プロローグ
いつも、いつも、いつも。
この世界は見たくもないものを突きつける。
世界は許してくれない、現実から目を向けることを。
世界は許してくれない、現実を忘れることを。
世界は許してくれない、現実に立ち向かうことを。
あの日、俺の世界の全ては変わった。
楽しく暮らしていた場所は全て火の中。
仲の良かったあの子だって、楽しかった遊び場だって。
全部、全部、燃え尽きて行く。
「……なん、で」
「……」
冷たい目が俺のことを、ただ見つめた。
奴の持つ剣は血に濡れていた、俺の、母さんの血で。
だがその血を振り払って、奴は俺から視線を外して振り返って、近く倒れている妹を脇に抱えると、歩き出そうとしる。
だから食い止めるために走り出す。
許せない、許せるわけがない。
だって、だってこいつは、この人は。
「なんでッ!!なんでこんなことするんだよ!!父さんッ!!!」
「……」
「何か言えよッ!!何か、何か言ってくれよッ!!」
だがそんな叫びは父さんの耳には届かない。
それどころか突然、訳も分からず崩れた家の壁に吹き飛ばされる。
勢いは普通に投げるよりも強く、俺は頭から血を流しながら奴の顔を見上げた。
心底ゾッとする目が、俺を見つめている。
その目は明らか様に家族を見る目ではない。
もっと別の、何かを見るような目。
怖い、感情はその一つで埋まって行く。
「っ……!」
あんなのは父さんではない。
誰よりも優しくて、強くて、笑顔の絶えない人だったのに。
今、目の前にいる人は、恐怖の一つしかない。
奴は俺を一瞥した後、踵を返して歩き出す。
燃える村と死んだ母さんを背に、妹を連れ去って。
「ころして、やるっ……殺してやるッ……!!」
頭の中がその二つと怒りで埋まって行く。
視界はだんだんと霞んで行くが、奴の後ろ姿だけはしっかりと捉えられる。
殺す、絶対に殺す、地獄に行こうが、天国に行こうが、どこに行こうが見つけ出して、いつか絶対、殺してやる。
俺は奴の背中を睨んで、ただ殺すこと誓い続けながら意識を失った。
これが俺にとっての始まりだった。
この日、この時、奴を殺すと誓った時。
俺の全てが始まった。
これは復讐譚ではない、それはただの過程でしかない。
これは、俺が『略奪王』と呼ばれ、歴史に名を刻むまでの物語。
歴史最大の犯罪者にして、歴史最強の王として。