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2-11 装備の修理点検と新装備の試作

(略しすぎています)

 どうも、放課後に工房シュトーに来ている銀髪ロリエルフになったものです。先日の魔物騒ぎで痛んだMSDの修理やMSDの新規購入にやってきました。ショッピングは何かとテンション上がりますね。


 本来であれば今日は放課後にサリアと魔物狩りへ行く日だけど、魔物狩りへ行くのはやめておくことにした。

 その件についてサリアと相談したとき、魔物狩り演習で魔物を狩りすぎて行く気が起きないと遠い目をしながら言っていた。つい先日、大量の魔物に囲まれて死に物狂いで移動する経験をしたのを思い出したのだろう。相談を持ちかけている自分も実のところ、魔物狩りは当分先でいいかなとも思っていた。そんな感じで嫌々狩りに行くのも何か違うということで、今日の魔物狩りはお休みとなった。

 その代わり、サリアは午後の戦闘演習中にあった自分との模擬戦で、いつもよりも魔力が込められた魔法を放っていた。半ば身の危険を感じたので、気合い入りすぎてない?と聞いたところ、


「今日は魔物狩りに行かないし、魔力を残しておいてもね~」


という返答が帰ってきた。確かにその通りなんだけど、魔力抑えて少しは手加減してくれないと自分が消し炭になっちゃうよ?最近、サリアの攻撃は回避がかなり厳しいところに飛んでくるようになって毎回ヒヤヒヤものだ。もしかして、戦闘が好きだったりする?バトルジャンキーになりかけている感じ?


「お、お手柔らかにね」

「それはこっちのセリフだよ。それじゃ、カオリちゃんいくよ!」

「ちょちょ、開始早々やばいんですけどおおおお!!」


 そんなこんなの激しい模擬戦の末、生き残ることができて放課後となった。そして、今は工房シュトーに来ている。


「よう、嬢ちゃんじゃねぇか。って今日はやけにぐったりしてるな。どうしたよ?」

「模擬戦相手のサリアが気合入れすぎていたのでかなり疲れた感じです。今日はMSDの点検修理と新しい装備の購入しに来ました」

「そりゃ疲れているはずだ。それにしてもMSDの修理か。点検はすぐ終わるんだが、修理となると時間がかかるかもしれねぇ。先日の魔物騒ぎで修理依頼が多くて手がまわらん」


 シュトーさんは肩をすくめて両手を上げる。いつもよりも気迫がなく疲れているのを感じる声に少し申し訳なさが立つ。だって、MSDがダメージ受けているのを承知で魔法発動しまくっていたからな...。模擬戦ならともかく魔物との戦いとなればそんなことを言っている場合ではないしな。きっと、魔物騒ぎの対応に当たった人たちも同じことを思っているだろうな。


「それでも構いませんのでお願いします。参考程度にどのくらい修理依頼が来ているんですか?」

「おうよ、いつもの20倍くらい来てる。その分儲けが出るとはいえ、こうも多いと困るってもんよ。それで、どいつを点検修理するんだ?」

「リング型MSD2つと、ナイフ型MSDです」

「ほいよ、点検しておく。結果を後で伝えるから、それまで店内を見ててくれ」

「わかりました」


 シュトーさんにMSDを渡して、自分は店内で目的の装備を探すことにした。

 新しい装備とは黒いナイフ型MSDの代わりとなるものだ。物理的な特性と魔法的な特性も良いというハイエンドなものなのだが...あるのだろうか?白いナイフ型MSDを買いに来た時は偶然あったんだけど、今回は流石にないだろうな。

 そう思いながらショーケースに並べられているハイエンドモデルのMSDたちを見ていくと、求めていたものが見つかった。


「入荷スピード半端ないな...」


 無骨なデザインで全体が黒く、手に馴染みそうなグリップと刃渡が自分が使っていたものと同じ長さのものだ。それに、全てのパラメータが白いナイフ型MSDと瓜二つだ。これなら、新しいMSDに慣れる必要もないだろう。これ、買います!今すぐに!


 新しく買うMSDが売り場にあってよかった。とはいえ、色々悩んで買うつもりが即決レベルのものが見つかったので時間が全くかからなかったのでこれから暇だ。目新しいものでも探してみるか?


「メイスに、槍、短剣と大剣、そして弓。弓?」


 弓ってなんだ弓って。アイスニードルとか単一放射系魔法があるのに弓という射程が短いものを使うメリットってあるのか?それに、弓に弦がない。めちゃ不思議だけど、とりあえず商品の売りを読んでみるか。


「えーっと、名前は魔法弓、魔力弦でエンチャントを付加した矢を射出し、魔物を狩るロマン。ロマン武器ですかぁ」


 軽く使っている様子を想像してみる。暗い森の中で弓の弦を弾いて光を放つ矢を射る。弾いた衝撃が周りに伝播するよりも早く、矢は軌跡を残しながら魔物まで進む。魔物に到達した矢はエンチャントにより強力な一撃を魔物に与え、魔物は討伐される。そして、残心した自分を中心として衝撃が静かな森の中を伝播する。なかなかにかっこいいな?

 ポップを読んでいくと、「一度使えば弓の虜。あなたも使ってみませんか?店内試射できます」とかちゃっかり書いていた。沼に落とす準備は抜かりないようだ。


 だが、よくよく考えてみたら実際のところはロマン以上のものはないのだろう。携行可能な矢の数が限られていることから戦力としては不十分だ。それに、矢のコストが半端なく高く、エンチャント可能なものは1本1万ゴールドからだ。戦場で魔法弓を使うと赤字垂れ流しとなるのは間違いなしだ。そんな感じなので、持久戦が求められる冒険者としては選ぶ理由がロマン以外にはないだろう。


 ただまあ、攻撃方法が面白い武器ではある。

 単純な矢を射るだけでは威力が不足するのは明白だ。そこで矢自身で魔法を発動して威力を補う仕組みができるようになっている。矢尻付近に魔力エーテルカートリッジとMSDが付いており、タイミングを検知するとカートリッジ内の魔力を使ってMSDに書き込まれた魔法を発動する仕組みだ。

 その仕組み故に離れたところでも素早く高火力を届けることができるメリットがある。高火力な放射系魔法を魔法支援特化型MSDで発動すると、普通は発動に時間がかかる。そのため緊急性を要するタイミングならば、エンチャント矢と魔法弓のセットはかなり使える装備と言えるだろう。

 さらに、その方法故に自身が保有する魔力量以上の魔法を扱うこともできるので、魔法に必要な魔力を使うことできないような状況でかなり役立つ。例えば、魔力切れの1歩手前や、適性のない魔法を使う時など結構なシーンで使えそうだ。


「もしかして、その発想って自分にぴったりなのでは?」


 自分は魔法を使いまくった時に生じる開眼のおかげで魔法を自由に使うことができない。それは開眼時の紅い瞳は魔族の特徴であるからだ。見つかった日には自分に向かって魔法の雨が降るだろう。そういうわけで、開眼しないレベルで魔法を扱っている。

 だが、先日の魔物狩り演習で起きた騒動では複数回開眼することとなった。それは今の方針では対処しきれない場面が出てきていることに他ならない。


 そこで活用できると考えたのが、カートリッジ式MSDだ。カートリッジ内の魔力を全て使う高火力魔法を発動して窮地を脱するとともに、開眼につながる魔力消費を抑えることができるという話だ。カートリッジ式なので、アイスニードル以外の属性魔法も使うことができて戦術の幅も格段に広がること間違いなしだ。


「そうなるとサイズを抑えて、形として違和感のない形にしたいな。何か原型となりそうなものは...」


 MSDを使って魔法を発動する場面を思い返していると、クソデカエンシェントタートルを倒した時に発動した魔法のシーンが脳内をよぎった。あの時は確か、金属の弾頭の中に詰めた魔力で弾頭を保護する魔法を発動していた。規模は違うけど、魔力タンクを使って自律的に魔法を発動する点では弓型MSDの発想とやっていることが一緒だ。


 ということはあの弾頭を小型化して使用すれば問題ない。具体的な構造は検討しなきゃいけないだろうけど、なんとかなるだろう。


「矢を弾頭に対応させるなら、魔法弓に対応するのは魔法銃か...」

「魔法銃がどうかしたのか?」

「ひゃい!」

「ひゃい!?」


 突然背後から声がしたので驚いて振り返ると、自分が驚いたことに驚いたシュトーさんがいた。おっさんの生「ひゃい」をいただきました。


「シュトーさんですか、驚きましたよ...」

「驚かせてしまってすまねぇ。点検が終わったからそれを伝えにきたところだ。魔法銃がどうのこうの言ってたが、何か面白いものでも思いついたのか?」

「魔法弓のエンチャント機構と魔法銃を組み合わせたらいいものにならないかなと思いまして」

「面白そうなこと考えてるな。具体的にはどんな感じだ?」

「基本的には魔法銃と弾丸で、魔法を使って弾丸を飛ばすというものです。その弾丸が特殊で小型の魔力タンク付きのMSDを搭載していて、その弾丸だけで魔法が使えるという感じです」

「なるほどな。魔法弓の銃バージョンといったところか。実は俺もその発想はあったんだが、弾丸に搭載できる魔力量が少なくて没にした経緯があったんだよな。カオリちゃんはそこのところ、どう考えてるよ?」


 そういえば、弾丸のサイズと魔力量の関係性を気にしていなかったな。弾丸に普通の魔力エーテルを仕込むとなると、発動する魔法は精々アイスニードル1本分程度となるだろう。

 だが、弾丸あたりの魔力量を高めていくとそれだけ威力の高い魔法を打つことができるようになるはずだ。エーテル中の魔力密度を高めることで、弾丸あたりの魔力量の問題を克服することができる。魔力密度を極限まで注ぎまくったら結晶になることを確認しているし、それを使った魔法発動も問題なかった。なので、魔力問題はなんとかなるだろう。

 だが、この技術を使いまくるとなると問題が生まれそうだ。それは、世の中の魔力エーテルカートリッジにこの技術が使われていないからだ。通常では考えられない火力をもたらす事が可能な魔力エーテルカートリッジとなれば、さまざまな場所から詳細を聞きにやってくるだろう。それは困るので、その技術を実装してもらうことは止めて、魔力が空の弾丸と薬莢を用意してもらうことにしよう。


「あまり考えてませんでしたが、そのあたりは色々試してみようと思います。シュトーさんのところでエンチャント可能な魔法銃1丁と魔力が空の弾丸と薬莢セットを10個程度作れそうですか?」

「ああ、作れるぞ。完成するのは1週間以上先になると思うが、それでもいいか?」

「はい、お願いします」

「よっしゃ、久々の制作依頼でワクワクしてきたぜ。色々考えねぇとな」


 そう言うシュトーさんの表情は明るい。修理が立て込んで疲れているだろうに、テンションが上がるあたり職人であることを再確認させられるな。

 雑にシュトーさんの凄さを感じていると、自分に伝えるべきことを思い出したのか、シュトーさんが言葉を続けた。


「っといけねぇ。点検の結果なんだが、身体強化魔法のリング型MSDは修理が必要ないレベルの損耗だった。だが、アイスニードルのリング型MSDは核にダメージが入っていて核の交換が必要だった。これは白いナイフ型MSDも同様だな。それにしても、カオリちゃんよくこんなの使ってたな。違和感しかなかったろうに」

「魔物関連で色々ありましたからね...今まで核が壊れずによく持ってくれたと思います」

「それはカオリちゃんの魔法の使い方が良かったんだろうよ。幸い、両方とも魔力回路のダメージは軽微だし、修理は核の交換だけでなんとかなりそうだ」

「わかりました。2つの修理をお願いします。ところで、黒いナイフ型MSDが欲しいのですけど...」

「毎度!書き込む魔法は白いナイフ型MSDに書き込んでいるものと同じでいいか?」

「はい、同じでものでお願いします」

「了解した。それなら前のデータを使えば1時間くらいでものになるな。よし、店内でしばらく待っててくれ」


 そう言ったシュトーさんはテンションが上がった様子で再び店の奥へと消えていった。修理で忙しいところをさらに忙しくしてしまったが大丈夫なんだろうか?テンションが高いとはいえ少し心配になってきたぞ。


 そんなこんなで、新しく黒いナイフ型MSDを手に入れて、点検済みの身体強化魔法のリング型MSDが手元に帰ってきた。点検修理費用と装備制作依頼でかなりの出費となってしまったが、後悔はない。何せ、安心してMSDを使える。魔法の発動が遅れたり、意図したように魔法が展開されないということもない。最高じゃないか。それに、戦術を広げる装備を依頼できた。これを使っていろんな戦術や魔法を試すことができると思うと楽しみすぎて仕方がない。


「とはいえ、装備整えて誰と戦うんだ?魔物狩りも当分行かないだろうし...」


 そんな疑問を自問しているうちに、自分はサリアよりもバトルジャンキーに近いんじゃないか?という考えも浮かんできたりした。

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