、田川から距離をとるように背後へとジャンプする。程なくして、田川から瞬間かつ爆発的な魔力が放出された。

 その魔力は自分を襲い、体から自分の魔力を追い出すような力を加える。そして、その魔力は演習場全体へと広がっていった。観戦していた学生のいる場所にも届いたのか、田川の魔力に当てられて学生たちはフラフラとしている。多分魔力同士が反発する性質で、自身の魔力が大きく揺さぶられたからなのだろう。自身の魔力の相対位置を固定せずに、あれを至近距離でまともに食らったら面倒なことになっていたに違いない。これは自分の処置は正解だったようだ。危ない危ない。


 そうして自分が距離をとっていると田川は体勢を立て直して今の状況を確認する仕草を見せた。僅かな間の後、田川は視線を自分の方に向けてきた。さらに、口角を不気味に上げて、楽しめそうだと言わんばかりの表情を向けてくる。仲間3人が瞬時に戦力外となっている状況にも関わらずだ。この感じ、これはまだ隠し持っている何かがあるな?

 それに表情から察して、流れが相手有利へと傾きつつある。その流れを止めるために、邪道だが話しかけるとしよう。ネタはさっきの魔力放出。出力的に相手に重傷を与える明らかなルール違反だ。なんか言っても認めなさそうな気がするけど流れを止める役割としてはいいだろう。


「ちょっと今のは反則じゃないですか?」

「ああ?それがどうした?勝てばいいんだよ勝てば」

「立会人、今のは」

「そいつは今頃寝てるよ」


 田川への視線を自分の立会人であった女子生徒の方へと向けると、模擬戦のフィールドの外で倒れているのを視認した。起き上がる気配がないし、さっきの魔力でやられたか?いや、違うな。近くにはバラバラになった紙が落ちている。あれは多分ルールブック的なやつだろうか。何者かが手元から髪を盗んでバラバラにしたというところか。

 タイミング的にさっきの魔力では無理だ。となると土煙が上がった時だろう。勇者側の立会人は男子生徒だったはずだが...セクハラやってないだろうな?まったく、やる事がゲスいな。

 視線を再び田川へ戻し、呆れた声で告げる。


「これが勇者のやることですか?」

「勇者のやることは全て正しくなる。RPGでも強盗しようが、人をやろうが同じく正しくなるんだよナァ。あ、わかんないかw」


 田川の言う事自体、同じ世界からやってきたからその意味はわかる。だが、ここはゲームの世界じゃない。生活している人たちはNPCではなくそこに生きている。異世界はゲームではなく、第2の現実に過ぎない。それを理解できていない...というか理解しようとしていない。そんな考えから来るふるまいは傍若無人にも程があるというものだ。


「しかも、妨害魔法まで...」


 先ほど爆発的に広がった魔力がその場に漂い続けており、魔法の発動が妨害されている。先ほどの爆発的な魔力の広がりは、魔法発動妨害魔法の中に組み込まれた現象の1つなのだろう。その魔法の発生源としては田川の魔力で構成されている以上、共有している大型MSDやメインMSDではなく仕込んでいた小型のMSDだろう。少し気になっていたがこういう事だったか。

 だが、小形MSDに収まるエーテルカートリッジのためか、魔法発動妨害魔法によってフィールド上に広がる魔力が薄い。無理したら魔法を発動できなくもないレベルの魔力濃度だ。ここぞという時に魔力刀やアイスニードルを使えるのでラッキーな状況だ。とは言え、またMSDに負荷をかけて修理に出す羽目になるのも面倒極まりない。壊して持っていったらシュトーさんに呆れられそうだし、ここは身体強化魔法で乗り切るとしよう。


「何て言われようとかまわないさ。なんせ最後に勝つのは俺なんだからな!」


 そう言って、田川は銃口を自分へ向けて魔力を集中させていく。ボルトニードルを連発するつもりなのだろう。このまま思い通りにさせるものかと、身体強化に入力する魔力を僅かに増やして、さらに身体強化を施す。


 田川の銃口から放たれたボルトニードルを躱し、田川との距離を一瞬で詰める。田川はそのスピードと回避力に驚き目を丸くしていた。ざまあと言って差し上げますわ。

 距離を詰める際のスピードが乗った回し蹴りは田川の腹部を確実に捉え、豪快に吹き飛ばす。おー綺麗にくの字で飛んでいってらっしゃる。

 そして、轟音と共に演習場の壁に激突した。


「終わった?」


 そう思ったので田川から視線を切って、フィールド上の立会人を探した。だが、自分の立会人はダウンしており、勇者側の立会人は姿が見えなかった。被害者である自分の立会人はともかく、勇者側の立会人はちゃんと立会人としての役目を果たしてほしいところだ。って無理か...。

 そう気が抜けたとき、吹っ飛んだ田川の方から声が聞こえた。


「いや、まだ、だ」


 視線を田川へ向けると、少しよろけながら立ち上がる田川の姿を捉えた。そこで立ち上がる気力があるのは凄いと認めるが、往生際が悪いぞ。というか、そんなふうに満身創痍で立ち上がられると自分が悪役みたいじゃんか。やめなー。

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