2-15 強くなりたい剣使いと突飛な噂話
(略しすぎています)
ちょっかいをかけてきた面倒なパーティーをボコして、チヤホヤされて気分が良くなった。なので今日は奢りだ!!と言ってしまったが最後、宴が始まってしまった。ほんと調子がいい奴らで最高だ。お財布の中身は見ないことにしておこう。
肩を組みながら騒いでいるギルドメンバーたちを見ながらそう思っていると、見慣れない赤髪のお姉さんが近づいてきた。確か、騒ぎが起こる前に食堂の中央付近のテーブルに座ってた人だな。なかなかに高価そうな装備を身に着けていて、腰には剣がぶら下がっている。勇者関連パーティーと見ていいだろう。お姉さんといえども結構若いようにも見える顔立ちで、めちゃスタイルがいい。出るとこ出ているタイプだ。足を踏み出すたびに2つの巨峰がたゆんたゆんしている。たゆんたゆん。
様子を伺っていると、その本人は自分の視線に気がついて少し小走りでやってきた。そしてテンション高めで声をかけてきた。
「カオリさん、さっきの試合見させてもらったよ!まさかゴールドランクを相手にして、一瞬で決着がついてしまうとはかなり強いんだね!」
「ありがとうございます。えっと...あなたは?」
「おっとすまない。私はジェシカ・ランドールだ。ゴールドランクをやっていて連合国勇者の護衛パーティーをしている。よろしく頼む」
そう言うと、ジェシカさんは手を差し出してきた。なので自分も手を差し出してその手を握った。ジェシカさんの手は見かけによらず、硬く頼もしいものに思える。剣をかなり振ってきたのだろう。
それに、確実に年下であろうとわかる人にも敬意を払っているような仕草が伺える。暇だからと難癖つけて喧嘩をふっかけてきた奴らとは大違いだ。この様子なら、ジェシカさんと普通に会話しても何も起こらなさそうだ。ある程度気を許すとしよう。
「どうも、カオリです。この街を拠点に活動しています。こちらこそ、よろしくお願いします」
「それで少し聞きたいのだが、さっきの模擬戦で結界を破った上に一瞬で移動したように見えた。一体どんな魔法なんだい?」
「あれは身体強化魔法と魔力刀ですよ。単純に身体強化で移動速度を上げて、魔力刀を使って結界を破った感じです」
「そ、それだけかい!?本人が言うのだからそうなんだろうけど、本当に自分が知っている魔法か疑いたくなるな」
「同じ魔法ですよ。ちょっと気難しい魔法になっちゃってますけどね」
「それはどういう?」
「使ってみればわかります。このナイフで魔力刀を発動してみてください」
そう言ってジェシカさんに黒いナイフ型MSDを手渡す。それを受け取ったジェシカさんはナイフ型MSDに軽く魔力を流し込み始めた。通常通り魔力刀は発動できたようだが、ナイフ表面に張った魔力の膜厚が安定していない。サリアたちが試した時よりかは安定しているように見えるので魔力操作する技術はそれなりにあるようだ。伊達にゴールドランクをしていないことがわかる。
それに、模擬戦の戦闘について熱心に聞いてきているあたり、純粋に強くなりたいという意志が伝わってくる。ゴールドランクというと普通はかなり強い部類に入るので、そこで歩みを止めてしまう人もいると聞く。何のために強くなりたいのかは謎だが、その心意気には答えたいものだ。ちょっとだけ応援するとしよう。
「こ、これは言われた通り難しいな。なかなか安定しない。こんな魔法を戦闘中に使っていたなんて想像にもしなかったよ」
「実際はもっと複雑なことをしていましたよ。ナイフを一旦返してもらってもいいですか?」
ジェシカさんは自分が言っていることが本当かどうか疑問が残っているようだ。ならば魔力刀を自在に扱えるということを証明してみせるとしよう。最初はナイフの切先だけ、次にナイフ表面全体に、そして刃先全体の順に魔力の膜を展開するとするか。
「最初に、これ、次にこれ、最後にこれ、と言った感じです。こんな感じに集中する場所をかえ」
「え!?、うそ!?こんなに簡単に発動しちゃうなんて!しかも、魔力の操作まで!一体どんな経験したらこんな自在に扱えるようになるんだ!?」
「あー、えっと...自分の場合はこれを使いながら魔物と戦う感じですね...」
「それは...私では厳しそうだ。他に何かいい方法とかあったりするのか?できれば戦わない感じのもので」
「そうですね...魔力操作をより繊細に行う力をつけるのが1番いいので、ご自身の剣に魔力刀を展開しながら適当な箇所に魔力を集中させてみるとかどうでしょう?」
「それは試しやすいな。やってみるとするよ。それで、この魔力操作は模擬戦で一体何の役に立ったんだ?」
「結界を破る時に役立ちましたよ。普通の魔力刀は刀身全体に展開されるんですけど、負荷が一箇所に集中すると魔力の膜が破れやすくて切れ味が劣化します」
「その経験は私もよく体験した。魔物を真っ二つにしようとした時に途中で歯が止まってしまったな。その時は魔力を多く流し込んで解決したが...カオリさん的にはどうするんだ?」
もしかして、パワーこそ至高的な脳筋戦闘しています?大剣ならともかく剣だと突き刺す感じになると思うんだけどな...。ま、まあ緊急的な場面ならよくある話と思っておくか。
「そんな時、負荷がかかる場所に魔力刀の魔力を集中させるんです。すると、ギコギコしなくてもすーーっと歯が通りますよ」
「そんな使い方があるのか!ギコギコというのは謎だが、そこまで切れ味が良くなるとは驚きだ!」
「結構体感できる機会が多いと思うので、魔力刀での練習をしておいて損はないと思いますよ」
「ああ、是非やってみるとするよ。色々研鑽して勇者の護衛をするまで強くなったが、少し壁を感じてしまって悩んでいたんだ。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
魔力刀のコツ?みたいなのを知ったジェシカさんはかなり嬉しそうにしている。親切に教えた甲斐があったというものだ。教えるというと、サリアやリナにもこの技を教えておいて損はないだろう。うまくすれば魔法もぶった斬れるようにもなって戦術の幅も広がるはずだ。
うんうんと頷きながら考えていると、何かを思い出したジェシカさんは嬉しそうな表情を引っ込めて、代わりに真剣そうな表情で話しかけてきた。
「それで話は変わるのだが、ここに来る途中に変な噂を耳にしてな。その情報を集めているんだ」
「変な噂ですか」
「ああ、攫われた獣人の村人が別の都市に現れたかと思うと、いきなり暴れ出して人を襲うんだ。その日中にその獣人は全身から血を吹き出して死んでしまうそうなんだが、そんな噂について何か知っていることはあるか?」
めちゃくちゃ物騒な話だな。それに、とてもファンタジー感満載で作り話だと思いそうなレベルだ。
「いや、何も知らないですね。今初めて聞いたくらいです」
「そうか、それは変なことを聞いてしまったな」
「何か力になることがあるかもですし、何かの機会に聞いてみます」
「それは助かるよ」
「ちなみにですが、その噂ってどの辺りで聞いたんですか?」
「そうだな、帝国とその周辺国だろうか?幾分範囲が広いかった記憶がある」
「ここに来てからは?」
「いや、全く。むしろ噂を知らない人が多いみたいだ」
「そうですか。なら、その辺りの国の人に話してみることにします」
「そのほうがいいと思う。だけど、私はこの国に長いこと留まるつもりだから急がなくてもいいよ。気が向いたときに聞いてくれる程度で構わない」
ジェシカさんは噂について随分と真剣に話していた。そこらへんのオカルトチックな噂に没頭する人には見えなかったんだけどなぁ。
真実だとすると突飛すぎるし、オカルトとしても中途半端な感じもある。あまり使わない女子トイレの1番奥を3回ノックすると、返事が聞こえて開けてみると血まみれの長髪少女がいるとか。あるあるな話だけど、目撃者が生還している時点で作り話がほぼ確定なのだ。こんな感じのチグハグ感があると言うかないというか...。
まあ、ジェシカさんはめっちゃ怖い話が好きなのだろう。そう思っておくとしよう。




