旅立ち
「な、な、な、な、なぁっーー!!」
『ヌェヘッヘッヘッ。そう驚くことかよ』
もはや驚きすぎて声すら出てこない。
剣が喋る、あまりにも現実的では現実に。
もしかして誰かが後ろで、と思ったがそもそもここは焼け野原。
隠れる場所は何一つとして存在しない。
「い、一体、なんで……剣が喋って……」
『小僧……いや、坊主と言うべきか?おめさん、随分と大変だったみたいだな』
「……それ、は」
言葉に詰まる、なんせアレは大変という一言で表せるような惨劇ではない。
父親は次々と人を殺し周り、母さんも殺して、妹を連れ去った。
許せない、許せるわけがない。
力強く握った俺の手を、剣は見たのだろうか、俺に向かって質問を投げかけた。
『復讐したいのか?』
「してやりてぇよッ!!許せるわけがないだろッ!!全部、全部あいつが壊したんだッ!!あいつを、あいつを殺してやりてぇよッ!!」
『ヌェヘッヘッヘッヘッヘッヘッ!!!!』
感情を吐露するように叫ぶ俺に、剣は大きく笑い声をあげる。
俺にだけ聞こえる、大きな笑い声を。
そんな笑い声に対して呆然とする俺に、剣は問いかける。
この先全てにおいての、未来を決める選択を。
『お前さん。力が欲しくないか?』
「ち、から……だと?」
『そうだ。復讐するための力さ』
「だが、そんなもの……どうやって?」
『簡単さ。坊主、俺を手に取ればいい』
その言葉に俺は後退りして剣を見つめる。
恐怖を詰めたような視線に、奴は笑ったような気がした。
「俺をって……お前は、一体?」
『……そういやぁ、名乗ってなかったな』
一息おいて、奴は名を名乗る。
いや、名と言うよりは『呼び名』と言うべきか。
『俺ぁ六王剣の一人、初代『略奪王』。かつてこの剣を手に、ありとあらゆるものを略奪した男だよ』
「……は?りゃ、略奪王?な、なんの冗談だ?略奪王ってお前、いつの時代の人物だよ。そもそも!存在していたなんて話はーー」
『してたんだよ、六王剣は実際にな。今の今までずっと代続きで』
「代続き?まさか、六王剣は引き継がれてきたって言うつもりか?」
『そう、察しいいじゃねぇか。六王剣ってのはそうやって続いてきたんだ。そして今度の『略奪王』はお前さん、ってわけだ』
その言葉に俺は戸惑いを隠せない。
と言うより戸惑いから抜け出せない。
さっきから言っていることが何一つとして。頭の中に入ってこないのだ。
(六王剣は実在してた?代続きで続いてき?わ、わけがわからない……)
だが一つ、わかることがあるとすれば。
俺は今、復讐するための力を手にすることができるということだった。
「……くれ」
『おう。なんだ?』
「力を、俺にくれ」
『ヌェヘッヘッヘッヘッ!!!いいじゃねぇか、そう、それでいいんだ坊主。お前さんは今から、8代目『略奪王』だ!』
その言葉に応じるように俺は朱色の剣を手に取り、地面から引き抜いた。
装飾の少ない大人サイズの片手剣、だが重さはそう感じることなく妙に軽い。
ふと、剣を手に取っていない方の左手に、鞘が握られていることに気づいた。
そこになかったはずなのに、いつの間にか存在していたのだ。
剣を収め、付属されていたベルトとともに腰に吊るす。
「……なんか、力がついたって感じがしないんだが」
『そりゃそうだ。俺の力は戦わなきゃ意味がねぇかんな』
「どういうことだ?」
腰の鞘から剣を抜いて刃を見つめると、略奪王は簡潔に説明する。
『俺たちゃ『略奪王』だ。それに準じた力があるのさ、他の六王剣も同様だがな』
「ふーん……なるほどなぁ。で、その力ってのは?」
『また話してやるよ。体感した方が早えしな』
そう言われて軽く剣を振ってみる。
だが素人の俺は、振った剣に持っていかれそうになる。
やはり何かしらの力を感じることはできない。
奴の言う通り、戦いの時になるまで待った方が良さそうだった。
俺が剣を収めると、略奪王は俺に向かって声をかける。
『そんで、これからどうするつもりだ?』
「え?」
『これからだよ。お前さんの目標は復讐することだが、どうやってするつもりだ?』
「……考えてなかったな。取り敢えず……とう……いや、アイツの行方を追う」
『追って、殺すのか?』
「……どうだろうな。アイツはそれでも『父親』だから。もし再開したら殺せないかもな。でも、とにかく、復讐するさ」
そう言って俺は何も残っていない村を背にして歩き出す。
どこか遠くにいるアイツを追いかけて、アイツに復讐するために。