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2-21 帝国勇者との模擬戦1

(略しすぎています)

 試合開始のブザーに反応して帝国勇者たちに向かって素早く動き出す。魔法が飛んで来ても弾くことができるようにナイフ型MSDを体の前で構えながら、地面を蹴って前へと進む。

 相手までの距離は約30歩だ。どう出るかな?


 相手の田川と瀬賀はブザーと共にそれぞれのMSDに魔力を流し、魔法の発動を開始した。田川は拳銃型MSDの銃口をこちらへ向けると、銃口の先に魔力を集中させ始め、瀬賀はワンド型MSDの先端付近に魔力を集中させている。集中しているサイズと魔力量からして、小規模な魔法を行使するから発射まで時間はかからないだろう。これなら魔法が発射されるまでに近づけそうだ。

 だが、気になることもある。他のメンバーである西村や井上の動きがないのだ。自分が後衛への接近すると勇者側の陣形が崩れてしまう。なので普通はウルバリン型MSDを使う西村や、直剣型MSDを使う井上が前に出て、自分への対応をしてこないとおかしい。というか、西村はなんか大型MSDをイジっているし、眼中にないな。自分がそもそも近づけないと考えてるのだろうか?舐められたものだな。


 自分が着々と相手との距離を縮めている中、田川からボルトニードルが発射された。初めの軌道から予測すると狙いは前方足元か。余裕で回避できるが、その分前へ進む勢いは落ちる。突っ込ませないための良い攻撃だ。できれば一旦止まりたいけど、前へと進まないと勝機はない。頑張って相手との距離を詰める方向でいこう。

 わざと重心を左にずらして左足に力を溜める。そしてバネの要領で踏み込んだ左足で地面を猛烈に押し返して、斜め右前方へと進路を変える。高速で飛翔するボルトニードルは僅かな間の後、予想通り地面に突き刺さり、地面をわずかに抉りながら消滅する。見る感じ、飛翔速度は速いが威力自体は大したことはないな。集めてくれた情報通りだな。


 進路が右に逸れたので進路を元に戻し、勇者の方向へ直線距離で向かう。

 そうした時、瀬賀からのウォーターランスが発射された。長さ40cm程度の水の槍が自分へ向かって飛翔する。速さはボルトニードルほどではないが、それなりに速い。それに軌道は偏差していてこのまま進んだ先の自分を狙った攻撃だ。このまま避けてもいいが、これ以上勢いを止められると近づくのが難しくなるな...。


 そう思った時、大型MSDから大量の魔力が放出されるのを感じた。魔力がどこか1点に集中していないし、攻撃系魔法ではないな。陣形から予測して、おそらく妨害魔法か結界魔法を発動するのだろう。後者だった場合はこちらの攻撃は基本通らないと考えた方がいい。結界を破るのはできるだろうが、前衛の西村と井上がいるからかなり厳しい。せめて隙があれば問題ないが...。一旦離れた方が良さそうだな。


 ウォーターランスが飛んでくるのを視認しながら、右へと回避する。ウォーターランスは先ほど居た場所を貫くと、演習場の壁面へとぶつかり、それなりの音を立てて消滅する。予想よりも威力はあるが、アステラ国勇者たちと比べるとそれ程でもない感じだ。こちらも情報通りだな。


 相手との距離を詰めるのをやめ、バックステップを踏んで相手との距離をとる。その間に、大型MSDから放出された魔力は勇者たちを包む結界へと変化していく。


 魔法が制限される魔法発動妨害魔法じゃなくてよかったけど、結界は結界で面倒だな。というか、攻撃通らないじゃん!これどうする?とりあえずアイスニードル撃って様子をみるか。それで破れる程度の結界なら無いも同然だ。そうであってくれ。


 リング型MSDに魔力と共に硬い氷柱が高速で飛翔するイメージを送り込む。MSDから出た魔力は空中の一点で集まると氷柱へと変質し、結界に向かって高速で飛翔し始める。その氷柱は瞬く間に結界との距離を詰めて結界に衝突したが、大きい音を立てて粉々に砕け散った。

 oh...。やっぱりそうなるよね...。しかも、MSDで出せるほぼ理論値の速度、つまり理論上の最高火力の攻撃でこれだ...。今の攻撃は面積あたりの負荷が大きいけど、結界の強度はそれを大きく上回っている。これは先が思いやられるぞ。さてどうしたものか...。


 相手からのボルトニードルやウォーターランスを避けながら、バックステップで元いた場所まで戻ってきた。すると、相手からの攻撃が止み、声がかかってきた。


「おいおい、大口叩いていた割にはそんなショボイ攻撃しかできないのか?これがプラチナランクとはなw」

「俺たちの連携に手も足も出てねぇじゃんw」

「いや、お前突っ立ってただけじゃんw無能乙w」

「今のがこの模擬戦で1番ダメージ通ってるw」

「ばっ、おまw」


 賑やかなのはいいが、余裕こきまくっているのはよろしくないな?足元を掬われるよ?今はそんな手段ないけど!


「安全圏から言われても何も響きませんよ?」

「装備も実力のうちってなwほら、攻撃しちゃうよ~w早く避けないと痛いよ~w」


 田川はケタケタと笑いながら、ボルトニードルを乱射してきた。瀬賀もそれに加わり、相手の攻撃が増す。隙ができないように最小の動きでそれらを躱すが、相手の連射力はそれらを上回っていて時折回避不能な攻撃が飛んでくる。それを魔力刀を発動したナイフで弾き、攻撃が途切れる時を待つ。


「ちょっと考える余裕が欲しいな。状況が変わればいいけど...」


 何かないかと横目で周囲を観察すると、魔法を回避したり弾いて軌道を変えたことで地面に突き刺さった魔法が土煙をあげていた。それが集まって大きな土煙となり、自分の背後に大きく立ち込めていた。

 これは使える。相手の視界が途切れるし、自分への狙いも荒くなる。そうなると回避に余裕が出てくるはずだ。土煙の中に隠れるほかないな!


 バックステップで相手との距離をとりつつ、素早く土煙の中に入る。

 すると、自分の視界は土煙に閉ざされ、視界は機能しなくなった。なので瞳を閉じ、魔力の感覚を頼りに魔法の回避をする。魔力の変質後にわずかに残った魔力を肌で感じ取り、軌道を読んで回避をしていく。このくらいなら開眼しなくても朝飯前だ。

 そして、相手の魔法は段々と雑なものになってきた。自分を捉えることができなくて適当な場所に攻撃を放っているのだろうな。


「これなら回避も楽だね」


 適当な攻撃のおかげで、余裕が生まれてきた。これなら色々考える時間が作れるだろう。っと考え始める前に、ちょっと仕返ししておくか。


 先ほど発射したアイスニードルと同じものを結界に向かって発射する。特に深い意味はないが、自分からは相手が見えているんだぞという脅しになったらいいな。

 そう思いながら放ったアイスニードルは土煙を突き抜けて再び結界へと衝突して大きな音を立てた。だが、その瞬間気になることが起きた。


「ん?」


 氷柱は粉々に砕け散ったが、その際に結界の表面が波打ったのを感じ取った。いや、結界が波打つというよりかは、厚い箇所と薄い箇所が移動していく感じといった方が正しいだろう。それは、突き刺さった場所の反対まで移動すると反射して元の刺さった場所まで伝播し、また反射するといったことを減衰しながら繰り返している。

 元々結界は薄い魔力の膜で構成されている。そして、MSDがある場所の負荷を検知すると、その場所に魔力を集中させて結界が破れないようにしている。さっき感じた事象は、その作用で生まれた結果なのだろう。普通ならば攻撃を受けた箇所から波紋が広がるように魔力の厚さが変わる事はない。おそらく大型MSDの魔力制御が適当なのだろう。ありがとう、知らないMSDメーカー!めちゃ助かる。

 そのように魔力の厚さが変わるということは、場所とタイミングによっては、結界を破りやすくなっているということだ。うまくタイミングを合わせてアイスニードルを放つと、結界の厚さ変化を増幅できるはず。そうなると、アイスニードル程度で結界を破ることができるだろう。これなら大丈夫そうだな。その策でいこう。


「結界はクリア。後は、どう隙を作るかっ...危なっ!」


 いまだに続く勇者からの闇雲な攻撃を避けながら考える。というか、いい加減攻撃やめて様子見したらどうなの?土煙で何も見えてないでしょ?


 相手からの攻撃は結界の内側から来ている。つまり、相手の魔力や変質したものは結界を自由に通過できることになっている。だが、自分の攻撃は結界を通過できない。なら相手と自分の攻撃が同時ならどうなる?


「んん?」


 自分の魔法が結界の外側、相手の魔法が結界の内側から放って、結界の同じ場所とタイミングで衝突したらどうなる?普通にいくと、自分の魔法は結界の外で弾かれる。相手の魔法は結界を内側から通過しつつ、自分の魔法と相殺されて衝撃波を産む。その衝撃波は相手由来のものなので、結界も通過する。これは使えそうな気がするな。

 だが、衝撃波は無指向性だから結界に対しては、MSDに負荷をかける程度のもので効果は無い。でも、結界内で胡座をかいている奴らには結界を貫通する攻撃と勘違いしてかなり驚くはずだ。そうなれば大きな隙が生まれるだろう。

 結界を貫通する衝撃波を何回も起こすと、それがほぼ無害であると気づかれる。チャンスは1回くらいだろう。だが、それで十分だ。


「これでパーツは整った」


 さあ、結界を破って反撃に移るとしよう。

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