2-17 アステラ国勇者の成長とサリアたちの成長
(略しすぎています)
勇者たちを迎える式典があった翌日、自分の周りは静かになるだろうと思っていた。勇者たちが学園にやってきたから、彼らの方に人だかりが出来るのは当然だろう。だが、どうも違うみたいだ。
自分に向かって興味の視線を向けてくる人が多いのだ。教室の中に入ってきて自分に話しかけてくる人はいないものの、飛んでくる視線が多くてどうも落ち着かない。一体何が起こってるんですか?自分は何もしていませんよね?少なくとも学園では!
朝からこんな調子で、昼休みになっても落ち着く様子はない。サリアたちとお弁当を食べたんだけど、視線を受けまくっていたおかげで元気が出ることもなくぐったりだ。勘弁してくださいなー。一般人なんですよー。
「カオリちゃん、模擬戦の後くらい疲れてますね...」
「大丈夫そう?」
「大丈夫。だけど、なんかずっと視線が気になっちゃって...何かしたかな?」
「うーん。それって多分、勇者さん関連なんじゃない?」
情報通のリナは何かピンとくるものがあるようだ。昨日の今日で勇者関連の情報を持ってきているとはすごい情報網だな。
でも、勇者関連で何かしたか?特に思い当たる節がないんだけどな。強いて言うなら式典の時に手を振られたくらいなんだけど、それくらいじゃ今のような状況にならないよね?リナに詳しく聞いてみることにするか。
「リナ、その話詳しく聞かせて」
「カオリちゃんわかった。ことの始まりはカオリちゃんがアステラ国の勇者さんを指導していることから始まってると思う。その指導でアステラ国勇者さんがかなり強くなった結果、昨日あった戦闘演習で他の勇者さんをボコボコにしたんだって」
この状況の始まりはアステラ国の勇者の面倒を見たからなのか。その話を振ってきたのは学園長だし、拒否権のない話だったので面倒ごとが起きると予想していたが、その通りになった。学園長に箪笥の角に足の小指をぶつける呪いをかけてやろうかな。
それにしてもアステラ国勇者はそんなに強くなったのか。自分が面倒をかけるようになってから1週間くらいなんだけどな?早くない?
よくよく考えると、面倒をみる前から彼女らはチームワークが良くて攻撃のコンボも良かった。明らかな欠点といえば魔法関連の話だ。そこを重点的に練習するメニューを与えていたから、練習の効果がめっちゃあるように見えるはず。となれば、短期間で他の勇者をボコボコにするほど強くなるのも無理はないか。
「他の勇者さんを圧倒したってすごいね」
「確かに私たちが見た魔法はすごい攻撃力でしたから...ありえなくもないです」
「でもでも、情報を集めてみると今のカオリちゃんに起きている問題の原因はそこじゃないみたい」
「「「え?」」」
「多分カオリちゃんと会う前にアステラ国勇者さんが模擬戦をしているのを見た生徒がいたんだけど、その子が言うには昨日の戦闘演習では見違えるほどに魔法の発動が早くなってたらしいの。その期間の違いは」
「自分の指導だよね」
「そうそう。そのことをアステラ国の勇者さんが話しちゃったのよ」
アステラ国の勇者が自分の事を言った結果、勇者も認める人がこの学園にいると分かって興味本位でやってきたという話みたいだ。わからなくもないけど、当事者からすると迷惑な話だな。そっとしておいてくだしあ。
「勇者さんが言ってたって言うことは、人気も相まって広がった感じだよね?」
「私の見立てでは多分そう。カオリちゃんこれから大変だよー」
「人ごとみたいに言わないで!実際そうなんだろうけど!ぬあー」
リナは楽しげな表情で言葉を続ける。
「それで、アステラ国勇者さんにボコされた一部の帝国勇者さんがちょー不機嫌になってたって見てた子が言ってた。しかも、カオリちゃんの名前を聞いた時に嫌な笑み浮かべたって言ってたの。もし目を付けられていたらこれから色々起こるかも」
おわたああああああ!これどうやったら収集するの?引きこもってたら収集する?絶対しないよねぇ!?owaridesu!!
「うなぁー...」
「変なこと考えてなきゃいいですけど...」
「勇者さんだしそんなこと考えないんじゃない?前向きにいこ」
「脅してなんだけど、私もあまり考えなくて大丈夫と思うよ。問題起こしたら火の手が国家間になるし、その辺はキツく言われていると思うから」
「そう考えておくことにする...」
そう言ったが、勇者といえど中身は年齢が変わらないし、元は高校生なんだ。人間ができていると考えない方がいいのは間違いない。そして、未熟な精神の衝動は言葉の枷を簡単に破る。今後問題が発生してくるのは読めた。全力回避できるように準備しておかないとな。今は具体的な手段を思いついてないけど、これから頑張って考えるとしよう。それは平穏な学園生活のため!ふんす。
そう思っていると、何かを思い出したサリアが話を振ってきた。
「それにしても勇者さんってすごい魔力量だね。派手な魔法連発してたんだろうなぁ」
「魔法練習の時でも凄かったですから...模擬戦となるとさらに凄そうです...」
「模擬戦見てた子からは地響きが聞こえてきたって言ってるし、すごかったんだと思うよ!」
「だよね!あの覇気あっての派手な魔法なのかな?カオリちゃんの魔力保有量ってどのくらい?魔法はそれなりに使っているようだけど」
「具体的にはわからないけど、ギルドの登録の時は結構多いって言われたよ」
そう言うと、サリアは不思議そうに首を傾げた。
「そうなんだ?勇者さんや魔法がすごい人って魔力保有量が多くて覇気みたいなの感じるけど、カオリちゃんからは感じなくて。でも、カオリちゃんの魔力保有量多いんでしょ?なんでかなって」
「あ、それ思ってた。カオリちゃんからは全然覇気感じないの」
「サリアちゃんやリナちゃんよりも覇気みたいなものを感じませんね...それって、何か気を付けてるんですか...?」
「みんなが言ってる覇気は体から出る魔力だと思うんだけど、それなら出ないように抑えてるよ。そうでないと魔物に気づかれるし、魔法を使うタイミングを読まれるしでいいことないから」
そう返すとサリアたちの表情が固まった。予想にしていなかった回答だったみたいだ。
「「「え」」」
「え?」
「それって抑えられるものなの?」
「そういう特殊体質か何かかなって」
「カオリちゃんだしありえるかもって」
「みんなは自分を全能全知な神かなんかだと思ってない...?」
「ないね」
「ないよ」
「ないですね」
「「「だって時ー抜けてるし」」」
「ぐぬぬ。事実すぎて何も言い返すことができない...」
「でも、カオリちゃんがそうしてるなら、私たちも放出する魔力を抑える技術を学んだ方がいいのかな?少なくとも魔物狩りでは使えそうな気がするんだけど」
「サリアちゃん、それって魔力操作の訓練にもなるんじゃない?」
「確かに...!魔力を制御する点ではゆっくり魔法発動する訓練に似たものですね...!」
「リナちゃんとシルフィアちゃんの言う通りだ!そうと決まれば」
「「「その方法、教えてカオリちゃん!」」」
「テレビ番組の導入か何かかな?って、ぎゃー!抱きつかないで!」
「「「いやだよー!」」」
自分に抱きついて来ながらそう言うサリアたちはにひひと笑っている。自分も悪い気はしていない。むしろ、朝から浴びていた視線で疲れていた精神が回復しているようにも思う。多分、サリアたちなりの元気づけなのだろう。
サリアたちと自分の身長差も相まって、3人の柔らかな双丘が自分を包み込む。それとともに3人のやさしい香りが鼻腔をくすぐる。それによって、だんだんと精神が回復してくるんだけど、恥ずかしさがこみ上げてくる。あと、息!息があああ!
何はともあれ、サリアたちは体から漏れ出る魔力を感じることができるまでに成長したようだ。多分、魔力制御技術の向上で、感覚が研ぎ澄まされていったからなのだろう。勇者とは基礎スペックの違いがあるけど、この感じだとそれを上回る成長が期待できるだろうな。少なくとも、ちょっかいをかけてきそうな奴らよりは確実に強くなるだろうな。
そう思った時、教室の外が急に騒がしくなった。それと共に、サリアたちからの抱きしめられられた腕が緩まる。サリアたちは何事かという表情で教室の外に視線を向けている。
自分はサリアたちに囲まれて何も様子がうかがえない。だが、黄色い声援とかではない、トゲトゲした雰囲気が伝わってくる喧騒に嫌な予感がする。こういう時の予感ってすごい当たるんだよな。
全く、サリアたちとの幸せ時間を奪ったやつらは誰じゃい!許せないね!いっちょポコしてやりたい気分だよ!




