2-20 模擬戦開始直前のルール決めと相手の装備
(略しすぎています)
どうも、学園の放課後に演習場のフィールド上で準備運動をしている銀髪ロリエルフになったものです。フィールド上には先ほど帝国勇者チームが入ってきて模擬戦の準備を行なっているみたいです。やけに準備物が多そうなのですが、何をしでかすつもりなのでしょうか?相手がどんな手段を使おうとも、負けるつもりはありませんよ?
用意した演習場は演習場の中でも広めの会場で、多人数が観戦できるような場所だ。昨日急遽予約することになったので、自由に戦える広いフィールドの場所を選ぶと空きがそこしかなかった。だが、偶然にも戦闘能力評価トーナメントで使った会場だったので、フィールド上の動ける自由度が想像できるのはありがたい。前もって戦闘のシミュレーションができるからね。
自分の装備はいつものナイフ型MSD2本とリング型MSD2つだ。できることは限られるけど最も信頼できる装備たちだ。遠距離の攻撃手段が限られるが、肉薄した状況下ではピカイチの攻撃手段だ。多分今回もなんとかなるだろう。
対する相手は各自のメイン武器っぽいMSDの他に、袋から手に収まるサイズの小型のMSDを4台取り出している。さらに40cm程度あろう大型のMSDを地面に設置している。何をしてくるか謎だな。
観戦席には数多くの生徒が座っていてかなり注目される模擬戦になっているようだ。リナがかなり情報を広めたからなのだろうが...集まりすぎでは?中には学園の先生らしき人の姿が数人いるので学園としても見逃せない状況になっているような気がしないでもない。口喧嘩を仲裁するために割って入ったらこんな事態になるとは予想にしなかったぞ?
周囲の状況を把握していると、この模擬戦の立会人である女子生徒が声をかけてきた。この子は...口喧嘩を仲裁した子ではないけど、どこかで見たような...?
「もう始めても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。すぐにでも」
「わかりました。それではフィールド中央に向かいましょう」
服装は制服だが、身につけているアクセサリー類やMSDが少し高そうな感じだ。ちょっとした貴族系の人なのだろう。でも大丈夫かな?一応、アステラ国ではエルフを人族と対等な存在としているけど、アステラ国以外の国のほとんどは差別対象だ。そんな自分と関わると色々やりにくくなるだろうに。ふーむ?何故に?
「えっと...私の顔にでも何かあります?そんなに見つめられると困っちゃいます」
「ご、ごめんなさい。ちょっと考えていたもので」
「冗談ですよ、カオリ様ならどれだけ見ても大丈夫です。むしろ嬉しいくらいです」
そう言う女子生徒は少し照れた表情だ。カオリ様というあたり、ファンクラブの一員みたいだ。カオリ様への尊敬?敬愛?みたいなものは、関わることで発生する問題を回避することよりも価値があるみたいだ。そんなカオリ様とかいう人がキニナルナー。スゴイヒトナンダロウナー。
「何を考えていたのかわかりませんが、模擬戦頑張ってくださいね!応援しています」
「ありがとうございます。それなりに戦ってみます」
2人で歩いてフィールド中央付近まで来ると立ち止まり、相手の方を見る。
相手の帝国勇者たちと男子生徒の立会人1人は準備が整ったようで中央付近まで歩いて来ていた。余裕さを感じさせる表情だが、魔力を体外に放ち威圧的な雰囲気を纏っている。放つ魔力量は肌感覚から察して、そこら辺の学生の100倍以上はあるだろう。保有する魔力量は単純計算すると一般生徒の100倍くらいか。だが、自分が相対したことがあるエンシェント・タートルには敵わないのでそこまで脅威には思っていなかったりする。魔力の塊が飛んでくるかのような、全てを無に帰すようなクソデカビームを目の前にしたらそんなものは些事なものよ。
周りで見ている生徒たちはそう思っていないようで、帝国勇者たちが体外に放出する魔力で恐怖を感じているようだ。そんなにビビらなくてもいいと思うんだけど、生物的には正しい反応かも?自分の感覚がぶっ飛んでいるだけか。
人間離れしているのは勇者か自分かなどと考えていると、帝国勇者の1人である田川が話しかけてきた。
「おいカオリ、倒される覚悟はできたか?」
「それはこちらのセリフですよ」
「そう言えるのも、今のうちだぜw精々、今のうちにホラでも吹いて置くことだなw」
そんなに草生やしていると、後々燃えちゃうよ?言葉がブーメランになって帰ってきた時は消し炭になっちゃうけど大丈夫そう?っと、相手の心配している場合じゃないな。今のうちに模擬戦のルールを確認しておこう。
立会人である女子生徒に声をかけてルールの確認をお願いする。女子生徒は自分を見て頷くと、ポケットに入れていた紙を取り出してルールを確認する。
「模擬戦のルールについてですが、戦闘能力評価試験時のルールに則ります。死傷性の高い魔法や物理攻撃はそれを発動した時点で敗北が確定します。両者共に加えるルールはありますか?」
「それでは自分は承認の得ないルール書き換えの禁止、並びに自分または帝国勇者4人以外の第3者による模擬戦の干渉を禁止する事項を加えてください」
「俺たちは使うMSDの数、種類は自由にしてくれ」
「わかりました。両者共に以上で問題はないですか?」
MSDの数、種類は自由ときたか。それ自体に問題はないんだけど、用途がわからない大型MSDが気になるところだ。それを使って何か強力な魔法を発動するかもしれない。使われると詰みなんて状況が生まれてしまっては興醒めにもほどがあるし、ちょっと予防線を張っておくとしよう。
「ああ、早く始めようぜ」
「自分は勇者側の提案を受け入れる条件として、1つルールを加えることを求めます」
「なんだよ、模擬戦で使うMSDは基本自由だろ?」
「MSDで発動した非殺傷性魔法でその後生じる結果により、重症を負うようなものは殺傷性があるとして認めてください」
「すみませんカオリ様、それは一体どういう」
「例えば大量の魔力を相手に放つとかでしょうか。加減をすればそれ自体に殺傷性は低いですが、そうでない場合は魔力の反発によって魔力伝達経路がズタズタになり最悪の場合死亡します」
「要するに死なねぇ程度に手加減しろってか?よわっちいやつの言うことじゃねぇかw」
そうじゃなくて、大型MSDを使って2重の結界を張って、自分は猛毒を喰らう方の結界に閉じ込められるとかいう感じの詰みとなるケースを避けたいだけだ。あの大型MSDで何の魔法を発動するのか分からないからな。でも、勇者田川の反応からはそういった類のMSDじゃないみたいなので、杞憂なのかも。というかそうであってくれ。
「そう思ってもらっても構いませんよ。でも実際重要なので。お腹に風穴開けられたくないですよね?」
「何言ってんだお前wそんな細腕では風穴開けるどころか装備に傷もつかねぇよw」
「では同意ということで」
「それでいいからさっさと始めちまおうぜ」
「それでは、さらに先ほどカオリ様がおっしゃったルールを追加して本模擬戦のルールとします。両者宜しいですね」
「ああ」
「はい」
自分側の立会人と勇者側の立会人が双方の同意があることを確認する。2人の立会人は両者共に合意があるとして、立会人双方が持っていたルールシート上に確認のサインをしてそれを交換した。なかなかしっかりしてるな。学生同士の模擬戦にここまでするかと疑問に思わなくもないが、しっかりしていた方が後々禍根を残さないしいいのかも。自分としても安心だ。
立会人である女子生徒はルールシートを制服の内側に入れると、双方に聞こえるように大きな声で伝える。
「立会人側の準備が完了しましたので、模擬戦開始準備に移ってください。1分後に模擬戦開始のブザーを鳴らします」
その言葉を聞いて、自分は初期位置にゆっくりと移動する。その最中に、左右の太腿につけたホルダーから白と黒のナイフ型MSDを取り出してその感触を確かめる。ほぼ新品なMSDになっているが、手の馴染みは最高だ。MSD内部にある核への魔力の通りもいつも通りで問題ない。いい感じだ。
初期位置に移動した自分は振り向いて相手の勇者4人組を観察する。これから模擬戦をするのかと思うほどダラダラしている感じが見て取れるが、腐っても勇者だ。一般人よりも隙がない。時折笑う仕草を見せながら各々メインMSDを手に持って談笑している。もう勝ったつもりでいるのだろう。戦う前から気が早いことだ。
帝国勇者側の隊列はウルバリン型MSDの西村、直剣型MSDの井上が前衛、拳銃型MSDの田川が中衛で、ワンド型MSDの瀬賀が後衛の布陣を取った。その背後には大型MSDが地面に置かれている。前衛の2人は軽く構えてはいるが、自分へ突っ込む仕草は感じられずとてもリラックスしている様子だ。その後ろの2人も同様だ。
そこから察して、初動に4人はその場から動かず、移動不可な大型MSDを守りながら自分と相手することになるだろう。となると、あの大型MSDは結界魔法か、魔法発動妨害魔法を発動するためのものか...。魔法や物理攻撃手段が限られる自分にとって厄介だな。
勇者の装備をさらに細かく観察していく。それぞれ専用の煌びやかなMSDを持ち、装飾性に富んでいながら防御力に優れそうな生地を用いて戦闘の邪魔にならないように工夫されている戦闘服を身に纏っている。めっちゃお金がかかっていそうだな。と言うか、あの装備重くないのか?それに加えて、小さいMSDを各自1人ずつ装備している。何を目的とした装備か謎だが、気にしておいた方が良さそうだ。
細かく観察していて気づいたけど、装備はそれだけじゃないな。4人それぞれに黒くて細い腕輪のようなものがある。ナニコレ。共通装備のMSDのようだけど、ちょっと異質なものを感じる。サイズ感からして小さい魔石が使われているから、大した魔法は発動できないだろうが...。このMSDは保険みたいなものか?
以上をまとめると、相手は初期位置から動かなさそうだ。加えて、個人につき3つのMSDを持ち、そのうち2つの詳細用途は不明。不確定要素が多く、自分への対抗策を講じてきている以上、楽に勝てる感じではなさそうだ。それに、自分の勘は模擬戦が荒れると告げてきている。もしかすると、相手に手こずって開眼寸前まで魔力を使うことになるかもしれない。こう言う時の勘って超絶当たるから怖いところだよね...。
そんな悪い予感を感じながら模擬戦の準備に入る。
「ふぅー...」
息を細く吐きながら腰を低く落とし、2つのナイフを軽く構えて、集中力を高めていく。肌に感じる魔力の感覚は鮮明さを増し、時が進むのが遅くなっていく。観客の声は次第に遠くなっていき、相手と自分だけの知覚空間を作る。
そうして相手の呼吸が手に取るようにわかるレベルまで感覚を研ぎ澄ました頃、試合開始のブザーが鳴った。
 




