2-9 図書館の状況と襲撃者が求めたもの
(略しすぎています)
「とは思ったものの、来てしまった...」
どうも、学園の図書館前まで来ている銀髪ロリエルフになった者です。リナの話では普通に図書館に入れるとのことで、様子が気になって来てしまいました。図書館の入り口は大きく損壊しており、図書館に用事があった者たちが武力でこじ開けたことが一目でわかります。そんな入り口から図書館に出入りしている生徒がちらほら見かけるので、図書の貸し出しなどは普通にやっているようです。
「とりあえず中に入ってみよう」
そんな損壊している入り口から図書館に入ってみる。
入ってすぐの場所のエントランスは土を含んだ足跡で汚れており、その奥にある図書カウンターは机や備品が壊れている。カウンターの奥側にある壁には大穴が空いており、攻撃魔法を使って突破したような形跡が見られた。
リナの情報通り、被害を受けたカウンター周辺には装備が豪華な警備員が10人くらい周囲を警戒している。さらに、奥の壁に大穴が空いている場所から同じ装備の警備員が出てきているので、ここから見える以上に警備員がいるようだ。侵入は諦めた方がいいだろう。
周囲を見渡してみるが、カウンター周辺以外にこれといった被害は見当たらない。書架から本すら落ちていないレベルだ。ここから察するに、マニューヴェらの集団は初めからカウンター奥の場所に狙いを定めていたようだな。学園内にいる内通者から情報を得たのかもしれない。そうでないと、ここまで被害は限定されないはずだ。
横目で状況を把握しながら、自分が見つけた?隠し部屋に足を運んでみる。魔力反応が一切返ってこない空間があって、その中に様々な高度な魔法技術書があった場所だ。
自分の予想ではこの隠し部屋をマニューヴェたちが狙っていたと思っていた。それは、今の魔法体系の基礎となる技術などが書かれており、その内容も洗練されているものと感じたからだ。彼らが何を成そうとしているのか分からないが、古い図書を狙うあたり今の時代の魔法とは異なる魔法の情報を欲していたと予想できる。それに、自分が読んでいない本に闇魔法なるものもあったのかもしれない。正味、この隠し部屋は集団が欲する情報の宝庫だろう。
だが、隠し部屋の前にある空間は綺麗な状態を保っていた。
「うそん...」
てっきり、こっちも被害を受けていると思っていたのだが、全く被害がない。なんなら足を踏み入れた人すらいないレベルで床が綺麗だ。
「これじゃ、何を求めていたのか謎過ぎる」
「カオリちゃん、何が謎なんじゃ?」
「ひょえ!?」
背後からの声に体をビクつかせながら、振り返って声の主を確認する。
「が、学園長さんでしたか」
「そうじゃよ、アルバート学園長じゃ。カオリちゃんでも変な声出すんじゃな。年相応の可愛げがあるわい」
「そりゃ、いきなり声をかけられたら誰だって変な声あげてしまいますよ。学園長はどうしてこちらに?」
「図書の被害を把握しに来たんじゃよ。カオリちゃんもそうじゃろう?」
「そうです。どの程度被害を受けたのか見に来た感じです」
「それなら、これからカウンター奥の部屋を一緒に観にいくのはどうかの?」
「厳重そうな警備していますが、自分が一緒でも良いんですか?」
「良いも何も、お主には図書を閲覧する権限があるから問題ないわい」
なんかトントン拍子でカウンターの奥に進めることになって、ことがうまく運びすぎているな?でも、まあいいか。例の集団が何を盗んで行ったのか気になるし、ちょうど良いだろう。
「そういうことなら、ご一緒させてください」
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警備員に許可を得た学園長と自分は、すんなりとカウンター奥の大穴に向かった。そこには階段があって地下に降りれるようになっており、その先に本を蔵書していると思わしきスペースがあった。
「これはひどい状況ですね」
「暴れ放題と言ったところじゃの」
部屋は本来整列している本棚が倒壊したり、本棚自体が倒壊していたり、本棚の本が地面に散乱していたりと台風が通った後かのような状況だった。本を盗むだけならこのような状況にはならないだろうに...。
「む、あの痕跡は...」
学園長がそう呟いたので、学園長の視線の先を見た。すると、不自然に壁が抉れている場所が複数あった。多分、魔法でも放ってできた痕跡だ。そうなると、部屋の中が台風が通った後のようになっているのも納得だ。
「この感じ、手当たり次第に放ったという感じですね」
「ふむ。目当ての部屋を探していたんじゃろうが、見当たらなかったのじゃろうな」
視線を壁から部屋に戻し、散策しながら状況を把握していく。部屋には復旧と蔵書点検作業を行う作業員の姿があり、持ち出された本を把握しにかかっているようだ。大抵の本は散乱していたり本棚に残っているのだが、一部の本棚の中には全く本が残っていなかった。
「あの棚は...古代魔法技術書?のようですね」
「そのようじゃの。カオリちゃんは内容気になるかの?」
「ええ、どのようなものか気になります」
「どれ、それっぽいのは...この辺の本じゃな」
学園長は床に落ちていた本を拾い上げて自分に渡してきた。その本は物理的な損傷がほとんど見られず、比較的新しそうな紙の色をしている。最近の本なのかな?とりあえず確認していこう。
作成されたのは今から80年くらい前だ。人に見られていないから痛んでいないだけというには、あまりに新しい。不思議な状態の本だ。内容は結界に関する本みたいだな。
ページをめくって内容を確認していく。書かれている魔法陣はどれも良いものではないな。原型の魔法陣に様々なゴミが足されている。それによって魔法としての十分な効果を発揮しないようになっているものがほとんどだ。
これが、魔法技術書?技術書というには情報が不十分過ぎる。それは自分が見つけた隠し部屋にあったものとは比べ物にならないほどに情報が劣化している。劣化というよりも別物という方が適切かもしれない程だ。写本する過程でそうなったのか、それとも時代を経てゴミが足されていったのかは不明だが、自分が想像していたものとは大きく異なるようだ。
「それにしても魔法陣が変ですね...」
「ほう、カオリちゃんは魔法陣を見るだけでわかるんじゃな」
やべ、実は結界に関する魔法陣を記憶しているとか言えない。それに、その魔法陣が隠し部屋にあった如何にもやばい書物であったとか言えない!ボロを出したら学園長は絶対突っ込んでくるし、なんとか誤魔化さないと。
「あっなんか、こう、綺麗じゃ無いなと」
「そうだとすれば素晴らしい感性じゃ。どこでその感性を育んだのか、ぜひ教えてくれんかの?」
「あ、えっと、MSDに書き込まれている魔法陣を見せてもらった時ですかね?最低限の要素だけ残した魔法陣を見た時は綺麗でしたから覚えてました」
という架空の話を出してみた。
「そういうことじゃったか。それなら分かっても不思議はないのう。ワシも魔法陣の綺麗さに魅了されたから気持ちはよくわかるぞ~。シンプルな魔法に比べたらこの魔法陣はゴミじゃ。特にこの辺は」
誤魔化しは成功...と言えるのか?それに、学園長のオタクな側面が見えてきたぞ。なんか今後も魔法陣関連で声をかけられそうな気がするが...今は気にしないでおこう。
「っと、話が逸れてしもうたな。実はこんな感じで、本に書かれた魔法陣が改変されておるのじゃ」
「それでは、この本書かれている内容は期待できないですね」
「その通りじゃ。魔法陣が改変されておるゆえに、魔法が不安定で何が起こるか想像もつかん。じゃから、誰も使えぬようここに保管しているというわけじゃ」
「ここの本は改変されたの本ばかりなんですか?」
「そうじゃな...おおよそはそんな感じじゃ。中には良書もあったんじゃが、おおよそ盗まれているじゃろうな」
この図書館には改変された本ばかりの隠し部屋とそうではない隠し部屋がある。実は隠したい部屋が自分が見つけた部屋で、改変された本ばかりの部屋は隠したい部屋を隠すためにあるという見方もできる。そうだとすると、強盗に入った集団は改変された書物ばかりで良書を見つけることができ無かったため、壁に向かって魔法を放って隠し部屋を探していたのかもしれない。そう思ったらしっくりくるな。
なんにしても、マニューヴェ率いる集団が古代の魔法技術について調べているのは確実となった。これらを得て何をするつもりかわからないが、この街を襲った理由が明らかとなった。全く迷惑な限りだ。
さらにペラペラとページをめくっていくと、魔法陣による魔法の記述ではなく、よくわからない記号の羅列で記述されているページが出てきた。
「この見たことのない文字の羅列はなんでしょうか...学園長はご存知ですか?」
「十中八九詠唱魔法の類じゃろう。今は廃れた魔法技術じゃな」
詠唱魔法と言えばマニューヴェ率いる集団に関係していた女生徒が詠唱でメテオを発動していたな。どこでそんな魔法の情報を得たのかと不思議に思っていたが、こういった古書から得たんだな。納得である。
それにしても床に落ちている狂化魔法全集?とかいう本。物騒な名前すぎる。バーサーカーでも作り出すのだろうか。とりあえず、この本の続編が盗まれていないことを祈るとしよう。




