31・いいことしかない
捨て台詞を残して去っていくサヴァードの後ろ姿に、ジェイルは舌打ちする。
「お前が言うか。余計なことを企てられたせいで、こっちは久々に色々使って疲れてるっていうのに」
リセは起こっていた出来事に呆然としていたが、その言葉で我に返った。
「ジェイル、身体は大丈夫なの? さっき使っていた魔術、現代ではジェイルしか使えないくらい難しいんでしょ?」
「でも、休憩してるから」
言われてようやく、リセはあまりにも自然に手を繋がれていたことに気づく。
「私に触れている間、ジェイルはずっと治癒の影響を受けていたから、あんなにすごい魔術を使えたの?」
「そういうこと。この様子だと、リセといれば魔力枯渇は心配ないかもな。ま、お前も疲れるだろうし、濫用はしないけど。さっきの肩慣らしみたいなことも普段控えるから。今だって結構、疲れてるんじゃないか?」
「平気、私は元気だよ! それよりもあの……ごめんなさい。ジェイルは私のことを心配して、外に出たくないのに探してくれたんでしょ? 助けてくれてありがとう」
「逆かもな。周り見てみろよ」
「周り?」
促されるまま見回すと、溺れ森のどこか枯れた味わいのある景色の中、リセとジェイルを中心とした周辺だけは、植物が色鮮やかに生き生きとしていた。
「きっとリセが俺の精霊の部分を癒すとき、その力が周囲の自然に直接影響してるんだ」
「それって……ジェイルが元気になれば、辺りの自然も元気になるってこと?」
「多分な」
(それが本当なら。ジェイルと一緒に過ごしているだけで、近くの自然まで元気になるってことだよね? いいことしかない気がする)
リセはほっとする気持ちと同時に、いつにない気怠さを感じて眠そうに目をこする。
それを見て、ジェイルはそっと手を伸ばし、リセを横向きに抱きかかえた。
「わっ」
「治癒を使い続けて疲れただろ? 連れて行くから寝てけよ」
いつもなら恥ずかしさに固まってしまう状況だったが、今のリセは眠気に誘われていることもあり、珍しく体の力が抜けていくまま、その腕の中に思い切り甘えたい気持ちになる。
「ん……」
ジェイルの肩に頭を預け、眠気で舌足らずに返事をすると、そのまま目を閉じた。
「だけど……今、寝てしまったらもったいない気もする」
「ん? なんだその妙なケチ……寝ろよ」
「だってこんなにそばにいるから。ジェイルの声、聞きたいんだもん。私が寝るまで話して」
甘い声色で催促すると、ジェイルが抵抗できるわけもない。
リセを抱えて進む歩調もわずかに緩んだ。




