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2・極度の人見知り

 ***




 リセの寝室にも、光が差し始めた。


 朝に弱いリセだが今日は珍しくベッドの中でもぞもぞ動きはじめ、起こしに来てと頼んでいる侍女より先に起きてあくびをする。


「ふぁ……っ!」


 リセの息が止まった。


 目の前に、絵になるほど端麗な男の寝顔がある。


 瞼を閉じていても分かるほど均整の取れた顔の骨格、引き締まった浅黒い肌には少し長めの銀髪がかかり、どこか野性的な色気を帯びていた。


 そして顎から首へと続く精悍なライン、筋肉質に引き締まった胸元……リセの勝手な想像ではあるが、その毛布の下は何も身にまとっていない予感しかない。


 あらゆる女性を虜にできる美しさを前に、リセは戦慄した。


 突如現れた怪しい男の裸の威力に、ではない。


 むしろその衝撃がかすむほど、リセは慣れない相手を前にすると緊張する、極度の人見知りだった。


 特にその男の、眠っているのにすでにたくましさと色気を放つ華やかな見た目、つまりリセの思い描く自分と正反対に位置する存在感は、側にいるだけで精神を蝕む破壊力を持っている。


「た、助け……」


 青ざめたリセは隣の厄災から逃げだすように、ベッドから転げ落ちた。


「ん……」


 物憂げにかすれた声に振り返ると、眠りから覚めた男は宝玉のような美しい緑の瞳を開く。


 無駄に思えるほどの麗しさに、リセの意識が遠のきそうだった。


 男はリセの様子に気づいたのか、鍛え抜かれた筋肉質な上半身を起こす。


「どうしたんだ。顔色が悪い」


(声、声も低くて綺麗……ううぅ、耳に甘い猛毒)


 リセが耳をふさいで震えていると、男は何も身にまとっていないことに気づいたようだった。


「ああ、悪い。驚くよな。説明するの忘れて寝てた」


 男は自分の存在自体が拒絶されているとは知らず、ベッドに置かれていたガウンを腕に通し始める。


 肌触りがよさそうで布代わりなればなんでもいいと、昨夜精霊獣を包んでいたものだ。


 リセは重大なことに気づき、戦地に赴くような勇気をしぼり出して男に声をかける。


「あの、そこにいるお方。私の抱き枕……じゃなくて、ここにいた精霊獣。銀狼のような生き物を見ませんでしたか」


「……この状況で、気づかないのか」


「何のことですか? ついでに、あなたは誰」


「ついでか」


「はい、精霊獣のついでです。どうやってここに入り込んだんですか。何者?」


「本当に俺が誰かわからないのか?」


「あなたについて今わかっていることは、無駄に綺麗な人間。男。侵入者。裸の変態」


「人を変態呼ばわりする前に、リセは昨夜の欲望にまみれた自分の行動を振り返ったほうがいい」


「どっ、どうして名前を……!」


「どうしてでしょう?」



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