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略奪王  作者: 魚缶
オープニング
2/3

目覚め

 六王剣、それはかつて存在した六人の王のことを指す。

 王たちはそれぞれ剣を持っていた、ただの剣ではない。

 彼らだけのために生み出された剣だ。

 だから『六王剣』である。


 全ての死を操ると言われた『死骸王』。

 ありとあらゆる魔術を極めたとされる『魔導王』。

 その一撃は全てを打ち砕く『鉄槌王』。

 殺意に快楽を見出した『殺戮王』。

 聖なる騎士と呼ばれ、そして勇者とも呼ばれた『聖騎王』。

 そして、ありとあらゆるものをただ一本の剣で略奪したとされる『略奪王』。


 彼らの話は、昔っから残っている。

 小さな子たちは皆、彼らの話を聞いて、そして彼らを()()育つ。


 夜遅くまで起きている子には『殺戮王』がやってくるぞ、って。

 悪い子は『略奪王』みたいになっちゃうぞ、って。

『聖騎王』のようにたくましく育て、って。


 ただ実在したかどうかすら疑われているような存在だ。

 今となっては子供伝いで嘘だと言うことが伝って、まともに話を聞かない子がほとんどなのだが。

 俺もその一人だった。




 かつて父親だった男が妹を攫って、母さんを殺してから何時間経ったかわからない頃。

 俺は建物が崩れる物音で目を覚ました。

 どうやら奇跡的に生きていたようで、崩れかけの建物の中で倒れている。

 上半身を起こして周りを見てみれば、既に火は消えており煙が上がっているだけだ。


 ふと頭痛を感じ頭を押さえる。

 そこで血を流していたな、と思って手を見てみると血は付いていなかった。


(……乾いた、のか。そんなに、時間が……)


 周りには死体ばかり、地獄絵図と言う以外ないだろう。

 だがそんな場所にいて、俺は酷く冷静だった。

 自分のことを思い出そうとするぐらいには。


 俺の名前はヴォルフェルク、あの()が名付けたらしく由来は知らない。

 年齢は昨日で十二歳、髪は母親譲りの黒で妹も同じ。

 目の色は……忌々しいが、あいつと同じで青色だ。

 あの、全てを消し去った男と。


「うっ……」


 思い出せば思い出すほど気分が悪く、ついうずくまってしまう。

 あの光景、首が飛び、血が流れ、叫び声と断末魔。

 目を閉じなくても思い出せる、はっきりと今も、見えてしまう。


「だめだ。思い出すな、俺。忘れろ、忘れろ……忘れてくれっ……!」


 深呼吸をしてゆっくりと落ち着こうとするも、怖いと言う感情で全てが埋まって行く。

 だがそんな感情を一気に打ち切るように、突然大きな金属音が鳴り響いた。

 その金属音はまるで落ちるように響いており、村だったもの全体に聞こえるほど大きい。

 そしてその金属音がするところが、俺にははっきりとわかった。


「……この、音は」


 俺は自分でも気づかぬうちに立ち上がって歩き出していた。

 向かう場所は金属音のする場所。

 かつて村の中心だった場所だ。


 村の中心は少し小高い丘のようになっており、村の集会場が設置されていた。

 しかし今は完全に焼け野原、なにもない。

 ただ一つ、聳え立つ一本の剣を除いて。


「なんだ、アレ……」


 見たこともない朱色の鈍く光る直剣の目の前まで歩いて向かうと、金属音の正体がその剣から出されていることがわかった。

 音は消える様子はなく、ずっと鳴り響いている。

 何故、と思って周りを見渡してみるが、わかることなどなにもない。


(……わからない。わからない、けど。手に取らないといけない、そんな気がする……)


 俺は恐る恐る、剣の柄へと手を伸ばした。

 その瞬間、まるで吸い付くように俺の手が()()()剣を掴んだ。

 それと同時に脳へとなにかが流れて込んでくる。

 記憶という箇所に、なにかが押し流されて行く。


 あまりの大きさになにもかも理解ができないが、ただ流されていることだけは理解できる。

 それがかなりやばいことだということも。


「なん、だ。これッ!いたいッ!!ぐっ、ぉぉぉおおおおおッッ!!!?」


 剣を掴んだ右腕が、突然燃えるような痛みに襲われる。

 咄嗟に離そうとするが、まるでくっついたように剣が手から離れない。

 痛みは手から顔へ、そして右目へ。

 奥の方に、何か、妙な景色が焼きつく。


「こ、れ、は……ッ!?」


 ギシギシと音を立てていそうな歯車。

 そしてその上に立つ大きな神殿、その奥底にいる一人の女性の姿。

 それが見えたところで、一気に現実へと呼び戻される。

 同時に痛みが一気に引いて行き、手から剣が離れる。


「はっ、はぁっ……はぁっ……い、意味、わからない……なんだ、これっ……」


 俺は困惑したまま深呼吸をしようと、思いっきり息を吸い込む。


『小僧、大丈夫か?』

「ひょえっ!?な……だ、だれだ!?」


 息を吐こうとしたその瞬間、突然後ろから声をかけられ変な音を出してしまう。

 周りを見渡して声の正体を探すが、誰かいる、ということはなく。

 キョロキョロ見渡してみるが、声の正体は見当たらない。

 ふと、剣の方を見た時、俺は気づいた。


『おい、俺はここだぞ』

「……ま、まさか。剣?」

『正解だ。俺がお前さんに話しかけてたんだよ』


 話しかけてきたものの正体。

 それは俺が触れた朱色の剣だった。

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