第三話 家が焼ける
ぼうぜんと立ち尽くしている間に、消火活動は終わった。
火事はおれの家だけで済んだ。
だが、転移してわずか一日で住まいをなくした。
これがゲームのイベントなら、きつすぎる。
通りをはさみ、地べたに座って焼け落ちた自分の家を眺める。
これって、ゲームなんだろうか?
ちがうんじゃないか? あまりにリアルだ。
今日に出会った二人を思いだした。領主の爺さんと隊長さんだ。
あの二人は冗談を言い、笑っていた。
それはAIを使ってできる事なのか?
「ラスティ・アース」それがゲームの名前だった。
グーグルマップとウィキペディアのデータをAIが取り込み、中世の世界を自動で作る。
かつてない地球規模のRPGだ。
おれは、そのテストプレーヤーに当選した。
ヴァーチャルキットが届き、まぬけなヘッドセットをかぶったのも覚えている。
んで、ゲームをスタートしたら気を失った。
気がつけばここだ。
全世界でテストプレーヤーに選ばれたのは千人だったはず。
全ての人が転生されたのか?
または、おれだけなのか?
ガラガラッと音をたて、残っていた柱が崩れた。
……いや、これはゲームではないな。
おれが好きなオカルトの話に「五分前仮説」というのがある。
世界は五分前にできていた可能性がある。というやつだ。
その場合、過去も同時にできるので、その世界の人は気づかないそうだ。
……待てよ、向こうの世界から、こっちの世界が生まれたのか?
または、こっちの世界から向こうが生まれたのか?
あっ、これ「考えたら眠れなくなる話」ってやつだ。やめよう。
いずれにしろ、おれはこの世界で生きていかないと。
思えば元の世界に未練もないし。
リスタート。
これはチャンスだ。
前の世界じゃ、うだつの上がらないサラリーマンだったんだ。
こっちで成り上がり? いいじゃん。
ただし、厳しい世界だと思ったほうがいいだろう。
甘っちょろいことを言ってたら、すぐに死にそうだ。
あれこれ考えていたら、通りに座ったまま、うたた寝をしていたらしい。
朝日に照らされて目を開けた。
さすが中世、町の人々は朝日とともに活動しだした。
向こうから歩いてくる三人の人影。
近くに来てわかった。
ヴェラルシュタインの爺さま、イザーク隊長、それに御者をしてた男。
フーゴとか言ったっけ。
フーゴは両手と首に縄をかけられていた。
イザーク隊長が口を開く。
「ナガレ殿、この者が盗みに入り火をつけました」
マジかよ! あおり運転並みの低能じゃん!
中世でもアホはいるのか。いや、そっちのほうが多いのかも。
この中世っぽい世界の法律ってどうなんだろう?
そんな事を思っていたら、予想の斜め上を行った。
「炭鉱か、打首?」
イザーク隊長がうなずく。
窃盗と放火。このコンボは極刑らしい。
そして、被害者のおれは刑を選ぶことができるらしい。
炭鉱への強制労働か、打首か。
強制労働の場合、被害が弁償できるまで働かされるらしい。
さて、どうするか。さっき、甘っちょろい考えは捨てようと思った。
強制労働させればカネが戻ってくるが、恨みを買われて復讐されても面倒だ。
「打首で」
おれは言った。
言った後に、息をひとつ、大きく吐いた。
フーゴとやらの顔は見れない。
見たら夢に出そうだ。
「ナガレ殿、これから、どうされる?」
聞いてきたのは爺さまだ。
「どう、しますかね。まあ、ある意味、天涯孤独の身。旅でもするか」
「放逐したとは言え、この愚老の元使用人。良ければ我が領地に逗留されまいか?」
我が領地?
爺さまって領主かよ!
なにこれ、わらしべ長者パターン?
ここで飛びつくと、はしたない。喜びを隠してクールを装った。
「ほほう、ご領主様であらせられつかまつりますか」
だめだ。それらしい言葉って使えねえ。言い直そう。
「さーせん! ごやっかいになります!」
爺さまが微笑んだ。
うぉぉぉぉ!
来たぜ、ビッグウェーブ!