雨音
─雨音がする。
突っ伏していた顔をゆるりと起こし、窓の外を見る。
洗濯物干したままだったな。夜ご飯買いに行ってないのにな。そんなことが頭をよぎったが、体はどうにも動きそうにない。
スマホの画面を点ける。……もちろん連絡は何も無い。
ため息をつき、また机に突っ伏する。
何時間こうしているのだろうか。いくら落ち込んでいたって結果は変わらないというのに。
緩く続いていた曖昧な関係は、今日泡のように消えた。
さよならと強がって言った私の言葉は震えていた。きっとあの人も気づいていただろう。
それでも何も言われなかったのだから、私になんの情も残っていなかったのだ。
だったらあの言葉と態度はなんだったのだと問いかけても、答えてくれる人物は居ない。
あの人の連絡先を消そうと、スマホをもう一度点けて電話帳を開く。連絡先の人物メモに、あの人の好きな曲名が書いてあるのを見つけた。
雨を題材にしたクラシック曲。
動画サイトを起動し、その曲を流す。
綺麗なピアノの旋律が、しとしとと降る雨の音と調和する。
あの人がピアノを弾いて私に聞かせてくれたことを思い出した。決まってこんな雨の日に、あの人はこの曲を弾いた。私はそれに聴き入って、自然と眠りについていた。
私の目からポロポロと涙が零れていた。
好きだった。
あの人の優しい声が、手が、ピアノを弾く表情が。どうしようもなく、愛おしかった─
細く眩い光が目に入ってくる。どうやら眠っていたらしい。
カーテンを開けると、ベランダに置いてある朝顔から雫がぽたりぽたりと垂れている。空は青く、何処までも高い。
窓を開け、目一杯朝の空気を吸い込んでうんと伸びをした。
「……今日も頑張ろう」
雨音はもう聞こえない。
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