21・戻れない
「……っ」
リセはいつもの無表情でいられず、赤く染まった頬のまま目を見開いて明らかに動揺した。
その間、ジェイルは震える唇に物欲しげな眼差しを落としていたが、拒んでいるわけではないリセの様子に気づくと、甘い笑みを浮かべる。
「かわいいな」
「……あっ、その言い方。今朝の溺れ森で聞き覚えが」
「気づくの遅いんだよ」
言葉と重ねるように、ジェイルはお互いの額をこつんと合わせる。
「わっ」
「俺の額はリセにやる」
「……くれるの?」
「いるならやるよ。あのキスは、これでやり直せたしな?」
リセは一瞬だけ触れたジェイルの額を見上げると、そこが自分にとって特別な場所に思えて、引き寄せられるように手を伸ばした。
ジェイルはそれをかわすとリセを抱いたまま、ごろりとベッドに横たわる。
「待て。あまり誘うな。最近の俺、信用ならないから」
「でもジェイルのおでこ、私にくれるって」
「やるけど、笑わなかったからリセの負けだろ。今日は触るなよ」
「でも、あの、抱きしめてくれてるのは……?」
「泣いたから俺の番」
「えっ、そうなの?」
「今決めた」
「そんな適当……あっ、でもいいよ! いつでも、どうぞ!」
「いや。笑ってくれたとき用に取っておく。もうくだらないことで泣かせたくないし」
(また、優しい)
「私、きっと気づけてないことがたくさんあるけれど、そうやって大切にしてもらってたんだね」
「そうでもない。俺、リセに関しての理性のレバー壊れてるから……。お前に会ってから何度触らない誓いを破りまくったか数えきれない」
ジェイルは苦笑すると、愛おしむようにリセの頭を撫でた。
「な、だけど今は休憩していいか? 俺も抱き枕欲しい」
リセは頷こうとしたが、ジェイルがその返事も待てずに両腕に力をこめるので、驚きと共に鼓動が再び強まる。
(わわ……自分からくっつくのと、全然違うし……し、心臓がすごい音で鳴ってるの。聞こえてる絶対)
リセは気持ちを落ち着けようと、ぎゅっと目をつぶった。
(どうしよう。私が抱き枕をやるなんて。もふもふ感、全然足りないのに……)
リセは精霊獣と自分を比較して妙な心配をしていると、ジェイルがいつもとは違うため息をついた。
「少し、リセの気持ちわかった」
「私の気持ち?」
しばらく待ったが、返事はない。
漠然と不安になって様子をうかがうと、ジェイルは今まで見たことのない安らかな表情で目を閉じていた。
その無防備で幸せそうな寝顔に、リセは釘付けになる。
それは今までの経験したことのない、忘れられない瞬間になった。
(戻れない)
リセの瞳に、悲しみとは違う涙が滲んだ。
(こんな顔を見てしまったら……以前の私には戻れないよ、もう)
リセは潤む瞳を閉じると、今までずっと、精霊獣の抱き枕を欲しがっていた自分に別れを告げる。
そして自分を抱きしめて穏やかに眠るその人に身を委ねた。




