24・予想外の提案
「僕の側妃はなかなかいいよ。自由で、気楽で、それなのに僕が手に入る。早速オース伯に相談してもいいかな? それとも手紙を送る方が好き?」
(そ、そういう意味だったの?)
予想外の提案に、リセが判断することも出来ず硬直するのを見て、サヴァードは駆け引きを楽しむように微笑む。
「ちょっとズルかったかな。リセは僕が今まで会った誰よりも精霊に詳しいのも尊敬してるし、容姿も性格も人とは違う魅力があるし……君のこと、もっと知りたくなってね。いつもは無表情だけど僕だけはあの笑顔を見ていたいなんて、欲張りかな?」
「わ、私には過分なお言葉で……その」
(返事の代わりに、今すぐ退室したいというか)
「ああ、まだ断らないで。こう考えてみるのはどう? 他国では自然をうまく利用して、精霊の力を引き出しながら発展している、共生を実現している都市があるのは知っている?」
「いえ……そんな素敵な場所があるんですね」
「そう、残念だけどこの国にはない。だけど僕は今の価値観を変えて、そうやって国をより豊かにする方法を探したいんだ。僕たちのためにも、精霊たちのためにもね。リセはその手伝いをするために、僕の側で助けてくれるっていうのも、悪くないんじゃない?」
(そっか。私が王子の近くにいることで、精霊にとってもジェイルにとっても、暮らしやすい国にするお手伝いがしやすくなるのかも)
悪い話ではない。
むしろ今まで望んできたことに繋がっていたが、リセは思い詰めた様子で目を伏せた。
(どうしてだろう。その方が良いってわかっているのに、返事が出てこない)
「そうだ。僕と一緒に出かけてみない? 王都でも、人目が気になるならリセの行ってみたい地方でもいいし……明日はどう?」
「明日? それは……」
(そうだ、ジェイルのお世話は他の人に任せられない)
言い訳を見つけると、リセは少しほっとする。
「急だったかな」
「申し訳ありません」
「だけど側妃という立場は人見知りのリセにとって、結構いい話だと思うよ。王都が嫌なら地方に住むことだって選べるし。そうだ。遠出が無理なら明日の朝、僕たちが初めて会った場所を散歩しようよ」
「明日の朝、ですか」
「僕はリセから精霊について聞きたいな。リセがさっきの提案を断るつもりだとするなら余計、僕だけで精霊への偏見がある国を変える努力をしていくことになるからね。だけどリセがその協力を拒みたいほど僕と会うことが嫌だというのなら、潔く諦めるつもりだけど。会ってくれないかな?」
そこまで言われると、リセに断ることはできなかった。
いたたまれない気持ちのまま退室すると、リセは締めつけてくるような葛藤の理由も分からず、ただジェイルに会いたい一心で、彼のいる部屋へと向かう。