表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨音

作者: もちた

 ─雨音がする。

 突っ伏していた顔をゆるりと起こし、窓の外を見る。

 洗濯物干したままだったな。夜ご飯買いに行ってないのにな。そんなことが頭をよぎったが、体はどうにも動きそうにない。

 スマホの画面を点ける。……もちろん連絡は何も無い。

 ため息をつき、また机に突っ伏する。

 何時間こうしているのだろうか。いくら落ち込んでいたって結果は変わらないというのに。

 緩く続いていた曖昧な関係は、今日泡のように消えた。

 さよならと強がって言った私の言葉は震えていた。きっとあの人も気づいていただろう。

 それでも何も言われなかったのだから、私になんの情も残っていなかったのだ。

 だったらあの言葉と態度はなんだったのだと問いかけても、答えてくれる人物は居ない。

 あの人の連絡先を消そうと、スマホをもう一度点けて電話帳を開く。連絡先の人物メモに、あの人の好きな曲名が書いてあるのを見つけた。

 雨を題材にしたクラシック曲。

 動画サイトを起動し、その曲を流す。

 綺麗なピアノの旋律が、しとしとと降る雨の音と調和する。

 あの人がピアノを弾いて私に聞かせてくれたことを思い出した。決まってこんな雨の日に、あの人はこの曲を弾いた。私はそれに聴き入って、自然と眠りについていた。

 私の目からポロポロと涙が零れていた。

 好きだった。

 あの人の優しい声が、手が、ピアノを弾く表情が。どうしようもなく、愛おしかった─


 細く眩い光が目に入ってくる。どうやら眠っていたらしい。

 カーテンを開けると、ベランダに置いてある朝顔から雫がぽたりぽたりと垂れている。空は青く、何処までも高い。

 窓を開け、目一杯朝の空気を吸い込んでうんと伸びをした。


「……今日も頑張ろう」


 雨音はもう聞こえない。

閲覧ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ