30・変わっていく
いつも通りのジェイルにほっとして、リセは頷く。
しかしジェイルが再びサヴァードに向き合うと、リセに向けていた柔和な雰囲気は消え失せた。
「おいサヴァード。お前はその術の中で永遠の苦しみに閉じ込められるつもりもないんだろ? それなら、この溺れ森で見たあらゆることは、誰にも言わないよな?」
国すら亡ぼせる伝説の魔術師に淡々と凄まれ、サヴァードは緊張した面持ちで頷く。
「……言わない」
「お前が毎月三本くらい、良いワインをオース伯の所に届けると俺の機嫌が良くなりそうだけど」
「分かった、つてがある。信頼のおける農園から送るように手配する」
「お前、以前より話が通じるようになったな」
「脅されていればそうだろう」
「いや、前は脅しても理解できない奴だった」
「それなら、僕も変わったということか」
「まぁそうだろうな。いつの間にか、俺も変わった気がするし。ほら、その証拠」
ジェイルが手を振り上げると、三人を覆っていた球体の古代魔術は砂のように崩れた。
突如解放され、サヴァードは地に膝をついて呆然としていると、ジェイルがリセの手を引いて近づいてくる。
「サヴァード。リセから聞いたけどお前、本当に精霊と国のことを考えているのか?」
サヴァードは先ほど身に受けた蹂躙の恐怖に逆らう気力もないようで、地面に伏したままジェイルとリセを気怠そうに見上げる。
「ジェイルも知っているだろう。あの白豚たちに任せたら、この国はもっと退屈でつまらない場所になる」
ジェイルは護衛中だった当時から、女好きで社交的なサヴァードが、王の子の中で一番陰気で嫉妬深い第一王子と不仲なことを思い出した。
「それならワインのついでに連絡寄こせよ。お前がこの国の現状を変える気なら、俺もリセも精霊関係は協力できるかもな」
「……ジェイル、お前は誰だ」
「名前呼んで、何言ってんだ?」
「だけどそうだろう。自分の力を人に利用されるのをわずらわしがっていたお前が、僕に協力なんて……」
「お前こそ、女遊びは飽きたのか?」
「女性に飽きたりはしないさ。いつだって魅力的な女性は僕を夢中にさせるけれど、国の方にもちょっとは興味が出て来たかな。後日、オース伯にワインと手紙を送るよ。いいね?」
「ああ。それならもう話は終わりだ」
ジェイルの言葉に、サヴァードは気持ちを切り替えたのか機敏に立ち上がり去ろうとする。
それをきっかけに護衛の二人もついて来たが、サヴァードは一度だけリセに振り返った。
「不甲斐なくてすまないね。そこの悪い奴に捕まった君を守れなくて」




